休みは年間1日…テレビ業界没落、下請け「超絶ブラック労働」の実態

「貧すれば鈍する」とは、このことか
松岡 久蔵 プロフィール

辞めるきっかけになったのは、無理を続けた結果、体調が悪化して寝込んだことでした。30歳を目前にして、本当にこの仕事を続けたいかどうか考えると、とても一生の仕事にする気は起きませんでした。

いま勤めている会社はまったく別の業界で、週休2日、有給休暇も取れるのですが、転職した当初は『本当にこんなに休んでいいのか』と戸惑ったのを覚えています。もしあのまま制作会社で働き続けていたらと思うと、ぞっとしますね」

この男性が勤めていた制作会社の年収は、20代後半で450万円程度。局が制作費をカットする中、残業代も付かず、番組制作現場では典型的なブラック労働がまん延しているのだ。

 

社員と下請け「大きすぎる格差」

まさに「ブラック企業」そのものといえる制作会社に対し、キー局社員の平均年収は30歳前後でゆうに1000万円を超える。先の男性と比べると、3倍近い格差だ。

なぜこのような事態になってしまったのか。長年フリーの報道系ディレクターとして働き、戦争取材の経験もある50代男性は、最も大きな契機は2008年のリーマンショックだったと話す。

「今でも忘れられないのですが、その当時お世話になっていた制作会社の社長に突然呼ばれ、『ごめん、君は何も悪くない。だけど、仕事がなくなるんだ』といきなり謝られました。はじめは何のことかわからなかったのですが、要するに、儲からない報道には極力カネを出さないことを局が決めたというのです。

それからテレビ業界全体で、報道分野の予算は削りに削られ、私たちの仕事はみるみるうちになくなっていきました。局側は、なるべく安い費用で請け負ってくれる制作会社にだけ依頼するようになりました。そうした負のスパイラルが続いて、ユニークな企画を立てて取材の手間をかける局は減り、番組がどんどんつまらなくなっていったというわけです」

キー局の2006年度から2018年度までの決算資料を見てみると、番組制作費はテレビ朝日を除いて(847億円から874億円と微増)、日本テレビは1106億円から977億円、TBSは1241億円から993億円、フジテレビは1153億円から776億円、テレビ東京は434億円から388億円と、この12年で軒並み減少傾向にある。特にTBSは約2割、フジテレビは約3割と大幅に制作費を削っており、現場への悪影響は疑いようがない。

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