旧統一教会に700万円の献金、痛み今も 生活苦続く南信地方の女性

南信地方の自宅居間で新聞を読む千代さん。約30年前に旧統一教会に献金し、今も老朽化した家を改修できないでいる=7日夜

■夫の死亡保険金から支払い促され「不安植え付けるのが宗教か」

 安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、政治家との接点が次々に表面化し、高額献金などの問題が改めて浮上している世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡り、南信地方の千代さん(81)=仮名=が14日までに取材に応じ、約30年前に700万円を献金した経験を語った。事故や病気で家族を亡くしたことを責められ、生活資金を奪われた影響は今も続く。「明日を生きる不安を植え付けるのが宗教か」と訴えている。

 元号が平成に変わった1989年ごろのある日、昼時に自宅のインターホンが鳴った。玄関を開けると、20代ほどの若い女性が立っていた。「買ってもらえませんか」。数珠を薦められた。

 前年までに千代さんは夫を交通事故で、大学生だった長男を脳腫瘍で相次いで亡くしていた。当時は「明けても暮れても泣いていた」。法要で寺に出入りする機会が多く、職場の同僚の親戚に統一教会の信者がいた。「不幸の情報が漏れ伝わり、目を付けられたのだと思う」と話す。

 結局、娘用に10万円の象牙の数珠を、自分用に紫色の石でできた5万円の数珠を買った。すると後日、今度は別の女性3人が訪ねてきて「お茶を飲みに来ませんか」と迫ってきた。

 地元駅に近いビル2階の統一教会事務所に月1回ほど誘われ、飲食しながら20分ほどの世間話をする間柄になったが「疑っていた」。何度も訪ねてくる3人に居留守を装ったが、裏庭に回って家の中をのぞき込まれたこともあった。

 ある日の茶話会。別室に呼ばれると40代ほどの女性がいた。「元気が出る」と朝鮮ニンジンの茶を飲まされた。女性は「あなたの息子はあの世で今も困っている。献金が必要です」と言い、こう畳みかけた。「夫の死亡保険金でいくら払えますか。うそを言ったらひどいことになります」

■今も忘れない「やりました。落としましたよ」

 後日、別の古い木造建物に車で連れて行かれた。待っていた年配の女性に700万円の献金を求められ、応じた。1階に降りた女性が別の統一教会関係者に報告する電話の声は今も忘れていない。「やりました。落としましたよ」

 あの時、なぜ支払ってしまったのか―。千代さんは「大切な家族を失った自分の最も弱い部分を責められた。気付けば怖くて圧力から逃げられなかった」と振り返る。

 その後、千代さんは事務職や観光ガイドなど四つのパートを掛け持ちするはめに。離婚して精神疾患を患う娘に代わって孫娘を自立させるため、65歳まで働いた。以降は月約12万円の年金で生活。区費を減らしてもらったこともあったといい「いかに今日を生き延びるかを考え、惨めな人生を歩んだ」と話す。

 統一教会から寄付や支援を受けて権力の座にある政治家がいる一方、千代さんには福祉施設を利用する貯蓄さえ残っていない。老朽化しても改修できずにいる自宅の居間で涙ながらに言った。「弱い者をいじめず、人民のための政治をしてください」