2022-09-08

男性が受ける差別とは、警戒されることと、信頼という名目で粗末に扱われることです

男性が受けている差別として重要だと私が思うのは、警戒されることと、信頼という名目で粗末に扱われることです。

男にも女にも、男は警戒すべき存在だという感情がうっすらとあります

同時に、男性だったらほっといても大丈夫だろう、という肯定的な信頼の形をとって、男性のことをろくに気遣う必要はないとされがちです。

から世間話でもマスメディアでも、男性への警戒や、過度の信頼による雑で粗末な扱いが平然と行われています

それが積み重なった結果として男性は、敬遠されて孤独人生になりやすく、自尊心も低く、自分たち男性自身への嫌悪も生まれ自分の事すら粗末に扱い、次世代男性もそのように扱うので引き継がれる、などの被害を負っています

保護と抑圧は地続きなのでバランスが大切だ」という話をよく目にしますが、同じように、信頼と放置も地続きなのです。

家父長制は、自立したい女性にとっては抑圧という差別だけれど、自立を望まない女性には保護を受けやすいというメリットとしても働く。

それを裏返したように、男の自由放任は自立できる強者男性にとってはメリットだけれど、弱者男性にとっては助けてもらえないし悲鳴無視される差別として働いています



若者が遭遇しやす実例として、バイトサークル活動が長引き、夜になってしまった場面を考えましょう。

男性は帰り道の安全心配されることは少ないです。

これは、男性の方が不安心配事が少なく、お節介干渉もされず自由に生きやすいというメリットととらえることは確かにできます

しかし同時に、「襲ってくるとしたらたぶん男だ。男を警戒すべきだ」「男の自分は、夜道で女とすれ違う時に怖がらせてしまうだろうから気を使わねばならない」「男の帰り道を気遣ってやる必要はない、男は粗末に扱っていい。自分も男だから自分の事も心配せず粗末に扱うべきだ」という認識を強めることにもなります

実際は、男性でも深夜に一人で帰ることに恐怖を感じる人がそれなりにいるのですけどね。

でも、女性の帰り道は心配されるが男性はそうではないという現実と向き合うたびに、「ああ、俺の夜道への恐怖は認識すべきでない感情なのだ。むしろ俺は怖がる側ではなく怖がらせる側なのだ」という方向へ矯正され、やがて本当に自分でも自分不安や恐怖に気づけなくなります



色々な場面で、不安を感じてないことを前提とした粗末な扱われ方を重ねて、男性自分に対しても他人に対しても鈍感にさせられていきます

たとえばトイレ

男だったら道端で立ちションしても大目に見られがちという自由は、性器露出し排泄を見られたくない感情を気遣ってもらえないという粗末な扱いでもあります

不安羞恥を感じていた男児も、「その辺でおしっこ済ませてきな」と言われたり、仕切りのない小便器や、女性が清掃に入ってくるトイレを使ううちにその弱さを鈍麻させ忘れてしまます

たとえば「男の人がいれば安心だね」という言葉

この言葉はおおむね好意や信頼の表れですが、同時に「男の人は一人でも不安になる必要はないよね、あなた自身が男の人なんだから」という扱いでもあります

一人で行動しても口を挟まれない自由の反面、一人は心細いという男性感情最初から考慮されていない。

このような扱いに触れ続けることで、「俺は男だから不安になる必要はないんだ」と自分勇気づけ、痩せ我慢することが癖になります

夜道にせよ、トイレにせよ、一人行動にせよ、成人男性に直接聞いてもたいてい「いや全然平気だが」と言うだけでしょう。

最初から平気な男性と、鈍麻し平気にさせられた男性と、本当は平気じゃないが痩せ我慢している男性区別することは本人にすら困難です。

この論法は「たとえ当事者男性差別否定しても、それをそのまま受け取るべきではない。男性差別存在する」という無敵論法っぽくなるので好きではないロジックですが、そう言わざるを得ない。

ネットでは、男性セルフケア能力が低い、まずは自分を大切にすべきなのにそれをしようともしない、などという話も多くなっていますが、男性セルフケア能力の低さそれは数十年にわたる「男性自由に行動してよい反面、粗末に扱ってよい」という経験の積み重ねによるものであり、決して男性個人に責を負わせるべきでも、自己解決を求めるべきでもありません。

セルフケアに焦点を当てるならば、社会によって損なわれた男性個人セルフケア能力を育て直すため、社会反省して手厚く協力してあげよう、という話になるのが妥当でしょう。

しかし現状の男性セルフケア論では、セルフケアというスローガンと丁寧な暮らし雑誌は与えてやるのであとは自分で(せいぜい弱者男性内部で)上手くやって成長しろ社会は手を貸す気はないぞ、という正反対の切り捨て論になっています

男同士で友人を作っても、それは楽しさや得意分野を分かち合うには向いていますが、弱みを見せ合い癒し合うことには向いていません。「今日はパーっと遊んで嫌なことは忘れちまおうぜ」のような会話がその典型です。



男性が警戒され、気遣ってもらえない原因には合理的理由がある、という反論はできるでしょう。

ホルモン文化的影響による男性の特徴は色々あります

腕力の強さ、性欲や暴力性の強さ、外見の悪さ(体毛が濃く皮脂が多く禿げやすいなど男性ホルモンが外見に与える悪影響は多い)、コミュニケーション能力共感能力の低さ、など。

しかし、そのようなある程度の合理性があったとしても、統計的差別であることは間違いありません。

統計的差別はどの程度まで許されて良いか、というのは難しい問題なので、別に論じる必要があります

そして、フェミニズム弱者男性論の共闘が難しいのはここが主要な原因でしょう。

性犯罪男性から女性への加害が多い(犯罪全体では男性被害者の方が多いですが)」「腕力が強くて制止が困難」「妊娠リスク」など様々な事実に基づき男性に対する統計的差別をどの程度認めるべきか、フェミニズム弱者男性論は真っ向から対立しています

統計的差別は一切許されるべきでないと言い切る人も時々いますが、それはどの陣営であっても非現実的でよくないと思います

もっとも「社会運営するにはマクロ視点統計的差別必要なことは認めるけれど、その加減を考えましょう」とかぬるいことを言ってると、確かにそうだね考えなきゃねとは言ってもらえても実態現状維持が続くだけであり、統計的差別を一切許すな!と極端なこと言って圧を掛ける方が新規分野の社会運動としては実を結びやすいんでしょうけどね……。



これに近い話題は、今までも男性加害者として認められやす被害者として認められづらいという内容でしばしば語られてきましたが、たいてい注目されるのは悲惨な女→男セクハラ暴力事件がほとんどです。

それも由々しき問題ですが、その根底にあるのは、もっと日常的でうっすらとした「男ならまあ平気だろ。ほら、やっぱり平気だった」という日々の積み重ねではないでしょうか。

特に、「男性なら大丈夫」という信頼により粗末に扱われる場面は見過ごされやすいと思います

フェミニズムでは、「女を自立した人間と信頼して放任しろ、家父長制で口を出してくるのやめろ」というアプローチが行われていたため、その逆である、過度の信頼による放置という男性差別問題視されづらいのです。

女子供は弱いか保護して指示してあげなきゃね」という慈悲的差別に対して、男性が受けやすい「男は大丈夫だろうから心配する必要もないし勝手に自立しててくれ」という扱いは、信頼的差別などと呼べそうです。



この記事は、これまで弱者男性論で強調されてきた、人間関係恋愛経済ジェンダーロール面の困難や、弱者男性存在自体不条理否定される、などの論点対立しません。

警戒されつつ粗末に扱われることは、親しい人間関係恋愛関係ハードルを上げます

経済的貧しさについては、一般的貧困問題に加えて、男性公的にも私的にも助けてもらいづらいし、そもそも助けを求める能力社会により破壊されていることが困窮してはじめて露見するなど、男性特有の困難があります

男性ジェンダーロール問題とくくられるような、男なんだから泣くなしっかりしろと言われるとか、責任を負わされるとかは、「信頼の名目で粗末に扱われる」部分です。

弱者男性自体があまり聞く耳を持ってもらえないしミソジニストとすら言われることや、困ってると認めてもらえなかったり、困っててもそれは受け入れるべき部分だと言われることなども、「信頼してるという名目で粗末に扱われる」の一種ですね。



また、「男性にも弱者がいることは分かったけど、結局どうなることを求めてるんだ、要求を出してくれ」という問いがありますが、運動として歴史の浅い弱者に、的確な要求をする強さをいきなり求めないでください。

現時点では、「どうなったらいいかを、男性に肩入れしつつ一緒に考えてくれる人が増えるのが望みです」としか言えません。

少なくとも私は、男の乳首露出NGしろとか、男性トイレもすべて個室にしろとか、芸人ちんちんポロリシーンやハゲネタダメだとか、「男の人がいると安心」はハラスメントから許すなとか、そういう短絡だったり個別的すぎる議論にはしたくありません。

男女平等に近づけることには合意されるとしても、男性に対しても女性がされているくらい保護する方向にいくのか、女性のことも男性がされているくらい放任する方向に行くのかで、目指すものは大きく変わるでしょう。



私の主観的意見としては、消極的自由を重視して積極的自由には疑問を持っている思想なので、保護よりも自由安全よりも可能性を男女ともに重視する方がよいと思っています

人間に限らず生物が「男性的な物、強そうな物、醜い物」へ抱く警戒と嫌悪は途方もなく根深いので、男性ケアされる男女平等の実現可能性は絶望的であり、女性も雑に扱われる男女平等の方がまだ実現可能性があるだろうという予想のせいでもあります

  • むしろ男性は女性よりずっと気遣われてるし保護されてると思うんだけど、自覚ないのか… 娘はしっかりしてるから放置だけど息子は大人になっても甘やかしまくりの親とか 夫を「産ん...

    • 男性は自覚ないよ、生まれた時から特別扱いだし、周りの男も全部特別扱いされてるんだから それが当たり前なんよ

    • それは、世の中や社会から粗末に扱われる男性を、母親や妻だけが気にかけてくれているということです。 「男は家の外に出れば七人の敵がいる」という慣用句は、逆説的に家の中にい...

      • いや友達作ろうや 草

      • 男の友達作らなくても女が世話してくれるからそうなるだけだけどな 友達との関係はお互い気を遣って面倒だけど女相手だと一方的に気を遣わせられるから楽 逆に女の場合は男相手だ...

        • いや、あなたが勝手に気を使ってるだけですよ 女がではないですよ、あなたがです 気を使ってくれない相手に対してもわざわざ気を使うような精神性から早く降りることをおすすめしま...

  • これは非常によく整理されていて興味深い。 私も男性だが、困難にある同性に対して、病人とか金が無いみたいな分かりやすい理由に対する対処療法的なことしか言えないし、それ以...

  • まーた「男も◯◯があるから」で一点突破狙いかw 不利益の割合を言ってみろよ 夜道で毎回恐怖するより警戒される方が本当に嫌なのか?

    • 男も恐怖してるって話だろ いつも思うけど女って3文字以上の文章読めないよな

  • ↓のブコメで 「物語とかいらん、必要があれば助ける」 っていうブコメにスターをつけてる人が、 何故か男性のことになるとセルフケアが云々言ってるんだよね。 自覚のない深刻な差...

  • 政治家や企業の管理職が男性だらけになっていることも、男性を粗末に扱っていることと同義なんだよね。 男性の過労死や自殺率の高さもそれを裏付けている。 男性の中には、家事や育...

  • 最初はなるほどと読んでたけど、 フェミニズムと弱者男性論は真っ向から対立しています。 ここ見てその後の文章を読む気失った 弱者男性論ってフェミニズムと真っ向から対立する...

  • うまく言語化できないことを言葉にしてて素晴らしい記事。 黒人の友達が「変な人だと思われないようにスーツをいつも着ている」と言ってて、これって日本の男性差別にめちゃニュア...

  • これ去年も見た増田(anond:20210505162132)じゃん。でも丸コピかと思ったら結論部分変えてんのね。変わった結論には賛成。俺も「女を男並みに自由だけど粗末に扱う」方向で行くのがいい...

  • 間違えた。 いいえ。そうではありません。 しかし、そのようなある程度の合理性があったとしても、統計的差別であることは間違いありません。 統計的差別はどの程度まで許されて...

    • いやそれは間違ってる 権力を握っている人が権力を握っているのであって男性が権力を握っているのではない 属性で見るのは差別だよね

    • お茶くみはともかく、ヒールや化粧は女同士の闘争だろ 男は何も悪くないしこういう化粧をしろと命令していないし圧力もかけてない 男は素顔を見たいから

      • 男は素顔を見たいから お前が見ているのはナチュラルメイクという名の厚化粧だぞ

  • これは本当にそう。 男子だけ更衣室がない、トイレが汚い・粗末、トイレや脱衣所でなぜか異性が掃除している、など。 配慮不要な人達という扱いになっている。厳然たる差別。ただこ...

  • なんつーか 「男に奢らせるな。不平等だ」 「男に奢らせるのは有害な女しぐさだ」 って突っぱねる気持ちが微塵もわからん。 男の方が稼ぎやすい世の中だったのだからそうなって当...

    • 稼ぎやすさに男も女もないぞ。なんなら同じ能力なら女の方が稼ぎやすい。

    • でも「女らしくしろ」と言うと怒るのに 男に奢らせるのはおかしいよね

    • 男だけが奢れるほど稼げていたのは昔の話し。 今は、男女ともに稼げなくなった。 男女平等の観点から、等しく貧しくなったのが現実。

  • これだけ「男の場合にのみ強く自助努力・自己責任を求められるのは差別では」と提言されてるのに、 この増田のブコメ欄ですら 「男子放置問題は男子は女子より体力がある上指示に...

  • 「自立を望まない女性には保護を受けやすい」と言いますけど 実際はシングルマザーで苦労している女性ばかり。 シングルファザーは少ないです。 なぜか? 「親権を女が取る」という...

    • 子供が多いのに取られて哀しむ男も多いんですがね

    • これが離婚時の親権は原則として男性側に帰属する。 女性側に帰属させる場合は、金2千万円を前払い養育費として最初に払う。 くらいになれば、世界はもっと平和になった気がする。

      • なるわけねーだろ 女ってどんだけ男に責任を押し付ければ気が済むんだよ 本当にバカなんだな

        • 精子を注ぐことの責任をもっと真剣に考えるべき時代がやってきただけのこと。

          • 精子注ぎ込まれるような状況を作る責任も考えろバーカ 一方的にレイプされたんなら訴えて金とって堕胎しろバーカ 本当に女ってバカなんだな

    • 親権を女が取る場合が多いのはもっともなんだけど、 増田的には女に親権取らせるのが悪い、ってこと? 男は女に子供押し付けてズルい、と思うなら なんで子供を手放さないんだろう...

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