高橋治之容疑者、森喜朗元首相

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 果たして東京地検特捜部は、森喜朗元首相(85)を逮捕するのか──関係者だけでなく有権者も、強い関心を示しているようだ。例えばTwitterで「森喜朗 逮捕」を検索してみると、驚くほど多くのツイートが表示される。

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 まずは全国紙や通信社の報道を振り返ろう。8月23日と24日の紙面から、見出しだけをご紹介する。

【8月23日】
◆「森氏にAOKI前会長を紹介」 高橋元理事、地検聴取で説明(共同通信)
◆東京五輪・パラリンピック:五輪汚職 「森元会長にAOKI紹介」 元理事、選定前か 森氏側は会合否定(毎日新聞・夕刊)

【8月24日】
◆五輪汚職 「森氏にAOKI側紹介」 高橋容疑者 スポンサー契約前(読売新聞・朝刊)
◆五輪汚職 森氏との面会記録押収 高橋元理事「AOKI側の依頼」 特捜部(産経新聞・朝刊)
◆「森氏に青木氏を紹介」 組織委元理事 地検聴取に説明(東京新聞・朝刊)

 東京地検特捜部は8月17日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会元理事で電通元顧問の高橋治之容疑者(78)を受託収賄の容疑で逮捕した。

高橋治之容疑者、森喜朗元首相

 逮捕容疑は、東京五輪のスポンサー契約をめぐって、紳士服大手の「AOKIホールディングス」の前会長らから総額5100万円の賄賂を受け取っていたというものだ(註1)。

 更に同日、AOKIホールディングス前会長の青木拡憲(ひろのり)容疑者(83)、前会長の弟で同社前副会長の青木宝久(たかひさ)容疑者(76)、同社専務執行役員の上田雄久(かつひさ)容疑者(40)の3人が贈賄の疑いで逮捕された。

「長い付き合いになる」

 担当記者は「マスコミが注目しているのは、高橋元理事とAOKI側の贈収賄事件に、森元首相も加わっている可能性が出てきたからです」と言う。

「報道によると、青木前会長は高橋元理事から東京五輪のスポンサーになるよう提案され、それに応じました。ところが、契約手続きがなかなか進まない。AOKI側が電通に問い合わせると高橋元理事から連絡があり、森元首相との会食が設定されたそうなのです」

 高橋元理事は都内でステーキ店を経営している。この店で高橋元理事は、青木前会長に大会スポンサーになるよう提案した。そして両者と森元首相が会合を持ったのも、このステーキ店だった。

 朝日新聞の記事(註2)から、3人が会合でどんな会話を交わしていたか見てみよう。

《会食の終わり際、青木前会長は「末永くお願いします」と述べた。高橋元理事は「長い付き合いになると思います」と応じ、森氏は「ラグビーW杯が終わる(19年)秋ごろまでには決まっていると思う」などと言ったという》

 AOKI側からすると、「これで決まった」と確信した瞬間だった。

故・高橋氏と「牛若丸」の奇縁

「複数のメディアが、『AOKI側は会食でのやり取りを録音しており、特捜部が押収した』と報じています。また、高橋元理事は取り調べに対し、『森元首相にAOKIをよろしくとは依頼していない』と否認したと報じられているほか、森元首相もマスコミの取材に『回答は控える』としています」(同・記者)

 ちなみに高橋元理事の弟は、「総資産1兆円のリゾート王」と呼ばれた高橋治則氏(1945~2005)だ。

 高橋治則氏はイ・アイ・イ・インターナショナルの社長としてリゾート開発に傾注した。資産は膨張を続けたが、バブル崩壊で資金繰りが悪化。代表理事を務めるなど深い関係にあった東京協和信用組合と安全信用組合から迂回融資などを受けていた。

 1994年に両信組は破綻。95年6月、高橋治則氏は背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

 この二信組事件に関与したとして、山口敏夫元労相(81)も業務上横領などの容疑で逮捕された。山口氏といえば「政界の牛若丸」「珍念」というニックネームを覚えている方も多いだろう。

 山口氏は2006年12月、最高裁が上告を棄却するなどしたため、懲役3年6カ月の実刑が確定。07年3月、東京地検に出頭し、収監された。

噴飯物の回顧録

 山口氏が高橋兄弟を知っているというだけでも奇縁のはずだが、まだまだ他にも不思議な結びつきがある。

「山口さんは1967年に衆院選で初当選すると、当時の三木派(註3)に入りました。それから新自由クラブを経て、自民党に復党すると中曽根派(註4)に加わります。ところが山口さんは『安倍晋太郎(1924~1991)を首相にしてみせる』と一貫して発言していました。そのため、清和政策研究会(今の安倍派)の議員とも親しく、森さんのことは間近で見続けてきたのです」(同・記者)

 更に山口氏は、「週刊新潮」の誌面で、何度も森元首相を批判してきた。

 実は森元首相、2013年に出版した『私の履歴書 森喜朗回顧録』(日経BPマーケティング)で、呆れた“自慢”を滔々と語っているのだ(註5)。

《早稲田の商学部を受験した。合格点には達していなかったかもしれないが、足らざるところはラグビー部推薦でゲタを履かせてもらったのだろう》

《試験では白紙の答案を出し、最後に「天下の水野社長は前途有為な青年をつぶしてはならない」と書き加えた(中略)間もなく産経から正式な採用通知が来た》

 つまり早稲田大学も産経新聞も“裏口”から入ったと、ご本人が堂々と言っているのだ。

ステーキ店の疑問

 山口氏は《『森喜朗君の一生』を検証すると、若い頃より今日まで不公正・不正義な生き方が次々と繰り返されてきた》と指摘、こんなアンフェアな人物はオリンピックの精神から大きく逸脱していると訴えた。

 また16年6月30日号でも、東京オリンピックの問題では「森君がA級戦犯」と容赦ない。

《「彼は元総理でありながら、安倍総理のところにわざわざ出向いていく。力があれば電話一本で済むはず。結局、虚像なんですよ。私は1964年の感動的な五輪を見た世代ですから、今の醜態が許せません」》

 こうして今、山口氏と高橋兄弟、そして森元首相がつながった。今回の報道をどのように受け止めているのか、取材を依頼した。

「真っ先に指摘したいのは、なぜ高橋・青木両容疑者と森元首相は、ステーキ店で会合を持ったのかという点です。組織委員会にも会議室の1つや2つあるでしょう。誰はばかることのない打ち合わせなら、昼間に普通の部屋で行ったはずです。それが実際は夜、高橋容疑者が経営するステーキ店で行われた。この事実だけでも、何かやましいところのある会合だったのではと疑われても仕方ありません」

「利権の人」

 山口氏は「私の知る森さんは、キング・メーカーを気取っていました」と言う。

「怪しげな金を出されても、鷹揚に受け取っていました。キング・メーカーとして懐の深いところを見せたかったのかもしれません。今回の報道を目にして思ったのは、『昔と変わっていないな』ということでした。一言で言えば、森さんは脇が甘いのです」

 森元首相を「失言の人」と思っている人は多いだろう。首相時代は「天皇を中心とした神の国」、「無党派は寝てくれればいい」との発言が厳しく批判された。

 東京五輪組織委員会の会長に就任してからも数々の発言が問題視されてきたが、特に2021年の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」は、女性蔑視という批判が相次いだ。

「森さんは確かに『失言の人』であり、そうした面は何度も報じられてきました。しかし、深く取材している記者や関係者からすると、森さんは『利権の人』だったことも知る人ぞ知る事実でした。今回の報道は、森さんをよく知る人にとっては不思議でも何でもありません。特捜部の捜査がどこまで森さんに伸びるのか、私も注目しています」(同・山口氏)

註1:五輪組織委 高橋元理事を逮捕 受託収賄の疑い 東京地検特捜部(NHK NEWS WEB:8月17日)

註2:森氏と面会「条件クリア」 AOKI側、五輪スポンサー契約前 高橋元理事が紹介 録音押収(朝日新聞:8月25日朝刊)

註3:三木武夫元首相(1907~1988)の派閥

註4:中曽根康弘元首相(1918~2019)の派閥

註5:週刊新潮2015年12月10日号

デイリー新潮編集部