電車でGO!! はしろう山手線 - レビュー

ゼロ災でいこうヨシ!ご安全に!

ゼロ災でいこうヨシ!ご安全に!『電車でGO!! はしろう山手線』レビュー
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12月3日にスクウェア・エニックスから『電車でGO!! はしろう山手線』がPS4に向けて発売された(Nintendo Switch版の発売日は現在未定)。本作は2017年からアミューズメント施設での稼働を開始したアーケード版『電車でGO!!』をベースにコンシューマー向けに調整し、新モードなどを搭載した内容となっている。

「電GO!」という呼称でおなじみの本シリーズはオールディーなゲーマーからするとタイトーが制作、販売していたことが印象深いが、タイトーがスクウェア・エニックスの傘下に入ったことから同社からの発売となっている。そのためかタイトルも「電車でGO!」から「電車でGO!!」とエクスクラメーションマークが一つ追加されている。PS2で発売された『電車でGO! FINAL』(2004)以来の据え置き機向け作品で(厳密に言うと2007年にSIMPLEシリーズでも展開されたが、過去作の廉価版)、久しぶりのお茶の間運行に心を踊らせている鉄道ファンも多いことだろう。

そんな本作は、最新の技術で制作された「電車運行シミュレーションゲーム」として、鉄道ファンからシリーズファンの多くが納得する申し分ないクオリティであると感じた。そして初心者に対して一切迎合しない、変わることのないシビアなゲームシステムに制作者の電車への熱意が感じられた。

熟練者から初心者まで遊びやすくなった間口の広い操作設計がとてもいい

本作の目的は「目的地まで時刻通りに安全に運転し、駅ホームの決められた場所に停車する」という、これ以上ない単純明快なルールだ。もちろん、単純明快なルールと難易度は必ずしも比例することはない。各ステージで要求される数字を達成しようとするといかに困難で忙しいものであるかプレイヤーは直ぐに思い知らされることになるだろう。

電車の運転操作は2種類用意されており、一つは従来のシリーズ同様の「スタンダード」。「スタンダード」では左スティックを上に傾けることで8段階のブレーキ、下に傾けることで5段階の加速が行える。これはアーケードでのマスコン操作に近いので、慣れている人はこちらの方が良いだろう。

もう一つの操作方法である「シンプル」は、上に傾けることで3段階の加速、下に傾けることで3段階のブレーキと、簡易的かつ直感的な操作となっている。僕自身シリーズを経験し、それなりにマスコンも触っているが、こちらの方が快適で遊びやすかった。もし、このゲームの難易度や、低速ポイントのスピード調整、停車時のブレーキ調整で苦労しているなら、無理せずこちらの「シンプル」の操作に切り替えることをおすすめする。

また、車両によっては「シンプル」、「スタンダード」によらない特別な操作となっていることもある。こういった車両は感覚の違いもあって難易度が高くなっているので一度の失敗でめげずに何度も挑戦してその車両に慣れてほしい。

これは旧式の車両なので操作がガラッと変わる上に滅茶苦茶シビアなスティック操作を要求される

加速とブレーキのレベルを調整するタイプも2種類あり、一つはスティックの傾き具合で調整する「ダイレクト」。こちらは専用コントローラーのマスコンに近い操作感覚だが、左スティックを繊細に扱わないといけないので、このゲームの難易度が爆発的に上がる。もう一つの「ステップ」はスティックを倒すごとに段階的に加速とブレーキのレベルを上げていくというもので、「電車でGO!」シリーズ全体を通して不得意だった人や初心者はこの操作方法がやりやすいのではないかと思う。また、これらの操作タイプは電車運転中、L1ボタンを押している間に切り替えることが出来るため、走行区間や要求されている指示に対してやりやすい入力方法を随時切り替える事もできる。このように本作は操作方法や入力タイプをいくつか用意することで、本シリーズの間口を広げることに成功していると感じた。

その他の操作として、制限速度確認や電車の扉が閉まっていることを確認する「指差し呼称(△ボタン)」。旅客や保線作業員に対して発する「警笛(○ボタン)」。フロントライトを減光する「減光のON/OFF(✕ボタン)」。雨や雪が降っている時に、フロントガラスの視界を良好にする「ワイパー(□ボタン)」があり、プレイヤーに奥深い運転士体験を提供している。6年ほど前まで保線作業をしていた身としては、保線作業員に対して警笛を鳴らすだけでもワクワクしてしまった。

このゲームでは運転士として気配りのある運転をすることが出来たら「ハート」を獲得する(過去作での「警笛ポイント」の置き換えだと思えばいい)。ハートは本作のメインプレイとなる「運転士への道」のシークレットミッションの開放で必要になるため、獲得チャンスがあるなら積極的に気配りある運転を心がけるほうが良い。

その「気配り」とは何かというと、すれ違う電車の運転士が眩しさを感じないよう、電車のフロントライトを一時減光させたり、鉄橋通過の前の確認や、保線作業員を見かけた際に静止確認、鉄道ファンがこちらに向かって手を振っていたりしたらサービスとしての警笛を鳴らすことでハートを獲得できる。こうした警笛を鳴らすシチュエーションでは、プレイヤーが見逃すことのないよう鳴らす対象が光る親切な設計となっている。

プレイヤーが運転する車両はどれも同じということはなく、それぞれ加速やブレーキの具合から画面上に表示されるメーターの位置や形状が異なっている。そのため新しい車両が開放されるたびにその特性を体で感じるのは非常に面白いし、ゲームとしても良い緊張感が生じる。慣れた駅間の走行でも車両が異なれば走行方法や、停車の考え方が異なってくるのでこのゲーム一本でかなり長いこと遊べる。

トライ・アンド・エラー前提の“心折設計”こそが「電車でGO!!」

さて、本作の要となる「停車駅の指定位置に、指定時刻に到着する」というルールだが、これまでの作品では、ダイヤ通りに運行できないと減点扱いになり、予め与えられた持ち時間を全て失うと走行中でも即座にゲームオーバー。次のステップはおろか、次の駅を見ることも叶わないという厳しいものだった。

 
停車位置を大幅に超えるとこのような表示になる

本作では持ち時間からミッションゲージに変更され、発車時に一定のゲージを保持している状態からはじまり、時間とともにミッションゲージが減っていく。ゲージは定速ポイントを初めとした特定のタイミングで安全運転や規定の運行を行うことで評価、加点されて回復する。今作では途中でミッションゲージが0になってしまっても停車駅までの一区間を運行することができ、その駅に到着した時点でゲームオーバーとなる。そのため、仮にミスを犯してクリアできなかったとしても駅間の特徴を最後まで学ぶことができるため、従来の作品よりかは幾分練習がしやすく、クリアも容易となった。

ポイントをいくらか残した状態で一区間を終えると、次の一区間の運転をするときのミッションゲージにいくらか加算され、少しゆとりを持って運転することができる。言うまでもないが、ゆとりがあるからと言っても無謀な運転が許されるわけではない。このゲームは加点よりも減点の方が大きいので調子に乗っているとあっという間にゲームオーバーに転落する。

このように10年以上前の作品と比べてシステム的な難易度がだいぶ緩和されているものの、相変わらず次のミッションに行くためのポイント保持の部分はシビアに設計されているので難しいことに変わりはない。慣れた走行区間でも運転する電車が変わるとゲームが変わったかのようにクリアできなくなってしまう。

結局のところ、このゲームで難しいのは電車のスピード、ブレーキの制御なので、ここを体で覚えないとポイントの加算はもちろん、減点を免れる術を知ることができないので、電車といかに心を通わせるかがこのゲームの一番の課題と言えるだろう。

指定の停車位置にピッタリと停まる「ゼロピタ」が達成できたときには今までのゲームでは味わえないような爽快感が感じられるので頑張って目指してほしい。

運が良かったのか後にも先にもゼロピタは達成できていない……

従来の作品にもあったサポートキャラクターの声掛けも健在。運転中にはサポートキャラクター兼、案内役の二葉という女性キャラがプレイヤーの運転を褒めたり、声掛け、注意歓喜をしてくれる。彼女の声質は案内役として適切で多くの人に受け入れられやすいと思うが、一点気になったのが少し強めのブレーキを掛けた時に「おっと!」と驚いてしまうところ。これが最初のうちは誤って非常ブレーキをかけてしまったのか、はたまた減点扱いになる操作をしてしまったのかと思い混乱し、シビアなプレイを要求されるゲームの特性もあって何度かヒヤヒヤさせられた。

余談だが、二葉はその容姿から広告やゲームセンターの店先の幟でも目にするのだけど、その姿を頭に入れて本作を起動すると、まるで別人のようなクオリティの彼女を目にしてしまい思わず二度見してしまった。他の乗客とかのグラフィックが荒くても理解はできるので、せめて看板キャラくらいはもう少し、寄せてほしいと思った。

頭の中にあった二葉
実際の二葉……

反復練習がプレイヤーのスキルを伸ばす役割を担っているが、画替わりが緩やかなので飽きが来やすい面も

本作で電車を運転するモードとして「おうちでGOモード」、「アーケードモード」、「VRモード」がある。

「アーケードモード」はアーケード版をコンシューマー向けに調整して搭載したもので、こちらは始めから総武線と山手線の一部区間が選択できる。内容もここまで紹介したルールと大きく変わりがなく、アーケード版のテイストを確認したい人向けとなっている。

「おうちでGOモード」は「運転士への道」、「デイリールーレット」、「フリー走行」の3つのモードで構成され、うち「デイリールーレット」は日替わりで変わるミッションに挑戦しながら走行する内容。「フリー走行」はプレイヤーがミッションゲージに関係なくプレイヤーが自由に路線と車両を選択して走行するモードで、スコアなどを気にすることなく自由に遊ぶことができる。これに加えてオートプレイもあるので運転席からの光景を眺めたり、作業用BGMのように流しっぱなしでも楽しめる。もしかしたら、初心者の人はチュートリアル終了後に「フリー走行」をしたほうが楽しみながら上達するかもしれない。

プレイヤーが一流の運転士を目指すという内容の「運転士への道」は、メインミッションとシークレットミッションがあり、様々なミッションをクリアすることで走行する電車、路線が開放されていく。開放される路線は山手線に限らず、総武線(市ヶ谷~御茶ノ水間)、埼京線、京浜東北線がありバリエーションに富んでいる。そのため、新しい風景を見るために多くのプレイヤーがこのモードをメインに遊ぶことになるだろう。

ミッションは大きく6つのチャプターに分かれており、特定のメインミッションをクリアするとシークレットミッションが開放され、メインミッションをすべてクリアすると運転士としての階級が上がっていく。

このメインミッションで走行する区間はチャプターごとに決められており、あるチャプターでは池袋~原宿間の3~4区間を抽出していくつかのミッションとしている。そのため全体で見ると、一つのチャプターで何度か同じ区間を何度か走行することになるためプレイヤーの反復練習となり、結果として駅区間の特徴を知る学習に繋がっているのはよくできていると感じた。

ただ、否定的な目線で見ると、この1チャプターにつきメインミッションは4つ以上あり、決められた区間で構成されているとなると、何度も同じ駅間を走ることになるため、画変わりが乏しいように感じてしまう。

しかも何度も書いているように、このゲームは大変難しい部類のため常に神経を尖らせなければならない。画替わりが乏しい事からくる飽きと、難易度によるフラストレーションが相まってこのゲームを早々に切り上げることに繋がりかねない。現に僕も、いくらこのゲームが良くできていてもメインミッションのチャプター構成に対してミッション数が多すぎるんじゃないかと感じた。だいたいミッションの1チャプターをクリアするのに1時間程度かかってしまうのだけど、これに対して体感時間はそれ以上長いと感じてしまったほど。

シークレットミッションでは新しい車両と路線を開放できるのだけど、これも少し難点がある。目的の車両や路線を優先して開放しようかなと思いきや、クリア後に開放される物が何なのか事前に知ることができないため、手当たりしだいにプレイしなければならない。自由に電車や路線を選んで走行体験をしたい僕にとってシークレットミッションは足かせで、結果としてこのゲームの魅力を損ねているように感じた。ただでさえメインミッションが多くて時間がかかるのに余計にフラストレーションが溜まる。

基本的にシークレットミッションでは、プレイヤーがそれまで経験した車両とは異なる旧式の車両を使うことが多いため、車両の性能の違いで思うようにプレイが進まず、望まぬトライ・アンド・エラーに直面する。自分の進みたい方向に進めないのはこのゲームの醍醐味を損ねている。

僕も今回のレビューを書くにあたって、何度かこのシークレットミッションに臨んだが、ゲームの難しさと不慣れな車両の走行が相まってかなりの時間がかかってしまった。

その時間の冗長化に拍車をかけているのがミッション失敗時における「リトライの無さ」。プレイヤーがミッションに失敗すると、約20秒近いロードが挟まって、再びミッションセレクトに入り、再度同じミッションを選択しても20秒近いロードが挟まる。なら「ミッションリトライ」を入れてせめてロード回数を減らしてほしいと思うもので、今後のアップデートでの追加を期待したい。

とはいっても本作はビル群や線路上の設備などの背景グラフィックの作り込みや、すれ違いの電車の出現に処理が施されているせいか、ある程度ロードが長いのは仕方ないと思っている。また、今回のレビューのためにアーケード版も確認したが、こちらもロードは20秒近くかかっているので、もともとの仕様なのだろう。

VRモードは区間に限りがあるものの、電車ファン納得の仕上がりだろう

「VRモード」は正直、今年遊んだVRゲームの中で最も感動した。このモードでは予め決められている車両と区間を走行するのだけど、VR空間では運転室が作り込まれており、本当に運転士になったような感覚になれる。この手のVRシミュレーターでは『エースコンバット7』や『Star Wars:スコードロン』のようなフライトシミュレーターがあったが、電車シミュレーターでは初めてなのでかなり新鮮な感覚で楽しめた。

このVRモードでは実際の運転体験を提供するため、操作モードが「スタンダード」で固定されている。そのため、「シンプル」で遊んでいる人は少々操作がしにくくなるかと思う。しかし、このモードを遊び終わったら、専用のマスコンを使ってこのVRモードを遊んでみたいと強烈に思うようになるはず。

また、このVRモードではもう一つのVR空間として駅のホームが用意されている。本作のリザルト画面は駅に侵入する列車の映像となっているが、このときの視点は運転室から離れて、駅ホームに立っている視点に切り替わる。VRモードでもこの部分は同様で、この時点のみプレイヤーは精巧に再現されたホームを見渡すことができる。

この空間を観察すると、いかにこのゲームが電車の制動だけでなく、駅ホームを初めとした周囲の背景を作り込んでいるのかが窺い知れるので、ぜひ一度ゲームのプレイを止めて空間に浸ってほしい。個人的に感心させられたのが、駅ホームの端に設置されている「自殺防止用LED」や夜間に点灯する水銀灯までもが描写されているところで、電車の制動だけでなく背景の細かいオブジェクトまで観察していたスタッフに驚かされた。本当に残念なのが走行できる駅区間が決められていることで、このクオリティなら追加コンテンツでも出して良いのではないかと思えた。余談だが、今作に登場するモブキャラクターの乗客は、ほとんどがスマホを片手に下を向いていている。

令和の時代に復活した「電車でGO!!」はアーケード版の移植ではあるものの、コンシューマーで初めて遊ぶユーザーを意識した作りとなっており、心ゆくまで楽しむことができた。相変わらずのこだわり抜いた難易度設計もそのままで、安易に「電車運転って楽なんだ」と思わせない作りにも安心した。

また、かつて終電後に線路の上を歩き回り、線路端で列車見張員をしていた自分としては、融雪器や配電盤を初めとした細かいオブジェクトが描かれていることに改めてこのゲームに対して並々にならぬ情熱を注いで作られていることが知れて良かったと思う。

長所

  • 電車を運転の難しさを知る難易度設計
  • 反復学習できるメインミッション
  • 細部まで再現しようと作り込まれた背景や細かいオブジェクト
  • 運転士になりきれるVRモード

短所

  • 開放できるものが不明瞭なシークレットミッション
  • 飽きやすいメインミッションの構成
  • ミッション失敗時にリトライがない

総評

2017年のアーケード版をコンシューマー機向けにチューニングした本作は、現実の電車の制動を作り分け、各駅間を細部まで描いており、ただの電車運転シミュレーターに留まらず一つの資料としても面白い内容になっている。過去作品同様に非常に難しいものではあるが、多くのメインミッションが反復的な内容となっているので、プレイヤーの教育システムとして十分な出来である。多くの人におすすめできるゲームとなっている。

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電車でGO!! はしろう山手線

Publisher: Square Enix
リリース日: 2020年12月3日
Platform / Topic: PlayStation 4, Nintendo Switch
電車でGO!! はしろう山手線 レビュー
電車でGO!! はしろう山手線
8
Great
2017年のアーケード版をコンシューマー機向けにチューニングした本作は、現実の電車の制動を作り分け、各駅間を細部まで描いており、ただの電車運転シミュレーターに留まらず一つの資料としても面白い内容になっている。過去作品同様に非常に難しいものではあるが、多くのメインミッションが反復的な内容となっているので、プレイヤーの教育システムとして十分な出来である。多くの人におすすめできるゲームとなっている。
PlayStation 4, Nintendo Switch