影法師
すでに『永遠の0』や『海賊とよばれた男』をはじめ『モンスター』、『幸福な生活』などを読ませていただき、すっかり百田ワールドの虜になっている私ですが、百田さんのツイッターのフォロワーにまでなってしまうほど魅せられています。ある日のツイッターで百田さんが「お薦めは『影法師』ですよ」みたいなことを書いておられて、それならばと思い東京出張時に買い求め一気に読んでしまいました。

江戸時代の茅島藩を舞台に繰り広げられる若き武士の友情がテーマなのですが、とにかく感動させられました。これこそ道徳の副読本に最適な作品だと確信した次第です。なぜ道徳なのかといえば、この物語の凝縮された理念は「尊き自己犠牲」だからです。単に「友情」や「愛」、「絆」「男らしさ」などという言葉だけでは安っぽく薄っぺらにしか聞こえませんし、それらを超越した「利他の精神性」が見事に描かれていて、感涙を禁じえないからです。

それから百田さんの文章は分かりやすくて奥が深いですね。例えば、物語の中で自然と向き合う農業の難しさについての記述があるのですが、私なら「米づくりは複雑多難で一筋縄ではいかないものだと思った」とありきたりの表現しか思い浮かびませんが、この物語の主人公の思いを代弁して百田さんは「米づくりはまるで生き物のようだと思った」と書いておられます。この「生き物のようだ」という言葉づかいに思わずため息がこぼれます。

いずれにしても、この本は単なる歴史小説にとどまらず、政治を志す者へのメッセージでもあり、失われつつある日本人の美学でもあり、また農業や手工業などの「ものづくり日本」の技術を学ぶ専門書でもあるともいえます。誰か映画化してくれないかな~と期待しています。