今回はウイスキー物語の5回目として、ニッカウヰスキーのスーパーニッカを採り上げます。
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夫の夢のため、遙か東方へ

日本のウイスキーの父とも呼ばれる、ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝の妻は、スコットランド人のリタ(ジェシー・ロバータ)でした。

リタは1896年にスコットランド、グラスゴーの郊外で生まれ、四人姉弟の長女でした。
幼少期からあまり体が強くはなかったらしく、通学も困難で個人事業を受けるほどでした。
そんな彼女には、かつては婚約者がいたそうですが、第一次世界大戦で戦死したそうです。
さらには1918年には、医師であった父も急逝してしまいました。

1919年、妹のイザベラ・リリアン(エラ)が、彼女の同級生で、日本から留学してきた竹鶴政孝を家に招待しました。目的は末の弟であったラムゼイに柔道を教えることでした。
政孝はリタに一目惚れし、リタも日本でウイスキーを作りたいという情熱をもつ政孝に惹かれ、二人はリタの実家からの反対を押し切って、ひっそりと結婚をしました。
そして政孝が留学期間を終えて帰国する際に、リタも貼るか東方の国へついていくこととなりました。

リタは全く風習、文化も異なる日本の文化に苦労しながらも、自宅では和服を着て、料理も塩辛や梅干しを自分で作るなど、日本に馴染むよう努力を重ねていきました。
一方で子供には恵まれませんでした。1924年に妊娠するも流産、以降は妊娠すらもなくなってしまいました。結局は養子として房子(リマ)、威を迎え入れることとなりました。

ピンチを救ったアップルワイン

1934年に、竹鶴政孝が壽屋(現:サントリー)との契約を満了し退社した後、北海道余市町に大日本果汁(現:ニッカウヰスキー)を設立した際に、夫と共に大阪から余市へと移住しました。

竹鶴が「大日本果汁」という社名にしたのは、ウイスキーの熟成までに時間がかかり、最初からウイスキーの製造会社と銘打っては出資者の圧力によって未熟なウイスキーを出さなければいけないという、壽屋で経験した失敗があったからで、当初は余市町で採れるリンゴを使ったジュースを製造、販売する会社としたのです。

しかし竹鶴は、当時のリンゴジュースがペクチンなどを抜いた黄金色の物が主流だったのに対して、素材そのままの美味しさを味わって欲しいと白濁した物を出したことで、世間から粗悪品と思われてしまい、売れ行きが悪かったそうです。

その際にリタは、スコットランドでのアイデアを元に、リンゴの加工品としてアップルジャム、アップルワイン、アップルブランデーを提案し、利益拡大の手助けをしたのです。
現在でもニッカではアップルワイン、ニッカブランデーが販売されています。

亡き愛妻のための珠玉のウイスキー

こうして本格的なウイスキー作りのために献身を続けてきたリタでしたが、1961年に肝硬変により64歳で亡くなりました。
政孝は愛妻の死が受け入れられず、泣きわめくなど取り乱していたと言われています。

しかし、リタが本物のウイスキーを作る助けになりたいと日本まで来てくれたことを改めて思い出すと、政孝は余市にある最高の原酒を元に、これまでリタとともに歩んで作り上げた最高傑作を生み出さんと発起しました。

こうして生まれたのがスーパーニッカでした。
初代のスーパーニッカは年間1000本という少ないものでした。それはボトル自体も機械製ではなく、各務クリスタル製作所(現:カガミクリスタル)で作られた手吹きのボトルを使ったことも理由でした。
価格も当時の大卒初任給が15000円だった時代に3000円で販売されたプレミアムな物でした。
1964年には、当時の東京五輪開催に合わせ、五輪の色それぞれのボトルを採用した限定品も発売されました。

カフェグレーン、宮城峡モルトの採用による改良

_DSC4990_011971年にはカフェグレーンを採用し、ボトルも機械製になった新スーパーニッカを発売し、価格を下げて比較的一般にも手に入りやすいものへと変化しました。
その後は宮城峡モルトも加わっていき、香り、味わいが洗練され、更に身近なウイスキーへと変化していきました。

現在売られているボトルは、デザイン自体は2015年、ブレンドは2009年に改められた物になっています。
2009年のリニューアル時には、2001年でウイスキーマガジン社によって評価されたシングルカスク余市10年にも採用された余市の新樽原酒を使い、香りを高めた物になりました。

なお2015年のボトルリニューアル時には、数量限定で初号スーパーニッカ復刻版が発売され、1962年当時の香り、味わいを再現していました。

テイスティング

ストレート

リンゴとブドウの香りが広がり、奥からシナモン、炭を思わせるスモーキーな香りが続き、最後に
バナナ、バニラ、カカオと続きます。

味わいは、アルコールからの辛みはそれなりにあるものの、その後は酸味が全体を支配します。

ロック

レーズンの香りと炭を思わせるスモーキーな香りが共に先んじて、リンゴ、バニラ、バナナの香りが続き、最後にカカオの渋い香りが締めます。

味わいは、ほろ苦さが先に来るものの、その後は酸味が広がり、甘味はわずかに後味として感じられます。

水割り

レーズン、リンゴの香りが先に感じられた後で、ピートと共にバニラの甘い香りもやってきます。
味わいはほろ苦さがあるものの、甘味が前に出て広がります。

ハイボール

ピートからのスモーキーさから始まり、リンゴ、ブドウの香りが続きます。
味わいは苦みが前に来た後酸味が広がっていきます。甘さはほとんど感じられなくなります。

円熟味を感じられるボトル

スーパーニッカ誕生の物語を知ると、尚更このウイスキーの味に特別な物を感じてしまうかも知れませんが、ブラックニッカのラインナップに隠れがちではあるものの、ワンランク上の香りの豊かさと味わい深さがあります。

ハイボールで飲むには重いかも知れませんが、ロックや水割りの方がスーパーニッカの持ち味をしっかり得られるでしょう。

700mL、アルコール度数43度、価格は2500円ほど。
いまでこそ手軽に手に入る範囲にありますが、十分にコストパフォーマンスの高さを感じられるボトルになっています。