少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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この話書くのクソ面倒くさかった。



スリザリンの継承者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな訳で今日はマンドレイクの収穫をやる』

 

 

『サラザールせんせーー! マンドレイクは危ないんじゃないですかーー!』

 

 

『その通りだ、グリフィンドールに10点やろう。確かにその鳴き声は人間を絶命させる力がある。だが案ずるなコレは幼いマンドレイクであるから致死には到らぬ。だが耳当てはしっかりつけろ! いいな!』

 

 

『『『はーーーーい』』』

 

 

 ギャーーーーーー!!

 

 

 

 

『おー、何か楽しそうだなー! ここは騎士道的な俺様が降臨しtーーー』

 

 

『先生! 先生! ゴドリック先生が! 騎士道先生が! 白目をむいてぶっ倒れました!』

 

 

『その馬鹿は放っておけ。どうせすぐ生き返る』

 

 

『ふぇぇ……ゴドリックせんせ……死んじゃったの……?』

 

 

『…………心配ない。死んではおらぬよ、死んでは。気絶しただけだろう、至極残念ながらではあるが』

 

 

『よかったぁ! せんせ生きてるーーえへへへへー!』

 

 

『……』

 

 

『サラせんせー? どぉしたの?』

 

 

『いや……その……。…………幼女の笑顔は可愛いなと思ってそのこれは純粋な気持ちであるから決してやましい感情ではないのだから勘違いしてはならぬのだからな!』

 

 

『……』

『……』

『……』

 

 

 

『ありがとうございます、スリザリン卿。これであなたがロリ●ンであるということが証明されました。この黒歴史は未来永劫……語り継がれていくことでしょう……騎士道的に歌となって』

 

 

 

『ゴドせんせ生き返ったーーー!!』

 

 

『死んでろグリカス……。

 

 えー歌いすぎて脳がパッパラパーなそこの騎士馬鹿は放っておいて授業に戻るぞ叡智と勇気と誇りと優しさを持つ選ばれし魔法族の諸君。

 この薬草は呪いを受けたものを直すことが出来たりする――たとえば石化とか、石化とか石化とか』

 

 

『……あー……あの蛇さんか』

『あの蛇な』

『あの全自動無差別石化光線発射蛇?』

 

 

『……そうだ。非常に残念ながらそうだ……。

 

 

 

 

 

 だが、諸君にも分かって欲しい。

 

 どんな『呪い』にも強力な『呪詛』にも――必ず対抗する力は存在するのだということを。

 

 それさえ知っていれば、『恐れる』必要など何もないのだということを』

 

 

 

 

 主は優しかった。

 

 誰もが、何もが私を恐れた。

 

 何もかもを恐れさせる――この目が嫌いで嫌いでたまらなかった。

 

 

 

 だが自分ではどうすることもできなかった。

 

 忌むべき目を潰しても、この体は時が経てば再生を始める。

 

 だからもう何も見ることを諦めていた。

 

 

 

 だが、主は私を恐れなかった。

 

 それどころか、こう言った。

 

 いつかお前を不条理から救ってやると――お前の居場所を魔法界に作ってやると。

 

 

 

 主はどこまでも理想家だった。

 

 楽天家だった。未来に対して希望以外の何も抱かない――そんな男だった。

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

 その言葉だけで私は救われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリスマスです帰ります』

 

『はい皆さん、マグルには気を付けるのですわよー! 最近迫害が流行っておりますからねーー! 知らないおじさんとロリコンとショタコンにはついて行ってはいけませんよ――!』

 

『『『はーーい! サラ先生には気を付けまーーーーす!』』』

 

『完璧な返答ですわ! 皆さんに10点ずつ差し上げますわ!!』

 

 

 

『オイコラ穴熊女』

 

 

『まぁスリザリン卿、聞いて下さいまし! 私、真理に気付いたのですわ!』

 

 

『……お、おう……』

 

 

『ちくわぶの穴を制する者が――ちくわぶを制するのですわ!!』

 

 

『…………はぁ……』

 

 

『ひらめいた! 今のヘルガのアイディアを使って――――帰ってきた生徒たちを迎える騎士道的な騎士道ソングを作ろう!』

 

 

『伴奏、ロウェナ・レイブンクローでお送りします』

 

 

『お前ら何処かでストッパーぶっ壊れてんのか』

 

 

『サラザールが居るではありませんの』

 

 

『……時に、スリザリン卿。あなたの生徒たちですが……中には親御さんの身罷られた子も、多いことでしょう』

 

 

『……ん、あぁ……。……そうだな』

 

 

『あー思い出すぜーー。焼け跡の村とか回ったよなーー。アレきつかったわー。

 

 家も何もかも、全部全部焼けちゃってさ、そこで一人で子供が蹲ってて……泣いてるんだよな。

 腹減ってるだろうに、もう泣き疲れてクタクタだろうに……でも、泣いてるんだよ。

 もう動かなくなった親の傍で。

 そんなん放っておくなんてこの俺の騎士魂が許さないね! はい歌います聞いてくださいグリフィンドール讃歌!』

 

 

『黙れ。

 ……確かに孤児は少なくはないが、皆、一か所の孤児院併設の修道院に帰している。

 そこの院長が『こちら側』の人間でな。快く引き受けて下さった』

 

 

『……成る程。……そうですか。その神父は……信用できる、方……なのですね』

 

 

『あぁ、彼自身が辛い目に遭ってきた人だからな』

 

 

『…………分かりました。信じてみることに致しましょう』

 

 

『じゃあ歌います! ゴドリック・メドレー!!』

 

『歌わんでいい!!』

 

『さぁゴハンですわよ! 今日は創作料理! うなぎのゼリー煮込みを造りましたわ!! 頂きましょう!』

 

『へ……ヘルガ……その……すごく……個性的だが大丈夫か……!?』

 

『大丈夫、問題ない』

 

『へ……ヘルガ……?』

 

『歌います!! 目の前の現実を拒否して歌います! 歌えば! なんでも! こわくない!!!!』

 

『そうだ今日は娘に天文学を教えると約束していました早くいかなきゃ娘が寝てしまいますごめんなさいヘルガご一緒はできません』

 

『おい逃げるなレイブンクロー!!』

 

『ママ―早ク来テーーヘレナ眠クナッチャウヨー』(裏声)

 

『見え透いた自作自演をするなそれでも貴様英国一英明とされた魔女か!!』

 

『何とでも言え』

 

『ロウェナぁああああ!!』

 

 

 主には三人の友が居た。

 

 知性的な大鷲の美女。残念ながら人妻で一児の母である。主の嫁にはならない。だが娘がワンチャンあるぞ主、と言ったら主はそっぽを向いた。

 ……たかだか10年ほど待てばいいだけの話なのに。

 

 穴熊のような優し気な女性。

 彼女も美しい。が、可憐な外見に合わず中身が相当……であるらしいので主は基本泣かされている。

 だが、私の目を見ても石化で終わった稀有な女性だ。心の優しい女ではあるのだろう。

 

 

 あと歌馬鹿赤毛とか居た。私はあの帽子は五月蠅いのであまり好きじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴドリック……やはり、私たちは――分かり合えぬのだな』

 

『あぁ……だろうな。だが――もう一度だけ考え直してくれないか、サラザール』

 

『……ヘルガも、ロウェナも、コイツに賛成なのだな……?』

 

『無論』

『もちろん』

 

『……ならば……私は……。……この学校を去るしかない』

 

『サラザール……』

 

『……』

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんな……こんな……! 制服を作るなど――――! み、認めぬ! 私は断じて認めぬぞ!!』

 

『……』

『……』

『……』

 

 

『こんな同じ格好をした少年少女が全寮制の学校でウフフとかどう考えても反則だろうが! 更に言うならば女子のスカートの布地が短すぎるだろうがはしたない!! 年頃の娘たちが……むしろそれよっか小さい子がそのプニプニの柔肌を晒すなどと――まるで白樺の如く透き通る眩いふくらはぎを無防備に授業中に晒すなどあってはならぬ! 断じてだ!! 決して!! 私が集中できなくなるとかそうゆう理由ではないから勘違いするな!!』

 

 

 

 

『……ドン引きですわ』

『サラ……なんか……ごめんな……。やっぱり英国人にこのスカート丈は10世紀早かったようです』

『おかぁさまーー! しさくひんをきてみましたーー! かわいいですかーー?』

『……しまった! ヘレナ!! こちらに来てはなりません!!』

『なんでーー?』

 

 

 

 

『…………ふぅ……あ鼻血が……失血死します』

 

『……なんでコイツ本当に教員になったのですの?』

『ある意味天職だと思うぜ、俺は』

 

 

 

 

 

 ……何か主がいじめられていたような気がする。

 

 あの歌野郎ブッ殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の匂いがした。

 

 

 おびただしい数の、血の匂いがした。

 

 初め、私はそれが何か分からなかった。

 

 主たちは私の住む部屋に――生徒たちをいつも教え導く部屋に運んでいた。

 

 いや――初め私は『それ』が生徒たちであるのか否かさえも――分からなかった。

 

 分からないほど、皆ひどく傷ついていた。

 

 

 

 

 私は気づいた。

 

 その子たちは皆、主が預かっていた子たちであった。

 

 皆、孤独の匂いがした。

 

 ある一人の少女が言っていたことをおぼえている

 

 

 ――私の両親は、ある日マグル達に連れていかれ、生きたまま焼かれて死んだのだ、と。

 

 

 私には両親という概念はない。

 

 何のことだか分からない、主に聞いてみたが、曖昧に笑っただけだった。

 

 どうやら『人』は『親』を慕うものであり、愛するものであり……大切に思うらしい。

 

 私にもそれは分かった。『親』は分からないが、慕う事も、愛することも知っていた、だから、それが理不尽に奪われれば憎らしく思うだろう――相手を殺したくなるだろう、と。

 

 

 『親』のいない子たちが、皆、ひどい怪我を負って、苦しんでいた。

 

 おそらくは火の傷だろう――どの子もまっ黒か真っ赤になって、ひどく焦げた臭い――痛みと嘆きと苦痛の匂いがした。

 

 

 主は必死に手当てを施していた。

 

 主の友たちも、必死に呪文を唱え、薬を調合し、何とか助けようとしていた。

 

 

 

 

 だが、結局。

 

 ひとり、またひとりと、小さな蝋燭が消えるように。

 

 ぽつり、ぽつり、と小さな声を発しながら――ゆっくりと眠っていった。

 

 そして、二度と目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

『……最期まで、私を…………呼んでいた』

 

 

 主はもう動かなくなった細い腕をずっと握っていた。

 

 

 

『…………私を……最期まで…………信じていた……』

 

 

 

 主の声はかすれていた。

 何度も叫び、何度も嘆いた先――もう涙も声も枯れ果てていたのだ。

 

 

 

 

『…………私に……何ができたのだ…………私に……』

 

 

 

 

 私には何も言葉がなかった。

 

 

 

 

 

『目の前の生徒一人……救って……やれなかった…………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主は許せなかったのだろう。

 

 この後、主は――非魔法族と縁のあるものを全て遠ざけるようになった。

 

 学び舎は割れた。

 

 

 友が死んだ、家族が殺された、実の親を殺された……そのことで非魔法族出身の者をなじる子供たちが現れた。

 

 自分の親を殺したかもしれない人間の子供と共に机を並べることはできない、と彼らは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 許せなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 許すには――――誰もが、何かを、深く愛しすぎていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 主もそうだった。

 

 

 誰よりも優しかった主は――――もう見ていられなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフィンドールのクソ野郎と、主が殴り合って、結局主が学び舎を去ることになった。

 

 主はここを去り――今度こそ己の『理想』を叶える為に往くのだと言う。

 

 

 

 

 

 

 だが、私はここを離れることはできない。

 

 

 私の存在は恐らく、主にとって足かせとなってしまうだろう。

 

 だから、私は主に着いていくことは――共に進むことはできないのだ。

 

 心が張り裂けそうだった。

 

 もし、私が人間だったならば。

 

 

 もし、私に二本の足があったのならば。

 

 

 ……そんな思いばかりが、廻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 主は私に何度も詫びた。

 

 許しは乞わぬ、と言った。

 

 恨むのならば、自分だけを恨んでほしいと言った。

 

 私は何も答える言の葉を持たなかった。

 

 主は――――自分だけを憎んでくれと言ったのだ。

 

 魔法族に酷い仕打ちをしたマグルのことも、そんな両親の元に運悪く生まれてしまった魔法族の子も、彼らを憎いと叫ぶ魔法使いたちも、友であったにも関わらず主をここから追い出すという仕打ちをしたカス野郎グリフィンドールのことも、それを止めなかった二人の魔女たちのことも。

 憎むな、と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……憎めるハズがない。

 

 

 

 

 そんな主のことを――――私が、憎むことができる訳がない。

 

 

 だから、私はコレだけを主に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 『あの日』から――あなただけが、私の希望だったのだ、と。

 

 

 

 あなただけが、私の居場所をくれたのだ、と。

 

 

 

 ここでしか、私はもう、生きていけない。と。

 

 

 

 

 

 

 

 主はとても悲しそうだった。

 

 当たり前だ、優しい人なのだ。

 

 本当は――人一倍心の優しい人なのだ。

 

 だからこそ、許せなかったのだろう。

 

 魔法族への恐怖から孤児院に火を放ったマグルも――彼らを助けられなかった自分自身も。

 

 

 

 

 

 

「ならば、ひとつだけ、私の願いを聞いてくれるか?」

 

 

 

 私は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………この場所を……ホグワーツを……守ってくれ。

 

 

 あの大馬鹿共と、抱いた理想を――――生徒たちを、守ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千年が経った。

 

 

 千年経ったにも関わらず――嘆きの声は消えなかった。

 

 ある時は『魔女狩り』というもので家族を失った子らの泣き声が木霊した。

 ある時は、戦で何もかも失った生徒たちの血を吐くような憎悪が聞こえた。

 

 千年たったのに、何一つ変わらなかった。

 

 だから、私は手を下そうとした。

 

 

 

 

 

 

 血の匂いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れもしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、主の生徒たちを焼き殺した『マグルの血』の臭いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主の後継者を名乗りやがる小童が何か言ってた。

 

 

『穢れた血』を殺そう、と。

 

奴ら魔法族を滅ぼしに来たのだ――と。

 

 

 

 私も老いた。

 

 

 もう、時間は残されていなかった。

 

 

 私が主との約束通り、この学び舎を守り続けることができる年月はもう少ないと自分でも分かっていた。

 

 

 

 ならば、

 

 

 

 この命尽きる前に――マグル生まれを根絶やしにしなければならない。

 

 

 私は今度こそ――『ホグワーツの生徒たち』を守らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから主よ、

 

 私は今こそ武器として生きよう。

 

 自分の意志で、幾億もの魔法使いの遺志を継ごう。

 

 

 

 すべてはあなたと交わした約束の為に。

 

 

 

 

 たとえ千年の汚名を被ろうとも。

 

 恐怖と憎悪の対象になり果てようとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも誇りたい思いがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『伝わるさ――――きっと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、あなたの友だったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 開心術が、コレほど重たいものだとは思わなかった。

 ベスは言葉が出なかった。

 

 代わりに、目から何か熱いものがこみげてくるのを感じた。

 

 友情、忠誠――そのどれともつかないし……どれでもあるような気がした。

 

 これはきっと、いくつもの悲劇と――そして歴史の重みの中、たったひとつの約束を守り抜こうとした。

 

 ……痛いほど、純粋な。決意だった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ソレだけが、今。

 

 

 バジリスクを……支えている。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 これを消すのは難しい。

 

 だが。

 

 

 ベスは、ロックハートに向かって声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「先生!! 千年です!! 千年分の! 全ての記憶です!!

 

 

 コイツがサラザール・スリザリンと分かれる直前――そこまで記憶をぶっ殺せば――私たちの勝利です!!」

 

 

 

 

「せ、千年……!?」

 

 

 ロックハートがたじろいだ。

 流石の彼も、そんな規格外のことは――やったことがなかったのだ。

 

 

「……ロックハート先生!! お願いします!! この蛇は――バジリスクは!! ずっと! ずっと!!

 その思いに縛られているんです!! でも……先生ならできます。

 

『今』を生きる私たちならできます!! 全部全部! ぶっ飛ばしましょう!!」

 

「……」

 

 

「ロックハート先生!! やるんです!! 僕らが動きを止めている間に!!」

「頼むよ先生! これ乗り越えたらもう何書いても僕ら文句言わないから!」

「先生……!!」

 

「……」

 

 

 

 

 ロックハートは、わずかの迷いの後。

 

 

 

 

 何かを振り切ったような、とびっきりの笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「……HAHAHAHAHAHA!! いいでしょう!!

 

 えぇそうですよ! ミス・ラドフォード!! スリザリンに10点です!!

 

 千年分の記憶――この私の敵には不足はありませんな!!

 

 なぜなら、私は!!」 

 

 

 ロックハートは杖をかまえた。

 目指す先――それは。

 

 

 バジリスク。

 

 

 

 

 

 

「……マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、チャーミングスマイル賞五回連続受賞……それの、どれでもない。

 マーリン勲章も、名誉会員も、スマイル賞も要らない。

 

 私は!! 『ホグワーツ』の闇の魔術に対する防衛術の講師!!」

 

 

 ロックハートは、人生最大の力をその杖の先に注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただの、ギルデロイ・ロックハートなのですから!!」

 

 

 

 

 

 

 ロックハートの杖の先から薄い緑色がかった眩いばかりの閃光が発射される。

 その優しい忘却の光は。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおお!! オブリビエイトォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 視力を失ったバジリスクの目にも、確かに届いたのであった。

 

「先生!!」

「ベス! ダメだ! 下がれ!!」

「で、でも……ロックハート先生ぇえええええええええええ!!」

 

 激し過ぎる光はどんどんと広がっていく。

 無理もない、千年もの記憶を抹消する呪文――規格外の力に対抗するのは、やはり規格外の魔力だった。

 

 大きすぎる光がロックハートをも飲み込んでいく――。

 

 

「…………ああ、これで……僕は……」

 

 

「「「ロックハート先生ーーーーー!!」」」

 

 

「………………」

 

 

 光に飲み込まれる直前。

 

 ロックハートは、生徒たちに向かって。

 

 満足そうな笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ふーん……コイツが、私を殺した犯人なのね』

 

 すべてを見届けたマートルはあまり感情のこもらない口調だった。

 

『……もちろん許せないけど……なんだろう、私、コイツのこと……そんな憎いって訳じゃなかったみたい』

『……』

『ほら、行って来れば? 同じレイブンクローのゴースト同士でしょう? 何か言いたいんならスッキリしなさいよ』

『…………』

 

『大丈夫よ、きっと――――恨んでないわ。そんなものだもの』

 

『…………』

 

 

 マートルに促され、灰色のレディはゆっくりと歩を進めた。

 

 やがて、彼女は横たわる蛇――バジリスクの前に辿り着く。

 

 

「しゅー……」(懐かしい……臭いがする)

 

 

『……』

 

 

「……シュ―……」(グリフィンドールの匂いがする……レイブンクローの……?)

 

 

 

『……えぇ、そうですわ』

 

 

 

 

 

 

 

「……しゅー…………」(……そうか……。……なら、主は……。仲直りできたのか……)

 

 

 

 

『……はい、そうですよ……』

 

 

 

 

「しゅー」(なら良かった)

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 灰色のレディ……ヘレナ・レイブンクローはそっとバジリスクの目に手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ずっと……守ってくれて……ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 バジリスクが守ろうとしていたもの。

 

 

 

 それは、サラザール・スリザリンの――千年前に居た、どうしようもなく不器用だった男の、たったひとつの思い。

 

 

 

 世界を動かすのが人の意志。

 

 

 

 遺志を受け継ぐのが継承者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたこそが、スリザリンの継承者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









次回、秘密の部屋編最終話


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