少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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シリアスなアズカバン決着編その1


灰燼

 トイレで生理現象を済ませていたところを美少女に乱入されたセオドール・ノットが目にしたものは。

 

 

「……おいどうしたラドフォード…………なっ!?」

 

 

 小汚い上にちょっと変なにおいのするオッサンがはぁはぁ言いながら少女を床に押しつけているという光景だった。

 

 

「……じ、事案発生ーーー!! 事案発生ーーーー!!」

「おいこら待てクソが」

「うっせぇクソなら今さっきやったばかりだ!! 手を挙げろ! 未成年魔法使いに対する淫行容疑で拘束する! また罪を重ねたなブラック」

「されてねーよ!!」

「男子トイレでやらかすとかお前何する気だ!?」

「あ? ナニじゃねーの?」

「……お、お許しください……!」(ためらいがない……だと……?)

「……ス●トロプレイ……だと……!?」(一生アズカバンから出すなよ……この変質者……)

「てめーらが黙ってりゃ何もしねーけどな」

 

 ブラックが譲歩したので、べスはすかさず答えることにした。

 

「黙ります」

「墓まで持っていきます」

「はい信じません。お前らそこで壁に手ェつけろや。一瞬で頭ん中オブリビエイトしてやっからよ」

「「ひっ……!」」

「もう二度と笑ったり泣いたりできなくしてやるよwww」

 

 だが、ブラックさんに交渉の余地はなかった。

 

 

「改めまして、こんにちわシリウス・ブラックです」

「こんにちわ、お辞儀しますぺこり」

「這いつくばって靴を舐めます」

 

 ノットがトイレの床に這いつくばってまるで荒み切ったシリウス・ブラックその人の心を映したかのような黒ずんで擦り切れた薄汚い上にくせぇ靴を舐めようとした。

 

「汚ねぇんだよ!!」

「ありがとうございます!!」

 

 ブラックの黄金の右足が炸裂!

 鳩尾を蹴られたノットはそのまま這いつくばってのた打ち回ることになった。

 はいざまあみろーーとべスは思ったのだった。

 

「はじめまして、エリザベス・ラドフォードです。趣味はトイレ掃除で特技は人を血筋で区別することです。自分の性格を一言で言うと少しせっかちな純血至上主義者で将来の夢は死喰人を志しています。好きなものは便座で嫌いなものは穢れた血です。宜しくお願いしますお辞儀しますぺこり」

 

 われながら完璧な自己紹介だ、決まった! とべスは満足した。

 

 

「英国勲章レベルのクソですね、この場で存在ごとキレイキレイしてやろうかと思いましたお辞儀します」

 

「なので死喰人のシリウスさんには敬意を表していますお辞儀します」

 

「十代の頃からそんなこと言ってるとかマジ性根の腐りきった救いようのないカス弟を思い出します」

 

「うわぁ、すごいなぁ! 光栄です!」

 

「丁度いいので散々利用した挙句ボロ雑巾のように捨ててやろうかと思いますお辞儀しました」

 

 

 激しい言葉のドッジボールの末に、勝ったのは一等星のきらめきを持つ性根真っ黒なおっさんとなる。

 恐らくは長年の監禁と逃亡生活の果てであろう。

 もはやこの小汚い中年男は良心だとか人間らしさとか生きる希望とかそういったプラスの感情をオブリビエイトしているようだった。

 

「とりあえずハリー・ポッターを誘き出せ。禁じられた森まで連れて来い」

「は? なんで?」

「何か『叫びの屋敷』使おうと思ったらよ、入口だったはずの暴れ柳燃えつきてたんだわ、真っ白にな」

「マジか。それやったのはハリーです」

「……え?」

「車でホグワーツに突っ込むのが邪魔だったんで粉塵爆発させてました」

「…………え?」

「とにかくハリーを殺すんですね! わかりました! じゃあ私はおびき寄せます!!」

 

 トイレ清掃用の道具と共に走り去っていく少女の後姿を見ながらシリウス・ブラックは思った。

 

 

 

 

 ジェームズの息子が思ったよりパワフルになってる……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になりました。

 

 

 ロンのペット、スキャバーズは行方不明になりました。

 変わりに封筒が落ちています。

 

 

 

『お前の鼠は預かった。返して欲しくば禁じられた森まで来い  べス』

 

 

 封筒の中には、切断されたスキャバーズの尻尾が同封されていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、ハリー見てよ! あの女とうとうやりやがったぜ!」

「べス……ロンの鼠を誘拐するなんて……一体何が……」

「クルックシャンクスーーーー!? クルックシャンクスー!? どこーーーー!?」

「まぁいいや、ぶっちゃけ僕あんな鼠どうでもいいんだけどハリーどうする?」

「きっとべスは誰かに脅されてるんだよ。助けに行かなきゃ」

「私の猫がいないわ」

「ハリー。正直に言う。確実に罠だと思うよ! 君の息の根を止めるためのね!!」

「べスはそんなことしないよ」

「私の猫が居ないわ」

 

 話し合いの結果。

 眼鏡と愉快な仲間達は禁じられた森を目指すことにした。

 

 目指した森はやっぱり鬱蒼としていて暗い。

 唯ですら光差すことのない森は、夜闇という環境ではよりいっそうとその暗さを増すようだった。

 しかも、この森はかなり広大だ。

 

「帰り道……ちゃんと分かるかなぁ」

 

 ハリーが心配からやや弱気とさえとれるような発言をする。

 だが、ソレを責めることはできなかった。

 

 森は暗い。

 生半可な目印など、全く役には立たない。

 ハリーはふと、童話を思い出した。

 貧しい両親に「もう養うことが出来ない」と森に置き去りにされた兄妹は、きっとこんな気持ちだったのだろう。

 暗い森の中、響く猛獣の声に怯えながら、細い月明かりだけを頼りに歩いていたのだろう。

 あの童話はどうやって、『帰り道』を作ったんだったっけ……と。

 

 

「ハリー大丈夫?」

「うん、ただ……帰り道がちゃんとわかるか不安になったんだ」

 

 それはもっともだ。とロンとハーマイオニーがうなづく。

 ハーマイオニーはしばらく考えるようなそぶりをみせた。

 彼女は頭がいい。

 学校で一番の秀才だ。だからこそロンとハリーは期待をこめて彼女の思考を待った。

 

 そして、何か思いついたのかハーマイオニーがぱっと顔を上げる。

 

「そうだわ! 『目印』よ! 『目印』をつければいいんだわ!!」

「おいおい、マー髭だよハーマイオニー? そんなことぐらい僕らだって思いついたさ!」

 

 もう少しましな案が君から出てくると思ってたんだけどな、とロンが肩をすくめて見せた。

 だが、ハーマイオニーは少しもたじろいだ様子がない。

 それどころか全くブレていない。

 

「何言ってるのよ、貴方それでも魔法使い? いい? 見えないなら、見える『目印』にすればいいじゃない」

「え? そんなことってできるのかい?」

「可能でしょ」

 

 ハーマイオニーが杖を振る。

 

 

 

 

 

「インセンディオ!!!!」

 

 

 

 すぐ近くにあった樹齢だいたい100年の木があっという間に炎上した。

 ゴォオオと100年間紡ぎ続かれてきた長い樹木の命が燃える音がした。

 乾いていたのだろう。炎の周りはあっけないほどに早く。

 業火は闇の中でより一層光輝くようだった。

 

 

「知ってた」

「でーすーよーねーーー」

 

「こうやって木を燃やしていけばいいわ!! さぁ行くわよ! インセンディオ!!」

 

 ハーマイオニーはキラキラと目を輝かせならじゃんじゃん放火していく。

 それはある種の熱に浮かされたかのようなちょっとアレな感じの目だったけどハリーとロンは気づかなかったことにした。二人ともまだ炭人形にはなりたくなかったからである。

 

 

 そして、森には。

 

 インセンディオ!インセンディオ!と元気よく叫ぶ少女の声と。

 汚ねぇキャンプファイアーが燃え上がる音が。

 響き渡るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 

 ルーピンの事務室。

 

 

「おい、トリカブト系のルーピン脱狼薬を持ってきてやったぞ……あれ?」

「こんばんわスネイプ先生に薬品の調合を手伝えと言われて強制労働させられていましたセオドール・ノットです」

「……に、つき合わされたマルフォイだフォイ」

 

 スリザリン寮監セブルス・スネイプと調合を手伝わされていたノット、に引きずり込まれた犠牲者マルフォイが三人でルーピンの事務室を訪れる。

 しかし、部屋は無人のようだ。

 

「あれ? ルーピン先生?」

 

 マルフォイが特に何の脈絡もなく机や箪笥を調べていく。

 そしてマルフォイが洋服箪笥に手をかけた瞬間。

 

「フォオオオオオイ!?」

 

 長らく狭い空間に監禁されていた哀れな『真似妖怪』が逃げ出した。

 いままで沢山の魔法生物が葬り去られてきたのを眼前で見せられ続けた真似妖怪は脱兎のごとく逃げ出す。

 それは自由への逃走だった。

 もう、恐れるものは何もない。

 これからは自由に生きるんだ、と真似妖怪はルーピンの魔の手から逃れ、散っていった同胞の分まで生きていくのだった。

 

「何だフォイ!? 今のなんだフォイ!?」

「ルーピンがいない……なんだか嫌な予感がする……」

「……」

 

 脱狼薬を入れたゴブレットを手に持っているノットが何か思いついたように窓へと駆け寄った。

 

「……あー……なるほど」

「どうしたノット?」

 

 スネイプの問いにノットが答えた。

 

 

「先生! 大変です! 『禁じられた森』が燃えていーーまーーすーー(棒)」

「何だと!?」

「フォイ!?!?」

「わー大変だーすぐに消しにいかないとーー(棒)」

「すさまじい勢いで放火されていく……まさか……これは……!?」

 

 

 

「…………グレンジャーの仕業だフォイ……」

 

 

 

 マルフォイの第六感は当たっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か木が焼けこげる異臭と共に。

 火の手が近くに迫りつつあることをべス、ブラック、そしてルーピンは自覚していた。

 

「え? なんだこれ?」

「これは……ミス・グレンジャーの仕業のようだね……」

「ハリーが来たわね」

 

 こいつら何言ってんだ? という目でシリウス・ブラックが旧友と女子生徒を見つめた。

 少女は片手にネズミを持っている。

 そして尻尾を切られたネズミをゴミを見るような目で見ていた。

 

 

 

(うーん、やっぱ3人で来たか……穢れた放火魔と6番目の血の裏切りが相手ね……)

 

 

「おびきよせることに成功しました。ので、このネズミはもう用済みです。はい殺します」

「ちゅーーーー!」(あかん、殺さないで! 殺さないで!!)

 

 べスの杖先が躊躇なく鼠に向けられる。

 その時だった。

 

 

「待て」

 

 ルーピンから制止の声が響く。

 

「何ですか、先生」

「ミス・ラドフォード。生徒なら先生の言うことを聞きなさい……杖を下げなさい」

「……なぜですか??」

 

 

(なんだ? なにをたくらんでいる……?)

 

 

 べスは半信半疑という目でルーピンを見つめた。

 そういえばなんでコイツここにいるんだろう? とも思った。

 ルーピンがゆっくりと微笑みながら優しい口調で、なぜなら、と口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その鼠を殺すのは私だ」

 

 

「ファーーーーーーーーーーイ!!」

 

「ちゅう」(わぁ懐かしの友よ! 変わんねーなオイ)

 

 

 

 

(こいつ……また…………)

 

 

 

 べスの脳内に様々な光景がリフレインする。

 

 

 

『こんにちわ。コーンウォール地方のピクシー小妖精です』

『アバダゲダブラ!』

『説明が長すぎるからアバダしといたよ。全くこれだから害獣は嫌だね』

 

 

 

『レッドキャップです』

『アバダゲダブラ!!』

『あたらなければどうということはない』

『クルーシオ!! クルーシオ!!』

『インセンディオ!!』

 

 

 

 それは、今までルーピンの犠牲となってきた生き物たちの最期だった。

 

 

 

(間違えねえ……コイツ……)

 

 

 

 

 

(こんな時にいつもの殺戮衝動を発動させるなんて……!)

 

 

 

 

 

「待てリーマス!」

「どうしたシリウス」

 

(ぶ、ブラックさん……!)

 

 ブラックが狂人ルーピン先生を制止する。

 さすが死喰い人だ。殺意の使い方を弁えている。このルーニーぶっころせ、とべスは安堵した。

 が、彼女は思い知ることになる。

 

 

 

 

 その幻想がぶち壊されるということを。

 

 

 

 

 

 

「その鼠は私が殺す!!」

 

 

 

「あばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 

 

 

(お前もか――――――――――――い!!)

 

 

 

 

 べスは心中でシャウトした。

 シリウスの目は何故か殺意に満ち溢れてギラついている。

 

 

 

「邪魔するな! 私の獲物だぞシリウス!!」

「私はこのときを待っていたあ! 13年も!! アズカバンで!!」

「13年も!?!? アズカバンで!?!?」

「いいや私が先に目をつけたァ!」

「邪魔建てするならお前から殺すぞルーニー……」

「やってみろマッドフット……!」

 

(なにが起こってるんだってばよ……?)

 

 

 信じられないことに目の前のおっさん二人はケンカしていた。

 今にも殺し合いに発展しそうだ、一触即発だ。

 どっちが鼠を殺すかで大喧嘩している。

 べスは何だか手の中のネズミが気の毒に思えてきた。

 殺人鬼二人に追われるとか哀れすぎる。

 

 

「可哀想なので鼠を守ります」

「ちゅう!」(やったぜ)

「ふっ、バカな小娘だ。大人二人に勝てると思っているのか!」

「べス。こっちにその鼠を渡しなさい。君から消すことになるぞ」

「上等だ来いよ」

「待てリーマス。今夜死ぬのはただ一人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ れ は お 前 だ」

 

 

 

 真っ赤な炎が眼鏡の光を反射していた。

 

 

 

 


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