提供:阪神高速道路株式会社

約3年間の通行止め 阪神高速14号松原線 喜連瓜破付近で行う、高難度な橋梁架替え工事とは?

阪神高速14号松原線、瓜破交差点付近
阪神高速14号松原線、瓜破交差点付近

大阪の中心部と松原市を結ぶ阪神高速14号松原線。大阪東部を南北に縦断する近畿自動車道や阪和自動車道と、大阪・奈良を結ぶ西名阪自動車道に接続し、関西広域高速道路ネットワークの要所でもある。

当該区間は1日に約6万台の車両が通過する14号松原線の本線、喜連瓜破(きれうりわり)〜三宅JCT間(約2.5km)を「約3年間」という異例の期間で全面通行止めして橋の架替えを行う、「橋梁(きょうりょう)大規模更新工事」が、2022年6月1日(水)午前4時から2025年3月末(予定)まで行われる。

施工現場となる瓜破交差点の周辺は店舗や住宅、学校が密集し、地下鉄の駅も近く、歩行者や自転車の交通量も多い。橋梁の大規模更新工事がどうしていま必要なのか、約3年にもおよぶ全面通行止めという大きな決断がなされた背景とは。

阪神高速道路リニューアルプロジェクトの中でも高難度な工事がはじまる

今回の大規模更新工事が行われる14号松原線の喜連瓜破橋は、40年以上前の1979年に架けられた。内環状線と長居公園通という大阪屈指の2つの主要な一般道が交差する瓜破交差点をまたぐ橋だ。

工事区間は短いが、車両のほか、自転車や歩行者など通行の多い交差点真上で行われる

建設にあたり、橋の規模が大きく交通量の多い交差点の上に施工するということで、通行の妨げにならないよう橋桁の間隔を広くすることが求められた。交差点を挟んで大きく離れた左右2本の橋脚から、それぞれ交差点の中心に向かって橋桁を長く伸ばしていき、中央部を継ぎ手ではめ込むという、当時では合理的かつ一般的だった工法が採用された。

1980(昭和55)年に開通した当時の喜連瓜破橋
1980(昭和55)年に開通した当時の喜連瓜破橋

建設当初から、中心のヒンジ(継ぎ手)部分が、10〜15年後には約5cm沈下すると予測されていた。もちろん、そこで止まることを織り込んで設計されていたが、橋の沈下は予測を上回り、約24cmも進行してしまった。

そのため2003年に、橋の下に4本のケーブルを通し、700トンもの張力でケーブルを左右に引っ張ることで橋全体を下から支え、沈下の進行を防ぐという、斬新な工法で処置が施された。

橋桁中央部の沈下状況
橋桁中央部の沈下状況
下弦ケーブルによる補強対策
下弦ケーブルによる補強対策

しかし、永続性の確保と長期耐久性の改善を図るため、今回抜本的な対策として橋そのものを架け替えすることとなった。

市街密集地にある大規模交差点の上で、「交通への影響を規模・期間ともに最小限にしつつ、安全な施工に必要なスペース・動線をも確保する」という一筋縄ではいかない制約条件があるなかで、更新工事をどのような方法で行うか、議論を重ね慎重に検討がなされた。

14号松原線の片側1車線の通行を確保したう回路施工案と半断面施工案も検討されたが、交差点付近に密集している住宅・店舗の車道へのアクセスが妨げられたり、歩車道が狭くなって歩行者、自転車および車の通行にも支障をきたしたりすることが懸念された。また、これらの案では工期が約10〜12年と長期に影響がおよぶと見込まれた。

こうしていくつかのプランを比較検討し、有識者や関係自治体等からも広く意見を聞いた結果、社会的影響を抑制する観点から、交通影響対策を講じることにより、約3年間、本線を全面通行止めにして集中的に工事を行うことが妥当という判断に至った。

設計技術や工法が進化。う回交通網も拡充し、大規模更新の機が熟す

厳しい制約条件のある場所における橋の架替え工事は、実際どのように行われるのだろうか。

工事区間直下の一般道の通行をできるだけ妨げないようにしながら、今ある橋を解体・撤去するというのがまず大きなハードルだ。

まずは本線上に仮設桁を架設し、それに移動作業車を吊り下げて、その移動作業車の中で今ある橋を切断・解体する。解体された部材は上に運び、仮設桁の上を走る運搬台車に載せて搬出する、という工法がとられる。

仮設桁や移動作業車などを配置した作業イメージ
仮設桁や移動作業車などを配置した作業イメージ

分かりやすくいうと、高速道路の本線上に、工事のための巨大な吊り下げ型モノレールのレールを設置し、橋そのものをそのレールから吊り下げたモノレールの車体で包み込んでしまい、車体の中で解体・撤去が進められるようなイメージだ。それぞれの橋脚への負担を考え、4つの移動作業車を使い、バランスをとって橋桁の両側からやじろべえ式に解体・撤去が行われていく。

ステップ1:仮設桁を本線上に架設
ステップ1:仮設桁を本線上に架設
ステップ2:移動作業車で既存の橋梁を撤去・搬出
ステップ2:移動作業車で既存の橋梁を撤去・搬出

解体・撤去が終了したら、交差点脇の施工ヤードで組み立てられた新しい鋼製橋脚(柱・梁)2つを巨大な台車で運んで設置する。

ステップ3:新設した鋼製橋脚(柱・梁)を架設
ステップ3:新設した鋼製橋脚(柱・梁)を架設

そして、高速本線上で2つの鋼製の橋桁を地組みし、巨大な台車で水平方向に送り出して移動させて新しい橋脚に載せて架設する。高速道路の路面に当たる部分だ。

ステップ4:新設した鋼桁(側径間)の送り出し架設
ステップ4:新設した鋼桁(側径間)の送り出し架設

最後の橋桁パーツとなる交差点をまたぐ中央部分は、橋脚と同じように交差点脇の施工ヤードで組み立てられ、それを巨大な台車で交差点まで運び90度回転させ、本線上のクレーン設備で吊り上げて架設される。

スッテプ5:新設した鋼桁(中央径間)の一括架設
スッテプ5:新設した鋼桁(中央径間)の一括架設

その後、舗装や区画線、遮音壁や標識を設置し、工事が完成となる。この画期的な工法を採用することにより、橋の下を通る一般道への影響を最小限に抑えることが可能になり、車高制限にも変更が生じないという。

上空における特殊な工事となるが、「このような撤去方法は阪神高速としては初めての試みになりますが、安全に十分配慮した工法です」(阪神高速・担当者)と語る。

今回のような鋼製の連続橋への架け替えが可能になったのは、数十年前の開通当時と比べたコンピューター性能の進化によるところが大きい。設計手法と構造解析技術が飛躍的に向上し、高い耐久性を確保するための構造や工法の精密なシミュレーションが可能になったのだ。

また、工事・設計手法の進歩だけでなく、松原ジャンクションと湾岸線を東西につなぐ6号大和川線が2020年3月末に開通するなど、14号松原線をう回するための路線網の拡充が、長期全面通行止め工事の決断を後押しした。

「周辺地域や広域交通への影響に対し、慎重に配慮しながら、2025年に開催を控える大阪・関西万博までの完工に向けて、安全性・耐震性・走行性の向上を目指していきます」(阪神高速・担当者)

工事期間に予想される交通への影響と、う回路、乗り継ぎ経路

14号松原線の通行止め工事による交通への影響は、高速道路と一般道の双方で見込まれる。

工事期間中の高速道路の渋滞予測(平日8時台)
工事期間中の高速道路の渋滞予測(平日8時台)

まず高速道路では、う回路となる6号大和川線、13号東大阪線および近畿自動車道への流入増が予測され、13号東大阪線、14号松原線、近畿自動車道での渋滞の発生が予想される。一般道では、工事箇所直下の瓜破交差点を中心に長居公園通や内環状線、大阪の中心部へ向かう長居公園東筋や今里筋、あびこ筋などで交通量増加に伴う渋滞の発生が予測されている。

一般道への影響を最小限にとどめるため、阪神高速としては、14号松原線を普段利用している車両が一般道へう回するのではなく、可能な限り6号大和川線など「高速道路」を使ってう回することを促すための対策をとる必要がある。

具体的には大阪都心部⇔西名阪自動車道・南阪奈道路を利用する際、6号大和川線や13号東大阪線を使ったう回により走行距離が伸びた場合も、ETC車を対象に同一料金とする。また、6号大和川線をう回利用することで、通行止め前の14号松原線利用時の出入口と異なる出入口の利用となった場合でも、近接する一部の出入口については14号松原線利用時と同じ出入口とみなし、通行止め前と同額の料金となるようにETC車を対象に調整が行われる。加えて、工事区間で一般道を利用してう回乗り継ぎを行う際にも、連続して阪神高速を利用したものとして、実際の利用距離に応じた料金が適用となる。ただし、工事区間周辺の生活道路への影響を最小限にするためにも、「できるだけ一般道へのう回・転換ではなく、6号大和川線など高速道路へのう回をお願いします」(阪神高速・担当者)と、理解・協力を求めている。

6号大和川線など高速道路を利用したう回が推奨される
6号大和川線など高速道路を利用したう回が推奨される

ほかにも、関係機関と調整を図りながら、高速道路本線上では図形情報板や仮設情報板によるう回ルートと所要時間情報の提供を、一般道でも、工事区間周辺の狭い街路を抜け道として使わないよう看板の設置を行う予定。また、ホームページでは工事の進捗や交通状況など、さまざまな情報発信にも力を入れていく。

さらに、高速道路を利用したう回を促進するため、通行止め開始から1カ月間(2022年6月30日24時まで)、高速道路を使って「大阪都心部⇔松原 JCTなど」の区間を利用したETC履歴があるドライバーを対象に、抽選で1,000 名(重複当選はなし)に5,000 円分のAmazonギフト券をプレゼントする「高速つかってくるっとう回キャンペーン」を実施することも決まった。専用ページからエントリーした後、所定の出入口を1回通過したETC利用履歴を1口として抽選に応募できる。
キャンペーンの詳細はこちら>

「通行止めが長期にわたるため、工事期間中も継続的に交通状況を観察し、状況に応じた施策を検討してまいります。また、工事期間中は日々交通状況が変化していくことが考えられるので、お出かけの際は各種道路交通情報の確認をしていただきたいです」(阪神高速・担当者)

先進の道路を次世代につなげる

1964年の初期区間の開通以来、拡充されてきた阪神高速ネットワークの全長は約258km。そのうち4割の区間では、供用開始から40年以上が経過しようとしている。関西全体を支える社会インフラとしての高速道路ネットワークを、次の世代に継承していくためにどうしても欠かせない大規模更新工事だが、世界にあまり例を見ない高密度の都市空間を走る都市高速の宿命として、工事の難易度は極めて高いといえる。

「一番大切なことは、沿道周辺住民、企業の皆様やドライバーへの影響を最小限にとどめながら安全に工事を行い、無事故で施工を完了することです。100年先の安全・安心・快適を目指し、最新の設計基準をクリアした地震に強く、安全で走りやすく、維持管理の効率性が高い新しい喜連瓜破橋に生まれ変わります」(阪神高速・担当者)

直近の1号環状線リニューアル工事など、大規模更新・修繕工事から合理的施工方法・交通影響の最小化などの知見を蓄積してきた阪神高速。そのノウハウを投入しながら、リニューアルプロジェクト最大の難工事ともいえる、喜連瓜破付近の橋梁架替えに満を持して臨む。