お久しぶりの方も、初めての方も、ぜひ目を通してくださると幸いです。それではどうぞ。
戸山香澄は、僕の幼馴染だ。
物心つく前から、僕と彼女は常に一緒だった。
切っ掛けなんて覚えていない。母親曰く、僕らが彼女の家のお隣に越してきてからすぐにはもう仲良くなっていたらしいが、そんなことは別段どうでもよかった。
彼女は僕にとっての太陽だった。
爛漫な笑顔に、
正直、僕とは正反対だ。いや、もしかしたらそれがよかったのかもしれない。丁度磁石の対極どうしを思い浮かべてもらうと解りやすいだろうか。きっと彼女に引き寄せられて、新しい世界へ引っ張り出されたに違いない。僕はそう考えた。
そして恐らく、そんな考えが生まれ始めた頃にはもう、僕は彼女に恋をしていた。
そこには本によく書かれている焦がれるような熱情とか、張り裂けるような胸の痛みだとか、そういった類のものは一切なかったけれど。それでもこれが恋なのだと、僕は胸の中でその感情をそっと抱いて温めた。
──彼女の隣にいたい。
そう自覚してから数年。僕は変わるための努力を試みる。
読書という趣味が造り上げた生白い身体を、まずは鍛えようと慣れない運動に励んだ。
内向的な性格を直そうと積極的に人とのコミュニケーションに勤しみ、高校生になってからはバイトを始めた。
その甲斐あってか、旧い友人からはよく「変わったね」と言われる。
その言葉にどんな意味が含まれているかは量りかねるが、概ねいい方向で捉えて間違い無いと思う。
事実、僕を見る周りの目は変わったし、自慢ではないけど、女の子たちから
では、彼女はどうだろうか。
筋トレの成果が身体に現れた時には、彼女もすごいすごいと騒ぎながら胸やら腹部やらに手を乗せてきた。
皆が笑うような面白い話をすれば、声をあげて笑ってくれた。
でも、それでも。
彼女の瞳は、小さい頃からずっと変わらない眩さで、ただ僕を見ていた。
それはなんだか悔しくて、けれど何処か安心できる反応でもあった。
だってそれは、彼女の中で僕という存在が、何も変わっていないということだから。
そんな絶対的な立ち位置にいるのだと、そんな呑気な優越感に浸っていたのだ。
だからこそこれまでも、そしてこれからも彼女の隣にいるのは僕なのだと。
今思えば、思い上がりも甚だしい。無根拠で、無鉄砲で、夢想的な自己陶酔。
でもそんな幻想を抱けたのは、偏に彼女と自分との間に横たえる時間からだった。
僕は彼女のことならなんでも知っている。彼女も僕のことならばなんでも理解してくれている。
積み上げてきた時という不変の事実が魅せた夢。
けれど、夢はいつか覚める。
緩やかに白んでいったり、泡が弾けるように散ったり。兎に角、夢は無に帰する。
それが僕にとって後者だったというだけのこと。
そして──
「私、好きな人ができたんだっ!」
──その夢は些か以上に長すぎた。
ただ、それだけのことだった。
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