「……もうちょっと、穏やかな誘い方は無かったのかなぁ」

額に特徴的な星印の飾りを付けたウマ娘……ハクサンムーンに抗議の声を投げかける
商店街の一角、そろそろ昼時で飲食店も賑わう頃合い。あちこちでいい匂いがしてくるし、威勢のいい売り文句も飛び交う賑やかな時間
別に普通に誘ってくれれば食事位やぶさかではないのに、最近何故か知らないけどいつもこうして拉致されている気がする
抗議の声もどうせ届いてない。るんるんと目の前でくるくる回りながら笑う彼女はいつものことながら子供のように楽しそうで

「それで、なんで急にラーメンなの？」
「うん、実はこんなチラシ貰ってさ。見てみたら期間限定で、しかもすっごい美味しそうでしょ？」

目の前に突き出されたチラシを手に取ってみてみれば……確かに
『期間限定！！ご当地ラーメンフェア！！』と銘打たれた紙面に、何とも食欲をそそるラーメンの写真
なんでも期間ごとに提供されるラーメンが変わるとのことで、なるほどこれはラーメン好きは何度も通ってしまうだろう
商店街の外れにある一角に臨時店舗を構えた上での短期集中営業とのことだし、行ってみたいというのはわかるが……

「……ムーンって、そんなにラーメン好きだっけ？」

いや、無論嫌いではないだろうけど
それなりに長い付き合いで割と一緒にいる彼女が、そこまで熱狂的なラーメン好きだったという記憶はない
ウマ娘の中には、どこぞの芦毛や日本総大将なんかの食用の権化、どこぞのアイルランドの王族ウマ娘のようなラーメン狂もいないわけではないが………
少なくともウマ娘の中ではハクサンムーンの食欲は平均的だし、偏った嗜好も無かった気がする

「んー、まあ好きかどうかって言われたら人並み程度には好きだよ？けど………」
「けど？」
「……この間のレースまで、食事制限してたの！！！だから、今はとにかく美味しいものに飢えてるのー！！！」

ギュルルルルと高速回転しながらいう事か、それが。しかしそういう事なら納得だ
ついこの間ムーンが出場したレースで、彼女は華々しい勝利を飾っていた。見ていた自分としても思わず闘争心が沸き上がるほど、それは見事なレースだった
だけど、そのために彼女はトレーナーからの指示なのか食事制限をしていたらしい。それまでは……その、太った様子は無かったし、そこまで厳しいものではなかったのだろうけど

「納得。それで久々にガッツリ食べたいってことね」
「そうそう、そういうこと！！」

だけど、ウマ娘は一般的な人間と比較して健啖家が非常に多い。無論極めて小食な子達もいるにはいるが……自分もハクサンムーンも、世間一般からすればよく食べる部類だろう
チャーシューのたくさん乗ったラーメンなんてそれこそ食事制限中には縁のない存在だ。やっと解放されたと思った時にこんなチラシを見れば、自分だって足を運んでしまうだろう

「まぁそういうことなら付き合うよ」

そういうと、ぱっと笑顔を咲かせたはくさんむ。ああもう、本当に寂しがり屋なんだからこの子は

「ありがとー！！カナロア、最近ずっとつれないんだもん。寂しかったんだよ？」
「ていっても、そっちもレースに向けての追い込みで忙しかったでしょ？」
「その間プレハブのあの子のところにばっかり行って！！この浮気者ー！！」
「うわあああああああああああああ！！！！」

腕を掴まれて思いっきりぐるぐる、ぐるぐる
うぅ……だってカレンチャンに会いたいし………
でもそんな事言ったら多分このグルグルが高速回転になるのが目に見えてるので言わない。沈黙は金なり

「さ、行くよ！！善は急げ、ラーメンも急げ！！」
「そ、そんな格言初めて聞いたよ……うぅ、目が回る………」

意気揚々と足を運ぶ彼女に、なんの比喩でもなく文字通り振り回されてしまって
まだくるくる回る視界の中、なんとかハクサンムーンの後を追ってラーメンフェアを目指すことになった

●

「ここが……うわなんだこれ、すっごいいい匂い」
「今の期間は３種類のラーメンがあるんだって。並んでる間にチラシ見て何食べるか決めておこうか」

到着した商店街の外れの臨時店舗、そこはまさしく大盛況だった
チャーシュー、ニンニク、これは……生姜か？それに豚骨などのスープ類の匂い。それらが複雑に絡み合い、並んでいる間にくぅくぅお腹を鳴らしてしまいそうな香気に包まれていた
あ、餃子もあるんだ……思わず目移りしてしまうが、まずはメインのラーメンを決めないと

「私は……この濃厚豚骨醤油かな。それにニラ餃子とライス大で！」
「んー…僕はこの竹岡式？ってやつにしようかな。チャーシューとニンニク追加で……あとジャンボ餃子とライス中で」

竹岡式とはなんぞや、と待ち時間に携帯で調べてムーンと一緒にふむふむほむほむと
なんでも、麺は乾麺を使用。スープはチャーシューの煮汁を使ったもので、分厚く柔らかいチャーシューとたっぷりの刻み玉ねぎが乗ったものとのこと
いわゆるご当地ラーメンか。山盛りのチャーシューがなんとも食欲をそそる

「ムーンのは……これは、鶏チャーシューなんだね。あ、キクラゲたくさん入ってて美味しそう」
「煮卵プラスしようかな。トロッとした半熟たまごいいよね」

うん、それはぜひとも欲しい。自分も追加することにしよう
そうしてメニューを決めて、整理券貰って列の最後尾へ。幸いベンチが用意されてたし、そこまで長く待つほどの列ではなさそうだ

「んー、いい匂い！！レースで頑張った後の御褒美としては最高だね！！」
「気が早いなぁ。でも、この間のレース確かに凄く気合入ってたもんね」
「そりゃー、ねえ？あんなの見ちゃったら、さ」

あんなの……と聞いて。すぐに、ふっと思い起こすものがあった
なるほど。そういうことであれば……自分も、強く納得する

「……コースレコード。凄かったよね、あの子」
「うん。思わず見とれちゃった。およそ考えられる限り、最高の走りの一つだった」

ちょっと前にあった大きなレースで、自分たちはひと際眩い輝きを目にした
それは、若き新星が魅せた美しい走り。圧倒的な加速でもってして抜け出して笑うその姿は、それを見ていた全てを熱狂させるに十分なものだった
あの時、自分はムーンと一緒にそれをモニター越しに見ていた。その時のことは今でもはっきり覚えている
歓声に包まれる中、ムーンはあの時……

「……ムーン。あの時、すっごい笑い方してたよ」

まるで……肉食獣の、それのような
最高の獲物を目の前にしたケダモノのような、獣性……とでもいうべきか
そんな、恐ろしい笑顔

「あはは。だって、あんなに凄い走りを得意分野で見せつけられたらさ？それに、カナロアだって人のこと言えないでしょ？」

脇を肘でグリグリしながら、イタズラっぽく笑って

「後輩たちが怯えてたよ？龍王さん？」

……まぁ、その。はい。
あの時は自分も……色々と抑えられてなかったのは自覚してる
だって、仕方ないじゃないかと。自らが自信を持っている分野であんな凄まじいものを見れば、誰だって気が昂ってしまうだろう
聞けば、カレンチャンもカワイイはそのままに相当『楽しそう』だったらしい。こればっかりは……ウマ娘の宿業とでもいうべきだろうか

「あ、そろそろ順番かな」

段々列も前に詰まっていって、店員もすぐ前の人たちに人数を確認して回っている
そろそろ準備しておくとしようか。後続の方々の迷惑になってもいけないし

「あー、お腹空いた。ライス大やめてチャーシュー丼にしようかな」
「あ、それもいいかも……僕はミニチャーシュー丼で」

くぅくぅ、ぐーぐー。すっかり腹ペコになった二人で、ちょっとはしたなくお腹を鳴らす
空腹は最高の調味料。ならば今まさに場は最高の整いといったところだろうか
それから５分程度して、ついに自分たちの番が回ってきた

「濃厚豚骨醤油ラーメンの大盛り煮卵追加に、ニラ餃子とチャーシュー丼で！！」
「竹岡式チャーシューメンに煮卵ニンニク追加、ジャンボ餃子にミニチャーシュー丼お願いします」

我ながらたくさん食べるものだと思うが、これでもウマ娘で言えばまだ少ない方とする見方もあるだろう
時々本当に小食な子達がいるけど、見てて心配になってしまう。あのやたら目立つ世紀末覇王もあんまり食べないというし、そのエネルギーは何処から来るのか不思議で仕方ない

「ムーン、はいこれ。お茶」
「ありがと。うーん、もうこの匂いだけでスイッチ入っちゃうね」
「わかる。もうお腹がチャーシューメン早く早くって泣いちゃってる」

そんな事言いながら笑い合っていれば、ついに運ばれてくる目的のもの

「お待たせしました！！こちらご注文のラーメンと餃子、丼になります！！お揃いでしょうか？」
「はい、大丈夫です」
「こちら薬味のセットになります、ご自由にお使いください！！」

忙しない中でもしっかり対応してくれた店員さんに頭を下げて、到着したラーメンを眺める
如何にも醤油！！といった感じの濃い茶色のスープに、分厚くゴロゴロしたチャーシューの山。そこに生の刻み玉ねぎが山と乗って、ボリュームの割にはシンプルな構成
チャーシューの煮汁を使っているというスープの醤油の濃い香りがニンニクと相まって食欲を掻き立てる

「じゃ、食べよっか！！いただきまーす！！」
「いただきます！！」

いざ、実食
まずラーメンのメインである麺をずずっとすすれば、ちょっとここで驚いた
見た目からしてかなり醤油醤油してるというか、香りもかなり濃かったのでインパクトの強い醤油味を想像していたのだが……想像より、はるかにあっさりしている
香り高さはそのままに、醤油の刺々しさは一切無く。刻み玉ねぎが合わさってさらにマイルドになって
あ、これは美味しい。大当たりだ

「………美味しい！！うわぁ、濃厚なんだけどべたついたりしないでさらっと食べられちゃう！！」
「こっちも美味しいよ。麺の歯切れがよくて……あ、ちょっと七味七味………」

チャーシューもこれまた驚いた。いかにもガッツリ系といった分厚くゴロゴロした見た目からは想像できないほどに上品な逸品だ
口に入れればホロホロと崩れ、脂身はとろりと舌先で溶けて甘く消える
追加したニンニクがまたいい仕事をしてくれる。全体的に玉ねぎで丸くなったスープがきりっと引き締まった感じだ

「んー！！餃子も美味しい！！ニラがシャキシャキしてて……」
「ムーン、餃子一個交換しない？ジャンボ餃子も肉汁たっぷりで美味しいよ」
「するする！！いっただきまーす」

ごろりと肉汁たっぷりのボリューミーなジャンボ餃子に、ニラの食感が楽しいさっぱりとしたニラ餃子
これだけでもご飯山盛り食べられてしまうだろう。なんだか、凄く贅沢をしている気分だ

「………ねえ、カナロア。ちょっとはしたないかもなんだけど………」

もじもじと、何か言いたげにこっちを見てくるムーン
ああ、うん。わかった、わかってるよ。自分だってそうしたいんだから

「じゃ、一口ずつ交換ね」

ぺかーっと、まるで投光器かのように笑顔輝きだすハクサンムーン
食事中じゃなければ超高速回転が見れただろう。それくらい嬉しそうな顔を咲かせてしまってる
小皿にとり分けて、はいっと相互に交換。せっかくの機会だし、両方試してみたいもんね

「………ん。凄い、本当に濃厚なんだけどくどくない。豚骨醤油ってこんなにコクのあるスープになるんだ」
「うわぁ、見た目よりさっぱりしてる。あ、チャーシューとろっとろ！！」

ムーンによる突然の提案から始まった、突然のラーメン探訪
それはなんとも美味しく嬉しい時間になって

「こっちのチャーシューは凄く香ばしいんだね。同じラーメンでもこうまで違うんだ」
「どっちもおいしー♪ね、カナロア。また期間内に来てみようよ」
「そうだね。次はそっちのラーメンに………」

多少カロリーは高めかもしれないけど
結果としては、思っていた以上の大満足を得られる素敵な一日となった

●

「あー、美味しかった！！お腹いっぱい！！」
「結局、チャーシュー丼追加しちゃったからね」

二人して店を出て、うーんと背伸び
本当に美味しかった。ぜひまた期間内に来て他のラーメンも試してみたい
別期間だと……この台湾ラーメンも気になる。滅茶苦茶おいしそうだし、また予定合わせてきてみようか

「でも、ちょっと食べすぎちゃったかな」
「んー、そうだねぇ」

食後なのでくるくるは控えめ。それでも回るのか……なにか業でも背負ってるのかという彼女の回転癖

「じゃあさ、学園まで戻って一休みしたら、軽く走らない？」
「え？別にいいけど……レース後の休養期間じゃないの？」
「そうだけど、別にガチ併走とかじゃなくてさ」

にっかり笑った彼女は一度回転を止め、こっちを見てさらににっかり

「最近一緒に走ってなかったでしょ？かるーく、食後の運動におしゃべりしながらランニングでもどう？」

そんな、素敵なお誘いをしながら手を差し伸べて
あー……もう。今日一日、文字通りの意味で振り回されっぱなしだ
ムーンはいつだってそうだ。突然人さらいみたいに連れ出して、思いついた予定をぽんぽんと投げかけてきて
……しかたない。カレンチャンに会いに行くのは明日にでもしよう

「いいけど、しっかり休んでからね。食後の急な運動、駄目絶対」
「はーい♪ひっさしぶりー、カナロアと走るの！！」
「そうだね。じゃあ、どうせだし景色のいいところでも走る？」
「賛成！！河川敷沿いから抜けて山のふもとの方に行ってみる？」

そんなに嬉しそうにされると、その、色々照れもするけど
自分だってムーンと走るのは久しぶりだし、結構その辺は楽しみなんだけど
言わないけどね。絶対、調子に乗ってグルグルされるから

「よーし！！じゃあ山のふもとまで行って、あそこにあるお団子の美味しいお店で休憩でいこう！！」
「………だからカロリーオーバーだって」

今日一日、僕の予定はムーンのもので
だから今度は……次は、僕が思いっきり振り回してやろう。なんて考えながら

「その分長く走れば大丈夫だよ！」
「仕方ないなぁ…」

ムーンの手をとって、学園への帰り道を歩き出す
今は、まだ。ゆっくり、ゆっくり
のんびりと。

以上。ラーメン喰ったので酒飲んで舎弟した

間違えた。舎弟じゃなくカナハクした

これからラーメン食うのにちょうどいいスレだった

随分飲んでるな…

「」弟のカナハク！？

脂っこいデートいいっすね…

ウマ娘なら大体の子はこのくらい平気で食えるんだろうな
今はもう大盛りでもキツくなってしまった

とうとうカナハク欲が溢れすぎて自分で書いたか

腹が減ってしまった
ちょっとラーメン屋探すか

まぁあのレース見たらカナハクも滾るわな…

>1663332030383.png
誘拐の現行犯だこれ！

今からは出られないけどタイミングとれたら新規開店したとこ行ってみるかな

連行されてる…

エールちゃんがおっかない先輩二人に目をつけられてる…

>エールちゃんがおっかない先輩二人に目をつけられてる…
私の薫陶を受けているのです。当然です
むっ！先日の小倉に見事な一線抜刀がありましたね！

なんか近頃あちこちから視線を感じまああああああああああああああああす！？！！！！？？！？

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>なんか近頃あちこちから視線を感じまああああああああああああああああす！？！！！！？？！？

龍王が滾ってるのはG1未勝利とか関係なく倒すべき好敵手として見ているようで嬉しいね

なんでこの時間にこんなラーメン描写を…

エールちゃんのアレは実際多くの短距離ウマ娘が悪い顔してそうでな…

龍王の毎度の不憫属性で笑ってしまう

カップ麺持ってきたのでノーダメージ

>カナハクありがとうございます…
美味しそうに食べてるウマ娘はいいものだ
手描きありがてぇ……

びっくりするほど長ぇ！

>1663334285185.png
にっこりカナハクかわいい…

ハクはぐるぐるなナルト好きなんだろうな