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実は俺、最強でした? 作者:すみもりさい

第二章:子ども時代のすったもんだ

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分身を作った

二章スタートです。十歳になりました。


 俺は十年を生き延びた。

 

 なんか偉そうだが、よそのお宅に寄生しての結果なので誇れない。

 

 俺を引き取ったのはゴルド・ゼンフィス辺境伯。俺を捨てた国王とは親戚筋で、だからこの世界での俺とも血縁だ。

 しかし彼の行動は王命に真っ向から逆らうもの。バレたら俺ともども極刑は免れない。それでも俺を助けてくれた、とてもいい人なのだ。 

 

 俺は当初、二年ほどをゴルドおじさん――父さんの居城奥深くで、彼の奥さん(母さん)と数名しか知らない中ひっそりと育てられた。

 

 願ってもないひきこもりである。

 だから俺的には満足していたのだが、やはり隠れて育てるのは可哀そうだと父さんたちは悩んでいた。

 

 俺は脱ひきこもりを決意する。

 といってもまあ、一時的なものだ。いずれ快適なひきこもりライフを楽しむための準備期間に充てるつもりだった。

 

 皮膚に模した薄い結界で〝王紋〟を隠す。名付けて『びっくりテクスチャー』。フレイがやったことにした。

 直後、父さんは俺を正式に養子とした。盗賊に襲われた村から拾ってきたとかなんとか言って。

 

 辺境伯の息子ハルト・ゼンフィスの爆誕である!

 

 王子として生まれながら森に捨てられた俺が、貴族の息子にまで上り詰めた。いや俺、なんもやってないけどね。

 

 しかしあれだな。

 乳離れしたら出ていくつもりだったのに、ずるずる父さんたちのお世話になってしまった。

 それもこれも彼と、彼の周りの人たちの優しさに触れたからだ。

 

 そうして俺は、十年を生き延びて――。





「ふははははっ! ついに、ついに完成したぞ!」


 早朝。俺は自室で叫んだ。いちおう防御兼侵入者探知用結界を部屋に張ってあり、防音もばっちりである。みんなの迷惑にはならない。

 王国の北に位置するこの城近辺は、春先の今は朝も寒い。が、結界のおかげで部屋はぽかぽか。快適。

 

 で、何が完成したかと言うと。

 

 俺の目の前には、黒髪の男の子がいる。親譲りなのか、めちゃくちゃ整った顔立ちだ。ただし覇気がまるでない。俺が促すと、そいつは自己紹介した。

 

「俺はハルト・ゼンフィス。十歳になりました」


 そう。俺だ。

 

 正確には俺が結界で作った俺そっくりのコピー。苦節十年、ここまで来た!

 もともと姿かたちを寸分違わず作るのは三歳のころにできてたけど、今回のはまるで別物と誇ってよいものだ。

 

「調子はどうだ?」と俺が尋ねると、


「大丈夫だ、問題ない」と俺のそっくりさんが返す。


 すごい。すばらしい! 我ながら完璧だ。

 

 こいつは自動で受け答えでき、ちょっとしたことなら独自に判断して行動もできる。要するにAI搭載型の結界なのだ。『へいハルト』とか『オッケーハルト』とかもいらない。

 まあ、俺の思考をトレースしたものだから、自ら話しかけたりはしないけどね。ボロが出るよりはいいか。

 

 ふふふ。もっと、もっとだ。俺の完璧な作品を検証するぞ!

 

「今日の天気はどうだ?」


「見ればわかるだろ? 晴れだよ」


「……お腹減ってないか?」


「そういう機能、つけてないだろ? ま、食べろと言われたら食べるふりはできるけどな」


 こいつ、ムカつくな! ていうか俺か。俺って性格悪すぎじゃない?

 

 まあ、まだ試運転の段階だ。

 それに、この名付けて『コピーアンドロイド』の運用は自律させることだけではない。

 

 俺は足元に置いてある暗視ゴーグルみたいなのを装着した。

 名付けて『俺VRゴーグル』。

 これはコピーアンドロイドとつなげてあり、俺が装着すると俺が制御できるようになるのだ。リアルバーチャルリアリティー! ものすごい矛盾。

 

 俺の視界が、コピーアンドロイドのものになる。

 俺が念じると、コピーが歩き出した。部屋の隅にある机に向かい、上に置いてあったペンを見る。右手を前に。視界にコピーの右手が映った。慎重に手を動かして、ペンをつかむ。感触が俺にも伝わった。

 

「「やった! 成功だ!」」


 俺が叫ぶとコピーも叫ぶ。

 

 こうして何かあったときは、俺自身が俺のコピーを動かして難局を乗り切る。

 うん。すごいね。俺ってすごい。

 誰も褒めてくれないので、俺は自分を褒めてあげた。

 

 小躍りしてくるくる回る、コピー。

 視界にVRゴーグルをつけた俺がいて、その背後のベッドには、かけ布団をかぶった小さな女の子がこっちを見ていた。

 

「「ホワァイ!?」」


 思わずイングリッシュが飛び出たのも無理はない。

 この部屋には防御兼侵入者探知用の結界が張ってあるのだ。いつの間に!?

 

 女の子は寝惚け眼をこしこし擦り、くりくりのおメメをカッと見開いて俺と、俺のコピーを交互に見やった。

 そして叫ぶ。

 

「あにうえさま! あにうえさまがおふたりも、いらっしゃいます!」


 さらに問う。

 

「どちらがわたくしのものですか!? それともおふたりとも?」


 うん、どっちもお前のじゃあないよ、シャルロッテ。

 こいつは俺の義妹。ゴルド・ゼンフィス辺境伯の実の娘だ。今七歳。俺の三つ下。

 あの強面のおじさんの娘とは思えない、とても愛らしいお子様だ。母さん美人だしね。そっち似でホントよかったね。

 

 あ、思い出した。

 こいつは寝惚けて俺の部屋に侵入するクセがある。それが不定期かつ頻繁だったので、警報が鳴って叩き起こされるのを嫌がった俺は、こいつだけ探知から外したんだった。

 この部屋、あったかいからね。寝心地いいし、仕方ないね。


 ひとまず俺は制御用ゴーグルを外し、コピーも停止した。『操り人形の糸が切れたような』という比喩そのままに、コピーはその場に崩れ落ちる。

 

「たいへんです! あにうえさまがおひとり、おなくなりに!」


「落ち着け。これは俺じゃない。俺そっくりの人形だ」


「あにうえさまの、まほうですか?」


「あー、まあ、そうだな」


「すごいです! ほんものそくりです。どのようなまほうなのですか?」


「えーっと……今は秘密だ。極秘の研究だからな」


 なるほど、と素直にうなずくシャルロッテちゃん。通称シャルちゃん。

 

「でもなぜ、そのようなものを? わたくしにいただけるのですか?」


 どうしても自分の物にしたいらしいな。

 しかし、と俺は回答に窮した。

 

 コピーアンドロイドを作った理由。

 それは俺がこの城を出て、一人で暮らそうと思っているからだ。

 

 もともと乳児期が過ぎたら城を出ようと考えていたが、なんだかずるずる今まで厄介になってきた。

 とはいえ、今も家出しようとは微塵にも思っていない。居心地がよいので。

 

 ただ、理想のひきこもり生活には支障が出始めたのだ。

 父さんはやたら剣の稽古をさせようとするし、母さんはお勉強を教えに部屋へ突撃してくる。

 シャルもなんだかんだで遊んでほしいらしい。

 

 今はまだ、結界魔法のあれこれを研究している段階。

 この世界では補助系かつ超基本魔法とされ用途は限られてるけど、実のところ底の見えない恐ろしい魔法なのだ。

 俺の理想のひきこもり生活のため、結界魔法は調べ尽くしたい。

 

 そんなわけで、俺は森の奥深くに居を構え、そこで研究中は俺の代わりにコピーアンドロイドを城に残そうという計画だった。

 

 俺が黙っていると、シャルはハッとした様子で言った。

 

「あくのそしきが、ほんかくてきにうごきだしたのですね?」


 今なんて?


「あにうえさまは、よくおへやからいなくなります。やつらと、たたかっているのですよね?」


 ……俺はこの子の相手をするとき、よく適当な物語を話して聞かせていた。

 会話によるコミュニケーションが苦手な俺は、アニメやマンガ、ゲーム知識を切り貼りして一方的に話して間をつないでいたのだ。

 

 俺が奇妙な魔法研究に没頭し、ときどき留守にしていたのに整合性をつけるため、彼女の中で物語とごっちゃになって誤解が生じてしまったようだ。

 

 子どもの妄想力は侮れんな。

 いや、俺が妙な方向に育ててしまったからか……。

 

「そうだ。でもみんなには内緒だぞ?」


 しかし幼子の夢を壊すのは忍びなかった。

 

「わたくしも、おてつだいしたいです!」


「ダメだ。お前はまだ幼い。もうすこし大人になってからな?」


「わたくしは、もうじゅうぶんおとなです! あしでまといには、なりません!」


 お子様の微笑ましい自尊心、とほっこりする場面ではない。

 実はこいつ、むちゃくちゃ素質があるのだ。最大魔法レベルは【51】。あの『閃光姫』をも超える。

 

 魔法レベルがへっぽこな俺がこの城で受け入れられているのは、俺を養子にした直後にこいつが生まれたのも大きかった。俺が『幸運をもたらした』と変に持ち上げられているのよね。

 

「奴らはそんなに甘くない。お前が今やるべきは、〝そのとき〟が来るまで力をつけることだ」

 

 芝居がかった声音で、マントもないのに翻したようなポーズをする。

 シャルは悔しそうにうつむいた。

 

「はやく、おとなになりたいです……」


 しょんぼりするシャルも、いずれは変わる。

 『兄貴のパンツと私の下着を一緒に洗わないでよね!』とか言い出すんだろうなあ。

 

 のほほんと穏やかな生活が、少しでも長く続けばいいな。

 そんな風に考えることこそお気楽だと、このときは気づいていなかった。

 

 

 

 まさか本当に、シャルロッテが『悪の組織』に命を狙われることになるなんて――。


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ひょうし


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