挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 作者:夕蜜柑
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
433/448

防御特化と大規模戦闘3。

溢れ出る異形の中心。広がる泥のような闇の中で一人立つメイプルをおいて、ギャーギャー騒ぐフレデリカを抱えたサリーはその場を離れていた。


「サリー!本当に心臓に悪かったんだけどー?」


「ごめんごめん。まあでもなんとか間に合ったでしょ?」

破滅的な攻撃を回避できたのは【方舟】による転移の瞬間をミィとベルベットの攻撃に重ねることができたからだ。

幻を現実にするスキル【虚実反転】にはダメージを与えられないスキルはダメージを与えるようになると記載はあるが、それ以外の要素はどうか確かめておいたのが幸いした。

【方舟】は水による攻撃能力を持っている。【機械神】の力をコピーした時、放ったレーザーだけでなく銃まで実体化したように、実際のところは細かい前提条件も無視し、スキル単位での再現と発動が行われているらしかった。

メイプル一人ではできなかった前衛の避難をサリーが担ったのである。


「出たらすぐメイプルがアレやるしさー!」


「それは私もびっくりしてる。ペインの指示っぽいけど?前も言ったけど、味方が一定時間触れたら問答無用でアウトだからね」

メイプルの展開した泥。イベント前最後のクエストで、スキルをふうじられながらも倒した禁書が与えた【再誕の闇】は、味方となる存在を無差別に飲み込み化物に生まれ変わらせるスキルだ。

スキルで召喚するようなモンスターは勿論、テイムモンスター、果てはプレイヤーすら対象となる。


「何かどんどん出てきてるけど?誰か巻き込まれてないー?」


「わ、分かんない。一緒に避難させた弱ったモンスターを作り替えるとか何とか言ってた人がいたかな」


「えぇ……どうなのそれ」

倫理観を疑う本作戦の絵面は最高に悪いものだが、その効果は強力で心強い。そもそも近づくこともできなくなったメイプルを残して、作り直され体力も全回復した化物を連れて再度戦線を構築する。




メイプルが広げた闇の端では、まとまった数のプレイヤーが、ダメージを受けたモンスターをテイムしては連れてきて、闇の上に乗せていく。

それは少しするとズブズブと地面に沈み込んで、かわりにまさに化物といった生命体を排出する。


「やばいことしてる気がするなあ……」


「こ、これが最適な使い方なんでね」

この戦いに勝つためと自分を納得させつつ、得体の知れない闇によってあらゆるモンスターを作り替えるのである。

火属性や雷属性のモンスターが多い陣営であるため、かろうじて生き残ったモンスターは多少なりともいた。様々なことに目を瞑りさえすれば、それは全てメイプルのちょうどいい餌というわけだ。


「次持ってこい次!」

【方舟】による回避は上手くいったものの、テイムしなければ【方舟】の対象に入らないモンスターを完璧に守ることはできていない。そのため、傷ついたモンスターはいくらでもいるのだ。


「うおっ!?や、やば……っ!」


「馬鹿、触んな!離れろ!」

時折誤ってメイプルの展開する泥のような闇に触れるプレイヤーが出ると、それも問答無用で引き摺り込もうとする。

素早く離れれば纏わりついた闇は次第に離れていくものの、心臓に悪いことこの上ない。


「あくまで勝手に利用してるだけなんだからな!」


「最初にミスって飲み込まれたやつ見てなかったのか!?」


「わ、わりぃ助かった……」

泥状の闇の展開時に飲まれた数名は、分解され化物として再構築され、プレイヤーを襲っている。ダメージを無効にできようが関係ない。それは味方にのみ作用する即死効果のようなものであり、離れる以外どのような手段でもってしても生まれ変わりは避けられないのだ。


何なら敵の攻撃より危険な代物である。


支援を受けて後方からモンスターを供給されることによって、怪物を前方に吐き出し続けるメイプルはそのまま歩みを進める。

敵陣営のモンスターと違い、レアなスキルから生み出された怪物達は強力だ。【暴虐】時のメイプルのように炎を撒き散らし、プレイヤー、モンスター問わず引き裂き喰らって進んでいく。


「足元に気をつけて進んでくださーい!」

メイプルは周りに声をかける。生み出した化物の群れは強力だが、召喚したものであるためそこまで細かい指示を出すことはできない。それでも、勝手に動くモンスター達と比べれば、こちらの都合のいいように動かせるのは間違いない。

こうして化物達により数を確保したことで、前線のプレイヤーに余裕が生まれ、徐々にこちらが押し込んでいく。




突如現れた化物の群勢は敵陣後方からも視認できていた。


「何か変なの出てきてるけど……!?」


「ははっ、冗談きついな。ありゃ何だ?」

【一夜城】の上から前方を観察していたマルクスとシンからミィとミザリーに現状が伝えられる。マルクスは自分が作ったカメラを適切な方角に向けることで、ミィとミザリーに中のモニターで戦況を確認させていた。これならばメイプルの【身捧ぐ慈愛】のように、自身を中心として周囲に影響を与えるスキルを使い、壁の内側から安全に戦場に関与できるからだ。

マルクスのトラップにかかりながらも、化物の軍勢はその圧倒的な物量で波のように押し寄せる。

混沌とした戦場から一足先に離脱し、空へ伸びる氷の階段から飛び降りてきた二つの影が、空中で重力に逆らって減速しマルクスのすぐ隣に着地する。


「わっ!?」


「失礼するっすよ!」


「ミィさんは……?」


「……え、う、うん。中にいるよ」


「お、緊急の作戦会議か」


「はい」


「了解っす!」

飛び込んできたベルベットとヒナタはそのまま城内に駆け込んでいく。

二人が中へ入ると、回復魔法を立て続けに行使するミザリーと、外へ出て行こうとするミィを見つけることができた。


「ミィ!ちょっとまずい感じっす!」


「ああ、分かっている。メイプルの仕業らしい」

どうやっているかは正確には分かっていないが、強力なモンスターを大量に呼び出すスキルによるものだとは理解できていた。

話している中、続いて飛行機械に乗ったリリィとウィルバートが戻ってくる。


「ベルベットも。そうか、考えることは同じだったみたいだね」


「あの召喚されたモンスターの対処を考える必要がありそうですね」

ウィルバートはその索敵能力によって、ミィとベルベットによる殲滅作戦が思ったような戦果に繋がらなかったことを確認した。


「敵陣営も相当な大技で返したようですが、クールタイムなどは分かりません。一瞬消失して再出現したのを確認しはしたのですが」


「ベルベットさんは放電しきってしまったので……電撃はしばらくは使えないんです」

ミィのそれをも上回る攻撃範囲を誇る【雷神の槌】だが、何の代償もなく撃てるものではない。ベルベットから電撃がなくなれば、当然脅威度は一気に下がる。


「出てきたものの見た目がアレだからね。少しパニックになっているようだった。落ち着ける余裕がないならちょっと分が悪そうだ」

ミザリーの回復があるとはいえ、使い捨てのモンスターと死ねば終わりのプレイヤーでは命の価値が違いすぎる。

戦えば戦うほど状況は悪くなるだろう。


「【黎明】も連続では撃てない。もちろん他の強力なスキルはあるが、相手も黙ってはいないだろう」


「そうですね。倒し切るだけの力がなければ回復していても状況は悪くなってしまいます……」

【集う聖剣】と【楓の木】を筆頭に、まだ余力を残しているプレイヤーは多い。


「他のギルドに足並みを合わせたい。撤退の判断が多いなら、こちらの攻撃をいなせるだけの準備があったことを受け入れて下がる他ない」

ベルベットとミィの攻撃は決まればこのイベントの勝敗すら決定づけるようなものであったのだ。それを上手く対処された今、攻守は交代したと言える。際限なく湧き出す化物と戦うにはまず何より人数が必要だ。その人手が集まらないなら、敵を足止めし下がる必要がある。


「マルクス。ミザリーとシンを中心に退く準備をしておいてくれ。戦うにしても下がりつつの方がいい」


「分かった」

味方全員がこの戦場にいるわけではない。王城に向けて退きながら戦えば、メイプル達が詰めきれなかった場合に援軍が先に来るミィ達が有利だ。


「リリィ、ヒナタ。力を借りたい」


「ああ」


「分かりました」


「ヒナタ、頼んだっすよ!」


「リリィ。よろしくお願いします」

能力に制限がかかったベルベットと、一対一に特化しているウィルバートは残して、三人は【一夜城】を出る。

それはより適したメンバーでの出撃であると同時に、上手くいかなかった際の被害軽減の意図もある。全員で向かったなら、一つミスをして全滅すれば、覆しようのない不利を背負うことになる。敵陣営にはそれができるだけの爆発力があることを、ここにいる八人は理解しているのだ。

最悪のケースを考えつつ、三人はイグニスの背に乗って空から戦場を見る。円形に黒く染まった地面から這いずるように出てくる化物。さらに、その後方で次々にその闇に放り込まれるモンスターを目にとめる。

それを見れば流石に三人も召喚のカラクリ、そのおおよそを理解できた。


「なるほど!ははは、そういう仕組みだったのか……」


「す、すごいですね……」


「となるとメイプルを倒さない限りアレを止めるのは難しいな」

その見た目のインパクトもあり、戦意喪失気味なのか、陣形が崩れ退却しつつあるプレイヤーも見て取れる。

それを見て立て直すために全力を尽くすよりは撤退の判断を下す方がいいと三人は結論付けた。


「ヒナタ、いけるかい」


「はい、大丈夫です。あとは近づければ」


「攻撃は私達で防ぐ。心配しなくていい」

ミィはイグニスに指示を出すとそのまま化物の暴れ回る最前線へと急ぐのだった。




  • ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねをするにはログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。