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痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 作者:夕蜜柑
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防御特化と大規模戦闘4。

ミィの向かう最前線。化物と人間のぶつかり合うその場所では化物がやや優勢であった。


「くそっ!キリがない!」


「何とかならないの!?」


「こっちもやってるけどさ!」

サイズ差から生まれるリーチの違い。死を許容しての攻撃が可能かどうかの違い。これらはプレイヤーにとって不利に働き、状況を徐々に悪くしていた。


「頑張れー!」

これを引き起こした張本人であるメイプルはというと、這い回る化物達を後方で応援していた。

それもそのはず。あまりにも数が多く、さらに体も大きい化物が目の前に大量に這い回っていては【機械神】や【古代兵器】の射線は通せず、【悪食】で倒すべき相手もいない。【捕食者】やシロップは出そうものなら即生まれ変わってしまうし、【毒竜】でこれから進む先を毒沼に変えてしまうなどもってのほかだ。


結果として眷属とでもいうような、生み出した化物の群れを応援し指揮する以外にできることがないのである。

殺しても殺しても、波のように押し寄せる化物によって手前のプレイヤーから順に貪り食われていく。作戦通りこのまま押し切ろうとしたところで、メイプルは空を飛んでこちらに向かってくる不死鳥の姿を視認した。


「ミィ!……【全武装展開】!【攻撃開始】!」

空には化物の攻撃は届かない。しかし、そこならメイプルの射線が通る。

メイプルの銃撃に合わせ、周りからも次々に魔法が飛んでくる。が、ミィの適切な指示により、イグニスは弾幕の中を縫うように飛び、メイプル達との距離を詰める。


「【氷壁】!」


「【傀儡の城壁】!」


「っ!二人もいるの!?」

イグニスの素早い回避。それでもようやく捉えたと思ったその時、イグニスを守るように壁が展開される。見間違えようもない。それはヒナタとリリィによるものだ。

弾幕を強行突破して近づくミィ。全てを焼く炎が降ってくるまで秒読みであるこの状況。撃ち落とすことは諦め、防御のために障壁を展開する。


「【過剰氷結オーバーフリーズ】」


「ヒナタっ!」

直後降り注いだのは炎ではなく、煙のように白く辺りを覆う冷気だった。多くのプレイヤーがミィに対応するため障壁を展開したこともあり、ヒナタのスキルを止めるための動作が遅れる。

メイプルが銃口を向けるものの、それよりも早くより強烈な冷気がヒナタを中心に拡散する。


「【霜のニブルヘイム】……!」


「わっ!?な、なにっ!?」

パキンという高い音。直後、メイプルは体が全く動かないことに気づく。よく見ると透明度の高い氷が全員を包むように辺り一帯を覆っており、呼び出した化物も、そこにいるプレイヤーも、全てがその動きを停止させていた。

ベルベットの雷撃にも負けない超広範囲の凍結。ダメージは一切与えられないものの、その対価として与えられた強烈な行動阻害は、文字通り進軍を停止させた。

完全に動けなくなったメイプルにイグニスの上からヒナタが声をかける。


「動けないはずです。すみません。その……あまり暴れられると困ってしまいますから」


「うぅ……こんなことできたなんて。むー、ヒナタすごいね!」


「メイプルさんもだと思いますけど……」

今は氷漬けになって大人しくしている化物を見つつ、ヒナタはペコっと頭を下げた。それを別れの挨拶としてイグニスが高度を上げて退いていく。

イグニスに合わせて、これ幸いと多くのプレイヤーが本格的な撤退を始める。いつまた化物が氷から解き放たれるかも分からないのだ。


「ミィさん。急いで下がってください。余裕があるようには見せましたけど……私の【過剰氷結】もベルベットさんの【過剰蓄電】と同じですから。足止めはできますけど、氷の内側にはダメージも通せないので……」


「ああ、やはり他の皆も撤退している。合わせるとしよう」


「ダメージも与えられないとは中々難しいね。ただ、確かに足止めには最適だ」

ここまでの大技。当然連打はできず、さらにベルベット同様冷気を操るスキル群が使えなくなる強烈なデメリットがある。これでしばらく【thunder storm】の二人はそれぞれデメリットを解消するための休息が必要となった。


「リリィさんもありがとうございます。十分奥まで来ないと味方も凍らせてしまうので」


「ミィの騎乗が上手かったからさ。私はちょっと壁を出したくらいだよ」


「急ぐぞ。氷はいずれ溶けるが化物は消えない。そのまま進撃してくるだろうからな」

迎撃の準備を素早く整える必要があるというミィに同意見の二人も頷き、三人は【一夜城】方面へ戻っていくのだった。




しばらくするとヒナタが生み出した氷が高い音と共に砕け散り、全員が氷の檻から解放される。


「っとと!とりあえず、皆はモンスターの相手してて!」

氷の壁がなくなり、それによって隔たれていた敵モンスターが向かってくる。メイプルはまずはそれの対処だと皆に指示を出す。皆とは勿論足下から出てくる異形の化物達のことだ。

モンスターの相手はモンスターに。こちら側にも勝手に戦ってくれる野良モンスターがいるため、化物の分だけ自軍が勝手に押し込んでいく。

迂闊に動いて足下の闇に味方を沈めるわけにはいかないため、メイプルはその場に止まって、端の方で弱ったモンスターを連れてきては生まれ変わらせているプレイヤーを眺めていた。

すると、その奥から闇に触れないようにするするとその頭を伸ばす白蛇、すなわちハクが頭に【楓の木】の面々を乗せて近づいてくる。


「みんなー!大丈夫だったー!」


「おう。結構危なかったけどな」


「メイプルちゃんのそのスキルのお陰で一旦下がってくれたのよ」

得体が知れない上に起こす現象の規模も凄まじい【再誕の闇】を見て、戦闘を中断し退却を選択したリリィ達の判断は正しかっただろう。

それにより、生死をかけた戦闘に入ることは避けられた。


「サリーも上手くいったんだね!」


「うん。【方舟】ありがとう。お陰で回避できた」

サリーは【虚実反転】によって【方舟】をコピーし、メイプル同様味方を連れて転移して最前線の被害を軽減したのだ。

サリーの高い【AGI】と空中をも走ることができる能力によって作戦は成功したと言える。


「私達も後ろの人達手伝ってくるね。流石に【方舟】の範囲が届かなかった人はやられちゃったけど【集う聖剣】も主力は残ってるしリスクは覚悟で追撃したいって」


「分かった!じゃあここでもうちょっと待ってるね!」

敵は撤退した。ならばここで足を止めるべきではない。不利と判断し逃げている相手は追撃し有利を広げるべきだ。

サリーを中心に声をかけて、野良のモンスターを片っ端からテイムしてメイプルの展開する闇に放り込んでいく。

こうして強大になる化物の軍勢を従えて、メイプルは敵陣に向けて破滅の足音を鳴らすのだった。


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