【おことわり】

 この記事は2012年7月6日に日経ビジネスオンラインで公開した記事の再公開で、記事中の肩書やデータは記事公開日当時のものとして掲載しております。

 現在、久住昌之氏はインタビュー当時の「著作権フリー」という発言を修正しています。

 「孤独のグルメ」の楽曲は著作権フリーではありません。
 ご理解の上、あくまでアルバム発売当時の発言として本記事をお読みください。
 「孤独のグルメ」の楽曲の利用などにつきましては、「地底レコード(http://chitei-records.jp/)」様にお問い合わせください。

 1月6日からテレビ東京系の深夜枠で放送されたテレビドラマ「孤独のグルメ」。深夜枠ながら好評を博し、DVD-BOXも発売された。このドラマのもうひとつの注目点が、音楽。「孤独のグルメ」は、1994年に連載が始まり、単行本は現在に至るまで42刷を重ねてきた超ロングセラーコミック『孤独のグルメ』が原作なのだが、そのマンガ原作者の久住昌之さんが音楽も担当している。

【番組の予告編はこちらから】


 面白いのはその先だ。久住さんは「孤独のグルメ」サントラの発売に際して、「このサントラの音楽は日本音楽著作権協会(JASRAC)に登録しない。みんなで自由に使ってほしい」と宣言したのだ。狙いは何か、さっそく聞いてみた。

孤独のグルメ」O.S.T(スクリーントーンズ、2625円)

【大きな反響を呼んだ久住さんのツイート】

久住昌之@qusumi

「『孤独のグルメ オリジナルサウンドトラック』はJASRAC登録無し。全曲著作権フリーです。映像演劇宣伝等にどうぞお使いください。コピーして演奏してYouTubeにでもなんでもあげてください。でもその際ボクに一本メールくれたら嬉しい。」

※久住さんのツイッターはこちらから

そもそも、マンガ原作者の久住さんに劇伴の依頼が来ること自体が、不思議といえば不思議なんですが。

久住:意外に思われるかもしれませんが、ボクはマンガ家デビューと、バンドでライヴハウスに出たのが同じ1981年なんです。もちろんマンガの方が収入はずっと多いですが、あがた森魚さんや鈴木慶一さん、高橋幸宏さん等への歌詞の提供やCMソングの歌(花王「キュキュット」)等の仕事や、年間大小40本以上のライヴ演奏をしているんです。

で、なぜこういうお話になったんでしょうか。

久住:ひとつには、番組予算が厳しかったからじゃないかな?

久住 昌之(くすみ まさゆき)
1958年7月15日東京都三鷹市生まれ。漫画原作からデザインや音楽活動など幅広い活動を行うアーティスト。『孤独のグルメ』(画・谷口ジロー 原作・久住 昌之)は連載開始の1994年以来17年以上読み継がれ、新作も描かれている超ロングランコミック。日経ビジネスオンラインでは「僕たちの好きな男飯」で対談も。(写真:大槻純一)

そんな。

久住:いや本当です。ドラマの「孤独のグルメ」は、「10年間、このマンガのドラマをやりたかった」と言ってくださった共同テレビの吉見健士プロデューサーの熱意で、すごく大事に作り込んでくださって、マンガのファンからも新しく見た方からもとても好評なんです。けれど、現場はとにかく予算が厳しい状況だった。

孤独のグルメ【新装版】
(画・谷口ジロー 原作・久住 昌之、扶桑社・税別1143円)

 「ところで音楽はどうするんですか? よかったらやらせてもらえませんか」とスタッフに聞いたら「それはありがたいですが、お支払いできるギャラが」「そんなのいくらでもいいですよ」って。

いくらでも、と言っても…いくらくらいなんですか。

久住:シリーズ全12本用に、全部で60曲ぐらい作って録音してるいるんです。金額は公表できないけど、メンバーの「スクリーントーンズ」全員(以下敬称略:久住昌之、Pick & Lips=フクムラサトシ 河野文彦、Shake、栗木健、戸田高弘)の6人で割ったら、もうホントに微々たるものです(笑)。1曲あたり千円とか。

 仕事としたら完全に割に合いませんが、自分なりに計算はありました。まず、原作の主人公、井之頭五郎(表紙参照)と、ドラマで演じた松重豊さんのイメージを、自分の音楽でつなぐことができるんじゃないか、ということです。

確かに、マンガの五郎と松重さんは顔の印象からして全然違います。でも、あっという間に気にならなくなって「不思議だな」と思っていました。

久住:そこには、音楽の効果があるんです。

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