2022年8月5日掲載
ワンポイント:2022年8月2日(43歳?)、研究公正局は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授だったジャニナ・ジャンの、2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書に、データねつ造・改ざんがあったと発表した。2022年7月22日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。記事執筆時点では、撤回論文はゼロ。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ジャニナ・ジャン(Janina Jiang、Janina Q Jiang、ORCID iD:、写真出典)は、カナダ出身でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授になった。医師免許所持者で、専門は腫瘍免疫学である。
2022年8月2日(43歳?)、研究公正局は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授だったジャニナ・ジャンの、2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書に、ねつ造・改ざんがあったと発表した。
ネカト発覚の経緯は不明であるが、ネカトの指摘は研究費申請書だけである。出版論文でのネカトは指摘されていない。それで、ネカトを見つけた人は研究費審査員または同じ研究室の上司と思われるが、白楽は特定できなかった。
発覚時期は、2018年9月に申請した研究費申請書でのネカトが最新なので、それ以降の早い時期、つまり、2018年秋(39歳?)に発覚したと思われる。
20xx年(xx歳)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に伝えた。
同時期、ジャニナ・ジャンは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校を辞職した(させられた)。
2022年8月2日(43歳?)、研究公正局は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授だったジャニナ・ジャンの、2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書に、データねつ造・改ざんがあったと発表した。
2022年7月22日(44歳?)から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。
2022年8月4日現在、ジャニナ・ジャンはシーダース=シナイ病院(Cedars-Sinai Medical Center)・研究員である。研究公正局がネカト公表したことを受け、解雇されるかもしれない。
2012年7月9日。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles:UCLA)正門前の筆者(白楽)
- 国:米国
- 成長国:カナダ
- 医師免許(MD)取得:あり
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのマクマスター大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。2001年に大学院入学した時を22歳とした
- 現在の年齢:43 歳?
- 分野:腫瘍免疫学
- 不正申請:2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間
- 発覚年:2018年(39歳?)(推定)
- 発覚時地位:カリフォルニア大学ロサンゼルス校・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア大学ロサンゼルス校・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正申請数:出版論文に不正なし。2022年8月4日現在、撤回論文はない。研究公正局は2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書が不正とした
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 3年間の監督期間(Supervision Period)処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。2001年に大学院入学した時を22歳とした
- xxxx年(xx歳):カナダ(?)のxx大学で学士号を取得。医師免許取得?
- 2001~2005年(22~26歳?):カナダのマクマスター大学(McMaster University)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学
- 2005~2008年(26~29歳?):スタンフォード大学(Stanford University)・ポスドク
- 2010年5月~2018年6月(31~39歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・病理/実験医学科(Department of Pathology and Laboratory Medicine)・助教授
- 2011~2018年9月(32~39歳?):この間の11件の研究費申請書が後にネカトと指摘された
- 2018年7月~2020年8月(39~41歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・セメル神経科学人間行動研究所(Semel Institute for Neuroscience and Human Behavior)・助教授
- 2018年秋(39歳?)(推定):不正研究が発覚
- 20xx年(xx歳):シーダース=シナイ病院(Cedars-Sinai Medical Cente)・研究員:https://archive.ph/iBGYI
- 2022年8月2日(43歳?):研究公正局がネカトと発表
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
実験手技の動画:「マウス生殖管粘膜からのリンパ球の単離」(英語)2分00秒。
JoVEが2012/09/03に公開 → 以下の画像をクリック
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ネカト
ジャニナ・ジャン(Janina Jiang、Janina Q Jiang)は、カナダの大学で医師免許を取得した(推定)。カナダのマクマスター大学(McMaster University)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のスタンフォード大学(Stanford University)・ポスドクを経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授になった。
2022年8月2日(43歳?)、研究公正局は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授だったジャニナ・ジャンの、2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書に、ねつ造・改ざんがあったと発表した。
ねつ造・改ざんは全部、フローサイトメトリーのデータだった。
ネカト発覚の経緯は不明だが、ネカトの指摘は研究費申請書だけで、出版論文でのネカトは指摘されていない。それで、ネカトを見つけた人は研究費審査員または同じ研究室の上司と思われる。
発覚時期は、2018年9月に申請した研究費申請書が最新なので、それ以降の早い時期、つまり、2018年秋(39歳?)に発覚したと思われる。
2022年7月22日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。
研究公正局の発表をそのまま貼り付けると11件の研究費申請は以下の通り。
- R43 CA228629-01, “CTL Based Therapeutic Vaccine to Prevent or Interrupt HPV Mediated Oncogenesis,” submitted to NCI, NIH, Awarded Project Dates: September 18, 2018-February 29, 2020.
- UL1 TR000124, “UCLA Clinical and Translational Science Institute,” submitted to NCATS, NIH, Awarded Project Dates: June 1, 2011-August 31, 2016.
- P01 AI131294-01, “Defining Factors Controlling HIV Rebound,” submitted to NIAID, NIH, Awarded Project Dates: August 10, 2017-July 31, 2022.
- R01 AI126914-01, “A Recombinant Human Vault CTL-Based HIV Vaccine Component,” submitted to NIAID, NIH, on December 23, 2015.
- R21 AI131013-01, “A Novel Cellular Immune Zika Vaccine,” submitted to NIAID, NIH, on June 14, 2016.
- R21 AI131451-01, “A Novel Therapeutic Vaccine for HPV Oncogenesis,” submitted to NIAID, NIH, on June 14, 2016.
- R21 AI131451-01A1, “A Novel Therapeutic Vaccine for HPV Oncogenesis,” submitted to NIAID, NIH, on June 13, 2017.
- R21 AI142068-01, “A Novel Therapeutic Vaccine for HPV Oncogenesis,” submitted to NIAID, NIH, on February 12, 2018.
- R43 AI136224-01, “Development of A Novel Pan-Serovar Vaccine for Chlamydia,” submitted to NIAID, NIH, on April 5, 2017.
- R44 AI126960-01, “Novel Pan-Serovar Vaccine for Chlamydia,” submitted to NIAID, NIH, on January 4, 2016.
- R44 AI128983-01, “Design of a Novel CTL Retargeting Therapeutic HIV Vaccine,” submitted to NIAID, NIH, on April 2, 2016.
なお、「Grantome」で検索したところ、ジャニナ・ジャンは研究代表者としては、NIHからの研究費を受給していない、 Grantome: Search
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2022年8月2日の研究公正局の発表では、ねつ造・改ざんは、各研究費申請書のフローサイトメトリーのデータだと指摘している。
しかし、出版論文でのねつ造・改ざんを指摘していない。
研究費申請書は閲覧できない。仕方がないので、ジャニナ・ジャンの論文からフローサイトメトリーのデータがどんなものかを以下に示そう。
同じデータさ再使用されている場合を除くと、上図のようなフローサイトメトリーのデータでは、データにねつ造・改ざんがあっても、第三者はなかなかワカリマセン。
なお、上記のフローサイトメトリーのデータはジャニナ・ジャンの「2017年1月のVaccines (Basel)」論文の図A2である。このデータがねつ造・改ざんだとは指摘されてはいない。それで、読者が間違えないように従来のスタイルを変えて示した。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年8月4日現在、パブメド(PubMed)で、ジャニナ・ジャン(Janina Jiang)の論文を「Janina Jiang[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2021年の19年間の15論文がヒットした。
2022年8月4日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年8月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジャニナ・ジャン(Janina Jiang)を「Janina Jiang」で検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年8月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジャニナ・ジャン(Janina Jiang)の論文のコメントを「”Janina Jiang”」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》研究費申請書でネカト
ジャニナ・ジャン事件では、ジャニナ・ジャン(Janina Jiang、写真出典)が「どのような状況で、どうして」ネカトをしたのか、見えてこない。これでは、ネカト対策に役立つ点は少ない。
想像をたくましく推察すると、以下の状況かもしれない。
事実として、ジャニナ・ジャンは2021年(42歳?)までに15論文しか発表していない。研究代表者としてNIHのグラントを一度も受給していない。
研究業績とグラント受給だけで判断すると、研究能力が低い、または/及び、研究に熱心ではなかった。それで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of california, Los Angeles)・助教授としては、肩身が狭まかっただろう。それでも、なんとか、テニュア(終身在職権、Tenure)を得て準教授になりたかっただろう。
それで、データねつ造・改ざんしてでも、グラントを受給しようと考えた気がする。
それなら、同時に研究業績を上げようと出版論文数も増やすと思えるが、出版論文数は多くない。ネカト論文も出版していない。というのは、研究公正局は出版論文でのネカトを指摘していないからだ。
想像をたくましく推察したが、もし想像が当たっていれば、どうするとジャニナ・ジャンのネカト行為を防止できたか?
2011~2018年9月(32~39歳?)の8年間の11件の研究費申請書に、データねつ造・改ざんがあったのだ。
もっと、早く見つけるべきだった。
ネカト防止方法は思いつかないが、この事件で日本が学ぶ点が1つある。それは、出版論文でネカトしていなくても研究費申請書でネカトするケースがあるということだ。
日本は、研究費申請書でのネカトを研究不正とみなしていない。
文部科学省のガイドラインには修正すべき点がいくつもあるが、これもその1つで、出版していなくて、ネカトはネカトである。
《2》「撤回監視(Retraction Watch)」の姿勢
研究公正局がネカト者を発表すると、ほぼ100%、同じ日に「撤回監視(Retraction Watch)」が記事にした(と思っていた)。
ところが、ジャニナ・ジャン事件を記事にしていない。
なぜか?
白楽が推察するに、ジャニナ・ジャン事件では、論文内容または出版の問題が絡んでいないからだ。
「撤回監視(Retraction Watch)」は論文撤回がない場合も記事にするが、論文内容または出版の問題が絡んでいることが記事採用の方針という気がする。
【訂正】
・2022年8月7日:「撤回監視(Retraction Watch)」は2022年8月5日に記事にした:UCLA veteran researcher faked data in 11 grant applications, per Feds – Retraction Watch
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2022年8月2日:Case Summary: Jiang, Janina | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年8月5日の連邦官報:FRN 2022-16867 Jiang.pdf 。(3)2022年8月5日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年8月xx日の連邦官報:NOT-OD-22-196: Findings of Research Misconduct
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