イマドキのサバサバ冒険者   作:埴輪庭

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打ち合わせしたり調査したり

 ■

 

 翌朝。

 一の鐘*1にはまだ少し余裕があるはずだ。

 

 朝飯を食う。

 パン、スープ、果実汁。

 街の性質上、とにかく量は多い。

 味はともかくとして。

 

 まあ量が多いなら流通には影響はないともいえる。

 だが、放っておけばどうなるか……現実問題として昨日の時点で商隊は来ていなかったのだから。

 

 あるいは、なにかトラブルで今朝到着しているという可能性もあるのだろうか。

 ともあれ食べたらギルドへ行く。

 

 ■

 

 そんな可能性はなかった。

 一の鐘が鳴る少し前にはギルドへつき、受付嬢に様子伺いを立てたが0成果。

 相変わらず未帰還の冒険者も帰ってきてはいない。

 あの時組んだ彼らと同等の質であったなら、魔狼に急襲を食らってガタガタになっても悉く全滅というのは考えづらい。

 

 それなら予定通り決行か。

 じきにラドゥ等も来るだろう。

 

 

 ■

 

「揃っているようだな。今回の任務は調査だ。未帰還冒険者の所在、顛末、そして商隊が到着しなかった理由を探る」

 

 ラドゥはギルドに集まった面々を見渡し静かに口火を切った。

 

「これは冒険者ギルドと我々ラドゥ傭兵団との合同任務だ。探索・調査という分野において、我々が冒険者諸君に一歩譲らざるを得ない事は否定できない。だがいざ脅威と対面したならば、冒険者たちに先んじて奮って戦え。しかし退き際を見誤らない事。及ばぬと判断したならば情報を持ち帰る事を優先せよ」

 

 こういった場では普通は鼓舞なりをするものだが、彼が淡々と指示するだけで荒くれもの共が一端の兵隊のような面をしている。

 オルドの騎士は敵に回すな、と言われているだけはある。

 本人らの精神性や能力もそうだが、連中はとにかく兵隊をうまく死なせる。

 

「撤退できないほどに負傷したものは肉の壁となり他の者を逃がせ。私もそうする。指揮系統は崩すな。上職が死んだならば、次席が指揮を執ること。各隊は準備が出来次第出発だ。魔針*2は持ったな? 暗くなる前には成果に関わりなく撤退だ。よし、行け!」

 

 応という野太い声が朝焼けの空に幾度も響く。

 俺たちも出発だな。

 

 ■

 

「サー・ラドゥから話は通っているとおもうが、俺が隊を預かる。改めて自己紹介する。ヨハンだ。俺は冒険者としてではなく、連盟の術師として参加しているつもりだ。お前たちもそのつもりでいてくれ」

 

 男たちは無言だが、彼らの目に反発心は見えない。

 ラドゥの薫陶か。

 

「では出発」

 

 ■

 

 馬車隊が進む。

 ルートとしては北西から北東までぐるりと半円。

 手帳をぺらぺらとめくり、指の感覚で頁数を当てる訓練をする。

 これは人によりけりなのだが、俺の場合は結局手帳という形に収まった。

 取り出すのに若干時間はかかるのだが、そこは収納場所をわけることで解決している。

 鉱石の欠片などはポケットだ。

 

 雑な奴はポケットになにもかも全部突っ込んで、いざ危機が迫らんという時に触媒を間違えてそのまま死ぬというものもいる。

 整理整頓ができなかったから死ぬというのは、術士の数ある死に方でもトップ5に食い込むほど多いのだ。

 

 

 1位は栄養失調で死ぬ事だ。

 食事もせず研究に打ち込みすぎて体を弱らせる。術士は友達が少ないので、誰もきづかずいつのまにか死んでるのだ。

 

 

 連盟という互助会が生まれた要因の一つに、くだらない理由で死ぬ術士が多すぎるというのがある。

 仮初でもいいから知人をつくって、世間との接触を増やすことで孤独死やらなにやらを減らすこと。

 それこそが連盟のある意味で命題でもあるわけで。

 外聞が非常に悪いため、外向けの理由としては連盟は理念で動くとかなんとか言ったりしている。

 なんのこっちゃという感じではあるが、なにかを秘めていそうだから相手は納得するらしい。

 

 

 ……それにしても何も起こらない。

 ある程度覚悟はしてきたつもりだが。

 不穏な気配もない。

 

 結局馬車隊は半円の軌道の8割までもを消化してしまった。

 

 ■

 

 失せ川が見えてきた。

 あれは季節によって現れたり消えたりする川だ。

 季節というより、雨期、乾季か。

 そういう類の川はヴァラク周辺にとどまらず各地に存在する。

 休憩にはちょうどいいか。

 

「大休憩を取る」

 

 俺がそう言うと、滞りなく休憩の準備、警戒要員の振り分けが為されていく。

 ラドゥ傭兵団の練度の高さは、ラドゥが軍隊ばりに仕込んでいるかららしい。ダッカドッカがそう言っていた。

 

 経験上、こういう気のゆるみが一番魔を引き寄せるのだ。

 油断をするな、と声かける必要はないが。

 彼らが十分すぎるほどに警戒しているのはよくわかる。

 

 ■

 

 魔を引き寄せることはなかった。俺たちは十分休んだあと調査を開始する。

 だが……なんと……結局何も起こらずに俺たちはぐるっと半円を巡り、街へ帰ってきてしまったのだ。

 しかし、これはこれで……

 

 ■

 

 ギルドへ戻った。

 まだ他の隊は帰ってきていない。

 

 ■

 

「やばい気がする」

 

 いやにモチモチした肌を震わせ、カナタは落ち着かなげに眼をきょろきょろとさせながら口を開いた。

 俺はそれをきいて、ため息をつきたい思いで一杯だった。

 彼の抽象的な意見に失望したのではなく、ほかならぬ彼がやばいといったからだ。

 

 カナタの後ろには潰れた片目のノノ、しきりに唇を舐めまわしているアウォークン、爪をカリカリ噛んでいるタネーウェがいる。

 全員そわそわしていて、それは喜劇的な何かにも見えるが事態は全くもって悲劇へ近づいている……のかもしれない。

 

「そう思うか、カナタ、ノノ、アウォークン、タネーウェ」

 

 彼らは俺の隊でも冒険者組で、斥候働きを佳くするものたちである。

 まあ女と酒が大好物で、それらを借金してまで買うというろくでなしだが、仕事自体はきっちりやる上に成果もあげてくるため選抜されたのだ。

 

 斥候というのは一種の才能が必要だと思う。

 それは目に見えないものだ。

 筋力があるだとか知性が高いとか、そういうものではない。

 勘働きが何よりものを言うのである。

 

 特にこの斥侯4人組のリーダー、カナタは頭は悪いし足も遅い、力もない、さらに借金まであるというどうしようもない社会不適合者なのだが、『なんとなく』という理由だけでコインの裏表を11回連続で当てるという真似までやらかしたことがあるらしい。

 

 ノノ、アウォークン、タネーウェも似たようなものだ。

 勿論彼らのような異能がない斥侯もいるし、むしろそれは大多数と言えるが、そういった者たちがどれほど業を磨いても、『勘』頼みの者たちとの立場がひっくり返ることはない。

 

「……魔狼がでなかったな。一匹も」

 

 俺が言うと、カナタ達は黙したまま頷く。

 そうなのだ、今はあれだろ? 魔狼フェスだろ? 

 やたら犬っころが増えて、飯屋の料理が魔狼肉ばかりになる祭りだ。

 なのに一匹も出ない? 

 

 上っ面だけ見れば周囲は安全になったはずだが、未帰還者が続々出ている? 

 

 こういうのは本当に厄い。

 不幸とか不運とか……そういう連中が本気になる時は、殴りつけてくる前に力をためる。

 あるいは同類を呼び寄せて集団でかかってくる。

 

 この凪ぎはその前兆だろう。

 

 こういう時は大体人が死ぬのだ。

 運が悪ければ、沢山死んでしまう。

 そう、沢山……。

 

*1
午前6時

*2
魔力的なアレをつかった時計




こらー!主人公がだいっきらいでもいいと思うんですけど、メッセージでガミガミいってくるのはやめましょう!

明日は多分更新します。

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