第七章61 『ようこそ、剣奴孤島へ!』
――暗く、冷たい場所に置き去りにされた感覚だった。
瞼を閉じたように暗く、放置した鉄に頬を当てたように冷たい、そんな環境。不自由の鎖で全身を縛られる感覚を味わいながら、必死で救いを求めていた。
手当たり次第、無我夢中で手を伸ばし続けたのも、それが理由だ。
だけど、最後の瞬間、目の前にやってくる白い光に手を伸ばした理由は違った。
光――違う、それは悲愴な決意を秘めた表情の少女だった。彼女へ手を伸ばしたのは、救いを求めていたからではない。救わなくてはと、そう思ったからだ。
だから、身じろぎすら封じようとする鎖を歪め、この手を、自らの手を伸ばした。
自分の、この手を――。
「――小さい」
と、ぼやけた視界に映り込んだ自分の手を眺めて、ナツキ・スバルはそう呟いた。
天井に掌を向けたその手は、スバルの肩の延長線上にある自分の手だ。握ったり閉じたり、自分の考えた通りに動く。疑いようもなく、自分の手。
ただし、スバルの期待よりもワンサイズ小さい、子どもの手であった。
つまり――、
「戻り損ねた……」
苦労に苦労を重ね、どうにか掴み取ったはずの起死回生のチャンス。文字通り、何度も死ぬような思いをした結果だったというのに、それはこの手を離れていった。
その手放したもののために、いったいどれだけの犠牲を払ったことか。
いったい、どれだけの、犠牲を――、
「――っ!? そうだ、何やってんだ、俺は!?」
瞬間、ぼやけた意識に揺り戻しがあり、スバルは眺めていた手を顔に当てた。
蘇ってくる記憶は、魔都で出くわした異常事態と、それを上回るほどひどい目に遭ったオルバルトとの危険な鬼ごっこへ通じている。
無数の『死』を積み重ねた上に勝利をもぎ取り、スバルは勝者の栄冠――『幼児化』を解かせることに成功したはずだった。
オルバルトが胸に触れ、スバルの『幼児化』を解こうとしたのも覚えている。
次の瞬間、耳元で愛の言霊が囁かれたかと思いきや――、
「いきなり意識が吹っ飛んで、それから……それから?」
何があったのか、とスバルはボヤーっとしている自分の記憶を探ろうとする。だが、押しても引いても、途切れた記憶の入った扉は開こうとしない。
その扉の堅さとじわじわと高まる焦りに、スバルが強く奥歯を噛みしめ――、
「――まあまあ、そう焦らずにどんと構えましょう。幸い命は拾ったわけですし何かするには連れのお嬢さんの目が覚めてからでも遅くないですって」
「――ぁ?」
不意に、すぐ真横から声が聞こえて、スバルは唖然とそちらを向いた。すると、横になったスバルの傍ら、固い寝台に両手で頬杖をつく人物と目が合う。
ニコニコと満面の笑みを浮かべ、至近距離からスバルの顔を覗いていた人物と。
「うおわぁ!?」
「おおっと。いい反応ですけど控えめにした方がいいですよ。あんまりうるさいと島主に睨まれて面倒な死合いを組まれたりしますからね。もっとも」
「え、あ、え……」
「僕はそういう悪趣味な趣向も嫌いじゃないです、むしろ好き」
思わず跳ね起き、目を白黒させるスバルの前で飄々と嘯く青い髪の人物。
彼は長い髪を頭の後ろでまとめ、滅多に見かけない和風を思わせる装いを纏っている。その見知らぬ顔に驚きつつ、スバルは唾を呑み込み、言葉と、質問を選んだ。
見知らぬ相手だけでなく、見知らぬ場所、見知らぬ環境、見知らぬ空気――、
「……お前は、誰だ? ここはどこなんだ?」
「――ああ、実にいいですね! その質問最高ですよ! 期待した通り……いえ、それ以上!!」
「うえ?」
慎重に、相手の出方を窺おうとしたスバルだったが、嬉しげに目を輝かせた相手に素早く手を取られ、あわや肩がもげるかと思うほどの勢いで上下に振られる。
油断していたわけではなかった。なのに、まるで反応できなかった。
そう驚愕するスバルの前、相手は「ふう」と掴んでいた腕を解放すると、その場でくるりと踊るように一回転して、
「お答えしましょう! 黒い湖を渡り、この島――剣奴孤島ギヌンハイブに辿り着いた、素敵な予感の渦巻く目つきの悪いあなたに!」
芝居がかった口調と仕草で、初対面にしては不躾な物言いをする人物。だが、相手はスバルの心中など知らぬ存ぜぬで、堂々とその態度を、芝居を貫いた。
まるで、自分が万雷の拍手を浴びるが当然の舞台役者であるかのように――。
「――セシルス・セグムント」
腕を左右に伸ばし、そう名乗る姿は歌舞伎の見得切りのようだった。
もちろん、この世界に歌舞伎なんてないはずだから、実物を真似したわけではないだろう。それでも、その見得切りには息を呑ませる迫力があった。
もっとも、スバルに息を呑ませたのは、その迫力のポーズだけでなく、聞き覚えのある響きの方だ。それがどこで聞いた響きだったか、思い当たった途端に顔をしかめる。
聞いたのは、アベルの口からだ。
その名前は、確か『九神将』の一人で――。
「僕こそはヴォラキアの『青き雷光』。――この世界の、花形役者です」
そう、堂々と言ってのける相手を前に、スバルは瞠目した。
名乗られた名前と肩書き、そのどちらもスバルの記憶と一致する。一致するが、一点だけ、非常に大きな問題があった。
それは――、
「――ヴォラキア最強って、子どもなの?」
――目の前で笑うセシルス・セグムントが、縮んだスバルと同じぐらいの年頃の、いかにも悪ガキという風情の子どもだったことだった。
△▼△▼△▼△
――『幼児化』の深刻な影響は、ナツキ・スバルの心身共に蝕んでいる。
肉体的な影響はわかりやすく、今のスバルは外見通り、十歳程度の子どもの身体能力しかない。腕力や脚力はもちろん、持久力や瞬発力も思春期前に逆戻りだ。
ただ、元々スバルの身体能力が、この異世界の基準でどれだけ役立っていたかは怪しいところなので、微々たる差と言ってもいいかもしれない。悲しい話だが。
それよりもはるかに深刻なのが、外身よりも中身の方に出ている影響だ。
「たぶん、頭が弱くなってる……」
言い方に語弊があるが、スバルの置かれた状況の悪さを端的に言い表した表現だ。
発想力や思考力、知識を引き出す力が弱々になっている。以前と使っている机が同じでも、引き出しを開ける力が弱い上に、高いところにある引き出しに手が届かなくなっている、という感じだろうか。
――紅瑠璃城の天守閣で、オルバルト相手に繰り広げられた地獄の鬼ごっこ。
あの対策に常軌を逸した試行回数をかけたのも、思考力が下がった影響がとても大きい。きっと縮む前なら、もうちょっと早く解決策が見つかったはずだ。
たぶん、もうちょっとぐらい早く、痛い思いをしなくて済んでいたのだと思う。
幸い、あのときはスバルではなく、スバルの大事なみんなのおかげで助かった。
みんなの声が、応援が、頭の中に響いた気がして――、
「違う違う、そうじゃなくて……」
ふと、じんわりと込み上げてくるものがあって、スバルは慌ててそれを手で拭う。
安堵と物悲しさがない交ぜになった感情は、たぶん、ホームシックに近いのだと思う。幼児化前は慌ただしさと責任感で堪えられたが、どうやら子どもの体は涙の防壁まで低くなっているらしい。油断すると、ボロボロ泣いてしまいそうだ。
「……泣くな泣くな。馬鹿か俺は。いや、馬鹿だ俺は」
どんなに嘆いても、ここにいないみんなの力は借りられない。
涙を摩擦で蒸発させて、スバルは懸命に本題に立ち返る。そうしなくては、それこそみんなと再会するチャンスは巡ってこなくなるだろう。
今重要なのは、自分の頭の弱さでも芽生えた望郷の念でもない。もっと、問題の本質をちゃんと見つめなくては。
すなわち――、
「アベルとかズィクルさんから、『壱』の歳のこととか聞いてたっけ……」
鼻を啜り、スバルは自分の記憶に疑問の答えを探し求める。
セシルス・セグムント――それはヴォラキアの『九神将』最強の存在と聞いた。つまり、帝国で一番強い人物が彼ということになる。
そもそも、魔都カオスフレームに向かった理由が、『九神将』の一人であるヨルナに味方になってもらうための作戦だったのだ。帝位を取り戻すために、『九神将』を一人でも多く味方にしなくてはならない。
なら当然、『壱』の人物の話題も、みんなでちゃんとしていたはずだ。
なので、固い引き出しをこじ開け、何とか答えを探しているのだが――、
「人望がなくて、あんまり頼りにならないって情報しか思い出せない……」
そこがインパクトのある部分だったからなのか、実際にそういう話しか聞けていないのかはっきりしないが、スバルの持つ『壱』の情報はそれだけだった。
残念ながら、そこには『壱』の外見や年齢など、今欲しい情報は見つからない。
「でも、人望がないのは子どもだからって話なら、すんなりわかる」
強い人間が偉いとされる帝国で、一番強いはずなのに人望がないという不思議な話。
それも、最強の人物が子どもだからと言われたら納得できてしまう。いくら強くても、子どもに従うのを嫌がる大人は多いだろう。
そう、スバルが事前の情報と新知識との折り合いをつけたところで、
「――どうやら何かしら結論が出たみたいですね」
声をかけられ、顔を上げたスバルの正面、そこには青髪の少年――セシルスが、先ほどと寸分違わぬ見得切りの姿勢のままで立ち尽くしていた。
彼を放置したまま、考え事に没頭していたスバルは目を瞬かせ、
「ご、ごめん、ずっとほったらかしにして」
「ああいえいえお構いなく。なにせ僕、よく話し合いの場からハブられますからね! 黙って放っとかれるのも慣れっこですよ、あっはっは!」
「そ、そうなんだ……」
白い歯を見せ、あっけらかんと悲しい事情を打ち明けてくるセシルス。
その態度に面食らいながらも、失礼な対応に気分を害していないなら助かった。なにせ、彼には聞いておきたいことが山ほどある。
何から質問したらいいか、首をひねりたくなるぐらいたくさん。
「失礼な態度でごめん、もう一回謝っとく。俺は……」
「だーかーら! 問題ないないですって。もちろん失礼無礼傍若無人がまかり通るってわけじゃないですが、ある程度はさらっと流せる度量はあります。器が小さい狭い浅いってなるといかにも端役やられ役って感じじゃないですか」
「お、おお、そうだな。ありがとう、助かる。それで俺は……」
「そう言えば! 一応、考え事されてたので聞かなかったんですがさっきの見得はどうでした? わりと渾身の決め顔だったので手応えの是非を聞きたいんですよ。名乗り口上の型に加えるか当落線上と思ってまして!」
「ち、ちょっと待ってくれ、俺の話を……」
「そうそう! 他にも聞きたいことは山積みの興味津々なんです! どうでしょう! そのあたりのこともじっくりくっきりお話しいただいて――」
「――話を聞け!!」
落ち着いて話をしようにも、その全部が相手の電光石火の早口に遮られる。
その勢いに押し流されるのを恐れ、スバルは思わず大声を出していた。それをしてからハッとなるスバルに、セシルスは切れ長の瞳を丸くして、
「あれれ、もしかして僕またやっちゃいました?」
「きょうび、ほぼ聞かないレベルのテンプレート発言……」
「れべる? てんぷれえと?」
「ええと、俺の地元の言葉で、程度とかお約束みたいな意味」
「ほうほう、地元の! それは興味深い! あっと、これがダメなんでしたね」
目を輝かせ、好奇心の対象にすぐ飛びつこうとする『青き雷光』。
その二つ名も、もしかしたら雷のように高いところに落ちる的な、欲求に正直すぎる彼の性格を象徴しているのだろうか。全く落ち着きのない性格だ。
――もしかしたら、それも本性を隠すための演技かもしれないが。
「それでそれで何を話してくれるんです? どんなことを聞かせていただけるのか胸の高鳴りが止まりませんよ! はぁ~、生きてるって感じがするなぁ!」
「……ちっとも、演技に見えない」
キラキラとした目で、スバルの口から語られる物語を欲している少年。
隠し事や悪巧みと無縁としか思えない態度、彼に嘘がつけるかさえも疑問だ。そもそも、今のスバルにそんな罠を仕掛けて何の意味があるのか。
アベルと一緒にいなければ、スバルなんて帝国では何の注目も集めない存在だ。――もちろん、執拗にスバルの命を狙おうとする例外もいるにはいるが。
「でも、あれは例外中の例外だし、できれば二度と会いたくないし」
「――? どうしました?」
「いや、こっちの話。それと、俺はナツキ・スバル……ぁ」
首を傾げるセシルス、その疑問を誤魔化そうと名前を名乗って、それからすぐにスバルは「しまった」と自分の迂闊さに気付いた。
女装状態では『ナツミ・シュバルツ』を名乗り、帝国で自分の名前が不用意に広まらないよう注意していたのに、子どもの迂闊さがそれを台無しにする。
もしかしたら、万一だが、帝国一将なんて地位にあるセシルスなら、隣の国であるルグニカ王国の王選、その関係者の名前を知っていても――、
「ナツキ・スバル、ですか。何となく舌の上をまろやかに転がる不思議な響きですね。ちなみにナツキとスバルとどっちが家名なんです?」
「――。か、家名はナツキの方で、名前がスバルかな」
「ははぁ、承知しました。ではスバルさんとお呼びしましょう! ただしもっといい呼び方が見つかれば気分で変えますのであしからず」
ひらひらと手を振り、そう答えるセシルスは心当たりなんて欠片もない顔だ。
そのことに安堵する一方、ちょっとした疑念がスバルの中に芽生える。――この子どもだが、本当にセシルス・セグムントなのだろうか。
「――――」
よく考えてみると、自己申告するだけなら誰でも可能だ。もちろん、目の前の少年にだってそれができる。スバルが『ナツキ・スバル』と自己申告したように。
当然だが、ヴォラキア最強の『青き雷光』の名前と二つ名は知れ渡っている。
こんな得体の知れない場所で、ヴォラキア最強とたまたま出くわすなんて出来過ぎだ。それよりも、その名前と肩書きに憧れる子どもが『青き雷光』を自称している。そう考える方がずっと自然なことだろう。
「おやや? なんだか雲行きの怪しい目つきですね? 僕が何か?」
「……お前、本物の『青き雷光』?」
「出た! また言われました! それ毎回の如く言われる!」
探り合いは不得意と、直球で疑わしさを投げかけるとセシルスが爆笑した。
果たして、この少年をセシルスと呼び続けていいのかも疑問だが、やはりスバル以外の人も彼の素性の真偽に疑念を抱くらしい。
しかし――、
「言葉で本物です! と言い張るのは簡単ですが、それも証明にはならないでしょう? かといって証明に値する僕の隠れ情報……そんなものを話されても真贋の区別はつかない。スバルさん、それほど僕を知らないでしょうし」
「それは……うん、言う通りだ」
「だったら僕の素性の真贋を言い合っても時間の無駄。無駄なことはスパッと斬り捨てて次の話題にいきましょう! その方がずっと建設的ですよ、僕は壊す専門ですけど!」
なんだか勢いと口八丁で言いくるめられた感じがするが、猛然と息継ぎなく畳みかけられると反論の隙間がない。それに、彼の言い分は極端だが事実だ。
スバルには『青き雷光』の真贋を見分ける方法なんてない。その手掛かりもない。だったら、暫定セシルスを疑っても答えは見つからないのだ。
そうなると――、
「――――」
一度、興味の対象をセシルスから外すと、次いで浮かぶのは状況への疑問だ。
オルバルトに『幼児化』を解かせようとして、そのままスバルの意識は空白――違う、もっとどす黒いモノに呑まれ、掻き消えた。
だが、何もなしにただ気絶したわけじゃないのは見ればわかる。
例えば、セシルスと対面するスバルが寝かされているのはボロっちいベッドだ。
物の限られたシュドラクの集落ですら、ベッドには柔らかい草木を使って寝心地を工夫する努力が見られた。だが、このベッドにはそんな配慮がちっとも感じられない。
あるのは、ただ寝っ転がれればそれでいいという台だけ。
そんな殺伐とした印象を手助けするのが、ベッド以外何もない殺風景な部屋の中身だ。
乾いてひび割れた灰色の壁に、落ちない汚れが染みになってこびりついた床。どんより湿った空気も胸に悪く、快適な環境なんてとても言えない。
まるで、牢屋に入れられたみたいな閉塞感だった。
「ええと、セッシー、ちょっと聞いていい?」
「セッシー! なんですそれ、もしかして僕ですか?」
「本物か偽物かわからない相手を、セシルスって呼んでいいのか迷って……」
どこかで本物のセシルスと会った場合に備えて、なんてつもりはないが、それが真贋のわからない少年へのスバルの落とし所だった。
暫定セシルスなんて呼び方は失礼だし、そもそも面倒臭い。怪しいぐらい馴れ馴れしいことを除けば、彼の態度はとても友好的なので、嫌われるのも避けたい。
「むしろ、帝国で一番フレンドリーかもしれない……いや、さすがにフロップさんとミディアムさんには敵わないか。でも、いい勝負な気がする」
ただし、最初は友好的だったのに豹変した例もあるので、過信は禁物だ。
そうなると、レムと一緒のときにたまたま出会ったのがオコーネル兄妹だったのは、スバルらしくない幸運だった。人生でも最大級の幸運かもしれない。
あのときは、フロップから声をかけられたのだったか。たぶん、レムと一緒のスバルがよほど見てられなかったのだろう。
「セッシー、セッシーですか……何とも特別感! 不思議な響き! 思い返すと愛称で呼ばれる経験もありませんし、味わい深い新鮮味ですねえ」
一方、セシルスは初めての愛称にテンションうなぎ上りだ。
何となく安直な呼び名を選んでしまったが、これだけ喜んでくれているなら水を差すのも悪いし、代案は必要ないだろう。他のアイディアも特にないし。
「で、話は戻るけど……ここって、カオスフレームじゃないんだよね?」
「カオスフレーム……魔都ですか? ええ全然違いますよ。むしろ帝国の中だとちょうど西と東で正反対! 言った通りここは剣奴孤島ギヌンハイブです」
「ケンドコトウ……」
ギヌンハイブ、と聞き慣れない単語を舌で転がして、スバルは唇を曲げる。
地名はともかく、その冠には嫌な予感がした。カオスフレームがたくさんの亜人が暮らしているのが理由で『魔都』と呼ばれていたなら、ギヌンハイブにもそんな冠が付けられている理由があるはずだ。
ケンドコトウ、それは――、
「――剣奴、孤島?」
剣奴、という響きのイメージは湧きやすく、聞き覚えもあった。
確か、そう、アルが時たまぼやくことのあった単語のはずだ。どこかで剣奴として、死ぬような思いをしながら十数年も過ごした、と。
左腕を失いながらも何とか生き延びて、その環境から逃げ出したのだとも。
ならばここは――、
「まさか、デスゲーム会場……?」
「ですげえむ? それも地元の言葉ですか? どんな意味です?」
「……コロシアムとか、殺し合いの会場って意味で」
「ああなるほど! では理解の早いこと! まさしくここは『ですげえむ会場』です!」
「――ッ」
おぞましい悪寒に襲われ、恐る恐る可能性を口にしたスバルにセシルスが笑う。
胸の前で手を打った彼の軽々しい口調に、スバルは空耳さえ疑った。しかし、どれだけ待っても、セシルスの口から聞きたい言葉は漏れてこない。
――違う、漏れたは漏れたが、それは聞きたい言葉ではなかった。
「改めてようこそ剣奴孤島へ。僕やスバルさんぐらいの年少者はなかなか入ってこなくて珍しいですし、入ってきても長生きできないので期待してますよ」
「ば……っ」
「ば?」
「馬鹿げてる! そんなの……そんなの、何かの間違いだ!」
血相を変えて、スバルは目の前のセシルスに声を裏返らせた。
あまりにも、受け入れられない話だ。そんな場所に自分がいるなんて、何かの間違いに決まっている。
「だって、目を覚ますまで俺はカオスフレームにいて……」
「いえいえ寝てる間もこの寝台の上でしたよ。うなされてました。寝心地がよくないのでうなされる気持ちもわかりますけど、その間もカオスフレームには」
「そういう意味じゃない! わかるだろ!?」
「ふむ」
物分かりの悪いセシルスに苛立って、スバルは唾を飛ばしながら噛みついた。
その訴えに片目をつむり、セシルスが口を挟まない聞く態勢になる。その様子にスバルは目を泳がせ、部屋の中を見回しながら、
「俺は、カオスフレームにいたんだ。ここにいるのは何かの間違いなんだよ。一緒に動いてた人たちもいるんだ」
「間違いと言っても、事実としてここにいますからねえ。その言い分を認めてしまうと僕の方こそ島から魔都に飛ばされたことになっちゃいますし」
「俺が剣奴孤島にいるなら、その逆だってありえるだろ!?」
「どうでしょう。――その答えでしたらすぐにお教えできますが」
聞き分けがない、と癇癪を起こすスバルに肩をすくめ、セシルスが静かに手を伸ばす。その細い指先が示しているのは、部屋の奥の壁だ。
――違う、壁ではない。彼が示したのはそこにある、鉄格子の嵌まった窓だ。
湿った風が流れ込んでくる窓は高い位置にあるが、部屋の外と通じている。
「違う、違う違う違う……!」
唇を震わせて、スバルはベッドから慌てて飛び降りる。
冷たい床に裸足で立った途端、頭がぐらっと揺れて脱力感があったが、それを何とか抑え込んで窓に駆け寄った。そしてジャンプして鉄格子を掴み、不格好に身をよじりながら無理やり体を持ち上げ、窓枠に顎を乗せる。
そして、何とか外の景色に目を向けて――、
「――う、み?」
「ええ、湖です」
窓の外の景色を見て、呆然とスバルはそう呟いた。
その呟きを拾い、セシルスがスバルの言葉を肯定しようとする。が、セシルスの肯定は間違いだ。スバルは「海」と言ったのであって、「湖」と言い損ねたわけじゃない。
そう、セシルスは間違えた。間違えたなら、外の景色だって間違いかもしれない。
なんて、それが自分の願望でしかないことぐらい、スバルにもわかった。
「見える範囲、全部黒い湖……」
「ぐるりと島の周りは全部湖に囲まれてます。対岸と行き来するには一本だけある跳ね橋を『上げる』しかありません。まさしく天然の要害あるいは監獄!」
体を持ち上げておけなくなり、スバルはずるずると窓から滑り落ちる。床に膝をついて項垂れるスバルに、セシルスの口上は絶好調だ。
そんな、そんな絶望的な場所なのに、どうして彼は上機嫌なのか。
「なんで……」
「うん?」
「なんで、そんなに楽しそうなんだ?」
大人のスバルなら、たぶん口ごもってストレートには聞けなかった。
自制心のない子どもだから、疑問が口をついてそのまま溢れる。そのスバルの素直すぎる質問に、セシルスは童心みなぎる眼差しで「それは!」と振り返り、
「感じるからですよ、序幕の終わりを!」
「序幕……」
「哀れ、イマイチよくわからないながらも『ですげえむ会場』へ放り込まれ、血風吹き荒ぶ死合いを重ねなければならない僕! そんな僕の下へ吹き込んだ血の香りとは異なる予感を携えた新風! となれば話が動かないなんて嘘でしょう」
つらつらと、指を立てて語るセシルスの話が全く理解できない。――違う、理解できないわけじゃない。理解したくないのだ。
だって、彼の言い分を全うに理解しようとするならそれは――、
「そうでないと面白くない。花形役者を舞台袖で飼い殺しにしておくなんて、まともな筋書きではありえない冒涜ってもんですよ!」
――ヴォラキア最強の『青き雷光』は、物語脳ということになるではないか。
△▼△▼△▼△
波乱万丈を求める物語脳、セシルス・セグムントの口数は多い。
それこそ、放っておけば延々とぺちゃくちゃ喋り続けているんじゃないかと疑うほど。
「で、僕が何となく外をぶらっと歩いていたところに、ちょうど岸に這い上がったあなたがいたというわけなんですよ。すごくないです? これはなかなかあることじゃありませんよ。実に運命的! あるいは物語的と言うべきでしょう」
「――――」
「存じ上げないかと思いますが僕は昔からわりと勘働きのいい方でしてね。今日も風に誘われたような気がして歩いてて見つけたわけで、世界に贔屓される自分が怖い」
「――――」
「もちろん、あの状況を生き延びたあなたも世界に寵愛される見込みありですよ! いいところ見せましょう、スッバー……バッルー……うーん?」
首をひねり、何事かブツブツと考え込んでいるセシルス。
その彼の唇からこぼれる意味のわからない、そしてあんまり中身のない話を聞き流しながら、スバルは素足で冷たい石床の上を進んでいく。
目覚めた部屋の外に出て、得体の知れない地をこうして歩くなんて無謀だ。
それでも、確かめなくてはいけないことがある。
「本当なんだよな? 俺が一人じゃなかったっていうのは」
「え? ああ、ええ、本当ですよ。それも含めてお見事でしたと称賛したいところです。あの状況で助かっただけでなく、ちゃんとお相手も助けているなんて実に運と度胸に恵まれた行動……ある種の才能の為せる業!」
「才能とか度胸とか、そういうのはいいよ。それで、その相手は」
「小さい女の子でしたよ。大体、バッスーと同じぐらいの……お! これはなかなか言ってていい響きな気がしますね?」
話が本題から簡単に外れているが、聞きたいことは聞き出せた。
たぶん、セシルスが悩んでいるのは、自分の『セッシー』という呼ばれ方に対抗したスバルの呼び方だろう。よっぽどひどいあだ名でなければ、なんて呼ばれても別にいい。
大事なのは、その手前の聞き出せた話――、
「――ルイ」
自分と同い年ぐらい――あくまで、今のスバルと同い年ぐらいという話になると、当然ながら思い当たる相手はルイだった。状況的にはミディアムも同じぐらいの年齢に縮められていたが、あの天守閣にいなかったのだから候補に入らない。
正直、スバルのルイに対する心象はごちゃごちゃでたまらないが。
「その答えが出ないうちに、お前を放り出すつもりはないんだ。それに、もしかしたらお前の力があれば……」
ルイの『転移』が使えれば、この物騒な島から出られるかもしれない。
まだ島の全体はわかっていないし、ここで出会った相手もセシルス一人だが、彼の話を聞く限り、子どもが過ごすには最悪の環境に違いない。
だから――、
「一秒でも早く、この島から出なくちゃ」
「なかなかの大望ですが壁は多いと思いますよ。僕の聞いた話だとここから脱走できた人って過去に一人しかいないですし、それのせいで『呪則』ができたぐらいなので」
「なら、俺がその二人目になる。いや、連れと合わせて三人だ」
決意に口を挟まれ、スバルは思わずそう言い返した。と、それを聞いたセシルスが軽く目を見張り、それから高い音の口笛を吹く。
なんだか彼の機嫌をよくしたみたいだが、それに構う余裕はなかった。
そして――、
「バッスー、ここです」
薄暗く、湿った冷たい空気の満ちる通路をしばらく進んで、不意にセシルスが足を止めた。頭の後ろで手を組んだ彼が顎をしゃくったのは、薄汚れた木の扉のある部屋だ。
その扉を見上げ、スバルが「ここは?」と尋ねると、
「治癒室です。死体部屋なんて呼ばれ方もしてますね。闘技場で死に損ねてここで死体になる人も少なくないので」
「な、治す部屋なんだよな? 治癒術師は?」
「治癒術師! 癒者ぐらいいますけど、そんな貴重な魔法の使い手なんていませんよ。置いたら死者は減るでしょうけどそれは島主の方針と違いますから」
「――――」
へらへらと答えられ、スバルは思わず口を噤んだ。
すっぽ抜けていたが、ヴォラキア帝国では治癒魔法を使える人間はとても少ないのだ。だからこそ、レムの治癒魔法が貴重なものと扱われていた。
でも、治癒術師のいない治癒室に、ルイが放り込まれているというのは。
「お連れの女の子はだいぶ衰弱していましたからそれが理由です。この部屋の名目は一応は怪我人の治療にあるわけですから、手当ての道具に毛布ぐらいはちゃんとある。僕ら剣奴の扱いはさっきの通りで寝心地も最悪だったでしょう?」
「……剣奴なのはセッシーだけだろ」
「あっははは、そうでしたね! ほら、感動の御対面といきましょう」
スバルの心中を二重に読み切り、セシルスがこちらの肩を叩いてくる。
その勢いに気圧されながら、スバルは唾を呑み込み、覚悟を決めて扉に向かった。そして扉を押し開いて、中から溢れる嫌な臭いに顔をしかめる。
溢れ出したのは、不衛生の極みみたいな血と腐肉の混ざり合った臭いだ。
衛生観念が死んでいるのか、それほど広くない室内には使い古しの道具や、適当に洗った包帯が干されているのが見える。
そうした、あまりいいとは言えない環境の中に――、
「あそこで寝てるのがお連れさんですよ」
「――っ、ルイ!」
きょろきょろと中を見渡したスバルに、セシルスが奥のベッドを指差した。
一応、医務室的な役割を果たす部屋らしく、スバルが寝かされていたものよりちょっとはマシなベッドが二つ、その奥の方の毛布が小さく膨らんでいる。
逸る気持ちに急かされて、スバルはそちらへ駆け寄った。そこにいるルイに、なんて声をかけるか決めかねながらも急いで。
しかし――、
「――え?」
駆け寄り、その小さな肩を揺すろうとしたスバルは驚きに固まった。
かける言葉が見つからなかったから、ではない。――言葉をかける相手が見つからなかったから、だ。
そこに寝かされ、スバルと共に島に引き上げられたという少女、それはスバルの心を複雑にかき乱したルイではなかった。
小さな頭に目立ちすぎる二本の角と、肩口で揃えられた亜麻色の髪。その小柄な体を包んだ華美なキモノを脱がされ、簡素な肌着だけにされた少女。
それはルイでもなければ、魔都カオスフレームに同行し、あのオルバルトの術で小さくされた仲間のミディアムでもなかった。
そこにいたのは――、
「……た、タンザ?」
震える呼びかけに、眠っている少女の反応はない。
でも、返事がなくても見ればわかる。ルイでもミディアムでもなかった少女、その素性は魔都の女主人であるヨルナ・ミシグレの従者、鹿人のタンザだった。
「なんで、なんでこの子がここに……?」
「あれれ? もしかして僕また何かやっちゃいました?」
想像と違う寝顔を見せられ、驚くスバルの後ろでセシルスがとぼけたことを言う。
もちろん、彼が悪いわけではない。わけではないが――、
「話が違う! 俺は、ここにルイがいるって聞かされて」
「いやぁ、どうでしたかね。僕はバッスーと一緒に島に上がった女の子がいるって説明したはずですよ。それがバッスーの思った子と違ったのは僕も驚きです」
「う、く……」
セシルスのもっともな答えに言い返せず、スバルは言葉に詰まってしまう。
確かに、「連れの少女」と言われてルイのことだと思い込んでしまったのはスバルだ。その点はセシルスに謝るしかない。
でも、これはおかしい。どうして、スバルと一緒にタンザがいるのか。
そもそも、一緒にいたのがタンザということになれば――、
「ルイは、どうなる……」
頭に手をやって、スバルは姿の見えないルイの安否を不安がる。
彼女の正体を話したことで、アベルやアル、ミディアムはルイを危険視している。ヨルナはルイを守ってくれるかもしれないが、それも正体を知らないからだ。
ルイが大罪司教だと知ったら、ミディアムのように彼女だって考えを変えてしまう。
そして、アベルたちがルイの正体を隠しておく理由が、見つからない。
「レムのところに、連れ帰らなきゃいけないのに」
ルイの存在は、記憶のないレムとスバルとを繋ぐ細くて弱々しい糸だった。
無断でついてきたのはルイでも、スバルには連れ帰らなきゃならない理由があった。何より、スバルの中でもルイをどうするかは決まっていなかった。
それなのに、ルイの居場所はわからず、スバルは何故かこの島にいて。
「こんな風にしてる場合じゃない……!」
色々なものがごちゃ混ぜで、スバルの考えはちっともまとまらない。
それでも、この島から今すぐカオスフレームに戻らなくちゃいけないのはわかる。
「できれば、この子も連れて……」
「おや、いいんですか? その子ってバッスーの期待した子ではなかったんじゃ?」
「違ったよ。違ったけど、置いていく理由もないだろ? それに、ヨルナさんだってこの子を探してるはずだ」
愛情が深く、出会ったばかりの幼子のためにすら自分を惜しまなかったヨルナ。
彼女がいなかったら、オルバルトとの鬼ごっこで勝ちを拾うことも、そもそも勝負の土台にあの怪老を上げることもできなかったはずだ。
だから、ヨルナの下にタンザを返してあげるのは、自然な恩返しだと思う。
「意気込みと考えは立派と思いますが、さっきも言った通り難しいと思いますよ」
しかし、そのスバルの気持ちに、セシルスの意見は水を差してくる。
話し方や振る舞いは最初から変わらないまでも、セシルスの話は基本的にシビアだ。とはいえ、そうですかと現実の辛さに挫けてもいられない。
「聞いたよ。出るのは難しいって言うんだろ。でも、船を探したり、さっき言ってた跳ね橋を下ろしたりすれば……」
「跳ね橋は『上げる』んですよ。それも難関ではあるんですが、問題はもっと別の場所にあるんです。最大の問題は呪則ですよ、呪則」
「ジュソク……?」
聞き慣れない単語だが、最大の問題と言われれば無視もできない。
眉を顰めたスバルに、セシルスは「ええ」と自分のキモノの袖に両手を引っ込め、
「呪いの規則、すなわち『呪則』。この剣奴孤島を支配している島主の敷いた、とても厄介で強力な決め事。破れば死! 背けば死! 抗えば死! ――死の呪い!」
「……ぁ」
「それが丸っと島を覆っているんです。おわかりですか?」
その場でくるりと回りながら、袖をひらひらと振りつつセシルスが述べる。
軽々しい言い方で真剣味がちっともないが、それを嘘だと笑い飛ばすには、その死の呪いとやらの存在が、帝国のイメージと合いすぎていた。
「じ、じゃあ、誰もここから出られないってのか?」
「ええ、そうですよ。そうでなかったら僕だってとっくにここから出ていってますよ。そりゃ湖の魔獣は強敵でしょうが、僕はその気になれば水の上も走れますからね。知ってます? 水の上の走り方。右足が沈む前に左足を出してですね……」
唖然となるスバルに、セシルスが使い古された空論を語り始める。
忍者が水の上を走る方法らしいが、この世界の超人たちには実際にできる人も多そうだ。なんて、そんな風に現実逃避している場合じゃない。
「そ、その島主? っていう人が、呪いをかけてるのか? なら、その人に呪いを解いてもらうのは? 俺がここにいるのは手違いだから……」
「ははは、面白い冗句ですね! 手違い間違い人違いだろうと島に上がって呪印を刻まれた時点で剣奴の一人ですよ。剣奴根性が沁みつかないのは役名付きの証と言えますが」
「――ッ」
縋るような言葉を否定され、スバルは思わず息を呑んだ。
『呪い』という単語を聞くと、スバルには嫌な思い出しか湧いてこない。そして案の定、思い出はより悪い形で上塗りされるのが決まったようなものだった。
「冗談じゃ、ない……っ」
知らない間に知らない場所に、大して知らない子と一緒に放り込まれた。それだけでなく、勝手にその知らない場所から出ようとしたら、知らない相手にかけられた呪いのせいで死ぬかもしれないなんて、ほぼ知らない相手に教えられて。
いったい、何を信じて、どうやってこの状況を――、
「……そう、だ。そうだ! セッシー! お前、『九神将』なんだろ!?」
「おや」
「だったら、外と連絡とか取れるんじゃないか? ええと、この寝てる子とか、カオスフレームにいるヨルナさんのところの子で……」
思いつきに目を血走らせ、スバルはセシルスの両肩を掴んだ。
その感触に片目をつむるセシルスに、スバルは自分の恥知らずぶりを忘れる。
さっきまで、セシルスのことを嘘つきのオオカミ少年扱いしていたくせに、今は彼が自称した通りの『青き雷光』であることを期待する。
彼がヴォラキア帝国の『九神将』で、帝国最強の存在で、馴れ馴れしく接してくる人物だから、言うことを聞いてくれるかもしれないと。
それは、本当に現金な子どもの発想で、思いつきでしかなかった。
それ故に、スバルの思惑はいつも通りに空振りする。
あるいは、『幼児化』によって思考が鈍くなっていなかったら、スバルが自分で思い至っていたかもしれない、当たり前の疑問によって。
それは――、
「あのですね、バッスー」
「あ、ああ、なんだ?」
「そのキューシンショウって、なんなんです?」
「え……?」
両肩をスバルに掴まれたまま、セシルスが不思議そうに首を傾げる。
その、言われた話が呑み込めず、愕然となったスバル。そんな様子のスバルに、セシルスは「というかですね」と言葉を続け、
「実は僕、なんで自分がここにいるのかよくわかってないんですよ。たぶん何かしらの展開で物語が動くと思うんですけど、それがバッスーじゃないかってね」
なんて、幼いスバルの頭にさらなる混乱を叩き込む爆弾発言をしたのだった。