ドイツ、脱原発先送りへ 23年4月まで稼働可能に
【ベルリン=南毅郎】ドイツ政府は5日、国内にある3基のうち2基の原子力発電所を2023年4月まで稼働できるようにすると発表した。22年末までに運転を止める予定だったが、冬の電力安定へ非常用の予備電源として活用する。ロシアからの天然ガス供給が不安定になるなか、脱原発の完了時期を遅らせる必要があると判断した。
今冬の電力供給に関する「ストレステスト」を公表し、ハベック経済・気候相が原発2基の予備活用に同意した。ストレステストでは、電力網で危機的な状況が発生する可能性は低いとしつつも「完全には排除できない」と結論付けた。
ドイツは22年末までの「原発ゼロ」を目指してきた。東京電力福島第1原発の事故を受け、メルケル政権時代の11年5月に脱原発を決めたあとは段階的に廃炉を進めてきた。ところが、ウクライナ危機でエネルギー不安が高まると、最後の3基をめぐり運転延長の是非が焦点に浮上。8月の世論調査では稼働の継続を求める回答が8割に達していた。
独経済・気候省によると、南部にある「イザール2」と「ネッカーベストハイム2」の原発2基を非常用の予備電源として利用できるようにする。独メディアによると、西部にある「エムスラント」は予定通り22年末に稼働を終える予定だ。
一方、脱原発の方針そのものは堅持した。新たな燃料は投入せず、23年4月中旬に原発ゼロを完了させる方針だ。ハベック氏は「原子力はリスクの高い技術であり、放射性廃棄物は世代を超えて負担になる」とも指摘した。
ドイツではエネルギー不安が高まっている。ロシア国営ガスプロムはドイツにつながるパイプライン「ノルドストリーム」のガス供給量を段階的に削減してきた。現在は完全に供給が途絶え、冬の需要期にガスが不足するリスクがある。6月には天然ガスの消費を抑えるため、石炭火力発電の稼働を増やす緊急措置も決まった。
異常気象も大きなリスクだ。今夏は猛暑と干ばつの影響で、ライン川の水位が大幅に低下。船による石炭の輸送が滞るなどして火力発電の出力が不安定になる状況が続いている。今回のストレステストでは、異常気象などの影響も考慮した。
ドイツの電源構成に占める原子力の比率は22年1~3月時点で、わずか6%にとどまっている。全体の半分近くは風力や太陽光などの再生可能エネルギーが占めており、30年までに電力消費量の8割を再エネで賄う計画だ。当面は原子力や石炭火力で電力供給の安定に万全を期す一方、長期的には他国に影響されにくい再エネで安全保障の確立をめざす。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)- 中空麻奈BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長ひとこと解説
ドイツのエネルギー政策は、脱ロシア、環境問題に対応しながら、この冬を乗り切るためたの現実解を探る必要があり、切迫したものだ。ウクライナ支援もしながらのロシア依存度の高い天然ガスからの脱却は、矛盾をはらみ、調整は至難の業。時限とはいえ、原子力を過渡期に使うことは現実的な解に見える。原発稼働延長につき、国民の支持は得られているようだが、脱原子力はドイツ国民の支持が高い政策の一つであり、23年4月までに、脱ロシアと脱原発を図らねばならないことは変わらない。冬のリスクが減った分安心だが、それ程猶予はない。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新) - 伊藤さゆりニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事分析・考察
ショルツ政権を構成する3党間では、原発の稼働期間延長を求めるFDPと、原子力はガスの代替にはならないとし、予定通りの稼働停止を主張する緑の党とが対立してきた。 3基のうち1基は停止、稼働延長する2基もごく短い期間という決着。脱原発の方針は維持しながら、この冬の電力供給のリスクを減らすという妥協点を見出した。 ガスについては、ロシアから供給を減らされながらも、積極的資源外交で供給元を多様化し、消費も抑制することで、備蓄を前倒しで進めてきた。今月1日には5基目となる浮体式のLNGターミナルを確保したことも公表している。LNGの輸入体制を強化し、脱ロシアを急ぐ。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連企業・業界