腱の構造とオーバーユース腱障害

腱は筋と骨を結ぶ強靭な結合組織で、筋の収縮力を骨格へ効果的に伝達するものです。筋腱移行部では腱は筋細胞と強固に結合し、骨への付着部では骨膜の結合組織とつよく癒合し、一部は貫通線維となって骨皮質に強固に付着します。

一般的に筋の腱は円形に近い索状構造であり、内・外腹斜筋の腱のように扁平なものは腱膜と呼ばれます。腱は牽引力に対して強力で、生理的断面積1平方cmにつき約500kgの張力に耐える能力を有します。

固有感覚受容器であるゴルジ腱器官

筋腱移行部の近傍には固有感覚受容器であるゴルジ腱器官があり、これは小嚢に包まれた数本の腱線維からなり、筋が伸張されたときの情報を求心性神経のIb線維を経由して脊髄に伝達するものです。腱は約75%のコラーゲン線維と5%の弾力線維からなり、少数の腱細胞や血管・神経が分布しています。腱原線維は集合して線維束となり、これが腱内結合組織で結ばれて腱束になります。この腱束の被膜を外腱周膜といいます。

構造上、腱が一直線に走行する部分では、弾性のある疎性結合組織に包まれ、筋膜などに接しています。腱に接している腱傍織は腱とともに動き、外側の腱傍織は筋膜に付着して動きません。そして骨や関節の部分などで腱が方向を変えるところには腱鞘があります。腱鞘は腱を覆う滑膜層と外層の繊維層からなり、腱上膜は腹膜様の構造を示し、腱間膜で結ばれ、内部に滑液があります。また腱間膜からの神経・血管が入ります。腱鞘は滑車の働きをして、腱が方向を変化するときに弓弦様になるのを防ぐ役割を持ちます。

オーバーユース腱障害

病的な状態にある腱組織における疼痛の明確な原因は未だ分からず、炎症が存在する場合の疼痛発生機序のみが解明されており、オーバーユース腱障害で炎症所見のない場合の疼痛発生機序は不明です。これに関して多くの仮説がありますが、エビデンスの多くによると構造学的要因よりも生化学的要因により疼痛が発生するという仮説が多いとされています。

コラーゲンの断裂が疼痛の原因であるならば、すべての腱障害に疼痛が発生するはずですが、例えば靭帯再建術などのための腱採取においても痛みは発生しにくいと言われています。同じく腱の手術的治療後の主観的症状としても訴えられることは少なく、これらの結果からコラーゲンの断裂と疼痛発生との間は関連が薄いと言えます。

正常コラーゲン線維への過負荷が原因か?

また、腱障害のある病変部に囲まれた正常コラーゲン線維には過負荷がかかっており、それが疼痛の原因であるという考え方もあります。多くの部分が腱障害に陥っている腱は、より少ない健常部分の正常コラーゲン線維が大きな負荷に耐えているため、疼痛が発生するという考え方です。

しかし、コラーゲン断裂の大きな画像所見があっても無症状であったり、正常画像でも症状を有することから、これも大きな関連はないと考えられます。生化学的にはコラーゲン断裂自体が疼痛の原因ではなく、これに対する生化学的反応が侵害受容器を刺激することが一番の原因と考えられています。低酸素状態や、細胞内外の破壊された物質、非主要コラーゲン、プロテオグリカンなどが侵害受容器を刺激しているのではないかと危惧されています。グルタミン塩酸やサブスタンスPは、古くから疼痛発生の原因とされてきました。これら以外の腱の疼痛の原因として考えうる要素は、周辺組織との摩擦、腱実質内の圧力増加などです。

しかし、推測の域をでない理論も多く、さらなる研究が必要と考えられます。

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