――ちなみに、約1年前に発売された『ポケモン サン・ムーン』について少し振り返りたいのですが、いま振り返って、どんな作品だとお考えでしょうか。

大森 登場人物やストーリーに対する反応が思った以上に大きかったですね。システム面でもかなり挑戦的なことを取り入れた作品でしたが、発売から1年経って考えると、システム面の挑戦はおおよそ受け入れられているようで安心しています。

『ポケモン ウルトラサン・ウルトラムーン』について気になることをすべて聞いた! マル秘情報も飛び出す開発者スペシャルインタビュー_05
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――岩尾さんはいかがですか?

岩尾 私も同じで、思い切って変えた部分も多くありましたが、ユーザーさんからの一定の理解が得られて、楽しんでいただけたのではないかなと。

――数百万という単位のユーザーさんがプレイするシリーズなので、そういった挑戦を行うには相当な覚悟が必要だったのではないでしょうか。

大森 20年積み上げてきたものを変えるというのは怖いことです。正直なところ、変えないでそのままにしておくほうが精神的にはずっと楽で。でも、作り手としては、ゲームをよりおもしろくするために変えたほうがいいと思ったことは、勇気をもって変えないとダメだと思っていて。『ポケモン サン・ムーン』を約1年経って振り返ると、結果としては多くのユーザーさんに喜んでもらえたと思っています。

――長く続くシリーズを大きく変えるというのは、並大抵のことではないですよね。ちなみに、『ポケモン サン・ムーン』の新要素で、ここがよかった、とくにうまくいったと思うものはどれでしょうか。

大森 “試練”ですね。いままでの作品のジムとは違い、トレーナーではなくポケモンが主役の謎解きができるという仕組みは、うまくいったと思います。とは言え、初めての取り組みだったので、ぬしポケモンが仲間を呼んだりして戦う要素も、うまくいくのかは実際に作ってみるまでわかりませんでしたが。試練の要素は、その構成上、各ポケモンのビジュアルや特徴がしっかりとできあがった状態でないと、実制作に取り掛かれなかったんですよね。ポケモンのビジュアルは、開発期間の中でもかなり後半に完成したりするので、制作スケジュールの面でもヒヤッとした場面がありました(苦笑)。とにかく苦労が多かった要素なので、ゲームの発売後にカキの試練がユーザーさんのあいだで盛り上がっていることなどを知ったときには、とてもうれしかったですね。

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――確かにあれは、話題になっていましたし、とてもおもしろかったです(笑)。

大森 ジム戦を入れなかったことがユーザーさんにどのように受け取られるのか、正直、不安な部分もありましたが、いい反応が得られたのでよかったです。

岩尾 ちなみに、“ぬしポケモン”が仲間を呼んで戦う要素を入れるかどうかについては、開発中にかなり試行錯誤があったんです。ただ、作り込んでいくうちに、ぬしポケモンと呼ばれて登場するポケモンどうしの連携がうまく取れてきて。その様子を見て、「これはいけるぞ」と確信を得ました。ぬしポケモンにはバトルの強さや“ボス感”を求めていたので、そのあたりがうまく表現できるのではないかなと。

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大森 仲間を呼ぶ要素の仕上がりが見えてきたときにはホッとしましたね。『ポケモン サン・ムーン』の大きな柱として、アローラ地方の豊かな自然の表現にはこだわっていました。そうした冒険の舞台の彩りという意味でも、数多くのポケモンたちが暮らす土地でポケモンが仲間を呼ぶ、という要素はぜひ取り入れたかったんです。結果的には、世界観とゲームシステムを、うまく合致させられたと思います。

――ぜひ岩尾さんにお聞きしたいのですが、スイレンの試練のヨワシは、想定通りの強さだったのでしょうか。

岩尾 そうですね。ふたつ目の試練ということもあり、少し難度を高めにしました。ひとつ目の試練は、試練という概念を知らないユーザーさんに向けて「こういうものです」と説明する意味もあって難度は高くないのですが、ふたつ目の試練は説明も終わったところですし、難度を高めにしたほうがいいだろうと。

――手持ちの構成によってもだいぶ違うと思いますが、油断して臨むとビックリしますよね(笑)。ただ、なりふり構っていられない状況に陥るので、あそこでゲームの中にグッと引きこまれた印象があります。

岩尾 ちなみに、突破口はいくつかあって、たとえば、パラスを連れて試練に臨めば、楽に勝てたりします。そういうものを用意しつつ、ユーザーさんにバトルの駆け引きの楽しさを少し意識してもらいたいなと思ったんです。バトルに創意工夫の余地が生まれやすいバランスを調整した結果、ヨワシが強いというご意見が多くて……。でも、じつは開発の途中では、もっと強かったんですよ(笑)。

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大森 『ポケモン サン・ムーン』では、闇雲に勝負を挑んだら苦戦するけども、戦略を考えたら勝てる、というバランスの強さのボスを意識的に出すようにしました。もちろん先ほどのパラスのように、突破口となる要素もセットで配置していますが。じつはこれ、Zワザを導入したことも関係していて、全体に手強い相手を増やしたほうがZワザを使う場面が増えるだろうという意図があります。

――確かに、Zワザの強さを実感するためには、相応の相手が必要かもしれません。ちなみにZワザの振り切った演出はどなたの発案ですか。

大森 岩尾がネタ出しをして、絵コンテもやっていましたね。

岩尾 ちゃんとした絵コンテを描いて、それを実際にグラフィックに落とし込んだのはデザイナーのスタッフなのですが、その前にこういう感じの動きをするといいかな、みたいなラフは自分もけっこう描いていましたね。そういえば、Zワザを出すときのトレーナーのポーズは、みんなで話し合って決めたんですよ。

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――あのポーズは皆さんで(笑)。それは、ポーズ決めのための会議があったりしたのですか。

岩尾 そのまま“Zポーズ会議”という名前の会議がありまして(笑)。

――ポーズのネタ出し、差別化など、モーションを作る上での苦労はありましたか。

岩尾 とくに苦労はなくて、楽しかったですね(笑)。あのモーションは、ポケモンのタイプに根差して、演出の色味やバリエーションを差別化しているんです。モチーフのイメージがわりと近い、いわタイプとじめんタイプなどは、差別化するのがちょっと難しかったですね。そういえば、エスパータイプに該当する動きは、日本人の発想だと、どうもピンとくるものが思いつかなくて、そこはイギリス出身のジェイムス(ジェイムス・ターナー氏。『リズムハンター ハーモナイト』のディレクターなどを務めるゲームフリークのクリエイター)に聞いてみたりしました。エスパータイプのZワザの動きは、ジェイムスが考えたモーションそのままだったりします。

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――そう聞くと、いろいろなモーションを見返したくなりますね(笑)。

大森 モーションの指定というのは文章で書いても伝わらないので、実際の動きを動画で撮ってデザイナーに渡すんです。『ポケモン サン・ムーン』の開発中は、スタッフが社内アクターみたいな感じでした(笑)。