●『MOTHER』のこと

ストアで販売イベントが行われているそのバックヤードでインタビュー。インタビューというよりは、近所でもちょっと有名な、にこやかでオトナの魅力あふれるおじさんに、若僧の相手を少ししてもらうといった体。他メディアと合同で話を伺ったため、質問内容が急に飛んだりなどするがご了承されたい。
──コピーライターの本業から埋蔵金の発掘や、みうらじゅんさんの発掘など、本当に多様なお仕事をされている糸井さんですが、その糸井さんの仕事キャリアの中で、『MOTHER』はどういう位置付けなんでしょう?
糸井重里氏(以下、糸井) なんていうんだろう、僕の冒険の中で『MOTHER』がいちばん使えるツールを生み出してくれた気がしますね。『MOTHER』があるから、人と会えるということもあるし、『MOTHER』があるから、「この人、どういう人なんだろう?」と思った相手にわかってもらうこともできるし、『MOTHER』を好きな人に僕が会ったときに、「これが好きな人なんだ」と思いながら会ったり、ほかの仕事は代理人として仕事をしていることが多かったわけですから、『MOTHER』がいちばん、使いものになる道具を作ってくれました。「作ってよかったな」と思います。だって外国の人と会うときでも『MOTHER』って言うと楽だもんね。このあいだ、スタンフォード(大学)の女の先生とお話をしていて、「もちろんやった」と言っていただきました。自分の本のサインに、「いいゲームを作ってくれてありがとう」と書いてくれました。
──海外の方にも『MOTHER』の魅力がキチンと伝わっているということですね。ローカライズのとき、糸井さんのひとつひとつの言葉のニュアンスも残して英訳されているんですね。
糸井 そういうことですね。あいだに立ってくれる人が僕にいろいろ教えてくれていますし、翻訳した方にもお会いして、「これをこういうふうに工夫した」などお話をしています。
──今回のイベントはすごい行列ですね。
糸井 こんな狭いところでやれば、こうなるよね(笑)。なんとか公会堂じゃないんだから。
──老若男女を洋の東西を問わず、これだけ続く人気の要因はなんだとお考えでしょう?
糸井 いまの暮らしとか、いまの場所とかと、地続きだからじゃないですか。時代劇の衣装を着ていても、生活が始まったら脱いじゃいますよね。でも『MOTHER』だったら、朝トーストを食べているときにも抜け出るということがないですよね。『ドラクエ』なら『ドラクエ』をやっているときに、「早くご飯食べて」と言われたら、目が覚めるじゃないですか。でも『MOTHER』なら、「早くご飯食べて」と言われても、自分の好きな食べ物のことを思い出してもいいし。自分もそうだったしね。

──どせいさんのファンなのですが、モデルなどあるのでしょうか?
糸井 ないない。ないけど、子どもですよね。幼児がどせいさんであり、『MOTHER』のもうちょっと前に、『情熱のペンギンごはん』というマンガを作っているんですが、そのときのペンギンも、どせいさんのもとになっていると思いますね。無垢で、凶暴で、すごい知性というのがペンギンだったんだけど、どせいさんはそこから“凶暴”を抜いた、無垢で天才みたいな、急にロケットとか作っちゃうし、「つくりましたのだ」とか言ってね(笑)。
──ペンギンとどせいさんはひとつながりなんですね。
糸井 ああいうのが好きなんですよね(笑)。人にバカにされているけど、本当はスゴいというのが。自分がつねに書いちゃう世界ですね。
──どせいさんのiPhoneケースやamiiboは出ないのでしょうか?
糸井 あるんじゃないですか? (グッズを作るにあたって、)僕は任天堂に、「ああしてくれ、こうしてくれ」とせっついたことは一度もないんですよ。岩田(聡)さんと会っているときも、それについては友だちだから余計に言わないようにしていたところもあって、向こうが思いついたら、「いいですか?」と言われて、「あ、ぜひ」という感じだったので、こういう(取材の形で)お話が出ると、誰かが見ていて、「喜ぶ人がいるんだろうな」と思ったらamiiboができるかもしれない。amiiboは確かに欲しいですね。ただ、いまはゼロ。進んでいるものではないですね。うちで作れるようなものは、「あ、いいね」と思ったら作ることはできますね。ただ、iPhoneケースは懲りているんだよね。すぐに形が変わっちゃうから(笑)。
──あああ(笑)。
糸井 「なんでこれ変わるんだよ(笑)」みたいなね。
──どせいさん語を使いこなすコツを教えてください。
糸井 やっぱり降りてくるのを待つんじゃないですかね。やさしさとか、社会にあんまり参加していない感じとか、そういうのをよーく心得て、「いきますのだ」とか言っていれば大丈夫なんじゃないですかね(笑)。文字ですよ。やっぱり。文字を身に着けることでしょう。
──糸井さんがどせいさん語を生むときも、やっぱり降りてくるのを待っているのでしょうか?
糸井 僕はそのつど本人なので、僕が間違ったときは、それが正しいということになりますから(笑)。それは作家の有利な部分なんですよね。「そのケースは、サ行変格活用です」とか。 「これは五段活用しなきゃダメじゃないんですか?」、「いや、それは変格です」と。「とっとりけん」と急に僕が言ってもいいんです。「なんでですか?」と訊かれたら、「いいんです」と答えます(笑)。
──「そうかよ~ん」など私も20年来使っています(笑)。
糸井 わかる(笑)。僕もそうなんだよね。僕は「マンダム」を使っていますからね。おいしかったとき「マンダムだなあ」とか言っていますからね。
──『MOTHER3』の発売時、週刊ファミ通の記事で伊集院光さんと対談されたときに、「『4』はありますか?」と聞かれたときに、「ないです、ないです」と二度否定されて「息を止めて走りきれるような競技には出たいけど、いまはあり得ないですね」と答えられています。それが9年前。いまの糸井さんとゲーム、もしくは『MOTHER』との距離感をお聞きしたいんです。
糸井 たとえば、昔、愛人とのあいだにできた子どもがいたとして、その子はすごく利発そうでイケメン。彼が「お父さん、ぼくちょっとやりたいことがあるんだよね」、「え、急にお父さんと呼ぶなよ」みたいなやりとりから始まって、「とにかく話を聞かせてもらおうじゃないか」となったときに、「おもしろいな、それは」と思ったら動くんじゃないですかね。
──(笑)。
糸井 でもそんな愛人が僕にはいませんから。要するに、そのくらいいろいろな偶然が六重ぐらいに重なったときに、僕の心臓が激しく動き始めたら、それは「やろうか」となるかもしれません。「ただし、僕はそんなにしつこくやらないよ。少し後ろに下がって見ているよ」ということはあるかもしれません。誰かアメリカなど海外の人が、「ずっと『4』が作られつつある」と言っていますけど、ウソに決まってるじゃないですか、あんなもの(笑)。
──(笑)。
糸井 (作るのが)どれだけたいへんなことか。端々だけで作れているように見せかけるのは、僕も『MOTHER2』でさんざんやりましたよ(笑)。
──(爆笑)。
糸井 『3』でもやったし。ぜんぜんできていなくたって、あのくらいできているかのように発表できるわけですから。「何割くらいできていますか?」と訊かれて、「どうかな。4割、うーん3割」なんて言ってね(笑)。イベントで遊べるものを出すくらいはできる。スゴいできているかのようじゃないですか。それに比べて、ネット上で発表されている『4』は何もできていないわけですよね。
──どなたかが発表しているんですね?
糸井 「勝手に作っている人がいる」という話を伝える人がすでに入れ込んでいて、「それについて糸井さんはどう思いますか? 認めますか?」と。できているなら止めるわけにいかないじゃないですか(笑)。
──アプリでもっと短距離走的に作るということは?
糸井 それは愛人とのあいだの子どもがヒョイと現れて、すごく利発そうでイケメンで(笑)。彼が「企画書を見てください」と言ったとき、僕が「いいじゃない!」と思ったらあるんじゃないですかね?(笑)。ただ、愛人がいない。以上ですよ(笑)。
──要素ひとつ欠けても、先ほどの六重の偶然を欠いてしまうことになるわけですね。
糸井 そうでしょうね。あとは“ゆきずりの女”とかね。愛人ですらないけど、子どもができたとかね。で、「お父さん」って言うイケメンだったりね(笑)。
──イケメンは必須条件なんですね(笑)。
糸井 じゃないと物語としておもしろくないですよ。僕はおじいさんだから、イケメンじゃないと絵にならない(笑)。
ゲームのこと
──『MOTHER』でいちばん好きなキャラクターは?
糸井 それはやっぱりポーキーですよ。そこに込められたものの分量が群を抜いて、いちばん多いですから。ネスより多い。ネスはプレイヤーが(気持ちを)乗せていくものだから。
──ポーキーは人間そのものだと以前にお話をされていますね。
糸井 いまでもあの“ぜったいあんぜんカプセル”から絶対に出て来ないはずなんだけど、「あれが出たらどうなるんだろう?」とポーキーについて考えたりするとおもしろいですしね。「なんで出るだろう」と考えただけでおもしろいですね。
──でもその回答を出せるのは糸井さんしかいらっしゃいません(笑)。
糸井 誰かが考えたものをこっそり俺が考えたかのように言うとかね(笑)。「それはいいな」って。昔、愛人に生ませた子どもが……(笑)。
──最近遊ばれたり気になっているゲームなどはありますか?
糸井 いまはぜんぜんしていません。あえてするとしたら、『マリオメーカー』とか、『ピクミン』とか、「宮本さんが何をしたいのかな」と、横目で見ていたいというところはあるので、宮本さんが何をしているのかは気にしていますね。あとはダウンロードして遊ぶモバイル系のものは、「どれどれ」とやって、すぐにやめますね。6分でやめますね。
──ずいぶん具体的な数字ですね(笑)。
糸井 5分よりは長いかなって(笑)。
──(笑)。いまゲームが糸井さんにグッとこない理由は?
糸井 難しくて本気にならないとできないものと、ずっと『テトリス』のバリエーションでしかないんじゃないのというものと、そのどっちも要らないんですよね。僕は掛け合いがやりたいんですよ。僕が「はーん、ははははっ」って言ったら、「はーん、ははははっ」と返る。そういうものを遊びたいわけで、そういうことをさせてくれるものが本当にないですよね。『ピクミン』にしても、最初は簡単でも、だんだん囲碁のようになってきて、「これオレ、ほかのことをやってなきゃいけないんだよね、いま」となってしまって途中で脱落しますし、モバイルもしなきゃならないというものでもないし。
──掛け合いが足りないんですね。
糸井 ファミ通とかゲームを作ればいいんですよ。「あれがおいしい」だの、「マズい」だの、グルメみたいなものでしょ? そういう人は1回、「おまえが店をやってみろよ」と言われればいいんですよ(笑)。
──やっているんですけどね(笑)。
糸井 つまらなかったんでしょ(笑)。でも本当にどこがダメかがわかるだけでも、「ファミ通が作ったゲームはどこがダメだったんだろう?」とほかの人にとってもいい資料になりますよね。
──帰ったら「糸井さんにこう言われました」としかるべきところに話してみます。
糸井 KADOKAWAの歴彦さんとか、川上(量生・カドカワ社長)くんとか(笑)。DWANGO・ファミ通合同でテントを張って合宿してさ、ゲーム作りのキャンプをやればいいんですよ。内部の人が取材に来たら、「それはまだ言えない」とか断ろう(笑)。
──先ほどの掛け合いというものをもう少し具体的に教えていただけますか?
糸井 あなた方がもうちょっとおもしろいことを言えば、それは僕との掛け合いになりますよね。いまは質問をされて、おもしろい球を投げている状態。そちらからもいい球がくれば、もっとコミュニケーションになりますよね。コミュニケーションそのもののおもしろさですよ。だから奥さんが来るとかすると、もっとおもしろい掛け合いになった(笑)。