鶏卵大手のイセ食品(東京都千代田区)とグループ会社で飼料販売を行うイセ(富山県高岡市)は2022年3月11日に東京地方裁判所に会社更生法を申し立てられ、保全管理命令を受けました。帝国データバンクによると、負債総額はイセ食品が約278億円(金融債務は約180億円)、イセが175億円(金融債務は80億円)で合計453億円にのぼります。
これに対し、会社を急成長させたエッグ・キングとして知られる伊勢彦信前会長が、会社更生法の申し立てを不服として裁判所に抗告する意向だと報じられています。鶏卵業界の超大手企業イセ食品の動向は泥沼の様相を呈しています。その背景の一つに、所蔵する美術品の処分を巡る攻防がありそうです。
この記事では以下の情報が得られます。
・Shinwa Wise Holdingsとイセ食品の関係
・Shinwa Wise Holdingsのアイアート買収の詳細
イセ食品の資金繰りが悪化した要因として、新型コロナウイルス感染拡大によって卵価が下落。資金繰りが悪化したとされています。確かに2020年4月の緊急事態宣言以降、業務用の需要が落ち込んで価格の低落が続き、2020年5月18日に標準取引価格が160円/kgと安定基準価格を下回りました。
しかし、農林水産省は鶏卵生産者に対する支援策「成鶏更新・空舎延長事業」を用意しており、標準取引価格が安定基準価格を上回るまで、奨励金を交付する仕組みがあります。実際、2020年5月18日から2020年9月23日まで発動されています。すなわち、鶏卵生産者は価格下落の影響を受けにくい事業構造をしているのです。イセ食品がコロナの影響を受けたのは間違いありませんが、急速に資金繰りに窮するほどのものであったかは疑問が残ります。
イセ食品は2020年4月から金融機関に借入金返済の猶予を要請しており、所有する不動産の売却などによって債務の圧縮を進めていました。2021年6月に伊勢彦信氏が代表から外れ、伊藤忠商事<8001>出身の田中保成氏が代表取締役を務めています。田中氏が金融機関との交渉に当たりましたが、合意形成には至りませんでした。田中氏は伊勢彦信前会長と債権団に挟まれ、身動きが取れなくなったものと考えられます。
今回、会社更生法を申し立てたのは、あおぞら銀行<8304>などの債権団と伊勢彦信前会長の長男でISEホールディングス(東京都千代田区)の代表取締役社長・伊勢俊太郎氏です。伊勢俊太郎氏はイセ食品の株主でもあり、伊勢彦信前会長と経営陣との間で確執があったのではないかと取り沙汰されています。会社更生法の申し立ては伊勢彦信前会長の息がかかる経営陣を一掃し、新たなスポンサーのもとで会社を一新させる狙いの方が強かったものと考えられます。