プロデューサーの坂本賀勇に訊く『メトロイド ドレッド』開発の裏側

坂本氏の抱いていた理想が実現するまでの長い歳月

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坂本賀勇氏にとって、『メトロイド ドレッド』の開発は長年の夢だった。ファミコンのディスクシステム向けに発売された初代『メトロイド』のゲームデザインを担った坂本氏によれば、『メトロイドフュージョン』――リメイクなどを除く「メトロイド」シリーズにおいて最新の2D作品――の続編として「ドレッド」を開発したいと常々考えていたのだという。2005年にIGNは、Nintendo DS向けの目玉タイトルとして『メトロイド ドレッド』が挙げられた任天堂の内部文書について報じている

しかし、DS向けのドレッドが実際に発売されることはなかった。『メトロイド ドレッド』は『Star Fox Grand Prix』などと同様に、ファンのあいだで熱く噂されていたもののなんらかの理由で実現されずに噂のまま終わる幻の作品になってしまっていたのである。ただし、『メトロイド ドレッド』は実際に製品化を目指した企画として存在しており、坂本氏も少なくとも2度開発に挑戦していた。いずれの際にもDS本体の技術的限界が制約となり、『メトロイドフュージョン』でのSA-Xの成功を受けて坂本氏が思い描いていた“強大な敵に追いつめられるサムス”という構想を形にすることができなかった。

その後、坂本氏は『Castlevania - Lords of Shadow -』や『メトロイド サムス リターンズ』の開発元であり、マドリードに拠点を置くデベロッパーのMercurySteamと出会う。「彼らと接触したのは、『メトロイド ドレッド』向けに温めていたコンセプトを彼らなら実現できると期待したからです」と坂本氏は語る。「彼らの才能と技術的ノウハウがあれば、かつてはコンセプトにすぎなかったものを現実の形あるものとすることができると確信していました。(中略)彼らと実際に会い、この人たちとなら協力して新奇なコンセプトを形にできる、私の脳内にある『メトロイド ドレッド』を実現できると直感しました」

6月16日配信の「Nintendo Direct | E3 2021」で発表された『メトロイド ドレッド』こそが、このときの坂本氏の思いが行き着いた先の成果だ。オリジナルの2D「メトロイド」作品が最後に発売されてから20年近くものときを経て――『メトロイド ゼロミッション』や『メトロイド サムス リターンズ』はいずれもリメイク作品だ――、『メトロイド ドレッド』はシリーズの初代が発売された1986年から続く物語を締めくくる作品となる。本作では、銀河連邦が開発した強力なロボットであるE.M.M.Iたちが、なぜかサムスを執拗に追跡する。

坂本氏によれば、『メトロイド ドレッド』がDSでうまくいかなかった大きな原因の1つはE.M.M.Iのような敵を作り出したいという思いだったのだという。その理由は簡単だ。トレーラーで見られたE.M.M.Iの不気味でエイリアンを思わせる動きは、DSのようなマシンパワーに劣る携帯型ゲーム機では再現が難しいのだ。さらに言えば、E.M.M.Iは『メトロイドフュージョン』でのSA-X以上に積極的であり、予測しづらい動きをする上に、サムスが出口に向かおうとするとドアから飛び出てきたりすらするのだ。

坂本氏は、E.M.M.Iをできるだけ不気味な存在にしたかったとして次のように述べた。「プレイヤーにとって不安を覚える存在、そしてロボット特有の無感情な冷徹さを表現した存在を作品に登場させたかったのです。また、ただひたすらにサムスを追跡し捕獲することだけが存在理由の敵も、ですね」

「メトロイド」における恐怖

E.M.M.Iによって体現される圧倒的な不気味さは、昔からずっと「メトロイド」シリーズを特徴づけてきた要素の1つでもある。本シリーズは長きにわたって、哀れな犠牲者の顔に張り付く生き物などのさまざまな要素を『エイリアン』のような映画作品から取り入れてきた。こうしたホラーの雰囲気こそが本シリーズを任天堂のほかのシリーズと一線を画する存在にしてきたのであり、同時に本シリーズが「ゼルダ」や「マリオ」といった同社の看板タイトルの強い影響を受けながらもこうした作品と同じ客層を獲得することに苦戦している理由の1つでもあるだろう。

とはいえ、坂本氏は『メトロイド ドレッド』がホラーゲームではないことを強調している。「サムスが恐怖に見舞われることがテーマではありますが、彼女はその恐怖の源に立ち向かい、果敢に戦い、最後には打ち負かすのです。その点こそが重要です」と坂本氏。「本作をそうした方向性に定めたのは、SA-Xが『メトロイドフュージョン』にもたらした緊張感を従来の“いかにも「メトロイド」らしい”とされるゲームプレイに組み込むことで、わくわくするような体験を生み出したいと考えたからです」

ホラーゲームではないとはいえ、坂本氏はインタビューのなかでしばしば恐怖というコンセプトについて語っていた。また、本作の“恐怖をベースとしたゲームプレイ”が新たなファン層を惹きつける魅力の1つと成り得るという期待感を、以下のコメントで示してもいる。

「E.M.M.Iについては……先ほど説明したような、こうした恐怖の感覚というのは、本シリーズをプレイしたことのない若い世代の方にとっては、この恐怖をベースとしたゲームプレイを見て(中略)試してみたいと感じてもらえるのではないでしょうか。私はそう考えています」

坂本氏の報道陣との対談に先行して、任天堂は『メトロイド ドレッド』のゲームプレイの一部を公開している。サムスがE.M.M.Iのいる部屋に入るときに音楽がより不吉なものへと切り替わる様子を見るに、たとえ本作がホラーゲームではないのだとしても、坂本氏が恐怖の感性をよく理解しており、本作にそうした感覚を巧みに織り込むことができる人物であることは明らかだ。

「(我々は)一致した思いを抱いていました」

『メトロイド ドレッド』の開発を担当したのはMercurySteamではあるが、坂本氏も任天堂とともに本作の開発において引き続き重要な役割を担っている。

「『メトロイド ドレッド』の開発における私の役割は、『メトロイド サムス リターンズ』の開発の際と近いものがあり、同じといっても良いでしょう。あのときも今回も、任天堂とMercurySteamは1つのチームとして協力して動いているのです。もちろん別々の会社ではありますが、我々は一致した思いを抱いていました。サムスリターンズのときと同じく、MercurySteamとは日常的にやり取りし、彼らが開発しているデザインのどこが良くてどこが悪いのかを話し合っていました。その点に着目すれば私の役割はプロデューサーということになるのでしょうが、実際にはもっとクリエイティブな面にもかかわっています」

『メトロイド ドレッド』は坂本氏が15年前に思い描いていたものよりもさらに優れたものとなっており、その結果に彼は「とても、とても満足しています」とのことだ。『メトロイド ドレッド』が初代『メトロイド』から続く物語を完結させる作品でもあることを考えれば、本作はいろいろな意味で長年に及ぶ旅路の終着点だといえる。トレーラー内で“メトロイド5”という単語が表示されるのを目にするだけでも、ファンならば『スーパーメトロイド』のオープニングで用いられた同様の演出の本歌取りであることがわかり、この言葉が内包する重みを実感できるだろう。

坂本氏は、『メトロイド ドレッド』がある種の「小休止」や新たな何かのはじまりではあるものの、なにかの終わりではないということを繰り返し述べている。「だれも『メトロイド』シリーズが終わることなど望んではいませんし、我々もそれは理解しています。我々自身もそれを望んではいません。皆さんには物語の新たなる章が待ち受けていることを知っていてほしいのです。今後のシリーズの展開には注目してほしいですが、現段階ではお話しできる詳細はありません」

『メトロイド ドレッド』はNintendo Switchで10月8日に発売予定

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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メトロイド ドレッド

Platform / Topic: Nintendo Switch