ガンダム拳炸裂!!(機動戦士Vガンダム)

登録日:2019/02/24 Sun 23:46:53
更新日:2022/08/08 Mon 19:39:17
所要時間:約 9 分で読めます




ガンダム拳炸裂!!」とは、コミックボンボンで連載されていた岩村俊哉による漫画版『機動戦士Vガンダム』のエピソードの一つ。
コミックボンボン1993年9月号に掲載された、連載順で言えば第5.5話に相当する回である。

ちなみに本作は詳しくは後述するが、過去リリースされたコミックスには収録されておらず、それ故に正式なサブタイトルは付けられていない。
本項のタイトルは連載当時の表紙に記載されてたアオリ文を便宜上、サブタイトルとして扱ったものなので注意。


解説

色々破天荒なことで知られる*1漫画版『Vガンダム』のエピソードの一つであるが、今回ピックアップされてるのはズバリ「格闘ゲーム」。
確かに初代ガンダムの時代から格闘戦は多々挟まれていたが(ククルス・ドアンの島とか『ΖΖ』のタイガーバウムとか『CCA』のラストとか)そんなもんでは満足できなかったのか、
本エピソードでは連載当時ボンボン誌上でも人気が爆発していた『ストリートファイターⅡ』や『ファイナルファイト』のパロディがワンサカ詰め込まれ、
ゲームの登場人物クリソツのオリジナルキャラクターが出るわ、必殺技がまんまパクリそのものだったりと、まさにやりたい放題の一作。

過去刊行されたコミックスでは収録が見送られ、「やりすぎてコミックス収録が不可能になったのでは」とも言われていた。
……が、2022年になって作者のツイートにより未収録の理由が明かされ、「コミックス化の際に1話分削らざるを得ず、一番他へ影響のない話を選んだ」というのが真相だった。
いずれにしろ事実上の封印作品となってしまっており、どうしても読みたければ、現状ではボンボンのバックナンバーを探し出すか、もしくは国立国会図書館に行くしか手段はない。
著者の岩村も自身のTwitterでこのエピソードについて「単行本に収録されず残念です」とコメントしている。

ちなみに話の構成は、前回第5話のラストから直接続くものとなっており、
コミックスでは本エピソードが未収録になった都合、第5話と第6話を続けて読むと若干の違和感を抱いてしまうかもしれない。

2022年7月21日には著者のTwitterにてフォロワー2000人突破記念にギンザエフ大尉とギギムの書下ろし新規イラストが掲載された。


ストーリー解説

まず扉絵。龍のオーラを纏った右拳を天へ突き上げるヴィクトリーと「ガンダム拳炸裂!!」のアオリ文


前話において撃墜された宇宙要塞カイラスギリーより脱出した戦艦スクィードを、Vガンダムで追撃するウッソ。
スクィードにシャクティが乗っている事を感じ取ったウッソは、彼女を必ず助け出すべく敵艦を追って宇宙を駆ける。

スクィードが入っていったスペースコロニーにまでたどり着いたウッソは、ガレージから全然用心せず潜入するも
すぐさまザンスカール帝国のMSサン・ドージュに見つかってしまい絶体絶命……
と思った矢先に、サン・ドージュはウッソを追いかけてきたジュンコのガンイージ、マーベットのVガンダム・ヘキサの射撃によって蜂の巣にされる。
マーベットはウッソにすぐ帰るよう説得するも、彼からコロニーの中にシャクティがいるであろう事を知らされ、捜索に協力することに。

コロニー内に潜入した一行は、一先ずMSを森の中に隠すと、何処とも知れないコロニーの街中で探索を続ける。
大きな街の中でどうシャクティを探したものだか路頭に迷う一行であったが、ウッソは偶然にも車に乗せられていたシャクティを発見。
ウッソとシャクティはお互いの存在に気付くも、容赦なく車道を走った事で交通事故を誘発、憲兵隊に捕まってしまう。
シャクティもそのままクロノクルが運転する車に連れられてしまい、そのまま見失ってしまった……

そうこうしている間に、マーベット達は町の建物に掲げられた「Z」の文字をあしらった国旗を見て驚く。
その国旗は紛れもないザンスカール帝国のもの……そう、このコロニーは事もあろうにザンスカール帝国の本国であったのだ。
自身を羽交い絞めにする憲兵隊を「おらーっ はなせってんだよ! てめえ」と蹴散らしたウッソは、マーベット達が軍から奪ったスペースボードで逃走。
ウッソはマーベット達にシャクティを追うよう懇願するが、ザンスカール帝国本国の真っ只中ではそんなことは無茶以外の何物でもなく、
止むを得ず一行はシャクティが生きていたという事実のみを喜びつつ、スペースボードで追いかけてくる憲兵隊から逃れることを先決とした。
ウッソは涙目になりながら「うおおーっ ちっくしょー!!」拳銃を追手に乱射する――――


一方その頃、一人のザンスカール軍人が、コロニーに侵入して暴れまわるウッソ達の捕獲命令を受けていた。
どこぞの市長によく似た逞しい体躯を有する彼の名は、MS格闘王・ギンザエフ大尉
愛する妻と娘の応援を受け、コロニーを守るべく出動する―――

ギンザエフの娘
「パパ! 敵をやっつけちゃってね!」

ギンザエフ
「まかせとけ! パパはMS格闘王だぞ、このコロニーはパパが絶対にまもる!」


憲兵隊に追いかけられていたウッソ達は、何とか森に隠していたMSのもとに辿り着くと、乗り込んで形勢逆転。
逆に一目散に逃げだした憲兵達を容赦なくガンイージのビームライフルで殲滅しようとするジュンコだったが、
次の瞬間、突如として出現したMSの奇襲を受け、ビームライフルを取り落としてしまう。
そのMS……ギギムのパイロットは「おろか者!!コロニー内で銃を使えば、コロニーの住人にどれだけ迷惑がかかるか!」と怒り心頭で
ガンイージを羽交い絞めにし、「ギギムセメントクラッシュ」なる関節技でガンイージをバラバラに捩じ切ってしまった。

MSを関節技にとって破壊する様から、マーベットは敵がMS格闘家(モビルスーツグラップラー)である事を看破。なんで詳しいんだマーベットさん
いかにも、ギギムを操縦していたのはMS格闘王のギンザエフ大尉。
「私はMS格闘王ギンザエフ大尉…コロニーの平和を守るのが私の使命だ。ここで無法を働く者は誰であろうと許さんッ!!」
コロニーの平和を守るため、無法の限りを尽くして治安を乱すウッソ達の前に立ちふさがったのだ。
マーベットもまた、自分達も一般市民に迷惑をかけるつもりは無いと返答し、ビームライフルを捨ててその意を示す。

敵がリガ・ミリティアの新型MSである事を察したギンザエフは、MSを破壊せず捕獲することを宣言。
怒り心頭となったマーベットはVヘキサで殴り掛かるも、渾身のパンチはギギムに避けられてしまう。
ギンザエフの駆るギギムはそのまま両手を開き構えを取ると……

ギンザエフ
「MS拳法奥義! 内破砕衝撃波(バーニングソニック)!!」

ギギムの放った波動拳内破砕衝撃波(バーニングソニック)を浴びたマーベットは、その衝撃で失神してしまう。
これこそMS格闘王ギンザエフの誇る、機体を破壊せずに中の操縦者のみにダメージを与える一撃必殺の技であった。
戦闘不能に陥ったマーベットのVヘキサを鹵獲するギギム……が、次の瞬間、予期せぬ乱入者がギンザエフを襲った。

ウッソ
V(ヴィクトリー)昇鷹拳(ホークバスター)!!」

ウッソのVガンダムが放った渾身の昇龍拳V昇鷹拳の一撃を食らい、謎の鷹のオーラで機体の胸と右目に傷を付けられてしまうギギム。
とっさに体をかわしたにも関わらずダメージを受けてしまった事実を前に、流石のギンザエフも冷や汗を流す。

ウッソ
「オレをわすれてもらっちゃこまるぜ・・ この・・ ストリートファイター! ウッソ・エヴィンさまをな!!」

いつからパイロット辞めてストリートファイターになった
かくしてMS格闘王・ギンザエフと、MSストリートファイター・ウッソの激突のゴングが鳴る。FIGHT!!
ガンダムファイト! レディー、ゴー!!

まず手始めにサマーソルトキックヴィクトリーソルトキック*2をギギムに放つVガンダム。
ギギムはガードした腕にダメージを食らいつつも立木めがけて跳ね飛ばし、鹵獲を断念し必殺の百裂張り手MS拳奥義・千裂張手(サウザンドプレッシャー)を放つ。
無数の張手の残像に困惑してしまうウッソだったが、迷うことなく本物の拳を見極め、受け止める。

ギンザエフ
「なにィ!? 実体をみやぶった!?」

ウッソ
「オレにはわかるんだよ! 本物の拳には闘気(オーラ)がある!」

ギンザエフは負けじと、スーパー頭突き超重量頭突き(ギガトンヘッドバット)を放つも、
Vガンダムはそれをかわすと逆立ちし、スピニングバードキックスピニングヴィクトリーキックをギギムに浴びせる。
……が、ギギムはその攻撃を耐えぬくと、逆に逆立ちしたままのVガンダムを羽交い絞めにしてしまう。
渾身のギギムセメントクラッシュにより、バラバラに粉砕されてしまうVガンダム。これで万事休す……

と、次の瞬間、バラバラになったはずのVガンダムが再度合体。引き裂かれたのではなく、ドッキングを解除して羽交い絞めから逃れたのだ。
遂に堪忍袋の緒が切れたギンザエフ、怒りに任せてギギムの拳を振るうが……

ウッソ
「まってたぜ!! あんたが冷静でなくなる瞬間を!」

ギンザエフ
「うおっ」

二人の戦いを観戦していたマーベットとジュンコは驚愕した。
何故ならギギムに対してVガンダムが取った構えは、他でもないギンザエフのバーニングソニック……

ウッソ
「バーニア全力噴射(フルバースト)!! 電龍衝撃波(フルバーニアンソニック)!!!!」

バーニアの噴射も上乗せしてVガンダムの放った渾身の真空波動拳電龍衝撃波(フルバーニアンソニック)を受け、遂に戦闘不能になるギンザエフ。
ウッソはギンザエフの技を一度見ただけで、さらにパワーアップさせて自分の技として会得したのだ。

ギンザエフ
「オレの負けだ・・ いいファイトだったぜ。 追手が来る前にいけ!! ウッソ・エヴィン! またどこかの戦場であおう」

自身の敗北を認めたギンザエフはウッソ達に対し、ザンスカール帝国の追手が来る前に早くコロニーから逃れるよう促す。
またどこかの戦場で会うことを約束したウッソはギンザエフに感謝すると、マーベットとジュンコを連れてザンスカール本国から逃れるのであった。
いつか必ず、捕らわれのシャクティを助ける事を誓いつつ……


ギンザエフ大尉のファイティングスピリッツに敬礼!!



登場人物


ご存知、破天荒なことに定評のある主人公。
今回はストリートファイター・ウッソを自称し、ギンザエフの駆るギギムを相手にガンダムファイトストリートファイトを繰り広げる。

  • マーベット・フィンガーハット
ギギム相手にVヘキサで素手で挑むも、ギンザエフの必殺技を受けてあえなく敗退。その後はジュンコと共にギャラリーを務めた。
何気に彼女もVヘキサでコークスクリューパンチを見せている。

真っ先にギギムにガンイージを破壊されてしまい、マーベットと共に二人の試合を観戦。
ちなみに漫画版では事実上本エピソードが彼女の最後の出番であり、以降は第10話にていつの間にか戦死して死者として語られるのみである。

ザンスカール帝国の街中で車に乗せられていたところをウッソと鉢合わせるも、結局ウッソが引き起こした交通トラブルのせいで離ればなれに。

シャクティを乗せた車を運転していた。ウッソとの一瞬の邂逅を果たしたシャクティをたしなめる。

  • ギンザエフ大尉
本エピソードのキーパーソン
ザンスカール帝国の軍人なのだが、一言で言うならザンギエフをもじった名前と、マイク・ハガーの容姿(と本田の技)を持った人物
MS格闘王を自称し、ウッソ達との戦いではお互いに数々のストⅡを盛大にパクった必殺技の応酬を繰り広げ、物語のカオス化に貢献した。
ラストではウッソに対してまた何処かの戦場で再会することを誓ったが、エピソード自体がお蔵入りになったため結局その約束が叶う事は無かった

話のインパクトで見逃されがちだが、彼自身は極めて高潔で真っ当な武人であり、「コロニーを守るべく出撃」「妻と娘の期待を受けて戦う」
「コロニー内での発砲は民間人にも被害が出るとリガミリティアを説教」「潔く負けを認め、戦いが泥沼化しない様にウッソ達に退避を勧める」など
人格面でも登場作品が間違っているレベルで素晴らしい好漢であった。*3


登場メカ


ご存知主人公機。
本エピソードではストリートファイター・ウッソの操縦の下、数々のパクリ技格闘技を披露した。

ジュンコとマーベットの乗機。ギンザエフの駆るギギムの前に成す術もなく戦闘不能となる。

  • ギギム
ギンザエフの愛機。こちらも内破砕衝撃波(バーニングソニック)を始めとする数々のパロディ必殺技でVガンダムを迎え撃った。

見た目は『Vガンダム』本編のシャイターンそのもの。何故よりにもよって砲撃戦用の機体で格闘するのか。
ちなみに「ギギム」の名称自体はシャイターンのデザイン段階における仮ネームであった事が後年判明しており、
著者の岩村も「(シャイターンの)正式名称が決まる前に原稿を上げなければならなかった」という裏事情を明かしている。
辻褄を合わせるなら、シャイターンの試作機を、ギンザエフが自分専用に格闘戦仕様としてカリッカリにチューンナップした機体なのかもしれない。

なお、『ガンダムビルドファイターズ』にも、それらしき機体(ガンプラ)が登場している。



追記・修正は、内破砕衝撃波(バーニングソニック)をラーニングしてからお願いします。

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最終更新:2022年08月08日 19:39

*1 ウッソの容姿や言動がアレだったり、ビヒモス(見た目はコンティオ)やドッゴーラ改の戦いにガンダム世界から見たらものすごい間違ってるツッコミ所があったりなど…

*2 ただし回転方向が逆なので踵落とし

*3 まぁ、本編でも救いようのない悪役も多くいれば、クロノクルやファラ・グリフォン、ハズ・カイフ、ワタリー・ギラやゴッドワルドやマチス・ワーカー等比較的良識的な人物もかなり登場しているが…。ちなみにマチスは、「家族がいる」「第二の故郷(カサレリア)を守るべく戦う」等共通点があるが、こちらは、最終的に死亡している。