防御特化と合流。
全員が完全にばらばらに吹き飛ばされたようで、薄暗い中でサリーは警戒しつつ、開けた場所を目指していた。
「予選が個人戦だったのはこのせい……メイプル、は大丈夫そうだけど……マイとユイが心配だなあ」
ツキミとユキミが上手く守ってくれればいいと思いながら、サリーが移動していると前方の地面に黒い魔法陣が現れ、そこから悪魔というのが相応しいような巻角と鋭い爪を持ったモンスターが現れる。モンスターはばさりと羽を広げると、サリーの方に飛びかかってくる。
「朧【拘束結界】!……っ、効かないか!」
サリーは突き出された腕をするりと躱すと、脇腹を深く斬り裂いて距離を取る。それを見てモンスターは気味の悪い声を上げると、地面にさらにいくつかの黒い魔法陣を展開し、そこから少しサイズの小さい悪魔を呼び出した。
「朧【火童子】」
サリーは武器に炎を纏わせて、ダガーのリーチを伸ばすと真剣な表情で向かい合う。
「後ろからも来てる……!」
戦闘音に引きつけられたのか、背後からも何かがガサガサと近づいてくる音が聞こえ、サリーはいよいよもって集中力を高める。こんなところで倒されるわけにはいかないのだ。
何よりもまずは背後のモンスターの数を把握しなければならないと、ほんの一瞬背後を見ると、そこにはモンスターと戦いつつこっちにやってくる見覚えのある姿があった。
「フレデリカ!?」
「あっ、やっぱりサリー?助かったー、前衛探してたんだー」
フレデリカはそのまま駆け寄ってくるとぴたっとサリーと背中合わせになる。
「……せめてそれ処理してから来てよ。あと何でここが?」
「ごめんねー。ま、詳しい話は後でー」
「いいよ。それより今はこれを片付けないと!」
一時共闘ということで、二人はそれぞれ武器を構え直す。そして、悪魔達が飛び込んでくるのと同時に二人も迎撃を開始した。
「【多重炎弾】!ノーツ【輪唱】!」
「朧【渡火】【影分身】!」
フレデリカが撃ち出したいくつもの炎がノーツによってさらに増加し、炎を纏ったサリーがモンスターに連鎖する炎を放ったことで薄暗いフィールドが一気に赤く照らされる。
「防御は……いらなそー【多重水弾】!」
範囲攻撃もない数体のモンスター程度ではもうサリーの相手にはならないようで、フレデリカは気を配りつつ、サリーの火力を引き出せるようにモンスターを倒していく。
いつもはドラグに使うことが多い【多重障壁】も自分に使えるのなら被ダメージを抑えて戦える。フレデリカがダメージを軽減し、回復しを繰り返し隙を見て攻撃していると、背後から一際大きい声が上がり、大物の悪魔がサリーに斬り伏せられていたところだった。
「こっちも終わらせないと、ノーツ【増幅】!」
フレデリカがいつものようにいくつもの火球を生み出すと、ノーツのスキルによってそれがより大きくなり強く燃え始める。
「ふぃー、何とかとどめー」
それは残っていたモンスターを焼き尽くし、二人が炎を消すとともにフィールドには薄暗さが戻ってきた。
「ふー、助かったよー」
「一人でも勝ててたでしょ」
「あはは、バレてたー?ま、ちょっとだけキツかったのは本当。ペイン達の位置も遠いしさー」
「あ、それ。何で分かったの?」
「んー、そういうスキルがあるんだよー。サリーのことだからだいたい察してるとは思うけど。で、連絡も取ったけど遠くてさー」
フレデリカとしては何かあった時に頼れる味方が欲しかったという事だった。サリーとしても、二人でいることのデメリットはないため、同行を拒否する理由もない。
「合流しないとダンジョンも行けないしー、そっちも合流したそうだけど」
どうやって合流するつもりかと、フレデリカはニコニコ笑う。
「連絡手段もないでしょー?ほらそっちは諦めて、私達の方に来ないー?」
フレデリカは向こうの方だと指差して、サリーに同行を提案する。
「んー、まあちょっと待ってね、あ」
「えっ、花火?イベントかな」
サリーとフレデリカからは遠いものの、大きな音とともに星一つない空に輝いたその光ははっきりと見えた。
「あれ、メイプルの目印なんだよね。あそこか……」
「えぇ、花火持ち込んでるの……」
「いや、あれはメイプル本人が爆弾くくりつけて爆ぜてるだけ」
「……ん?………??」
フレデリカが内容を咀嚼しているうちに、サリーは歩き出してしまう。
「あ、待って待ってよー!ちょうど同じ方向だし、一緒に行こー?」
「ま、いいよ。やばそうだったら置いてくかもだけど」
「くそー……合流手段もなさそうだったし上手く協力させられると思ったのになー」
いつも上手くいかないとぶつくさ言っているフレデリカを連れて、サリーはメイプルの元へと向かうことにする。
「ドラグはあんまりだけどー、ドレッドとかは索敵能力高いし誰か見つけてるかもね」
「一時的に味方につけるなら、強いプレイヤーの方がいい……か。ま、選べるだけプレイヤーが見つかればだけど……ノーツが把握してくれる範囲はかなり広そうだね。これは不意打ちも効かなくなったかなあ」
「ノーコメントでー。あ、近くに面白いのいるけどー見てくー?」
「その顔……モンスターでしょ。行かないよ」
「バレたかー」
ただ、それが分かるというだけあって、フレデリカはノーツの能力が続く間モンスターを上手く回避して先導していくのだった。