上高地描き60年 魅力は色あせず アマチュア画家の渡辺さん、個展目標に現地で生活
■出会いを楽しみながら制作に没頭
北アルプス上高地に60年以上通い、絵を描き続けるアマチュア画家がいる。千葉県の渡辺勝夫さん(83)。梓川や穂高連峰といった雄大な自然に魅せられ、今は1年の半分を上高地で過ごす生活を続ける。高齢となり「いつまで描き続けられるか」と意識するようにもなったが、集大成としての個展開催を目指して筆を走らせている。
初めて上高地を訪れたのは20歳の時。姉の家にあった上高地の写真を見せられ、「外国かと思った」。景色に感動し、すぐに現地へ向かった。高校時代は美術クラブに所属。実際の景色をキャンバスに写し取ると、「こんな良い所はない」と魅了され、信州に通う日々が始まった。
本業は板金塗装業の経営。仕事の合間を縫い、1年に数回上高地を訪れた。5年前に仕事を引退してからは、5~10月ごろはテントを張ったり使われなくなったキャビンを借りたりして現地で生活。寝ても覚めても制作に没頭している。
こだわりは「山の重量感と川の透明度」。さまざまな絵の具を重ね、微妙な色の違いで山並みや澄んだ川の流れを表現する。腕前は「まだ素人」と謙遜するものの、多くの観光客が絵の前で足を止め、絵を譲ってほしいと頼まれることもあるという。
「上高地は世界の交差点」。世界中から観光客が訪れる上高地のもう一つの魅力が、人との出会い。絵をきっかけに知り合った海外の登山者から手紙が届くこともあり、偶然の巡り合いは作品制作と並ぶ「この場所の醍醐(だいご)味(み)」と語る。
今、目指しているのは個展の開催。これまでも千葉県内で4回開いたが、「死ぬまでにもう一度開きたい」。海外からの手紙や初めて上高地を訪れた際に撮った写真なども並べ、「上高地での自分史」を表現したいと願う。絵を立てかけるイーゼルには「第5回上高地展を夢みて!!」との決意を記し、目標の実現まで上高地で絵を描き続けたいと思っている。(小嶋悠太)