●岩田さんのこと
──糸井さんと『MOTHER』のお話をしていると、どうしても岩田さんのことが過ぎります。糸井さんの中での、岩田さんの大きさがわかる言葉をいただければ。
糸井 いまも「岩田さんだったらなんていうかな」って、電車の中で、永田くん(編集部注:永田泰大氏。ほぼ日スタッフとして取材当日は糸井氏に同伴。)と、「その話は岩田さんだったらこういうね」と話をしていました。もうすぐ岩田さんの誕生日(12月6日)なんですよ。あれだけみんなが哀悼の気持ちを表していましたが、みんなと共有する岩田さんの話をもう一度今年中にしておかないと、その気持ちがそのまま宙に浮いている気がするので、また一度こっちの世の中に寄ってもらってみんなと話し合うみたいな、そういう気分の日があったほうがいいなと思っています。「だってまだ今年だよ?」という気持ちになりますね。とんでもなく悲しいですよ、まだ。これは家族でもない。家族のほうがもしかしたら浅いかもしれない。大人になってからの友だちというのは、やりとりの分量がとんでもなく多いですから。
──大切な友だち。電車の中でされていた話というのは?
糸井 すごいくだらないことにさえも、「岩田さんだったらどう言うか」という話をしていたんです。「あらゆる場所に岩田さんがほしいよね」ということがよくあると。いまの野球界にも岩田さんがほしいと。岩田さんだったらどうするか。(モノマネしながら)「そうすると坂本くんが、んー、クラブみたいなところに行ってるっていうのは、一回別勘定として考えましょう」みたいな。「クラブ。おもに何が目的なんでしょうかねえ?」(笑)。
──(笑)。それはなんと反応すればいいか難しいですね。
糸井 ファミ通はオトナを取材できない媒体なんですよ。ゲームの話をたとえば桜井(政博)くんとするんだったら大丈夫でしょ? 僕はオトナなので、オトナを取材できるようにならないと。そこはこれからの課題ですよ。あ、俺、いいこと言ったよ? キミたち自身はオトナなのに、残念だねえ。
──今後の課題として受け止めておきます……。では、あらためて。先ほどの質問に近いのですが、『MOTHER3』が9年前、その前『2』はさらに12年前。シリーズとして26年が経過しています。どういう感覚なのでしょう?
糸井 感慨だらけですよ。僕が忘れてもお客さんが忘れていませんから。いま正直にいうと、『MOTHER』は僕のものだと思っていません。お客さまのもの。何でもそうですが、プレイしている人たちの中でいまも生きているというのは、スゴいことですよね。その人たちのものでもあります。この前もアメリカから500人くらいでホテルを借りきって『MOTHER』パーティをやりに来た人たちがいました。彼らはドキュメンタリーを作っていて、僕のところにも取材に来たんです。24時間バンド演奏をして、観客参加型の『MOTHER』の演劇をやりながら、ホテルの人たちも協力してパーティを開いて。
──スゴい熱量ですね。
糸井 でも、それは僕がやらせたわけじゃないですよね。その人たちの中にある『MOTHER』のほうが、何も考えていない僕よりも、いまは濃いということ。「へーっ」と思ったときに僕は、彼らについていくしかないわけです。こんなことは作ったときには想像できませんよね。そういうことをしてもらえる種を撒いたという意味では、本当によかったと思います。みんなのものなんですよ、本当に。

──そもそも1作目を作った動機は?
糸井 『ドラクエ』ですよ。「オレもああいうのを作りたい」と思ったんです。こんなに自分を夢中にさせるなら、自分が作ったものならもっと夢中にさせられるんじゃないかと思って。
──『2』のラストバトルに“いのる”を入れた経緯は?
糸井 なぜかはわからないけど、そうしたかったんだろうね(笑)。数字の量でどっちが勝ちと決めることしか舞台の裏ではできないから、大きな数字を乗り越えるようなことをしたかったわけで。“いのる”というのは、どっちが多いかということではないですよね。それは強くない人たちの夢でもありますよね。同時に逃げ場でもありますが。あれは妄想みたいなもので、映画だったらやりかねないけど。あまり深く考えたのではなく、わりと素直にああなっています。「違うことをしてやれ」というよりは、違うことを始めたくて、作ったものだから。主人公がただの少年だというのがすでにヘンで、誰かの生まれ変わりでも、何々の血を継ぐ者でもなければ、いわゆる貴種流離譚というものでもない。スタートからヘンなものを作ったので、だから長持ちしたのかもしれませんね。
──プレイヤーが自分を投影しやすいんですね。
糸井 ものを作る人、表現する人の「俺がいてもいいだろう」って言い訳が表現なんですよ、だいたいね。『MOTHER』は「オレってヤツがいてもいいだろう」という言い訳なんですよ。そこでなんでもない、ただのバッグを背負った子どもで、「こういうヤツがいてもいいだろう」って話ですよね。
おにぎりはシャケが好き
──今後の『MOTHER』で考えているアクションはありますか? 今回のようにほぼ日グッズとしてだとか。
糸井 何も考えていない(笑)。「手帳のカバーのひとつに『MOTHER』があったら、喜ぶ人がいるなあ」、「ショーウインドウにそういうものを混ぜていたらおもしろいよね」と思って始めただけでしたが、お客さんがここまであっちに連れていったんですよね。僕は、言い出しっぺで後追いですね。そうしたら、思ったより反響があって、「たいへんだ!」って。前のがまたほしいって人もいるし、「つぎはなんですか?」って聞かれる時代になっちゃったので、考えますよね。不思議だねえ。
──今日もあっというまに売り切れていましたね。
広報さん ポーチとケースは11月25日からほぼ日ストアで再販しますので。
糸井 ポーチとケースは、「こういうの作っていいのかな」って思ったもん。「なんでも作るねえ」って。どせいさんのネクタイもあるもんね。あれ、ちょっと欲しいんだ(笑)。
──考えてみればゲーム以外でも、糸井さんが考え、生み出したもので、ずっと楽しんできた気がします。いまはゲームではないようですが、ゲームに近い何かでつぎに糸井さんが僕らに見せてくれるおもしろいものって何でしょう?
糸井 考えのなかに「ゲームをやってた人がおもしろがるかもね」というものはいつでも意識にありますよ。僕自身もゲームやりたいもの。きっとおもしろいものがあると思うんですよね。それは僕が作るのではないけど、誰かに作ってもらうとかも含めて、デジタルな情報と戯れるっていうことについては、やめていないですよ。
──種のようなものをお持ちだと。
糸井 ひとつはイヌやネコのアプリを作っています。α版くらいはできているんですが、それぞれの家のイヌやネコの写真をみんなが見られるもの。Facebookのイヌネコ版で、ノライヌとかノラネコも含めて、ぜんぶ登録していこうという考えかた。理想は地球上のイヌやネコがすべてその中に入っていて、迷子になったらその地域の人が探してくれるとか、そういうことをやれるようなアプリを作っています。それはどっかでゲームに隣接するところがあると思います。
──そろそろお時間ということですが、最後に……。
糸井 おにぎりはしゃけが好きです。
──(爆笑)。しつこくゲームの話を……。1作目から3作目までは「作りたい」と思ったから作ったというお話をいただきましたが、つぎの『4』を作らないという宣言は、完結したという思いがあるからでしょうか。
糸井 あの世界は終わりました。ああいうことをやる遊びは終わった。これから作るとしたら、ひねり出すことになっちゃうと思うんですよ。ひねり出すというのはケツの穴に悪いよね。
──負担かかりますね。
糸井 『3』のときに、「よくあれだけ出たな」と。できると思って作り始めているんですが、時間をおいて、合宿したりして、「よくあれだけのものが何とかなったなあ」と思うので、「さあ『4』は……」と言われたら、「絶対にあり得ない」と。二度否定したって言われましたからね(笑)。やっぱり大スターみたいな歌手とかでも、10枚アルバムを出したとしたら、4枚目くらいからあとは、あんまりいい曲を作っていないですよね(笑)。
──(笑)。
糸井 「オレはいつも元気だ」とか、「スゴいでしょ」といっても、アルバムを出せばニュースになるから売れるんですよね。でも、みんながコンサートで聴きたいのは、最初から3枚目のアルバムの曲で。ローリングストーンズでもそうだよね。たまに4枚目以降にもいい曲があって。デビューから3分の1のアルバムから8曲、後ろ3分の2から2曲みたいな。それらをぜんぶ足したものが求められていると。仕事じゃないのはいいですよ。仕事にしちゃっていたら、『4』も『5』も作っていたと思いますよ。(自分のような)そういう人がたまにいたほうがいいんですよ。
──(笑)。それでは最後にひとつ。店舗イベントが12月6日までしばらく続きますので、来場されるお客さまに何かお言葉をいただければ。
糸井 ご苦労さま、かな(笑)。
とぼけつつも、ひとつひとつの言葉を選んで答えていただいた。その後、販売フロアにサプライズで顔を出し、「えっ? えっ?」など来店したお客さんの注目とフラッシュを浴びながら視察を済ませた糸井氏。
同じ形での『MOTHER』続編は偶然が重ならないとなかなかな難しそうだが、『MOTHER』の世界を切り取ったグッズや、いま糸井氏が楽しんでいるものがゲームに隣接した形になって現れたりなどは、いくらでもあるだろう。これらを、のんびり気長に、ほんのり楽しみに待っていようではないか。
追記:取材後、記者の自宅の本棚から『情熱のペンギンごはん』を探し出し、数十年ぶりに再読。「私の大好きなどせいさんのオリジナルが、この本のペンギンなの!?」なんて気分で読むと、必ず面くらう。……糸井さん、スゲェや。
2015年11月22日5時30分 誤字修正しました。