貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
キングヘイローという馬を語るのであれば、高松宮記念の勝利だけに注目するのは早計であると言わねばなりません。
相手が悪かった、という表現もあまり褒められたものではないでしょう。ですが、同世代にはその活躍が“黄金世代”と評されるほどの名馬が揃っていたのも事実です。
GⅠの勝ち鞍こそひとつですが、全ての距離である程度の結果を出していることから、秘めたる能力は素晴らしかっただろうと称賛する、あるいは……惜しむ声があるのも納得できるでしょう。
ウマ娘のキングヘイローも潜在能力は一流を自負するに値するものです。もちろんトレーナーのプレイスタイルにもよりますが、芝であれば短距離から長距離まで戦場を選ぶことなく走れる数少ない万能キャラクターです。
そんな彼女は、適性の低いウマ娘で有マ記念に挑戦する通称“有マチャレンジ”の入門としてオススメされることがあります。育成ストーリーでも専用イベントが用意されていることもあり、きっと多くのトレーナーたちがキングヘイローで有マ記念を勝利したことでしょう。
さて、そんな記憶を貴方は持っていたものですから、キングヘイローは自信満々に堂々と有マ記念に挑むものとばかり考えていました。面倒見の良い彼女の性格は承知していましたので、ハルウララの世話のついでとばかりに長距離トレーニングに巻き込んでいたのです。
話を聞けば、どうやらキングヘイローは有マ記念が特別なレースであることから、自分が選ばれるか不安を抱えている様子。
もちろん貴方の返答は“イエス”で迷うことはありませんでした。ウマ娘から競馬の世界を知った貴方は生粋の競馬ファンではありませんが、有マ記念と宝塚記念がファン投票で選ばれることは知っています。
ならば問題はない、というのが貴方の判断です。キングヘイローの走りであれば、一流のウマ娘に相応しくあらんとする彼女であれば、勝敗などという括りを超えて大勢の人々を惹き付けるに決まっていると確信しているからです。
ですが貴方は自分の考えをそのまま伝えてはいけません。なので簡潔に「そんなことは心配するだけムダだ。お前がお前であり続ける限りどうせ走ることになる」と、淡々とした口調で告げました。
「────ッ!? あなたは、もう……他人事だと思って簡単に言ってくれるんだから! いいわ、そこまで言うのなら見てなさい! このキングをッ! 一流の走りをッ! 有マ記念のウィナーズサークルに立つ姿を讃える権利をあげるわッ! これで……満足かしらッ!?」
それでいい、と。いつものようにうっかり口を滑らせそうになった貴方ですが……なんと、ギリギリで踏み止まることに成功しました! 実にグッドです、もしかしたら糖分の摂りすぎで脳が8割ほど休息しているのかもしれませんね!
このまま彼女に同意してしまえば、まるで悩めるウマ娘を励ます善良なトレーナーの如き振る舞いになってしまうことにすんでのところで貴方は気が付いたようです。
ならばどうするかと一瞬だけ悩んだ貴方ですが、ここでとあることを思い出しました。キングヘイローに用意されていたイベントは有マ記念の勝利だけではありません。
腕を組んで不機嫌そうに貴方を睨み付けるキングヘイローに対して、煽るように薄く笑みを浮かべながら「それでは満足できない」と貴方は返答しました。
否定されることは想定外だったのでしょう。キングヘイローが呆気に取られたような表情になりますが、珍しく思考が冴え渡っている貴方は畳み掛けるように挑発を続けました。
──有マ記念に勝利しただけでは物足りない、全ての距離で勝利を掴んだ“世代のキング”の走りが見たい。
額を押さえて露骨なタメ息を吐いたキングヘイローの姿に満足した貴方は、心の中で静かにガッツポーズを披露するのでした。貴方の脳は今日も活発に活動しているようです。