貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
「……って感じで、メイクデビューはマイルを選ぶことにしたわ。目標はやっぱりGⅠよね~♪ いまのところ候補としては朝日杯フューチュリティステークスかしら?」
「なら、直接対決はクラシック級になってからだね。一応聞くけれど、ホープフルステークスに出る予定があったりはしないのかな」
「う~ん、さすがにGⅠを連続出走はちょっと欲張り過ぎじゃないかしら。気持ちの面では走れるつもりでも、脚のほうがご機嫌ナナメになっちゃう可能性もあるでしょ?」
「あはは、たしかに! まぁ幸いにして私たちは自分のペースで出走を選べるからね。1度きりのGⅠレースも魅力的だけれど、熱くなりすぎてムリしないよう気を付けないと」
いつのまに自分のルームは魔王の集会所になったのだろうか。そんなことを考えながら、貴方は守銭奴アピールのために最近新しく購入したカージナルテトラなるお魚さんの水槽を眺めています。
金持ちと言えば熱帯魚とか何種類も飼育しているイメージがあるなと考え、ウマ娘たちも世話をしたがるので初心者向けのオススメを店員さんに聞いて選びました。
なお、ラスボス同士の談笑を気にしているのは当たり前ですが貴方だけです。ルームで寛ぐほかのウマ娘たちにしてみれば、ミスターシービーもマルゼンスキーも特別視するような実績はまだありませんので当然でしょう。
話の内容としては“大舞台で勝負できたら嬉しいね!”という実にウマ娘らしい会話でした。実現するのであれば、それは貴方としても是非とも観戦したいレースです。
純粋にウマ娘ファンのひとりとして、強いウマ娘同士が火花を散らしてデッドヒートを繰り広げる様子を見逃すワケにはいきません。
そこまで考えたところで、貴方はとある疑問にたどり着きました。勝負するのはいいとして、いったいどちらの得意距離に合わせるのだろうかと。
クラシック三冠ウマ娘を目指しているミスターシービーのトレーニング計画は中距離と長距離を走るためのメニューであり、貴方もそのつもりでアドバイスをしていました。
マイルを走れないことはありませんが、充分な加速を得ることができないままラストスパートを仕掛けても、マルゼンスキーの速さに追い付くことはほぼ不可能であると予測できます。
マルゼンスキーはこれまで重賞勝利などの具体的な目標を掲げていなかったことが影響しているのか、脚質に合わせたマイルに特化した走り方になっています。
感覚として自分がどの距離に適性を持っているのか理解していたのかもしれませんが、そのせいで中距離を走るための筋肉が不足しています。自由に走っていた弊害とも言えるでしょう。
お互いにメイクデビューの距離についても話していましたし、脚質の問題にも気が付いているはず。ならば解決策も用意しているでしょう。担当でもない貴方が気にする理由などありませんが、単純に気になるものは気になるのでした。
貴方はふたりに質問しました。中距離以上で戦えばミスターシービーが、マイル以下で戦えばマルゼンスキーがほぼ100パーセント勝つことになるが、その辺りはどうするつもりなのか……と。
穏やかな空気が流れていたルームが一瞬で静寂に包まれますが、好奇心旺盛な貴方はそんな変化を感じとることもなく言葉を続けます。
得意な距離がハッキリと違うのだから、必ずどちらかが挑戦者となりどちらかが迎え撃つ形になる。能力そのものに大きな差はないが、脚質の影響で事実上は格上の相手にケンカを売るようなもの。
それで勝とうとするのならば、自分の中にある可能性を引きずり出すぐらいのことはしなければならないだろう。それで、どちらが限界に挑戦するのか……と、貴方はふたりへ問い掛けました。
ルームの中にはトレーニング効果で集中力が高まったのでしょう、黙々と宿題をこなすハルウララのペンの音だけが響いています。
そんな冷えきった空間の中、好戦的な笑みで互いを見るミスターシービーとマルゼンスキー。そんなふたりの変化に周囲のウマ娘たちは冷や汗が止まりません。
どうしてそう息をするように挑発するんだお前はと抗議の視線を貴方に向けますが、残念ながらその思いが届く可能性を引きずり出すことは東京優駿に勝つよりも難しいでしょう。