なぜ「はじき」は世界最悪なのか?【次元解析】

はじめに

「はじき」とは、速さ・時間・距離に関する関係式を覚えるための方法である。

どうやらこれは「世界最悪のやり方」らしい。

一体何故?ということで「なぜ、世界最悪のやり方なのか」と「世界最悪ではないやり方は何か」について解説していこうと思う。

結論

はじめに結論から言ってしまおう。理由としては、こんなところじゃないだろうか。

  • 応用がきかないから
  • 単位について正しい理解ができなくなるから

といったところだろう。小学生のうちはなんとかなるかもしれないが、中学高校に進学していくにつれて悪影響が出てしまうのである。

「応用がきかない」とは

小学生のうちは「速さ・時間・距離」という公式しか出てこないだろうからなんとかなるだろう。しかし中高と進学していくにつれて公式というものは増えていく。

例えば「電気抵抗・電圧・電流」だったり、「質量・加速度・力」だったり。

これらについていちいち「ででで」だったり、「しかち」だったりといった覚え方をすると、どう見ても上手く行くようには見えない。

 

しかも物理の公式は三文字とは限らないので、例えば気体の状態方程式「PV=nRT(圧力×体積=モル数×気体定数×絶対温度)」みたいなのには使えないだろう。「あたもきぜ」みたいなのがあったとして、どれを上においてどれを下に置くべきかは悩みどころである。

「単位について正しい理解ができなくなる」とは

「はじき」はあくまで「暗記方法」である。「木の下にじいさんばあさんがいる」みたいな覚え方もあるらしいが、「では、なぜ木が上になくてはいけないのか?」といったことろまで踏み込んで考える必要性がある。「そういったもんだ」で済ましておいてもなんとかなるかもしれないが、いずれは向き合わなくてはいけなくなるのである。

「はじき」レベルなら「そういったもんだ」で済ませることができるが、より発展的な内容になればなるほど、単位についての理解をしていないことはより重い足かせとなるだろう。

 「世界最悪ではない」やり方

「はじき」が世界最悪だとしたら、逆に世界最悪ではないやり方はなにか、というのが気になるだろう。

これについての最も重要なキーワードが「次元解析」である。

むしろこの記事のメインは次元解析についての解説である。というわけで解説を始めよう。

 

まず、「1メートル」だったり、「3秒」だったり、「5キログラム」といった単位がついている数のことを「物理量」という。物理量の計算には以下のルールがある。

  • 足し算と引き算は同じ単位同士でしかできない
  • 掛け算と割り算は単位が違ってもできる
  • 等式で結ぶ場合は両辺の単位が一致していなくてはいけない

例えば「1メートル+1キログラム」は計算できないが、「1メートル×3秒」は計算できるのである。

さらに「1メートル=1キログラム」という式は両辺の単位が違うため間違った式なのである。

また、「1メートル=100センチメートル」は違う単位だけど等式で結べているじゃないか!と言いたくなるが、ここでは単位の属性(次元という)が合っているので大丈夫である。ここでは、「1メートル」も「100センチメートル」も、共通して「長さ」を表現しているので、等式で結ぶことができるのである。

よって「同じ単位同士でしか~」は「同じ次元同士でしか~」と言い換えるのがより正確だろう。

 

そして、掛け算と割り算については、計算結果の単位は「形式的に単位を掛け合わせたもの」ということになっている。

例えば、「2メートル×3キログラム=6(メートル×キログラム)」という等式が成り立つ。単位は「メートル×キログラム」である。この単位が物理的にどのような意味を持っているかは関係なく、ただ単に形式的な単位としてこれを考えているのである。

同様に「3メートル×4秒=12(メートル×秒)」という等式も成り立つ。ここで「メートル×秒」という単位が何者なのかは関係ないのである。

割り算も同様で、「12キログラム÷3メートル=4(キログラム÷メートル)」という等式が成り立つのである。これは分数の形で「キログラム/メートル」とも書く。

また、「12メートル÷3メートル=4」というのも正しい等式である。左辺と右辺は共に単位が「無」であり一致しているため、問題なく等式を結ぶことができる。1や2といった、単位がない物理量のことを「無次元量」と言ったりする。

 

すると速度の公式は「30メートル÷5秒=6(メートル/秒)」というように書くことができる。「6(メートル/秒)」というのは「秒速6メートル」という意味になる。逆に、「6(メートル/秒)×5秒=30メートル」という式も成り立つ。

つまり、速度の単位が「m/s」というように割り算みたいな形で書くのは、「メートルという単位を秒という単位で割っているから」なのである!!これは、メートルがキロメートルになろうが、秒が分になろうが関係なく成り立つのである。

メートル毎秒を割り算みたいに書くのは何故かって?答えは簡単、割り算だからである。

 

同様に面積の単位の「平方メートル」を[m^2]と書くのは、「メートル×メートル=メートルの2乗」という単位の掛け算をしているからで、体積の単位の「立方メートル」を「m^3」と書くのは、「メートル×メートル×メートル=メートルの3乗」 という単位の掛け算をしているからである。

 

密度の単位を「g/cm^3」(グラム毎立方センチメートル)と書くのは、「グラム」という単位を「立方センチメートル」という単位で割っている、つまり単位の割り算をしているからなのである。

 

そしてこれはメートル、キログラム、秒といった単位に限った話ではない。もっと日常的なレベルでも使える。例えば↓のようにちょっと前のツイートがある。

 おそらく上2つは【「1袋あたり7個入っているお菓子」が4袋あるとお菓子は合計何個か】で、下2つは【「高さが6cmの箱」を2箱積み上げたときの高さは何cmか】を考えているといったところだろう。

「単位を揃えることが大切」なのは確かにそうなのだが、残念ながらこのツイートは間違いで、正しくはこうである。

7[個/袋]×4[袋]=28[個]

4[袋]×7[個/袋]=28[個]

6[cm/箱]×2[箱]=12[cm]

2[箱]×6[cm/箱]=12[cm]

結局順序を変えても問題なかったね。

いまこうやってバツを与えたので、ツイ主が社会に出たときに間違えない子になることを願うばかりである。

 

とにかく、こういった単位の掛け算割り算といった考え方は「はじき」の代替となるばかりではなく、もっと広い範囲で使えるのである。

「1袋あたり7個入っているお菓子」は、「7個」ではなく、「7[個/袋]」と考えたほうがうまくいくことが多い。

「15円のガム」は「1個あたり15円のガム」なので、「15[円/個]」と考えるべきである。

単位の掛け算・割り算を意識すると、より応用的なことに踏み入ったときにミスをすることが少なくなる。

 

これは算数に限った話ではない。高校レベルでも重要な概念となる。ということで以下は平成31年のセンター試験の化学の問題である。

図1の立方体はダイヤモンドの単位格子を示しており、(中略)

単位格子の一変の長さをa[cm]、炭素のモル質量をM[g/mol]、アボガドロ定数をN_A[/mol]としたとき、ダイヤモンドの密度を与える式として正しいものを次の①~⑥から選べ

(図は省略)

①6MN_A/a^3

②6M/(a^3N_A)

③8MN_A/a^3

④8M/(a^3N_A)

⑤18MN_A/a^3

⑥18M/(a^3N_A)

 

(出典:大学入試センター試験 平成31年 化学 第1問 問2)

この問題の登場人物はM[g/mol],N_A[/mol],a[cm],d[g/cm^3]である。

M,N_A,aを用いてdと等式を結ぶようにするには、単位の掛け算結果がdと同じ[g/cm^3]とならなくてはいけない。すると①と③と⑤は単位が合ってないので明らかな不正解となり、正解は②と④と⑥のどれかとなるわけである。(ちなみに正解は④である。)

ということで、図を見なくても6択から3択に絞ることができるのである。

結局答えを一意に絞ることはできなかったが、最終的に当てずっぽうで答えるときに、勝率1/6と勝率1/3では獲得できる得点の期待値は大きく変わるので、有効な方法だと言える。

最後に

「はじき」がなぜ世界最悪であることよりもむしろ、「次元解析」という概念についての説明がメインになってしまった。

物理や化学ではこういった次元解析についての理解をするだけで理解度が段違いに上がるのでおすすめである。

そしてこれは個人の意見だが、この「次元解析」という手法は「裏技」みたいな扱いをされているが、自分はこれを裏技だとは思って無くて、表技であるべきだと思っている。つまり高校の物理化学では"初回"でやるべきな基本的な内容であると思っている。

 

というわけでWikipediaの関連記事のリンクを載せて終わります。

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