少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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 いつか、彼に伝わるだろうか。














 私か、彼らか。

 どちらが正しかったのかは、分からない。


 いや、違うか。



 本当はどちらも間違ってはいないのだろう。


 少なくとも私は、そう信じたい。



 ただ、






 私と、彼らとでは、目指す理想が違った。



 それだけは、譲ることができなかった。


 
 だから、この結末しかありえなかったのだと思う。





「お前にはこれから多くの苦難を与えることになる」





 これは、私の残す最後の愚かさだ。

 

「許しは乞わぬ……。だから、恨むのならば、どうか私を恨んで欲しい――――お前を共に征けぬ私を、憎んでほしい」




 何も答えは得られなかった。





 それでも、私は私の理想の為に進もうと思う。



 
 この千年先の世界で、いかなる誹りを受けようとも。

 たとえ誰に、伝わらなくとも。
 







 だが、それでも。



 


 ここにだけは、残しておきたい思いがある。


 















 いつか、彼に伝わるだろうか。



 




















秘密の個室編
とある薄暗い一室にて


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ハリー・ポッターが自分の部屋の窓に鉄格子を嵌められている時だった。

 

 

 

 魔法界。

 

 具体的に言うと。

 

 

 アズカバン。

 

 

 

 すべての植物、動物、生きとし生ける生物が生きる意志を失うかのような場所に、少女がコツコツと歩いていくのだった。

 それは。

 

 月光の様な美少女だった。

 

 

 つややかな漆黒の髪は長く、さらりとまっすぐに伸びている。

 肌は心配になるほど血色が悪く、雪のように白い。 

 見る者を思わず二度見させるほど印象的な瞳は、薄い青の混じった灰色。

 すっと通った鼻筋に、真っ赤な唇の少女は、黒い、仕立ての良いワンピースを着て歩く。

 

 幼いながらもその美貌は、この薄暗い刑務所に不思議とマッチしていた。

 言うならばホラー映画に必要以上に美しい女優が出てくるみたいな。

 

 ゆらゆらと揺れる黒いローブの看守たちに連れられた少女は、その場所につく。

 

 照明が蝋燭数本しかない薄暗い部屋だった。

 

 

 

『アズカバン面会室』

 

 

 

 少女はそこでポツリ、と独り言を漏らす。

 

 

「相変わらず下水みたいな臭いがする場所ね……。全体的に退廃的なトイレって感じだわ。それはそれでステキだけど」

 

 

 少女――――エリザベス・ラドフォードは残念ながら全く進歩していなかった。

 

 奥の部屋のカーテンがそよぎ、緑色の炎が灯る。

 やがて、緑色の炎から重そうな手錠に繋がれた女の姿が現れた。

 

 それは。

 

 

 

 

 

 

 囚人服を完璧に着こなした、美女だった。

 

 少女にも、老女にも見える年齢不詳の美貌。

 この環境であるにもかかわらず、手入れはされていないものの艶やかさを失わないシルバーブロンド。

 透き通るような青い瞳の女が、にっこりと笑顔を浮かべている。

 

 

「ベスちゃん」

 

 

「ママ!」

 

 

 

 

 大きな鉄の首輪からは番号が下げられている。

 だが、もし、ここに名前を記入する箇所があったら、こう刻んであっただろう。

 

 

 オフィーリア・ロジエール。

 

 

 このどこか儚げな女性こそが、スリザリンの便所姫、ベスの母親だった。

 

 

 

 

 

 

「それでね、私ねースリザリンになったのよー!」

「あら~~。あらあらあら~~。それは良かったわねぇベスちゃん。お母さんも嬉しいわぁ。だけど、入学用品は大丈夫だった? コーディーは忙しいと思ったんだけど……」

「あぁ、それなら大丈夫よ。ハリー・ポッターとかいう闇の帝王ぶっ殺した本性黒い眼鏡と、ホグワーツの森番とかいう人間の落伍者っぽいスコッチ野郎と一緒に買い物に行ったから。ダイアゴン横丁ってすごいのね!」

「それはいつかお礼をしなくちゃね……お父さんの口座、凍結されてなかった?」

「されてたわ」

「ごめんねベスちゃん……大丈夫だった?」

「うん、お辞儀したら何とかなったわ!」

「流石ベスちゃん! あの人の子ね~~~~」

 

 尚、この会話を一字一句がりがりと羊皮紙に手書きで書きつけている監視官は死んだ目で仕事に従事していた。

 いや、実際美少女と美女。系統は違うが美人な親子が語り合っている様は眼福ではあった。

 問題はこの犯罪者と思えない気楽すぎる空気と会話だ。

 

 ふと、ベスが羨ましそうな目でオフィ―リアを見た。

 

「……あーあ。私もママみたいな髪と目が良かったな」

「あら? どうして?」

「だって、綺麗だもの。こう言っちゃアレだけど……ママ、子供の頃から目立ってたでしょ? 美人だし、その髪と目だと。叔母さんもそうだけど」

「ベスちゃんもとっても可愛いわよ」

「……でもこんな髪、いっぱい居るわ」

 

 

 確かに、全人口で一番多いのは黒髪。

 

 

 自分の癖のない髪をひっぱる娘を、オフィ―リアは鉄格子越しに撫でる事は出来ず――やさしく手だけ伸ばした。

 

 

 

「ベスちゃんの色はね、お父さんの色だからいいのよ」

「……」

「ベスちゃんにパパの血が流れているって証拠だから。とってもカッコイイ人だったのよ?」

「……そうね、うん」

 

 母親の満足そうな顔を見て、ベスも笑う。

 相似比の様に似ている親子だが、若干の差異は存在した。

 夜闇のような黒髪と、月光のような淡い金髪。

 すこし濁った青い目と、透き通るような薄い碧眼。

 ベスの目が若干つり目なのに対し、オフィ―リアの目はどちらかというとタレ目に近かった。

 

 他愛ない話をつづけていくうちに、時間が過ぎる。

 

 

「じゃあ……またね、ママ」

「元気でね、体にだけは気を付けるのよ。ベスちゃん、足がよく冷えちゃう子だったからね。赤ちゃんの時からそうなのよ。夜寝るときは温かくしてね」

「うん。気を付ける、じゃあね、ママ」

 

 

 

 ホグワーツ特急が出るまであと3日。

 

 

 ベスにとって、ホグワーツの2年目が――――始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 






ご好評につき、秘密の部屋編もやることにしました。(暫定)

ですが、原作未所持の為、ちょっと買ってきます。
結局みつかんなかった……マヂ無理。。。
今から探して読んで書くので更新は多分7月下旬~8月ぐらいになるかと思います。
少々お待ち下さると嬉しいです。

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