アルメニアとアゼルバイジャンの停戦は現在も維持されているもののアゼルバイジャン軍がアルメニア領の一部を占領した状態が続いており、イランもザンゲズール回廊の設置を危惧して機械化部隊を国境地帯に配備、この地域の緊張感は急速に高まっている。
ロシアの軍事的プレゼンスが低下したことでアルメニアは後ろ盾を失い、周辺国の思惑に振り回され始めた格好だ
ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦協定にはアルメニアとナゴルノ・カラバフを結ぶ「ラチンを経由しない新ルートの建設」が盛り込まれており、アゼルバイジャンは新ルートを建設してロシアの平和維持部隊からラチンの管理権を移譲されたが、この停戦協定にはアゼルバイジャン本領と飛び地のナヒチェヴァン自治共和国を結ぶ「ザンゲズール回廊の設置」も盛り込まれている。
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しかしアルメニアはイランとの国境に近い南部地域にザンゲズール回廊を設置するとイランと接続が事実上切れてしまい、イランの最高指導者も「ザンゲズール回廊が設置されると非友好国のトルコとアゼルバイジャンに囲まれる」と難色を示しているため、アルメニアは停戦協定で義務付けられた回廊設置を半ば放棄しており、これを保証したロシアもアルメニアに何の措置も講じないためアゼルバイジャンは「自力でナヒチェヴァン自治共和国までの道を確保する」と公言していた。
ただアルメニアのパシニャン首相がアゼルバイジャンとの和平協定に署名する意向だと表明すると風向きが変わり、ザンゲズール回廊の設置を容認するのではないかと噂が流れ、イランも「国境の変更は容認できない」と主張してアルメニアとの国境地域に機械化部隊を配備するなど急速に緊張感が高まっている。
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イランはアルメニア南部を奪い取ろうとするアゼルバイジャンを武力で牽制しており、万が一の際はアルメニア領内でアゼルバイジャン軍と交戦することも視野に入っている可能性が高く、もしそうなればトルコも出張ってくるかもしれない。
結局、この地域に睨みを効かせていたロシアの軍事的プレゼンスが低下したことでアルメニアは後ろ盾を失い、周辺国の思惑に振り回され始めた格好だ。
アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフがアゼル領だと認める協定に署名か
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