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「贖罪しなければならない」日本

岸田文雄首相が支持率低下に悩まされている。9月27日、凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬を執り行い、10月3日から臨時国会が始まるが、いずれも世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会=統一教会)との関係が“火種”となっており、政権攻撃が止む気配はない。

自民党政治家は安倍氏を含め「統一教会との距離感」が問題とされている。メディアは、選挙支援を受けたかどうか、友好団体の集会などへの出席の有無、祝電や『世界日報』など関連媒体への掲載まで細かくチェックしている。まさに「統一教会狩り」だ。

こうした状況にかつて教団中枢にいた元幹部は、次のように違和感を口にする。

「統一教会が信者の資産を収奪するカルト教団であるのは間違いありません。ただ、それは教団のためでなく文鮮明教祖とファミリーの資産欲、名誉欲を満たし、合わせて韓日米の国家権力から我が身を守るためです。そうした教団の本質が理解されていない」

その本質に照らせば、日本は統一教会のため、ひいては文ファミリーのために資産を築く国である。

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1954年、韓国・ソウルで創設された統一教会は、文鮮明教祖が自らを再臨主(メシア)とする特異な教義を持ち、伝統的なキリスト教宗派からは異端視されている。

メシアのいる韓国は天に近いアダムの国(父の国)で日本は韓国に対して罪を犯したエバの国(母の国)。その国が、韓国を40年以上も占領していたがゆえに日本は贖罪しなければならないと、文教祖は厳しく献金を義務づけ、罪を減じさせるという霊感商法で資産を収奪していった。

人が正しく生きるための「統一原理」という教義があり、詳細に体系づけられているものの、メシアゆえの独善によって方向性はいくらでも変えられる。

文教祖は戦前、早稲田高等工学校に通い、1943年に帰国して出身の北朝鮮などで布教活動を行うものの、共産党に「社会秩序紊乱罪」で逮捕・投獄されるなど辛酸を舐め、朝鮮戦争後は南に移って自らの思想「原理」を系統立てて統一教会とした。

「反共」に至るのは自然の流れだったが、61年5月に軍事クーデターにより誕生した韓国・朴正熙政権は、反共組織として統一教会を利用しようとした。

米下院で韓国の対米関係を調査したフレーザー委員会報告書(1978年)には、東西冷戦構造のなかKCIA(韓国中央情報部)を立ち上げた朴政権が金鐘泌KCIA初代部長に命じ、統一教会を「対米・対日政治工作に利用した」と記されている。

保守化する自民党に身を沿わせて

一方、日本で東西冷戦構造の一翼を担ったのは自民党であり、岸信介元首相だった。ティム・ワイナーが『CIA秘録』(1988年にピュリツァー賞受賞)でCIAから援助を受けていたと指摘した岸氏は、「反共」で統一教会と手を握り、国際勝共連合の日本での創設(68年4月)に手を貸した。

だが、マルクス主義をサタン思想と呼んで徹底的に排除した文教祖は、日本留学で民族差別を受け、若い頃の布教活動で弾圧を受けただけに、国家権力への怯えがあり「反共」は、79年まで16年間、国家を率いた朴大統領への忠節であり保身でもあった。

そのためソ連崩壊によって冷戦の緊張感が薄まると、「反共」以外の主軸も必要となり「平和」と「家庭」にシフトしていく。教団名を統一教会から世界統一平和家庭連合と変えるのは、「悪しきイメージからの脱却」ではあったが、新機軸を必要としたという教団の都合もあった。

文鮮明氏 Photo by GettyImages

文教祖は91年、北朝鮮を電撃訪問して金日成主席と会談、巨額献金も行ってビジネスの拠点を築く。北朝鮮への凱旋帰国でもあり名誉欲は満たしたものの、信者にとってみれば「サタンへの身売り」である。「お父さま(文鮮明)はどうなってしまったのか!」と、戸惑いの声が拡がったという。

教祖であり絶対者なのだから融通無碍。それは12年3月、文教祖が92歳で亡くなり後継者争いの後、韓鶴子夫人が教祖となっても同じである。日本は収奪する国であり、資金は韓国に送られて総工費300億円の白亜の宮殿「天正宮」になったり、米国に送られて統一教会企業群の資金となる。

反共を共通の目標に、国際勝共連合から秘書などを送られ選挙支援を受けてきた自民党は、安倍晋三長期政権のもとで保守政党としての色合いを濃くする。反共が薄まって乖離するかと思われた両者の関係は、改憲を柱にジェンダー平等に異を唱え、選択的夫婦別姓や同性婚に反対し、青少年の健全なる育成などの家庭観で結びつき親しさを維持した。

統一教会は、国際勝共連合の他、世界平和女性連合、世界平和連合、天宙平和連合、平和大使協議会など「同一ではない」と統一教会が主張する友好団体で政界と結びついているが、いずれも保守化する自民党に身を沿わせた印象で、それもまた保身だろう。かつては文教祖の、今は韓教祖の保身である。

もともと多神教国家の日本で、公明党という創価学会系政党を受け入れている日本の政治家には宗教アレルギーはなく、「カネと票」に結びつくのなら支援は拒まない。

まして統一教会員は無報酬で必死に働く有り難い存在だ。安倍元首相を始めとする党要人にも受け入れられている。保守的な憲法観、家庭観も同一で、メディアによる統一教会バッシングが治まって30年近く経過しており、交流を阻むものはなかった。

慰安婦問題に最も積極的だった

結局、カルト宗教であることを“放念”した気の緩みが、今、政権を揺るがせているのだが、攻勢を強める立憲民主、共産、社民といった野党にも、ストレートな批判が馴染まない統一教会との“同質性”がある。前出の統一教会元幹部は、次のように「皮肉な関係」を口にする。

「統一教会にとって反共と並ぶ柱が反日でした。統治時代が35年で、それ以前の強制支配の期間を入れると40年以上も韓国を占有していた日本及び日本民族は、文教祖にとって許しがたい存在です。その侵略行為に深い謝意を抱き続けているのが、旧社会党の流れを引く立憲民主党と社民党、そして共産党です。統一教会の反日は野党の謝罪と償いの姿勢に連動、信者数の増加と献金の積み増しにつながっているのです」

反日との連動に拍車をかけたのが従軍慰安婦問題である。1991年8月、韓国の金学順さんが日本軍「慰安婦」だったと初めて名乗り出て、従軍慰安婦問題に火がつく。金さんは同年12月、日本政府を相手取って提訴し、それが93年の強制性を認め「同じ過ちを繰り返さない」とする「河野洋平官房長官談話」へとつながる。

文鮮明氏 Photo by GettyImages

その後、済州島での慰安婦強制連行を告白した「吉田清治証言」を報じた朝日新聞が、誤報だったとして謝罪会見(2014年9月11日)を開くなど、従軍慰安婦問題は日韓の歴史認識に現実をどう沿わせるかという争点を引き起こし、日本の保守層とリベラル層に深い溝を生じさせた。

自民党は「従軍慰安婦」の「従軍」は強制連行したとの「誤解を生じさせる」として、昨年4月の閣議で「単に慰安婦という用語を用いることが適切である」という見解を閣議決定した。リベラル系市民団体や共産党などは、植民地支配の過去を修正するものだとして激しく反発している。

統一教会は、韓国において従軍慰安婦問題に最も積極的に取り組み謝罪を求めている団体のひとつである。

2012年8月15日の光復節(日本の植民地支配からの解放記念日)に、日本人女性で構成される「日韓の歴史を克服し友好を推進する会」のメンバー約1200人が、韓国の各都市に散り、着物や和服姿などで「日本人を代表してお詫びします」と訴えた。韓国のニュースサイトは「ほとんどが結婚して韓国に住んでいる日本人の統一教会信者」として報じた。

謝罪活動は動員をかけられてのものだろうが、贖罪の意識は本物である。日本の統一教会信者はそこから脱却できない。60代になってから脱会した元信者が振り返る。

「日帝が韓国で行った非道、不正義に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。60年代末に大学原理研に入って入信し、40年以上も心身ともに教団に尽し収入も捧げた。ただ日本支配の40年を超えてなお、自分は韓国と教団のために尽くし続けるのかと思うと、『もういい……』と思えたのです」

リベラルな思考回路を持つ人々の歴史認識とそこから生ずる心からのお詫びが、日本の統一教会信者の謝罪意欲に重なり、それが信者たちの集金と献金への意欲につながった。

右から左、保守からリベラルまでが、統一教会と直接、間接の接点を持っていた。それが、統一教会が日本社会と政界に深く根を張った理由である。その現実を認識し、それを踏まえた国会論戦であり報道であるべきだろう。