名刀を男子に擬人化し育成する「刀剣乱舞」というゲームが多くのファンを獲得し、博物館の刀剣展示にも影響するほどの現象となったことをご記憶の方も多いでしょう。また、対馬における蒙古襲来をモチーフとしたゲーム「Ghost of Tsushima」は、世界規模で人気を博しました。こうしたエンターテインメント作品をきっかけに、歴史学の成果に関心を持つ人は少なくありません。
一方歴史学では、パブリック・ヒストリーという分野が注目されています。学問の特権性を排し、一般の人々と共同で研究を進める試みです。ゲームやドラマ、歴史小説やマンガに研究者が監修で関わることが増えましたが、そのあり方も以前より双方向的になってきたようです。
そこで本号では、近年の歴史系エンターテインメント作品のありようと、それを歴史教育・歴史研究の現場でどう受け止めるか考える特集を組みました。特に、混沌の時代という点で現代との共通性を強く持つ、日本中世史の作品群に注目しています。
エンターテインメント作品の数々は、人々を歴史の世界に導いてくれる貴重な窓口であると同時に、そこに現れる歴史像が人々の歴史観を育む/育んでしまう、という側面を持ちます。娯楽性への偏重や、歴史修正主義に流されてしまう危険も拭えません。だからこそ、本特集を通して、歴史学が社会の中で/社会とともに、何を実践できるか考えてみていただきたいのです。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 過去/現在の創造的出会いに向けて ―プラクティカル・パストからヒストリカル・パストを撃つ― Toward a Creative Encounter Between Past and Present:Shooting the Historical Past from the Practical Past |
北條勝貴 HOJO Katsutaka |
論 文 | 時代考証の経験 The Confession of a Historical Researcher |
早島大祐 HAYASHIMA Daisuke |
論 文 | 歴史マンガと日本中世史 Historical Mangas and Japanese Medieval History |
田中誠 TANAKA Makoto |
論 文 | 上書きされる蒙古襲来のイメージ ―パブリック・ヒストリーとしての『Ghost of Tsushima』 Overwriting the Image of Mongolian Invasion: ‘Ghost of Tsushima’ as a Work of Public History |
師茂樹 MORO Shigeki |
論 文 | 多声的な歴史叙述のために ―フィクション・フェミニズム・日本中世史― For a Polyphonic Historical Narrative: Fiction, Feminisim and Japanese Medieval History |
杉浦鈴 SUGIURA Rin |
歴史の眼 | 時代考証の領分 ―大河ドラマ『鎌倉殿の13人』との日々 A Province of Background Research: The Days with TV Series ‘The 13 Lords of the Shogun’ |
木下竜馬 KINOSHITA Ryouma |
紹 介 | 大石学・時代考証学会編『戦国時代劇メディアの見方・つくり方』 |
丸島和洋 |
歴史の眼 | 【リレー連載:二一世紀の災害と歴史資料・文化遺産⑫】
とちぎ歴史資料ネットワークの課題と活動 ―コロナ禍に設立された史料ネットの現在― |
坂本達彦 |
歴史の眼 | 【リレー連載:二一世紀の災害と歴史資料・文化遺産⑬】
那須地域での資料保全活動とその動向 |
作間亮哉 |
書 評 | 若狭徹著『古墳時代東国の地域経営』 |
荒井秀規 |
書 評 | 佐々木虔一・川尻秋生・黒済和彦編著『馬と古代社会』 |
青柳泰介 |
書 評 | 高田義人著『平安貴族社会と技能官人』 |
水口幹記 |
書 評 | 大日方純夫著『世界の中の近代日本と東アジア』 |
中川未来 |
書 評 | 田中宏巳著『小笠原長生と天皇制軍国思想』 |
手嶋泰伸 |
書 評 | 北村陽子著『戦争障害者の社会史』 |
江口布由子 |
書 評 | 市川房枝研究会『女性参政七〇周年記念』全三巻 |
酒井晃 |
書 評 | 鈴木靖民監修/高久健二・田中史生・浜田久美子編著『古代日本対外交流史事典』 |
堀井佳代子 |
* | 〈会告〉会費口座振替に関するお知らせ |
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* | 声明/岸田内閣による安倍元首相「国葬」閣議決定の撤回を求める |
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