File2.イーブルワン

第6話 怪異対策課の面々

 五月二十二日金曜日。


 海辺にほど近い、コンテナターミナルを有する港町――神奈川県・箱辺市、箱辺署の警視庁特設支部・怪異対策課。その一室。


 警察なのにアフロの課長、顔にやくざのような傷が走った強面の男、覇気のない顔をした若い女、それとは真逆の明るい顔のリクルートにしか見えない若い女性、それから俺。

 そんな顔ぶれを目にした天羽さんは顔にこそ出さなかったが、明らかに落胆していた。それがつい、口に出る。


「随分顔ぶれがかわったわね、久留米課長」

「お前がいなくなって七年でな。六年前の事件がきっかけで怪異事件は減少。逆に、二年前の特免法改正で銃犯罪、銃の密造密売、組織犯罪……捜査一課、二課、四課に人員も金も回されてる。ただでさえ風当たりが強い俺らは……」

「風が吹けば吹き飛んでくわらぶきの家、ね。オオカミにすら食べられる子豚状態、と」

「そういうわけだ」

「んで、てめえは誰だよ」


 やくざ傷の、金髪を逆立てた男が天羽さんをねめつける。そこらのやくざならすくみ上るようなどすの利いた声とガンだが、天羽さんはそれを鼻で笑い、


「FBI特殊怪異対策チーム、天羽可奈子。元怪異対策課第二班。特別措置で在学中から怪異対策課に入っていた伏見くんの教官よ」


 そう、俺は特別な措置で八年前、二十一の頃からここにいた。まだ大学生の頃だ。ある怪異事件に巻き込まれ、怪異への耐性を持つ稀有な体質だからと天羽さんが上を言いくるめ、俺はここに出入りしていた。

 あの頃はまだ特免など持っていなかったのでバックアップが中心だったが、天羽さんのスパルタのおかげであっという間に刑事として上り詰めた。けれど卒業して間をおかずにあの事件が起きた。


 俺は怒りと絶望を燃料にして必要がなかった警察学校へ通い、優秀な成績で卒業。

 当初は捜査一課に配属されたが、半月で久留米課長から呼び出しがかかり、俺は怪異対策課へ移った。

 だが六年前の大事件で怪異犯罪は減少傾向にあり、現在は停滞期。あのくねくねを除くと俺たちが経験した本当の怪異事件は、実に三件のみ。それ以外は酔っぱらいの幻覚幻聴だったりご近所トラブルだったり、山から下りてきた狐やら鹿の被害だったり……。

 おかげで俺らは「ご近所様の駆け込み窓口」などと揶揄されている。


「俺らみてえな問題児の託児所に、エリート様がなんの用だよ。だいたい、兄貴があんたの子分なんて信じられっかよ」


 やくざ面のとんがり――金木かねきは苛立たしげに、行儀悪くデスクに尻をのせる。


「伏見くん、あなたいつからやくざになったのよ」

「知りません。噛みつかれたから殴り倒して、そしたらそう呼ばれるようになっただけです」

「兄貴を馬鹿にするんじゃねえ! いくら女でも許さねえぞ!」

「黙ってろ金木。狩野かのう、お前がリードをもってやれ」

「……なんで私が」


 やる気のない女、狩野はため息をつく。せっかくの美女が、あのやる気のないダウナーな雰囲気と顔では台無しだ。


「狩野の姉御もなんか言ってやってくださいよ! 叩き上げの俺らに温室育ちのくそエリートの子守なんて……」

「……黙ってて。いいから。あとでジュース奢ってあげるから」

「いや、あの俺、成人してんですけど」

「チームワークは悪くなさそうね。さて、そろそろ私が来た理由を話してもいいかしら」


 もう一人のやる気に満ちた、リクルートじみた女性が言う。


「FBIが直々にお話って、連続刑事ドラマみたいですよね!」

霧島きりしま、テレビの見すぎだ。どうせろくなことじゃない」


 俺はその明るい女――霧島にそう言って、大人しくさせる。


「いいかしら。……私たちは今、『怪異事件を人為的に発生させる組織』である、『イーブルワン』を追ってるの」

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