セドリック・ディゴリーという爽やかかつ清く正しく青春を送っているイケメンに対し。
どす黒い嫉妬心、羨望、そして憎悪をむき出しにしたスリザリン勢は気に充てられた吸魂鬼が鬱病を発症するレベルでの負のオーラを発してコレを撃退。
こうして
「俺たちもそんな青春が送りたかった」
「こいつらと俺たちの何が違う?」
「ただ入る寮が違っただけなのに。なのに、こいつらは正しい青春を送っている……」
「うらやましい。にくい。ゆるさない……」
「俺もハッフルパフに入りたかった」
「あの寮なんか臭いんだよな」
「地獄をみせてやる」
という感じでスリザリンチームはハッフルパフを必要以上にフルボッコにする。
そして得点差120点以上にまで開いた完全なる勝利を喜んだのは、スネイプだけではなかった。
これにより決勝進出の可能性が浮上した――――グリフィンドール・チームだった。
「ということなので、私たちは高見の見物をさせていただきます」
「せいぜいザコ同士でつぶし合うがいいと思います」
「お前らその自信はどっから来るんだフォイ……」
「マントル」
「近くの地殻」
「局地的直下型震度7で頭ん中シェイクされてるとしか思えんフォイ。マントル状の脳みそ勝手に対流させとけ」
「そんな……ボールの頭蓋骨がモホロビチッチ不連続面に……!」
「あぁ゛!? 誰がホモ面だって!?」「言ってねーよ!!」
という感じでスリザリンチームは応援席から上から目線で闘技場を睥睨していた。
まるで王座からグラディエーターを見下す古代ローマ貴族のごとしである。
そんな感じで選手が入場してきた。
グリフィンドールがいつものように、飢えた獅子の如く、返り血まみれになった深紅をたなびかせながら、ホウキを飛ばしている。
その中でスリザリンチームは見ていたものがあった。
「あれが……ファイアボルトか」
「世界最高のホウキ……家が一軒軽く買える程度の額よ。……アレをハリーに贈るだなんて、一体何ウス・ブラックの仕業なのかしら……」
「今日の日刊予言読んだか? グリンゴッツが破られてたらしーぜ」
「ザル警備ノルマ達成おめでとうございます。アズカバンといいグリンゴッツといい魔法界終わってんな」
「……その哀れな被害者は誰さんフォイ?」
「どうやらルーピン先生らしいぞ」
「銀行強盗、有能!」
「やはり神は正義を行ったフォイ! 鉄槌が下ったフォイ!」
「はっははははは…………あの駄犬殺す絶対殺すころすころすころすコロスコロス……」
今後の生活費一切を失った人狼が何か吠えていた。
この先村でも襲って人肉を食いながら生活するしかないだろう。
獅子たちの先陣――戦闘モードに入った先頭のウッドが獅子王の咆哮が轟く。
うっせーな。
声デケェよ。
喉壊せ。
と口々のグリフィンドールの選手たちから同調の賞賛が上がった。
「我々は何をすべきか!!??」
「待ってましたぁァあああ!ウッドさんの超演説です!」
「名物フォイ! 名物フォイ!!」
「きゃーーウッドさんステキー!!」
もうスリザリンチームのシーカーとビーターズは戻れなかった。
「我々は何をすべきか!? この試合に敗北すれば我らは決勝戦進出への足がかりを失うことになる! しかし!! 勝てば栄光が約束されるッ!!
問おう、騎士の末裔、勇敢なるグリフィンドールの若獅子よ!!
われらの敵は何だ!!」
「「「レイブンクロー!!」」」
「求めるのは何だァ!!」
「「「優勝杯!!」」」
「そうだァア!! 俺たちには最高のシーカーがついている――そして、世界最高のホウキがある!! 吸魂鬼さえ現れなければ、勝利はグリフィンドールのものとなる!!
行くぞぉおおおおお! 狩りの時間だぁあああああああああああああああああ!!!!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
「最近専ら狩られる方だけどな」
「しっ、みちゃいけません」
「これが熱すぎる狩人COかフォイ?」
グリフィンドールのぶっ殺宣言ことパフォーマンスが一通り終了すると、次は『獲物』というべきレイブンクローがあたかも大鷲の如く優雅に空を舞いながら現れた。
透き通るような蒼穹を中を切り裂くはより深い青。
知性をよしとしたレインブンクローその人を象徴するかのような、群青だった。
それを纏う、一人の少女が居た。
蒼一色染められた世界の中で、すっと一筆引かれた純黒。
それが髪だと気づくまでに、数秒ほどの時間を有するだろう。
そのあまりに繊細かつ鮮やかな艶は西洋の人間が持ち得る類のものではなかったからだ。
そこの奥に収まる顔は驚くほど白く、ボーンチャイナを思わせる陶器のような滑らかな頬から尖った顎先にまでは掛ける輪郭は神がもたらした最高演算とも言うべき曲線を描く。
小ぶりな顔の中にはそれぞれ繊細ながらも造形のいいパーツが収まり、どこか繊細な黒曜石のような瞳が確実に意志の光をもってきらめいていた。
乙女椿の花弁を思わせる、僅かに色香をにじませた淡い桃色の唇が、そっと開く。
「アイヤーッ! グリフィンドールの負け犬共には負けネーアルヨ!! レイブンクローが勝つネ。ファイアボルトは木っ端みじんなるヨロシ!」
一体なんでそんな大声で喋るんだよ……。というレベルの大声だった。
「アヘン野郎共には負けねーアル!! 勝ったらホグズミードのチャイニーズタウンで打ち上げネ! 一番活躍した奴には四川料理奢ってやるヨロシ!」
「マジかFOOOOOOO!」
「チャン小姐最高!」
頼むからもう少しだけ、本当少しだけでいいから静かに淑やかに喋ってくれ…………。という切実な願いが男女関係なく心中の声がダダモレであった。
マダム・フーチがどこから持ってきたのか大きなドラをガッシャァアアアン! と鳴らした。
試合開始だ。
と、同時に空中にいくつかの『ゴブレッド』が打ち上げられた。
フィニート、という声と共に爆散。
大気中に謎の物質がまき散らされる。
「なんだあれ」
「煙幕だフォイ」
「マジかよ」
煙幕を吸い込んだグリフィンドールの選手がゲホゲホと嫌な咳をした。
「孫子も言ってるネ。士兵変得可疑的手段(兵は詭道なり)。綺麗ごとだけじゃ勝てねーアルよ! レイブンクローは知性の寮ネ! 頭使うアルよ!!」
チョウ・チャンはその美貌の顔を変なマスクで覆っていた。
完全に防毒面に見える。
スーコースーコーという呼吸音まで聞こえる有様だ。
数少ない美点をなくしてどうする気だこの女。
「微小粒子状物質散布完了!! 一気に攻めるネーー!!」
「「「是!!」」」
「おい……おい……あの女今……今……!?」
「言ったフォイ……言いやがったフォイ……」
観客席にプロテゴォオオ!とか泡吹き出し呪文とかを唱えだす者が続出した。
「「P●2.5じゃねーーか!!」」
「おいコラ散布してんじゃねーぞ!」
「フォオオイ! ノット!! 何してるんだお前!」
「……俺は悪くない。俺は『ゴブレッド』渡しただーけーでーーすーー」
「産業革命期に有害物質空気中に垂れ流して霧の都ロンドンとかアホなこと言ってた阿片キメてたブリカス共に何言われたって1ミリたりとも響かねーアル」
グリフィンドールの選手陣は慣れない○M2.5のせいでトンデモナイ目にあっている!
レイブンクローは光化学スモッグをものともせず物凄い勢いで空を舞う!
おそらく彼らの肺は真っ黒になっているだろう。だが多少の犠牲は仕方のないことだった。
少なくともチョウはそう考えていた。無論、自分以外。
『な、なんということでしょーーーーッ!! レイブンクローリード!! まさかの展開です!! 奴らは鬼かァ! 手段を択ばないのかァ!!』
『ジョーダン! 試合の解説をしなさい!!』
『ボールはケイティ、アンジェリーナ! よし、いけっ! っとおおおここで暴れ玉だぁあああ! 視界不明瞭につき流石のウィーズリーズも試合をメイキングできないッ!!』
『それにしてもよくレイブンクローの選手は飛べますね』
『よく調教されているんでしょうね、チョウ選手に』
PMに慣れてきたグリフィンドールが巻き返してきた。点数差は50。
ここでスニッチを掴めば、グリフィンドールが勝てる。
逆にこの状況で掴まなければ勝利はどう動くかわからない。
と、ハリーはスニッチの捜索を開始する。
そんなハリーの視界に何かが入るのが見えた。
きらり、と光る金色の羽。
高速で動く鳥を模した勝利への黄金。
グリフィンドールのゴールの周囲を回っているスニッチの姿。
まるでどぶ川の奥底に沈むわずかな砂金のようなそれに向かってハリーは一気に加速した。
その刹那。
「アイヤーーーッ!!」
『チョウ・チャンのタックルが炸裂ーーーー!! なんということでしょう!! そのまま進路妨害に入ります!! チョウ選手! コース潰しをしております!! 飛行妨害だーーーー!』
『それにしても、コメットでファイアボルトに対抗しているとは……一体どうゆう身体能力ですか』
『中国四千年の歴史でしょう』
「ハイーーーーッ! 行かせないアルヨーー!! ハイーーーーッ!!」
「う、うわぁ……」
チョウはご自慢のマスクを取り去る。
はらり、と長い黒髪が零れ落ち、極上の絹糸の鮮やかな漆黒が流れ落ちる。
あぁ、風に靡くソレを一度でいいから触れてみたい、艶やかなそれを指に遊ばせてみたい、と男なら一度は、一瞬は願ってやまないだろう。だが極上なのは髪だけではない、その下の肌も玉のようにまるで何層にも織り上げた綾絹のように、滑らかで美しいのだ。
その美貌は見るものの視線を釘づけにし、魅惑し、挑発し、囁きかけているようであった。
無論ハリーも。
その鮮烈な黒と白のコントラストから、目が離せない。
「落ちるヨロシッ! ハイーーーッ!!」
白魚のような細長い指。
桜貝のような繊細な爪。
それらが、
確実に凶器となってハリーの顔面へと叩き込まれた。
『チャ、チャン選手ーーーーーーーー! そのまま格闘戦に入りましたァアーーーー!? ほ、ホウキの上で格闘技を……か、カンフーをやってます!! カンフーを! 叩き付けています!! 俺は夢でも見てるのか……?』
『一体どうゆう身体能力ですか甚だ疑問ですね』
『あえて言いましょう! 今!会場のみなさんが思っていることを!!
何考えてんだ!? 否!! 何者だぁ!? あの女!!??』
「ヤベェわ……今年最強のクィディッチ狂人の座はウッドさんじゃなかったわ……今更新されたわ……」
「狂人つか人間かどうか疑うレベルフォイ……」
「絶世の美貌の最高の無駄遣いを見た……」
「……そうゆうの大好物です」
マルフォイは改めて思うのだった。
顔が綺麗なヤツにロクなヤツは居ねぇ……と。
「ハリー!! 何してる!!」
頭に鉄拳の直撃を受け脳震盪を起こしているハリーを覚醒させたのはウッドだった。
「相手を箒から叩き落せ!!」
「……は?」
「紳士ぶってる場合か!! あの女を殺せ!!」
「……ウッド……マジ……?」
「そうだぁ!! 相手が美女だろうと何だろうとクィディッチの前には皆平等!! 女子供だろうが容赦はするな! 殺るときは殺るんだぁ!!」
ハリーの闘志に火が付いた。
が、チョウ・チャンはそれを見逃すほど愚かではなかった。
「フン。目が据わったアルな……生き残ったアヘン。なら殺られる前に殺るアルヨ!!」
チョウのコメットの後ろはハリーがファイアボルトの猛スピードで追尾してくる。
このまま激突すれば確実にコメットとかいう耐久性ザコの紙箒に乗ってるチョウは死ぬ。
追いつかれるまで、残り50.40……。
と、距離と時間を確実に計測しながら、天啓のようなタイミングでユニフォームのマントを翻した。
まるで艶やかに咲き誇る。
大輪の牡丹のような。
笑顔だった。
「爆竹食うアルヨーーーー!!」
「え、う、うわぁぁああぉおおおおおお!?」
『爆竹ーーーーーーーー!? し、信じられません……コレ本当にシーカー同士の殴り合いか!? なんだかもう……なんだかもう……。
学生レベルを超えている!!!!』
『悪魔そのものの所業では、と問いかけてみます』
『しかも爆竹は追尾型だァーーー!? なんだこの魔法改造はーー!?』
これを見ていた蛇寮の選手陣は皆心を一つにして同じことを思っていた。
あぁ、よかった。
俺たち、こいつらと戦わなくて。
本当に…………よかった……。
「……ヤベェ……あいつヤベェよ……」
べスの目にも涙が光る。
もうやだ、こんなのヤダ。見たくない。これ以上は精神が持たない。さっさとトイレ磨きたい……。
「ヤバすぎるフォイ……あいつ……あいつ……」
「……オッシャ、追尾成功。やったぜ俺天才じゃん」
ノットだけが何か喜んでいた。
「ヤベェ……あの女やばすぎ……」
「あの女……チョウ・チャン……」
「ヤバい……頭がとかじゃない……もうそんなレベルじゃない……」
「あいつ……本当に……人間なのかフォイ……?」
「「チョウやべぇよアイツ」」
「……凍り付いてんな、いろいろな」
スリザリン応援席は極寒に見舞われていた。
その後爆竹が空を舞ったり、ゴールが爆破したり、クアッフルが砕けたりしたけれど、特に何の問題もなくハリーがスニッチを掴んでグリフィンドール勝利で試合は終了したのだった。
残弾切れです。ここから完結まで貯めるのでもうちょい待っててください。
と、布団をかぶりつつガタガタ震えながらお辞儀します。