「北関東の小さな駅の中にある本屋は“読みたい本が見つかる本屋”らしい」――そんなネット上の噂を頼りに、大学生の倉井史弥は件の書店「金曜堂」を訪れる。先日、病床の父の本棚から持ち出した本をなくしてしまった史弥。しかし版型や出版社が異なる同じ本を何冊渡しても、すべて「これではない」と拒まれてしまうのだ。そんな史弥を明るく迎えたのが、金曜堂の店長だという快活な女性・南槇乃。事情を聞いた槇乃は、史弥を店の地下書庫へと招き入れ……。
駅ナカ書店の明るい女店長が、訪れるお客さんたちの悩みを本で解決してゆくハートウォーミングな連作集。
自分の悩みを解決してくれたこと、そして店長に一目惚れ(!)してしまったため、以後バイトとして金曜堂で働くことになった史弥。そんな彼を迎え入れた金曜堂はなんとも不思議な本屋で、女店長の槇乃はとにかく本に詳しく、オーナーの和久はどう見てもヤ○ザのような風貌ながらやっぱり本好き。店内併設の喫茶店(カフェではない)で厨房兼ウエイターを務める栖川は寡黙ながらもその美貌と美声で存在感を醸しだす。駅ナカの狭い書店だというのに、店員たちも、品揃えも、そして地下書庫の存在も、なにもかもが規格外で、みるみるうちにこの本屋に行きたくなってしまう。
しかしそんな店員たちによる心温まるエピソードの裏側で、槇乃・和久・栖川の過去になにがしかの問題があったことが小出しにではあるが示唆されてゆく。同級生だった彼らが学生時代に開いていた読書会、そしてそこにいたはずの「ジン」という人物のこと。続編があれば、そのあたりのことをぜひ知りたい。そして史弥の片想いがどうなるのかも。
コメント