透き通るような、青い空だった。
ハリーの姿が見えなかった。
それには、深い事情があり、結局学校中が知ることになり。
英雄だ、とたたえる声もあった。
彼の信者達からは、お菓子やお見舞いの品が英雄が休息する医務室にと、届けられた。
だが、しかし。
それじゃ解決できない問題が、ひとつあった。
ハリーは、シーカーだったのだ。
しょうがないので代役シーカーを急に立てたはいいけど、ニンバスがまるでいう事を聞かなかった。
ニンバスは知っていた。
歯向かったら殺されることを。
「代わりのシーカーはポッターほど強くない。そして――俺達は、今、かつてないほど……強くなっている」
「という、根拠のない自信」
「まーフリントが言うならそうなんだろ、フリントの中でな」
「せやな」
「……」
「そして、今――。スリザリンの優勝がこの勝負にかかっている! ココで勝てば、スリザリンはレイブンクローを大きく引き離す! いいか! 諸君!!
スリザリンの興廃はこの一戦にある! 各員奮励努力せよ!!」
フリントが殺る気満々で地面を蹴り、空へと舞いあがった。
「んな大げさな」
「せいぜいかかってんのは最優秀杯だろ」
「……」
後の奴らもぶつくさ言いながら続く。
グラウンドには、殺気だったフリントが宙に浮かび。
更にもっと殺気立った、グリフィンドールのキャプテンにしてキーパー。オリバー・ウッドの姿がそこにはあった。
その姿を例えるならば10人中9人はこう評するであろう。
『鬼神』――――と。
荒ぶる神と化したウッドは周囲の大気を攪拌しながら大声を出す。
声拡散呪文も使ってないのに、人が気圧されるレベルの大音量だった。
「貴様等は何だぁ!!」
「「「「我らグリフィンドール!! 意志こそが我が力なり!!」」」」
(本当だやってる……!)
スリザリンだけじゃなかった、ホグワーツの伝統。
負けじとフリントも言い返す。
「お前達は何だぁーーー!?」
「「「「我らスリザリン! ホグワーツ最強の末裔也!!!!」」」」
「そうだ! 我らグリフィンドール! 眼前の蛇の返り血で、ローブを深紅に染め上げろ!!」
「スリザリン! 獅子の皮を被った猫共をホウキの上から叩き落せ!!」
「時は来た!」
「箒を掲げろ!!」
「「柄を起こせ!!」」
「獅子王の旗の名に誓い――」
「純血の誇りの名のもとに――」
「野郎共! 狩りの時間だぁあああああああああああああ!!」
「奴らに身の程を教育してやれぇええええええ!!」
(なんだこれ……?)
『えー、各将、非常に気合いが入っております。毎年こんな感じです。よく飽きませんねコイツら。先攻はグリフィンドール! クァッフルは石頭の淑女ケイティ・ベルからスタートします!!』
『解説のマクゴナガルです。各陣奮闘を期待します!』
「諸君らの軍功に期待する!! 試合ーーー開始ぃいいいいい!!」
そして――フーチのホイッスルがとどろく――。
試合は白熱を極めた。
負傷者3人、退場2人。
鮮血が校庭の砂をいくらか斑に染め上げる。
リザーブの選手たちが次々と投入され、役者を変えながら、尚この死の舞踏は続いて行く。
『スリザリン!! ゴォオオオオル!! コレで100vs80。今季最大の試合となりましたねマクゴナガル先生!!』
『そうですねウッドォオオオオ!! 次は防ぎなさぁああああい!!』
『解説って何でしたっけね……。クァッフルは主将、マーカス・フリントがキャッチしました!! フリント進む! フリント速い!! 速いぞスリザリンのキャプテンフリントォオオー!
あああああああーっと! ここでブラッジャーだぁああああ!』
「ここから先は!」
「行かせないね!」
「「蛇山の大将さん!! ここで堕ちな!!」」
『先にひかえていたのは――人間ブラッジャーウィーズリー兄弟ィイイ!!』
それを見逃すビーターは、この世にはいない。
「ベス! キャプテンを援護する!!」
「了解! 今行くぞキャプテンーーーー!!」
深紅の競技用ローブがはためく。
双子のフレッド&ジョージ・ウィーズリー。
双子故に、殴り合っている内に、どっちがどっちだか分からなくなり。気がついたら挟撃されている――という、地味に意地汚い戦法が彼らの十八番であった。
だが経験をつんだフリントの敵ではない!
フレッドから放たれたブラッジャーを、ジョージがフリントの箒目がけて撃ち返す!
そのブラッジャーを旋回しながら除けるフリント。
急な回転により、Gがかかり、視界が漆黒に濁っていく。
グレイアウト、このまま視界が回復できなければ完全なブラックアウトへと陥るだろう。
だが、フリントは。
止まらなかった。
「行けぇえええ!」
「死ねウィーズリィイイイ!!」
少女がフレッドの方に渾身のタックルをブチかました。
尚、ギリギリ反則ではないレベル。
軌道を読んだフレッドがギリギリの所で避ける。だが――
「っ!」
「貰った!!」
フリント越しにベスはブラッジャーを相手方――ジョージ・ウィーズリーの箒尾に向かって撃ち返す。
『コレは凄い! ビーター対決です!! グリフィンドールの守備! ブラッジャーとブラッジャーを使った――ビーター同士の殴り合いが展開されております!! これは怖い! フリント、地面スレスレの匍匐飛行! これじゃ死なないかもしれないが、得点はできない! フリント、潜ってこのビーターの殴り合いを見届けるようです!』
『いや……違います……』
『ゲームが動かない! 一体この勝負どこに向かうのか――!?』
『違う……違う……コレは――!』
「やるな! 新人!」
「だけど! まだ!」
「「僕たちには及ばないな! ベス・ラドフォード!」」
「……言ってろ! 血を裏切る4アンド5男!」
2つのブラッジャーを連打しながらフレッドとジョージは考えていた。
ボールは強い。だが、こっちの少女はまだ幼く、そして技術も未熟。だったらこっちから潰していこう。
騎士道など最早そこにはない。女子供だろうと容赦しないのがクィデッチ。
次来る弾で柄を折ってやろう、と軌道を読んで思案したその時だった。
弾の軌道が――読みを、大きく外れた。
否。
大きく外れたのではない――――まるで、鏡面のように
予想とは正反対の方向から来たのだ。
「え……? まさか……?」
「フレッド!!」
箒の柄をブラッジャーが掠める、回避は間に合わない――。
バキバキバキと、木の砕ける音を聞きながら。
フレッドは確かに見た。
「左……?」
「おあいにく様!! 前の試合はねーートロールのせいで丁度『利き腕』をケガしてたのよ!!」
と、いうことは。
この1年生はずっと、利き腕じゃない方でプレイしていたのか。
こりゃ、この娘、化けるかもな。
フレッドはそう思うと完敗を認めると、試合を降りるために、ゆっくりと下降していくのだった。
「クッソ! フレッドをよくもーー!」
「やべ……」
「フリント! 時間は稼いだぞ!」
片割れ不在につきキレたジョージ・ウィーズリーが殴り込む!
だが遅い。
遅かった。
彼らの。
スリザリンの。
真の目的は。
「「「「テレンス!!」」」」
スリザリンシーカー。テレンス・ヒッグスが――――飛翔する。
「悪いなグリフィンドール! 俺達は、お前ら『なんか』見ていない」
「100点以上の得点を得ること――スリザリンの勝ち状態で試合を終了させること」
「それによってー」
「はじめて『優勝杯』が見えてくる!!」
「飛べぇえええ! クイーン・スリープ!!」
空を駆けるテレンス。
そこに、いつものスカした様子は微塵もない。
ただ、あったのは。
勝ちたい――――という、強い意志。
手を伸ばす。
指先が触れる。
あと少し。
あと少し。
「届けぇええええええええええええ!!」
呼吸すら止まるその刹那――――。
テレンスの手が
確かに
スニッチを、捕えた。
『――――試合終了――――! スリザリンの勝利!!!!』
「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
嵐のような怒号と歓声が緑色に染め上げられた観戦席から飛ぶ。
職員席にはガッツポーズを決める育ちすぎたコウモリの姿。
誰もが『ソレ』を確信した中。
テレンスは自ら掴みとった勝利を、精一杯腕を伸ばして掲げてみせた。
金色のスニッチと、輝く初夏の太陽の光。
その先に見えたのは――――。
透き通るような、青い空だった。
学生らしくスポーツエンド。
グリフィンと再戦してるとか細かいことは気にしたら負け。
次回、賢者の石編最終回。
沢山の評価&お気に入りありがとうございましたー。