貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ふおん。

 トウカイテイオー。

 

 モデルとなった馬が三冠馬を期待されながらも怪我により菊花賞を逃したことから、ウマ娘のトウカイテイオーもまた怪我に苦しむことになったことを貴方はもちろん知っています。

 

 知っているからといって、現状で特にアドバンテージはありません。蓄積量が100に達したとき、彼女の脚が残念なことになる事実は変わらないのですから。

 これにはさすがの貴方も困ってしまったようです。たかが11%、などと悠長なことは言っていられません。未だシンボリルドルフすらデビューしていない時期で1割を超えていると考えれば充分危険でしょう。なぜデビュー前のシンボリルドルフが生徒会長に就任しているのかを考えるのと同じくらいには危険です。

 

 貴方にはチート能力がありますので、その気になればトウカイテイオーの脚部を某有澤重工の社長が惚れ込むレベルでカチカチにすることも可能です。しかしそれをしてしまった場合、彼女のトレーナーが現れたときに問題が起きる気がして仕方ありません。

 トレーナーとウマ娘が支え合い、怪我の苦難を乗り越えて夢に挑む。その過程で生まれた信頼関係という尊い輝きが失くなったとき、トウカイテイオーの未来にどのような悪影響が出るかわからないのです。あと、三冠ウマ娘を達成できるかどうかのドキドキを味わうことができなくなるのも問題です。

 

 ついでに言うなら治療したことがバレて、トウカイテイオーからの信頼度がほんのわずかにでも上昇することを懸念してもいます。

 もっとも、本人はもちろん学園の誰もが気が付いていない怪我の可能性を消したところで貴方の想像するような事態は起こり得ないのですが。そこに思い至るだけの賢さを有しているのであれば、そもそもトレーナーライセンスを獲得していないでしょう。採用通知を無視してダストシュートすら実行できなかった貴方に期待するのは酷な話なのかもしれません。

 

 完璧な解決策を有したまま試行錯誤を続けるという世界で最も贅沢な時間の使い方に貴方が勤しんでいると、どこか暗い表情のマヤノトップガンが話し掛けてきました。

 

 

「ねぇ、トレーナーちゃん。テイオーちゃんの脚は……大丈夫、なんだよね……?」

 

 

 なんということでしょう! まさかマヤノトップガンがトウカイテイオーの脚の不調に気が付いていたとは! 

 

 しかしどうやって彼女はそこにたどり着いたのでしょうか? 実はトウカイテイオーに自覚がありマヤノトップガンに相談していた、という可能性はもちろんあります。

 ですが、仮にそうだとしても貴方は自分に相談を持ち掛けられた理由がわかりません。脚の怪我はウマ娘にとっては深刻な問題です。せめて学園に勤務している保険医にでも相談するべきでしょう。いったい何故? 

 

 

「だって……マヤ、わかっちゃったんだもん。ほかの人たちと違って、トレーナーちゃんだけ……テイオーちゃんの走る姿を見てるときにね? ほんのちょっと、本当にときどきだけど──スッゴく心配そうな顔してるんだもん」

 

 

 これだから天才は。

 

 貴方は心の中で嘆きつつ、どうやってマヤノトップガンとの会話を切り抜けようか必死で考えるのでした。もちろん既に手遅れ、まるで無意味なのでご安心ください。


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