貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
恐るべきことに、いまのところ貴方の計画は順調に進んでいるようです。
例えば貴方は現在、ウマ娘たちのトレーニングとして2本の縄跳びを使ったダブルダッチを行っています。調子にのったトウカイテイオーとアイネスフウジンが小技を交えながら跳んでいるため、傍目には遊んでいるようにしか見えないのです。
もちろん身体はちゃんと鍛えられています。メジロライアンからも「ナイスマッスルですよトレーナーさん!」とお墨付きをもらっていますし、ハルウララは筋肉痛という形でわかりやすく成長を実感できてご機嫌です。
ですが、真面目に練習をしているトレーナーやウマ娘たちはそのことを知りません。なので視線にはハッキリと侮蔑の色が含まれているものですから、貴方はとても満足しているようです。
例外として秋川やよい理事長は相変わらず何故かニヤニヤと笑っているような気がしましたし、特徴的なヘッドセットを装着した芦毛のウマ娘が獲物を見つけたネコのような視線を送ってきている気もします。
もちろん貴方はそういう部分だけはちゃんと見落とすことができますので、認識できないモノは存在しないという扱いでも問題は無いでしょう。
◇◇◇
より守銭奴トレーナーとしての立ち振舞いを強化するべく、パイの実と合わせてアルフォートも食べながら貴方が寛いでいると、控え目なノックのあとに真剣な表情のキングヘイローが入室してきました。
どうやら貴方が本気でハルウララが有マ記念を走ることができると考えているのか確認をしに来たようです。
実のところ、貴方はハルウララを勝たせるのは自分の仕事ではないと考えています。いずれトレセン学園を追放されることを夢見る貴方は、それはやがて現れるであろうハルウララのトレーナーの役目であると信じているからです。
少なくとも貴方の中では自分からウマ娘へ関わるつもりは無いというスタイルなので、ハルウララの夢も本来であれば手助けするつもりはありませんでした。
正直に話せばキングヘイローは貴方に失望するでしょう。そして貴方にとってそれは望ましい展開です。故に、貴方は自身の考えをそのまま伝えました。自分はハルウララというウマ娘を信じてもいないし疑ってもいない。彼女が有マ記念の勝利を望むから、自分はそれを前提にトレーニングを組んでいるに過ぎない……と。
返答を聞いたキングヘイローの表情が強張るのを見て、貴方は自分の語彙力に満足しているようです。
少し厳し過ぎる言い方かもしれないと心に引っ掛かりを覚えもしたようですが、貴方が自分を肯定する能力に無駄に秀でているように、キングヘイローは他者を肯定する能力に素晴らしく秀でています。
これぐらい突き放すような表現でなければ万にひとつでも好意的な解釈をされてしまうかもしれないという貴方の判断は間違ってはいないでしょう。判断は。ですが──。
「なら……あなたは……私も、有マ記念を走る前提でトレーニングを組んでいるという認識で……いい、のかしら……?」
探るような声色に、さすがの貴方も動揺を隠しきれなかったようです。何故なら貴方は、キングヘイローは当然の権利のように有マ記念を勝ちにいくものだと思い込んでいたからです。