岩手大学教育学部菊地洋准教授の研究不正問題で、大学の論文削除方法が国際ルールに違反していることが発覚した。
菊地教授は〈新型コロナ感染予防のための「自粛」と国民の権利―憲法学の視点からの検討―〉と題する論文を岩手大学の紀要(論文誌)である『岩手大学文化論叢』の2021年2月発行第10輯(しゅう)に発表、論文は同大学のレポジトリ(岩手大学がインターネット上で公開している論文データベース)を通じて一般に公表された。
ところが、共同通信配信記事の一部と酷似した部分が発覚、同社からの指摘を受けて、今年2月、菊地准教授の意向によりレポジトリから削除された。現在はリンク切れになっており、論文の内容を見ることはできない。なぜそうなっているかもわからない。
学術論文をインターネット上で共有する際の国際ルールに、説明なく論文を削除してはならないというものがある。そのひとつがDOI(ディーオーアイ)と呼ばれる仕組みだ。論文に世界共通の符号をつけることで論文が行方不明になることを防いでいる。
岩手大学のレポジトリもこのDOIを採用しており、問題の菊地論文には「10.15113/00015326」というDOIの符号がついている。
そして、日本国内でDOIシステムの運用に担うJLC(ジャパンリンクセンター)は、論文を削除する際の手順としてこう説明している。
・登録したDOIを削除することは出来ません。
DOI登録したコンテンツ公開を取り下げることは起こりえると思います。
公開を取り下げた場合でも、DOI のランディングページは維持してメタデータの公開を継続し、アクセスが保証されるようにします。
ランディングページには、コンテンツ公開を取り下げた事実、理由を明記します。もしランディングページのURLが現在のDOI登録と異なる場合は、JaLCでURLの更新・登録処理を行ってください。
いったんDOIの符号をつけて論文公表した以上、論文を取り下げる場合でも、取り下げの理由説明をつけてメタデータ(現データ)が閲覧できるようにしなければならない。つまり、この論文はこういう理由で取り下げられたのだと閲覧者がわかるようにせよというのがルールなのだ。
菊地順教授の論文の場合、岩手大学(レポジトリの責任者は図書館長)は、こっそりこれを削除した。いわゆるリンク切れである。これはDOI運用違反ではないのだろうか。
現在、大学に見解を質しているところだ。