貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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さらにつぎ。

 ミスターシービー。

 

 モデルとなった馬は三冠馬を達成した素晴らしい駿馬であり、ウマ娘世界ではあの“シンボリルドルフ”よりも格上っぽい雰囲気を醸し出している描写がチラホラあるラスボス風味の片割れです。もうひとりはもちろんマルゼンスキーのことですね。

 

 彼女が現れたことに対して貴方は困惑しました。当然です、何故なら自由に走ることを愛しているであろうミスターシービーならば、金のためにトレーナーになったと公言した己は視界に収めるのも不快な存在のはずだからです。

 しかし、彼女が入室のさいに「匿ってほしい」と言っていたことを考えると無下に扱うことはできません。何事も無かったとしてもどのみち追い払うような真似は基本的にヘタレの貴方にはできないのですが。

 

 ともかく、理由を彼女から聞かなければなりません。もしも不審者が学園内に侵入してミスターシービーに危害を加えようとしているならば、貴方はそれらの脅威を物理的に排除しなければならないからです。

 

 

 

「いやぁ、実はスカウトがしつこくて辟易してしまってね? 私の走りを褒めてくれるのは嬉しいんだけれど、なんというかね。みんな……勝つことばかりしか考えていないのが気になっちゃって」

 

 

 貴方は苦笑いするミスターシービーの様子からおおよその流れを察することができました。

 

 この世界がアニメとアプリのどちらを根幹としているのかは定かではありませんが、ミスターシービーというウマ娘であればレースを楽しむことを大切にしていることでしょう。

 ならば、勝利や栄光や名誉といったモノには基本的には無頓着であるでしょうし、それらを望むトレーナーたちの言葉はあまり耳に入れたくないものであると理解することが可能です。

 

 どうしたものかと貴方は悩みます。どうやらミスターシービーはまだ担当が決まっていないようで、ならばメイクデビューを走ることも叶わないということです。貴方はウマ娘の走る姿は見たいと考えているので、この状況は好ましくありません。

 

 貴方は彼女の説得を試みました。トレーナーの役割についての理解を促し、彼ら彼女らの熱意についてどうにか肯定的に考えてもらおうとなけなしの賢さを無駄遣いすることに躊躇いはありません。

 もちろん貴方の言葉は彼女の心に響きません。それは貴方の信頼度がマラソン大会の一緒にゴールの約束程度にすら値しないこともそうですが、ミスターシービー自身がその辺りの要素を理解した上でどうしても受け入れられずにいるからです。

 

 ウマが合わないのだから仕方ありません。ウマ娘なので。貴方はミスターシービーの説得を諦め、彼女がここを避難場所とすることを認めることにしました。

 貴方には彼女をスカウトする意思はありませんし、彼女もまた事情を考えれば担当を願い出る可能性は皆無でしょう。つまり、貴方の目指せ追放! という計画にはなんの支障もないのです。

 

 しかし、いつまでも居座られるのはさすがの貴方でも居心地がよろしくないようです。貴方は彼女に対し、避難を認める代わりに期限を設定しました。納得のできるトレーナーが見つかるまではと、貴方のルームを利用することを許可してしまったのです。

 この対応は悪役トレーナーとしては無能以外のなにものでもありませんが、チートは使えても頭の具合はなにも成長していない貴方は感謝の言葉を発するミスターシービーに飲み物まで用意してしまいます。

 

 

 さて、ミスターシービーにクソ甘対応した貴方ですが、一応真面目に不真面目なトレーナー生活は実行できています。問題は同じゲーム機のコントローラーをミスターシービーも握っており、ふたりで並んでお菓子にまで手を伸ばしていることですが。

 

 そのような状態が数日も続けばどうなるか? 

 

 

「ねぇトレーナーさん。もしもキミが私の担当だったらどうする? やっぱりクラシック路線での勝利を──三冠ウマ娘を目指すのかな?」

 

 

 こんな質問を投げ掛けられもします。これにどう返答するかは今後の運命に関わるかなり重要な案件なのですが、果たしてゲームに夢中な貴方が正解を選べる確率はどの程度なのでしょうか?


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