日記
ミクロコスモス (ベルイマン邸訪問記)
ベルイマン宅を訪問しました。
きっかけは、ある方面からの「素晴らしい音、素晴らしい3D音場」との絶賛の声を聞きつけたこと。
さっそくお願いして猛暑のなかをお時間いただき聴かせていただくことになりました。注目は、サラウンドならではの3D音場です。

以前とは違って、部屋に入るにもバックパックはダメ、足元に気をつけて…と、あれこれ注文が多い。要するにアコースティック対策で、所狭しとケーブルが這いまわり、壁やドアから天井までのあらゆる壁面の突起物が尋常では無いほどに多い。あのうらやましいほどに広いと思ったAV専用部屋が、もはや、広いとは思えないほど。
そうやって恐る恐る入室したわけですが、聞こえてくるゴールドベルク変奏曲のチェンバロの音色にはっとさせられました。以前の印象からすると格段にSNが上がっているのです。まだ定位置に案内されて座る以前から、その印象が明らかなのです。音量は相変わらず大きめですが、それがスッと立ち上がり、静かに立ち下がる…!

これもあくまでも印象論なのですが、フロントスピーカーとの距離が近くなりリスポジとはかなり厳格な正三角形セッティングになりました。そう申し上げても、ご本人はそれほどには変更しているとは思われていないご様子。私の記憶もすこぶる曖昧でよくわかりません。
今までのソファーは取り払われ、リスポジには小学校の椅子のような小さなチェアが置いてあるだけ。椅子の変更はアコースティック対策かと思いましたが、それだけではなくリスポジがとても厳しくなりました。坐り方や姿勢、頭の向け方までこと細かいご指示をいただきました。実際に聴いてみると、姿勢や顔の向きひとつでがらりと変わってしまいます。厳格な正三角形セッティングとはそういうものだとつくづく実感させられます。
素晴らしいのは、被写界深度。
遠近感がとても深くて、フロントスピーカーの奥、スクリーンの後背にまで空間が突き抜けている。しかも、それぞれの音像のピントはぴたりとあっていて、とてもリアルな遠近感です。これほど大規模で大出力のシステムにもかかわらず、その精密さはまるでニアフィールドのようです。この3Dのスペースはちょっとした小宇宙。
いろいろとお聴かせいただきました。音量は以前ほどの爆音ではなくて、むしろ控えめ。しかもとても音量に気を遣っておられるようで、ディスクを掛け替えるたびにこと細かに調整されておられます。
しかし…

ポッジャー&ブレコン・バロックによる「四季」。
彼女らの演奏については、以前、その音場や各楽器の立体的な分離がどうしてもしっくり来ないと言った(「音場と定位はなぜ大事か」)ことがあります。この「四季」も同じです。録音会場は違いますが、ロンドンの教会であることは共通しています。

そういう広々とした空間が感じられず、前左右のスピーカー間にに凝集していごちゃごちゃしている。そのことはこの「四季」でも同じ。
2chステレオオンリーの私は、それがサラウンドでは違って聞こえるのではないかと思っていたのですが、そうではありませんでした。2chと変わらない。わざわざサラウンドにしても、同じようにフロントスピーカーの間に演奏者が密集している。それが、この素晴らしい再生クォリティーだと如実に見えてしまいます。
ことほど左様に、かけていただくソフトがことごとく私には不満なのです。

ラトル&LSOの「春の祭典」。最初のファゴットの音からして気に入らない。音場感も乏しく空間が湿っぽく狭い。

比較としてサロネン&LAフィルをかけていただきました。音色も明瞭でリアルだし解像度が高い。システムのSNが良いからこそ、そういう差がはっきりと聴き取れます。

同じLSOライブとの比較。こちらも同じ会場、同じライブ録音なのに、会場のバービカンのクリスプな響きや空気感がしっかりと感じ取れます。何よりも横幅のあるステージが目に浮かび、サラウンドならではのホールトーンの3D感も格段に上だと感じます。

エデルマンのバッハ。棒読みのような演奏にすぐに退屈してしまいます。音像も遠近がはっきりせずピンナップのように平面的。オクタヴィアの録音は、よく取り上げるオーディオマニアが多くて、ついこの間も出川さん宅で聴いたばかり。何かが音にまとわりつく感じがして、空気感とか空間描写に欠ける。こういうことはSNに起因するようです。そのことは、このサラウンド再生のエデルマンでも全く同じです。録音製作のどこに起因するのかはわかりませんし、演奏のせいなのかも判断がつきません。

ピアノソロの比較としてかけていただいた田部京子。舶来崇拝にとっては日本人ピアニストの国内録音などと、聴く以前から見下すところがあります。演奏も良いし、ピアノらしい音色と響き、立体感覚は明らかにこちらが上質。
それにしても、ことクラシックに限っては、同じディスクなら2chとサラウンドでは聴感上のパースペクティブは全くと言ってよいほど違いがありません。録音再生の空間概念は同じ。そのことがよくわかります。もちろん録音によってリアがけっこう鳴っているケースもあるし、ほとんど聞こえないケースもあっていろいろです。それでも2chレイヤーとサラウンドとではパースペクティブは全く共通なのです。
サラウンドは、決してトリックではない。
そうであれば、もっとソフトの優劣が聞き分けられてくるはずです。ご自分のシステムのとてつもない進歩と、それによって鑑賞の次元、ステージが格段に上がっていることに気づかれていないのは他ならぬベルイマンさんご自身なのでしょう。それ以前のサウンド中心のこだわりから抜けていない…(?)。
帰宅後、自分のシステムで聴いてみると…
音の余韻とか静かなホールトーンが、スピーカー背面方向にしか拡がっていかない…。そのことがやけに耳についてしまいます。「こりゃあ、やられた。参った。」と思わず独り言してしまいました。
(追記)
訪問時は、ベルイマンさんのこの日記を読み落としておりました。また、元のオーディオ電源が、家庭用配電盤の主ブレーカーから分岐している仮配線であったことも知りませんでした。今回訪問で感じた著しいSNの改善は、そういうことだったのかと後になって得心しました。大本の改善があると、耳が研ぎ澄まされてアコースティックのチューニングやスピーカーのセッティングなどへ波及促進されることも、また真理だと思っています。
レス一覧
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ベルウッドさん、おはようございます。
被写界深度の深さ、3D感、音のフォーカス、こういったものを重視してシステムを磨いてきました。ただ特別なことではないと思っています。録音用のマイクが集積してできた音源に封じ込められているものを、どれだけ取り出すかという、ごく単純な発想に基づいているものです。端子の穴の数だけスピーカーやらウーファーを繋ぐという発想はピュアなサラウンドシステムの作り方ではなく、雑多なスピーカー御殿でしかありません。音源の蕾を一つ一つ育てていくという発想に基づいてサラウンドシステムは始めなければならないのですが、なかなか難しいところがあります。スピーカーの位相がどうのこうのと鬼の首を取ったかのように吠えていた人が、今では、精神が逆相というのか逆走して、ますます位相がブレンディドというのか、コンフューズドしてしまっている。こういうのがサラウンドを取り巻く、ごくありふれた情勢なのです。このサイトは終焉を迎えますがサラウンドの裸の王様たちはあいも変わらず機械の勧め合いです。馬鹿げています。まずは自分にできるポリシーを見つけて、それを練り上げていくという、たぶん当たり前の精神を持つことが重要なのでしょう。ピュアオーディオの上級者はこういうことは普通なのでしょうが。
私のこうしたささやかだけれども迎合しない試みが、身を結びつつある折に、出水電器の工事が完了しました。今回もまた学びが多いオフ会でしたから、またしばらくしたら手をつけていきますが、実に良いタイミングで今回はお越しいただきました。お褒めいただきまして恐縮であります。出水電器の島元代表がこの日記を読んだら、とても喜んで、ウフフとされると思います。
岡本太郎については、また改めて、この日記のレス欄に書かせていただきたいと思います。(爆) 次回お邪魔させていただく時、AVアンプ持っていってもいいですか?
byベルイマン at2022-08-05 11:12
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サラウンドは、必然的に、複数のSPやアンプを使用することになります。コンセントには極性があります。たくさんスピーカーを侍らせているSP御殿では、検電ドライバーか何かでたくさんのコンセントの極性を確認しているんでしょうかね?それとも、極性が違えども位相は合うというミラクルがあるんでしょうかね。
たくさんのアンプやスピーカー、ウーファーについたネジのトルクを恒常的に管理しているんでしょうかね?
無数の端子の掃除は全部するのか?
無数のプラグの緩みを全て確認しているのか?
大変ですよね、マルチチャンネルサラウンドって。2chの人たちの倍々で作業工程が永遠と長くなり、汗をかく時間が増えていくんです。こういうことって位相には関係ないんですかね?肉体労働でなんとかするべき部分は位相に関係ないって、誰かが言っているんですかね?
だから何でもデカいサブウーファーをたくさん買えばいいんだとか、周りの連中も言えるんですかね。
いやいや、こういったことを全て蔑ろにした上でも、最高級のプリアンプは位相を合わせられて、己の精神は愚鈍でも、身体は怠けていようとも、素晴らしい音が約束されるというのでしょうかね、ある特定の補正ソフトを使うと?
こういう不合理な思い込みを促進して、虚偽を撒き散らしているような輩たちが、業界は斜陽ですからね〜などと嘯いているのを聞くと思いますね、足を引っ張っているのは誰なんだろうってですね。
byベルイマン at2022-08-06 06:56
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ベルウッドさんへ
>2chステレオオンリーの私は、それがサラウンドでは違って聞こえるのではないかと思っていたのですが、そうではありませんでした。2chと変わらない。
これは驚きましたね。2chを極めて、それでも飽き足らずマルチに行くものと思っていたので、。
2chは極めようとしても地味で発展性が無いです。ですから、部屋が広くて、余資もたっぷりあると自然にマルチとAVに行ってしまう。でもオーディオの基本は2chなのでマルチに行った人も2chに回帰可能なようにしている。やり過ぎていないか、どこかで確認したいのでしょうね、それが面白い。
bybb7 at2022-08-06 09:53
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位相の管理というものは、私の使っているマランツにも機能としてあるわけです。これはなかなか面白い反応をしてくるわけです。補正ソフトがスピーカーの極性が正相であるか逆相であるかを判定して、スピーカーケーブルの繋ぎ方を変えろといってくるわけです。プラスとマイナスの問題に還元されていますね。どうあってもプラスとマイナスに始まり、プラスとマイナスに帰着するのですがね、これはリスポジに立てたマイクを経由するわけです。
ある時から、右前スピーカーだけ逆相になっているから、右前スピーカーのケーブルをプラス/マイナス入れ替えろという判定が出るようになりました。2つの点で不思議です。ある時から、右前だけ、というところですね。
「ある時から」とは、今のスピーカーセッティングをするようになってからですね。マイクの感度がよくなったんですかね。まあこれはありうることですよね。人間の耳がよく聴取できるようにスピーカーをセッティングするわけですからね。スピーカーセッティングをうまく遂行すると補正をうまくかけられるようになる可能性があると。これは面白い可能性ですよね。効いたことないですがね。補整マイクのためにスピーカーセッティングをしましょう!っていうのは。理由は簡単に押し測ることができますが。概して、補正というのはスピーカーセッティングのアリバイ作りになっているんです。
やれやれですよ。
byベルイマン at2022-08-06 10:04
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「右前だけ」というのは、私がマイクを使ってシステムのデータを取る時は、常に右前スピーカーと右後スピーカーの間の壁際に居ます。自分は左側の壁際に場所を移って、集計してみました。右前スピーカーが逆相になっていると示されなくなります。この補正ソフト、名前はAudysseyと言います。洒落てますよね、オデュッセイアにかけたのでしょう。永遠的に終わらない旅路を暗示するのも、私は嫌いではありません。(^^) さて、Audysseyは、空間的情報、つまり、観察者が右の壁にいるのか左の壁にいるのか、を織り込んで、正相か逆相かを判定しているわけです。
Audysseyは、空間的情報、この場合は壁の反射音でしょう、これを位相の問題、つまりプラスとマイナスの問題に組み込んで判定しているわけです。しかるに、位相とは電気の極性だけではなく、実は、左右壁の位相の問題でもあるということになるわけです。
さて、Audysseyはこの空間が生み出す位相差をスピーカーケーブルの極性と、リスポジからのスピーカーまでの距離と、f特に還元するようです。
どうなんでしょうね?こうした電気的補正によって、コンセントの極性の違いは等閑視できるのでしょうかね。あるいは、スピーカーとリスポジとの距離ではなく、その逆方向、以前に影の三角形と私が呼んだ領域である、各スピーカーとその周辺の壁との位置関係の違いが必然的に生み出す位相差を無視してよいことになるのでしょうかね。ネガティブでしょうね。だから、ストームオーディオやトリノフを買わねばならないのでしょうかね、まっとうなサラウンドサウンドを生み出したと思う人は!?
やれやれな話でしょう?
byベルイマン at2022-08-06 10:05
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bb7さん
多少の誤解があるようです。
私が言いたいのは、2chレイヤーとサラウンドレイヤーでは、作り込まれたステージ(音場)は変わらない、ということです。
そのことにようやく確信が持てたのは、今回のベルイマン邸が初めてです。そう感じ取れたほど、ベルイマン邸は素晴らしかったということです。
だからこそ、立体再生について2chステレオには決定的な欠点とか劣位性はないと言えます。逆に、サラウンドにもそれなりに優位性はあります。例えば、多チャンネルスピーカーによりアンプへの負担がかからずにダイナミックレンジを拡大できることなどです。けれども、サラウンドも設置上のスペース制約や、各チャネルの周波数特性や、位相、群遅延を合わせることのハードルがはるかに難しくなります。
だからこそ、サラウンドの方がチューニングの難度は2chステレオよりもはるかに高く、リスポジ(サービスエリア)の制約も大きい。中抜け防止のセンターとか、補正のためのソフトウェアとかでチョイチョイと修復できるものではない。むしろ、そういう道具が必要なほどいびつな再生がそもそもの出発点になっている。ましてや、映像ソフトの音響トリックが楽しめればよいという安易なシステムでは、いくらお金をかけてもかえって乏しい音楽再生手段にまで堕ちてしまうことさえ少なくないわけです。
2chステレオもサラウンドも一長一短というわけです。でもその追求の根底にあるものはまったく共通しているように思えます。今回は試すまでもないと思い比較していませんが、ベルイマン邸は2chステレオ再生でも完璧なんだと思います。そこまで極度に詰められたセッティング、チューニングになっていると感じました。
byベルウッド at2022-08-07 19:08
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ベルイマンさん
《ネジのトルク管理について》
かつて「“耳”は鍛えられます」と題してマスタリングエンジニアの書いた本を日記で紹介したことがあります。
↓
https://community.phileweb.com/mypage/entry/2408/20120217/28856/
著者が毎朝スタジオに出勤すると最初にやることはスピーカーのリハビリ。ユニットの取り付けネジを締め直すのが日課なんだとか。こうしたことに細々と気を配ってマスタリングエンジニアという職業は成り立っている。サラウンドマルチだと、こうしたことを小まめに追求し、日々メンテするのは数が多いだけに大変でしょうね。
ちなみにこのポップス系を主体とするエンジニアの方がしきりに立体感を強調しておられるのは、まさに現代オーディオの潮流そのものだと思います。
byベルウッド at2022-08-08 11:28
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ベルイマンさん
《電源コンセントの極性について》
AC電源の極性は、ブラス/マイナス(=L/N)のことであれば検電器で確認できます。その極性を機器毎にちゃんと合わせるのは基本です。
けれども厄介なのは、位相極性の違いです。
通常、家庭用AC電源は、各家庭に200Vの単相3線で供給されます。それが電力計→配電盤まで来て、配電盤で、2線100Vに分けられて各コンセントに分配されます。
200V3線は、L1/N/L2の3線となっていてN(ニュートラル)は0V、L1とL2は互いに逆相の交流100V、すなわちバランス伝送となっています。これを、L1/NとN/L2のふた通りの100Vラインに分配します。
従って、家庭内のコンセントにはL1/NとN/L2の互いに逆相のコンセントが存在します。これを同一システムの機器の電源に混在させると何となくエネルギー感が弱まったりとか、ベストの再生音にならなくなります。位相の確認にはそれなりの測定機器が必要なので、一般的には家庭内の壁配線を分電盤にまで遡って確認する必要があります。
このことに知らず知らずに見過ごしているユーザーは多いようです。要注意です。特にサラウンドにSW増設などと機器が限りなく多くなると電源コンセントもそれだけ多くなるので管理は大変です。
byベルウッド at2022-08-08 11:48
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