■「落ちこぼれを無くす」「平均点を上げる」 日本型学校教育はどうアップグレードされる?


文部科学省は2021年6月に有識者会議を立ち上げ、これまで特異な才能のある子どもたちに十分な学習機会を提供してこなかったのではないかとの反省に基づき、今後の支援の在り方が議論されている。しかし、みんなで一緒に、という方針が変わるわけではないようだ。有識者会議で座長を務める放送大学長の岩永雅也さんに今後の展望について聞いた。


ーー今後、“ギフテッド”の子どもたちにどのような学習機会が提供されますか?

「大雑把に言いますと、世界各国の才能教育は大きく分けて、二通りの考え方があるんですね。一つは、早習型といってですね早めに能力のある子どもを飛び級させて飛び入学させたりしてどんどん効率的に勉強させてしまって。もう一つは拡充型といって、飛び入学とか飛び級はさせないんだけれども、余力があって能力がある子どもには別枠でいろいろ深い勉強を提供する、というものですね。

日本的な学校教育の中では、早習型は非常に弊害が多いと考えられます。ですので、拡充型を目指すべきだというのが共通認識です」

ーーベースとなる日本的な学校教育とはどのようなものですか?

「日本の教育は国際的にも評価されていて、特に初等中等教育というのは優れています。なぜトップクラスにいられるかというと、平均点が上がるような教育をしているということだと思うんです。

日本が高度経済成長期からずっと培ってきた一斉授業で、落ちこぼれを無くすというものですね。みんなで一緒に勉強して、何とか下の子も上に上げようという努力をして、結果点数が良くなってきたんですね」

ーー『みんな一緒に』を変えず、“ギフテッド”の子どもたちにどう機会を拡充できるのでしょうか?

「日本のこれまでの教育に対して才能教育の方から疑義が出されたのは、下の子を上げていくために、上の子は足踏みしている。退屈をして、そのまま放置されるんだっていう話です。

そういう子どもたちにも個別最適な教育を提供しなきゃいけない。それをやるということになると、どうしても一斉授業、みんなで一緒に同じことを学習するっていうことに風穴を開けないといけないだろうという話なんですね。そうは言っても、クラスという一つのまとまりは壊すことができない。

協働性を壊さずに、なおかつ個別最適にするにはどうしたらいいか。その一つの解が拡充型、インクルーシブ型で、現在あるものを最大限利用して、教師の研修とか、保護者への理解を求めるというようなことをして、才能とその教育に対する考え方をもっと一般化して、合理化していこうという考えです」

■「みんなで一緒に」「周りと違ってもいい」子どもの才能を活かす教育とは


文科省の有識者会議が7月に公表した素案には、今後取り組む具体的な施策として以下の5つを示している。

① 特異な才能のある児童生徒の理解のための周知・研修の促進
② 多様な学習の場の充実等
③ 特性等を把握する際のサポート
④ 学校外の機関にアクセスできるようにするための情報集約・提供
⑤ 実証研究を通じた実践事例の蓄積

個別最適な学びと、協働的な学びの一体化は、“ギフテッド”に限らない子どもたちの多様性を認め合うことにもつながっている。一方で、飛び級などを活用する早習型と比べてより実現が難しいのではとの指摘もある。“ギフテッド”の子どもの困難が解消され、それぞれが才能を発揮できる環境への一歩となっていくのか。

(2022年8月25日放送・配信「SHARE」より)