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痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 作者:夕蜜柑
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防御特化と大規模戦闘。

【炎帝ノ国】の後方、【ラピッドファイア】の面々を飲み込む黒い稲妻は、直撃したプレイヤーを退かせて陣形を二つに分断した。


「ウィル!」


「無事です!ただ……誰もいません」


「なっ……ウィルの眼に映らない?」

魔法の射程外からこれほどの現象を引き起こしておいて、ウィルの索敵にかからないのは何かがおかしい。


「ウィル、私の眼も使って探し出してくれ」


「分かりました」


「【休眠】」

リリィから青い光が弾けると、雲に覆われた空の上、一瞬同じ色の光がフィールド全体を照らし出した。


「【覚醒】!どうだい?」


「……上に、メイプルが」

少し顔を顰めてそう報告したウィルバートの言葉を受けて、リリィは素早く行動を開始する。


「オーケー。向かわせよう!」

やるべきことはただ一つ。飛行能力を持つテイムモンスターを使役するプレイヤーに指示を出し、遥か上空のメイプルを早急に撃ち落とすことだ。

そうして近づいてくる多くのプレイヤーを、メイプルもまた素早く察知していた。


「わっ!?もうバレちゃったの!?」

サリーと想定していたよりも遥かに早く、下からはドラゴンや怪鳥に乗ったプレイヤーが飛んでくる。盾に乗っているだけのメイプルでは、その機動力にどうあがいても勝てないのは明白だ。


「【砲身展開】【攻撃開始】!」

ならば、まずは近づけないことだとメイプルは射撃を開始する。そもそも、メイプルがいる場所を中心として【滅殺領域】は展開されている。【身捧ぐ慈愛】がそうであるように、円柱状に影響を及ぼすそれは、時間を稼ぎさえすれば飛んでくるもの全てを焦がして地に落とすだろう。

射撃は避けつつ、急いで接近する。それは難しいことで、大きくHPを削られたプレイヤーから順に離脱を余儀なくされる。


「くっ、好き勝手させるかよ!」


「引き摺り下ろせ!」


「うわわっ!?危なくなる前にっ!」

メイプルは何とかプレイヤーが近づいてきたところで、攻撃される前に自ら地面へ飛び降りる。

いくら機動力があると言っても、自由落下にはすぐには追いつけない。妨害があるなら尚更だ。


「【攻撃開始】!」

メイプルは最後に上に向けて弾丸を放ち、テイムモンスターを撃ち抜くと、近づいてきたプレイヤー全てに同じように自由落下でもって自分の後を追わせる。

多くのものが飛ぶようになったが、本来空は危険だ。その飛行能力が突然失われることは考慮されなければならない。


「おあっ!?」


「まずった……っ!」


「じゃあねっ!」

このままでは味方を巻き込んでしまうため、メイプルは【滅殺領域】を解除し、自爆によって自陣方向へと向きを変える。メイプルに限って、着地は気にしなくてもいい。

そうして自軍上空を墜落していくメイプルを、集団から空中にまで飛び出した一人のプレイヤーが糸を伸ばして絡めとる。


「あっ、サリー!」


「ナーイスメイプル。いい奇襲だったよ」


「じゃあ、次だね!」


「うん。よろしく!」


「【天王の玉座】【救済の残光】!」

メイプルは先程とはうってかわって、周りに防御支援のバフを撒く。

とはいえ玉座も天使の羽もよく目立つ。このままでは優先的に狙われるのは間違いない。


「【氷柱】!」

そんなメイプルと他の存在全てを物理的に遮断する氷の柱が玉座の周りを取り囲む。

この氷の柱は時間が来て消滅するまで攻撃によって壊せない。この絶対の障壁があれば、メイプルは何もできないが、敵もまたこの強烈なバフを発生させる存在にどうやっても手が届かないのである。


「とりあえず。これで何も通らない」


「ありがとう!」


「こっちこそ。皆いるだけでありがたいと思ってるよ」

守りを固めたところで、後方の櫓からマイとユイが放つ大砲の威力も霞む巨大な鉄球が次々に飛んでくる。ここに陣形は整った。こちらが出せる最大出力でもって、敵の全力を迎え撃つのだ。




閃光、豪炎。数多の魔法が暴風のように吹き荒れる中、突出した戦力が戦線に影響を与える。


「ベルベット!」


「はいっす!いつ飛び込むっすか?」


「ミィに合わせてくれると助かるね。一気にひっくり返す。その間に……ウィル、私達も行こう」

リリィはペインとの戦闘でも利用した飛行機械を生成する。板状のそれは後方に青い炎を吹き上げながら空中にてふわふわと浮かんだまま停止した。今回は二人乗るのがやっとのサイズだが、かわりに移動速度を高めたタイプだ。装備を変更していないため大量生成はできないが、ウィルバートとリリィの二人が乗れるなら問題はない。


「ヒナタ、前に出るっすよ!」


「はい……!」

やられっぱなしではいられないと、ベルベットはヒナタを連れて前へと出る。それに合わせて、リリィとウィルバートも高速で飛ぶ飛行機械に乗り、文字通り前方へ飛び出した。


「【雷神再臨】!【嵐の中心】!」

モンスターとプレイヤーがぶつかり合うその境目に雷鳴が轟く。

降り注ぐ雷は近くの敵対存在全てを次々に消し炭にする。ダメージを受けにくいはずの雷を纏うモンスターですら、問答無用でねじ伏せる。

それもそのはず。辺りに広がる白い靄。強烈な冷気がその防御力も耐性も、全てないものにしてしまっているのだから。


「ヒナタ、どんどん行くっすよ!」


「……わりーけど、それ以上は行かせられねーな」


「ははっ、再戦といこうぜ!」

その前に立ちはだかったのはドレッドとドラグの二人だった。嵐そのものと言えるようなベルベットに、このまま自陣に飛び込まれればそれだけで被害は凄まじいものになるだろう。今ここで止めなければならない。今回は撤退はない。それは敵もまた同じことだろう。


「負けないっすよ!」


「行きます……!」


「はー、ったく損な役回りだ」


「強え相手ほど燃えるだろ!」


「……まあ、分からなくもないがな」

なんだかんだ言いつつもドレッドは武器を構える。それを見てドラグもやる気十分というように斧を振りかぶる。

そんな中、上空を高速で数人のプレイヤーが抜けていく。メイプルがそうしたように、敵も範囲攻撃に優れ、大きなダメージ源となるバックラインを狙っているのだ。


「よそ見してる暇は……ないっすよ!【電磁跳躍】!」

重力制御により側に浮かぶヒナタを連れて、防御力低下の冷気と共にベルベットが突っ込んでくる。


「アース、【避雷針】!【重突進】!」


「【氷壁】!」

突っ込んできたドラグの斧を氷の壁で受け止めて、ベルベットが殴り返す。ただ、リーチの差もあって拳はドラグには届かない。


「【極光】!」


「【石の肌】【グランドアーマー】!」


「そのまま……!」

ベルベットを中心に発生した雷の柱。退くだろうと考えていたところを、ドラグは耐久力を補助するスキルを使うことで無理やり突っ込んできた。


「【バーンアックス】!」


「【パリィ】!【重双撃】!」


「ぐはっ!?」

振り抜かれた斧を横から叩きつけて逸らしたベルベットは、素早く二連撃を叩き込みドラグを吹き飛ばす。


「痛ってえ!流石の威力だな!」


「耐えるんすね!ヒナタのスキルも入ってるはずっすけど」


「今回の耐久力は特別でな」

光り輝く地面は減っていたドラグのHPもみるみるうちに回復させていく。ベルベットは今のダメージを見て相当なダメージカットがかかっていることを理解する。


「もっと増やしていくっすよ!【落雷の原野】【稲妻の雨】!」


「ドラグ、壁頼む」


「おうよ!」


「【トップスピード】!」

ドレッドの耐久力ではこの雷の雨の中をドラグほど無理やり突っ込むことはできない。その分その速さを活かし、真上に作った岩の壁を利用して雷を遮ることで一瞬のうちに距離を詰める。


「【重力の檻】」


「……チッ」

踏み込んだ瞬間にガクンとスピードが落ちるのを感じ、ドレッドは崩れかけの岩壁が残るうちにきた道を戻る。

倒せるか倒せないか、そんな最後の一線でじっと待っているヒナタの防御が厄介だ。

ベルベットの破壊力が規格外なため、守りに専念していることが僅かな隙さえなくしている。


「助かるっす!」


「ちゃんとミィさんを待ってくださいね……?」


「わ、分かってるっすよ?」

そうしているうち、後ろでは建てた櫓が崩壊する音が聞こえる。敵の攻撃も本格化しているのだ。


「頼むぜペイン。【黎明】が来る前にやってくれよ……!」

この二人を相手取っていては他を助ける余裕は流石にない。メイプルに並んでこちらの作戦の核となるペインが上手くやっていることを祈りつつ、ドレッドはダガーを構え直した。




組み上げた櫓が崩壊し落下するマイ、ユイ、イズの三人をダメージを肩代わりする【守護者】によって守ったクロムは素早く大盾を構えて、前を向く。


「はは!ったく、後ろでじっとしてくれてればいいんだぞ!」

クロムが見上げる先には空中に静止する板状の機械とそれに座るリリィ、そしてその前に立ち、四人に矢をつがえた弓を向けるウィルバートがいた。


「そんなことをしていてはその二人にどうされてしまうか分からないからね」


「すみません。その首、貰い受けます」


「「クロムさん……!」」


「心配するな。何とかする!」

とは言ったものの、状況は悪い。移動速度と距離を考えても、王城までは逃げきれないだろう。イズが設置しておいたバリケードと、クロムの大盾があの矢を防ぐ防壁だ。


「【矢の雨】」


「【マルチカバー】!【精霊の光】!」

降り注ぐ矢の雨から全員を庇い、続くスキルでダメージを打ち消して耐え忍ぶ。


「マイ、ユイ。聞いてくれ。二人の攻撃しか俺達に勝ち筋はない。俺とイズで何とか隙を作ってみせる。そこで仕掛けてくれ」

静かにそう話すクロムに二人は小さく頷き、八本の大槌を構える。


「ネクロ!【死の重み】!【バーストフレイム】!」

リリィの操る飛行機械はクロムの放った炎を上手く躱して、スライドするように移動しつつ矢を放つ。ネクロの力を借りて遠距離攻撃をするものの、得意分野でないのは確かだ。


「こっちは……任せてっ!」

イズはインベントリから鉄の壁を取り出し目の前に設置し、何とかその攻撃を相殺する。


「イズ頼む!長期戦は無理だ!」

流れ弾一発でマイとユイが倒される現状、早期決着を狙わなければどこかで事故が起こる。

一撃で破壊されるとはいえ、イズの壁がウィルバートの矢を受けられることがわかった今、防御を任せてクロムが前に出るしかない。


「フェイ【アイテム強化】!クロム!」


「おう!」

初撃を防いだこともあり、その正確無比な矢に撃ち抜かれながらも何とか耐えきったクロムは、イズとアイコンタクトを取る。

それを見てイズが地面を強く踏むと、いきなり辺りに大量の太い水柱が出現した。


「用意はあるということですか……!」


「まだよ!」

続けてイズが握り込んだクリスタルを砕くと、シロップの大自然にも似た巨大な蔦が水柱を縫うように伸び、その動きを制限する。


「お願い!」


「やってやれ!」


「「【ウェポンスロー】!」」

鉄球二つ程度ならば避けられる。なら十六の大槌ならどうか。ウィルバートの矢をも上回る破壊力を持つ必殺の鉄塊が、真っ直ぐに二人に向かって飛んでいく。


「「【クイックチェンジ】!」」

リリィは素早くウィルバートと装備を切り替えると、目の前に迫る確かな死を感じながら、何度も繰り返した手順で素早くスキルを発動する。


「【命なき軍団】【再生産】【傀儡の城壁】!」

目の前に次々に現れた兵士が絡み合って巨大な壁となる。それすべてを突き破って大槌が破壊した壁の向こうでリリィとウィルバートが空中で体勢を整え降りてきた。

狙いは完璧だったものの、壁に突き当たったことでできた一瞬の時間を無駄にはしなかったのだ。


「ふぅ……掠っていたら終わりだったね。レイドボスを倒した攻撃力には磨きがかかっているらしい。ここからは私が相手になるよ。私の火力でも、君達なら削り切れる」

装備解除によってインベントリに大槌を戻し、装備し直したマイとユイは次の攻撃に備え、イズもさらにバリケードを展開する。


「ウィルバートにかわってくれて構わないぞ?そっちの方がまだやりやすいからな」


「分かっているとも。さあ、やろうか」

数で押すリリィとなると、流石に今度こそ守りきれないと、目の前に大量に湧き出す銃を持った兵士を見てクロムに汗が伝う。

まだ【不屈の守護者】も残っている。やれることをやるだけだと、大盾を構えたところで、横から巨大な影が突っ込んできた。


「ハク!」


「ソウ!」


「「【硬質化】!」」

割って入った二匹の巨大な白蛇がフィールドを抉るようにその体をうねらせる。


「間に合ったか!」


「そうみたいだね」

駆けつけたのはカナデとカスミだった。リリィとウィルバートに続こうとした【ラピッドファイア】のギルドメンバーを撃ち落とし、敵の援軍を可能な限り防ぎつつ、何とか救援を間に合わせたのである。


「随分こちらにきたものだね」


「そうですね。ですが、好都合とも言えるでしょう」


「私達が上手くやれるならね」

リリィはそう言うと【我楽多の椅子】に座り、旗を一振りして目の前に大量の兵士を産み出す。人数だけでいえば一瞬で逆転した格好だ。


「続きをやろう。引きつけた分だけ向こうが楽になるさ」

マイとユイの破滅的な攻撃を再開させてはいけない。決して楽な戦いではないものの、リリィとウィルバートも引く訳にはいかないのだ。


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