旧統一教会の元信者 「声かけ」「訪問販売」に追われた長野市の女性…学生生活が奪われた
「“神様”に背いた罪悪感で、1年ぐらい精神が不安定な状態だった」―。大学時代に統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に入信していた長野市の女性(53)が15日までに取材に応じ、当時の暮らしや、活動に疑問を抱いて寮から逃げ出した時の思いを明かした。街頭で受けたアンケートをきっかけに信仰を深めた女性。人間関係を構築して付け込む団体に対し「政治が規制するしかない」と語った。
■街で声をかけられ…
福島県生まれで都内の大学に進学した。1人暮らしをしていた1年の夏、吉祥寺駅(東京都武蔵野市)近くで女性2人に声をかけられた。「いろんな大学の学生が入っているサークル」として関心事や悩みを聞くアンケートへの協力を求められた。それが「伝道」と呼ばれる勧誘活動だと知ったのは入信してからだった。
その日のうちにマンション一室に連れて行かれた。「ビデオセンター」と呼ばれ、複数の応接スペースと、半個室のような形でテレビモニターが1台ずつ置かれた場所があった。応接に入ると、テーブルを挟んで向かい合い、古里を離れた寂しさや学生生活、恋愛について親身に寄り添ってくれた。
■統一教会と知ったのは3か月後 教会の「学生寮」に引っ越し
その後もセンターに通い、セミナーや合宿に参加。団体が統一教会だと知ったのは3カ月ほどたってからだった。「知識がなく、悪いうわさを知らなかった。(教義を)知らない人に伝えていく役割だと思い込んでいた」
年が明けるとアパートを引き払い、信者が入る「学生寮」に引っ越した。中央線沿線の駅から15分ほど歩いた場所にある木造2階建て。寮長、寮母の他、学生約20人が暮らしていた。信者が引っ越しを手伝ってくれたが、ベッドやテレビを売ったお金を女性が受け取ることはなかった。
1階には長机があり、食事や集会のスペースになっていた。2階には6畳ほどの2人部屋が並び、「祈祷(きとう)室」には「お父さま、お母さま」と呼んでいた統一教会創始者の故・文鮮明(ムンソンミョン)氏と、妻の韓鶴子(ハンハクチャ)氏の写真が飾ってあった。
月10万円の仕送りがあったが通帳は寮母が預かり、自由に使えなかった。寮生の当番が作る食事はもやし炒めや煮物など。「おかずが1、2品で満たされなかった」。入浴は週2、3回だった。
■平日は声掛け、休日は訪問販売 「心はぼろぼろ」
平日は授業が終わると夕方から街頭で「伝道」活動。1日20人ほどに声をかけたがビデオセンターまで連れて行くことはできなかった。寮に帰ると寮長の講義を受けたり祈祷室で祈ったり。休日は「万物復帰」と呼ばれる訪問販売に従事した。ワゴン車で見知らぬ土地に連れて行かれ、箸や扇子を売り回った。怒鳴られることも多く「つらくて心はぼろぼろ。持って生まれた罪を清算する活動だと自分に言い聞かせた」。
■意を決して「脱走」
日々の活動に追われ、大学の友人とも疎遠になった。自由のない生活に嫌気が差し、入寮して3カ月ほどたった日に脱走を決意した。
食事当番の日、スーパーで買い物をするふりをして駅に走った。所持金は食費用の財布からくすねた数百円。入場券を買って駅に入り、公衆電話で千葉県にいる姉に助けを求めた。電車内では「(信者が)追いかけてきたらどうしよう」と、恐怖にかられた。姉から連絡を受けた両親がその日のうちに車で迎えに来てくれて福島に帰った。
実家に戻った当初は「いけないことをした思い」にさいなまれた。一方で東京に戻る気にはなれず大学は除籍に。今でも履歴書を記入する際、「統一教会との関わりがなければ大学を卒業できたかな」との思いがよぎる。10年ほど前に、長野市に移り住んだ。
安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、統一教会と政治家との関わりが明らかになってきた。「政治家が(関連団体に)ビデオメッセージを送れば信者にとっては信仰の後押しになる」と危ぶむ。その上で「政治は旧統一教会と決別すべきだ」と強調した。
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