キョウトにての方針確認を終えた後、ルルーシュ達はトウキョウへと戻り、コーネリアに対する諜略を開始する。
もっとも、それを担うのは咲世子率いる篠崎流やその下に付くディートハルト等の役目であり、実戦部隊はゲットー最深部での訓練に勤しんでいた。
そんな中、C.C.は主のいないクラブハウスにてくつろいだり、学生服に身を包んで学園内をうろついたり、ルーベンに捕まって書類仕事をさせられたりと言った日々を過ごしていた。
「まったく、なんで私がこんなことを……」
「授業をサボっている生徒に手伝いをさせると言うのは普通のことなんですよ。C.C.殿は知識も深いですから助かります」
ルーベンは表の顔としての学園運営だったが、今では一族に任せていた投資などの分野にも顔を出し、さらにはキョウトと連携してのKMF開発など精力的に動いている。
長年、ルルーシュ・ナナリー兄妹を匿ってきた事実がようやく報われようとしているためか、激務にあっても楽しそうに振る舞ってもいる。
「専用機体か。ジェレミアのサザーランドを基に改良していくようだが」
「ええ。C.C.殿やシャーリーさん、リヴァル君の機体も考えております」
ホテルジャックの際に試験的に運用したサザーランドローヤルは特段の問題も無く、エナジーウィングの完成を待つばかりな状況である。
ルルーシュ曰く、第7世代を超える機体だと言うが、それを実現させたアッシュフォードの技術力にはC.C.としても驚きであった。
マリアンヌの死によって撤退したはずだったが、水面下で技術を磨き続けてきた結果だとも言う。当然、それが家の没落に繋がったわけだから、生半可な覚悟では無かったのだろう。
「ラクシャータにも作らせて当人に合う機体を使っていくわけか。シャーリーは例の紅蓮壱式が合っていると思うがな」
「そうですな。C.C.殿は殿下と共に例の新型に搭乗するとも聞いておりますが」
「アイツの管制までサポートしなきゃならないのは勘弁してもらいたいんだがな」
カレンが紅蓮弐式に乗り換えるまで搭乗していた試作機であったが、輻射波動機構を搭載したピーキーな仕様よりも、一般仕様でブリタニア製に近い。
ギアスの影響なのか、瞬間的な力はラウンズすらも凌駕しているシャーリーが乗るとなると、そういうオードソックスな機体の方が良いとも思う。
C.C.としては、ルルーシュの補佐役等々よりも今のようにクラブハウスで昼寝を決め込ませてもらった方が楽であったのだが。
シャーリー等はルルーシュとの復座であれば喜んで乗るであろうし。
「シャーリーさんとナナリー様を自身の代わりとして鍛えているのは全体の指揮が取れて意思の疎通がしやすい人間を確保したいとも言われておりますからね。そうなると、適任はC.C.殿と言う事になるのでは?」
「まったく……。親子ともども私をこき使いおって」
「…………C.C.殿はマリアンヌ様、シャルル陛下と旧知というのは本当なのですな?」
「何が言いたいんだ?」
「いえ。お姿を見る限りでは、とても信じられないモノで」
「ふ、この可憐な容姿は貴様のような年配者まで狂わせるのかな?」
「女遊びはすでに卒業いたしました。……C.C.殿。あなたは、マリアンヌ様達の下を離れたように、いつかルルーシュ様の下から去られるのですか?」
「急にどうした?」
「ギアスに関する話は聞き及んでおります。ですが、貴方にはそれ以上に秘密がある。そのお姿を見る限りは……。私の想像に過ぎませぬが」
そう言ってルーベンは言葉を切る。
この歴戦の貴族にとって、相手の本音を探るというのは本能のようなモノなのだろう。
C.C.自身は、コード情報等をすべてを知っているルルーシュに協力してきたのは、シャルル達から守ってくれる事を約束してくれたという思いもある。
だが、改めて真意を探られるとなぜかという気持ちも沸いてくる。ルルーシュが自分の思いに答えてくれるという保障があるかは分からなかったのだ。
「……殿下は変わられた」
そして、問いに答えないC.C.の態度をどうとったのか、ルーベンは静かに口を開く。
「我々がジェレミアと協力し、あの方々を保護した頃から、あの方の目にはナナリー様と枢木スザクしか映っておりませんでした。それから、ミレイやシャーリーさん、リヴァル君達と出会いつつも、その関係はいつか終わる日が来る。そう思っていたように見えました」
「だが、私が現れてからのルルーシュは人が変わったようだったと?」
「ええ。今まで憎悪に染まりきっていたあの方の目は、今はすべてを悟りきったかのように澄んでおられる」
それはC.C.も感じていた。
脳裏に語りかけてくるマリアンヌから言われるがまま、ルルーシュの成長を待ち、接触を待った。そして、扇グループによって解放された際に自分を連れて逃げたルルーシュは、おそらくではあるが、“その死の瞬間”までブリタニアへの憎悪を身に宿していた。
その後に現れたルルーシュは、本人の言うとおりならば、別の世界からやって来たと言う。それも、宣言通りブリタニアを破壊し、シャルル等の計画を防いだという事実を持って。
つまり、現状の自分を抑えている限り計画が成立しないことを知っているはずだが、それを持って自分を縛るわけでも無く、こうして自由にさせている。
もちろん、それを可能とするとは言っていたが、ルルーシュが自分に対して頭を下げて協力して欲しいと告げてきたことは、青臭いと思いながらも、微笑ましく思えたのは事実だった。
「甘いヤツだからな。私がいてやらんと何もできない事を理解しているのさ」
「では」
「だが、私はC.C.だ。どうするかは私次第だし、何より、最近は小娘にうつつを抜かしているのが気に入らん」
正直なところ、シャーリーやミレイに対して甘い顔をしているところを見ると腹立たしく思える事が多い。あんな小僧に胸をざわつかされる事がC.C.にとっては我慢ならないことも。
「私といたしましてはミレイとの未来を考えて頂ければこの上ない事ですが」
「私には関係ないな……っ!? 用事を思い出した。後は良いな?」
そんな時、脳裏に届く声。
C.C.はルーベンに暇を告げると、さっさと理事長室を出てクラブハウスへと戻る。
「まったく、いきなり声を掛けてくるな」
そうして、クラブハウスに戻り、ルルーシュのベッドに座り込んでチーズ君を抱きかかえたC.C.は脳内に話しかけてきたマリアンヌへと口を開く。
『いつものことじゃない。それより、V.V.がシャルルに追い出されたことは知ってる?』
「聞いている。それで、いつものように私に戻ってこいとでも言う気か?」
『分かっているじゃない。あの逆恨み馬鹿が居なくなったわけだし、シャルルに協力してあげてよ』
「思考エレベーターが狂ったままなのに私に何が出来ると言うんだ?」
『なによお、誰よりもコードに詳しいのは貴方じゃ無い。どうにか出来るんじゃ無いの?』
「無茶を言うな。私にだってどうにもならん」
実際、マリアンヌから聞かされた状況は初めての事であり、何とかしろと言われてもどうしようも無いことだった。
そもそも、そのために嚮団をV.V.にくれてやったのであり、勝手に仲違いした尻ぬぐいをしてやるいわれは無い。
その後もぎゃーぎゃー言ってくるマリアンヌをいなしていたC.C.だったが、実際の所彼女にもどうしようも無い。
ルルーシュやジェレミアの介入がCの世界に異変をもたらした事に間違いは無いが、その原因を問われたところで分からないとしか言いようが無い。
ルルーシュが前の世界で思考エレベーターにギアスを掛けたと言っていたから、それが原因かも知れなかったが、それをどう解決しろというのだ?
「いずれにしろ、私はお前が押し付けたルルーシュのお守りで忙しいんだ。いつか養育費の請求をしてやるからそのつもりでいろよっ!!」
『死人に支払い義務なんて無いわよ』
「うるさい。いい加減、人に甘えるのは止めろとシャルルに言っておけ。ではな」
なんとも理不尽な気分になってきたC.C.がそう言うと強引にマリアンヌとの交信を断つ。
「まったく、親子揃ってあいつらは」
マリアンヌの抗議の声を無理矢理断つと、C.C.は一人そう愚痴ると、着ていた学園の制服を脱ぎ散らかし、ルルーシュのベットへと潜り込む。
いらぬ頭脳労働をさせられた上に、マリアンヌとの会話で精神を削られたのだから、回復のための行動は当然だと一人思いつつ、C.C.はゆっくりと眠りの中に意識を降ろしていく。
その後、ルルーシュを探しに来たシャーリーが脱ぎ散らかされた制服とベッドで眠るC.C.の姿に目を丸くしたのは別の話である。
◇◆◇◆◇
コーネリアが動き始めた。
藤堂鏡士朗が関東地方のレジスタンスと合流したとの情報を流し、片瀬の動きも含めた欺瞞情報が実を結んだ形だったが、彼女としても藤堂をおびき出すべく手を打ってきている。
場所はチョウフ基地。
収監されている政治犯の処刑を喧伝し、その役目を担うのが件の白兜ことランスロットであると言う。
政庁内部のスパイの情報に寄れば、ユーフェミアがスザクを騎士に推薦したため、コーネリアが踏み絵として処刑を命じたという。
さらには、救出に来るであろう藤堂を討ち果たす役割も彼に負わせている。
『ユフィの騎士となるならば、イレブンに対してきっちり決別して見せろ』と言うのがコーネリアの言い分であろう。
レジスタンス討伐など、名誉としての働きはしっかり評価されているが、かつての師とも言える人物を討てるかどうかが試金石となるからだった。
「ゼロ。いや、ルルーシュ。スザク君の事だが……」
「今更だな藤堂。俺はもう覚悟を決めている。アイツがブリタニアに組するならば、叩き潰すのみだ」
「そうか。君のことだから、彼に拘って同胞を見捨てる事も有り得ると思っていたが」
「昔で有ればな。だが、今はアイツがいなくても俺には手駒がいくつもある」
「そうか……。ならば、私も今回は手駒の一つとなって彼に引導を渡すとしよう。片瀬少将のこと、よろしく頼む」
「ああ」
出撃を前に、ルルーシュに対してそう語りかけてきた藤堂にルルーシュは冷然と答える。
かつて、チョウフ基地にてスザクの動きを読み切り、あと一歩でそれを討ち果たすところまで追い詰めてた。
だが、その時のルルーシュはランスロットのパイロットがスザクである事は知らず、それを討ち果たす覚悟持てなかった。
本音を言えば、今もなおスザクを討つ事にはためらいがある。だからこそ、今回は藤堂に任せてしまっているのだ。
あくまでも、自分とスザクが関わらなければ良いだけの事であり、藤堂がスザクを倒してしまうのならばそれはそれで自分が背負うしか無いともルルーシュは思っている。
過去よりもスザクの活躍の場を奪っているため、実戦経験を積む機会を奪っているのだ。それを藤堂と四聖剣が見逃すとは思えない。とは言え、スザクはスザクで天才である以上、どうあっても生き残ろうとしてくるであろうが。
「それと、こちらからは卜部を出す。少将との交渉は彼に任せてある」
「分かった。こちらからは吉田と永田に行ってもらう。少佐達も遺恨は無いと話しているから、上手くやってくれ」
過去とは異なり、あくまでも藤堂達は日本解放戦線のままである。
完全にキョウトの支配下に入っており、当然統制も強くなっているが、片瀬の指揮下に比べれば軍としての在り方はよりたしかなモノとなっている。
とは言え、ユーフェミアを派遣する以上、コーネリアが手抜かりをするはずもなく、スザクの他に、ダールトンとグラストンナイツを護衛として派遣している。作戦の成功まではルルーシュも期待していなかった。
藤堂もその辺りは割り切っており、スザクを討ち果たすことと片瀬救出のための陽動としての立場を承知している。
もっとも、ルルーシュとキョウトの判断としては、救出を成功させるつもりは無かったのであるが。
『ルルーシュ、殿下はフナバシ埠頭を包囲するように布陣している。……誘われているぞ?』
そんな時、G1ベースにヴィレッタからの通信が入る。
穏健派として軍に残っている彼女とその一派であるが、現状は危険を承知でコーネリアの下にある。
彼女自身、祖国に弓引くことを割り切れない現状では致し方なかったが、それでもこうして内通めいたことをしているのは、気持ちが移ってきている証拠と言えようか。
「問題無い。それと、ヴィレッタ。こちらの機体と遭遇したら、遠慮無く戦って構わない」
『……それは』
「危険を犯している以上、気取られぬように配慮することも必要だ。君たちの機体は分かりやすいから、こちらとしても交戦は避けるように言っているが、それでも疑われたままと言うのもマズいだろう」
『分かった。憎まれ役も仕方ないだろうしな』
「責任は俺にある。君が背負うこともないさ」
そう言うとルルーシュは通信を切り、仮面を取り外す。
思えば、この地が自分の破滅のはじまりであったのだとルルーシュは感慨深く過去を思い起こす。
「ヴィレッタ先生、大丈夫だと良いけど」
「シャーリー、今はもう先生とは言えないんじゃ無いか?」
「うーん、でも、授業とか見てくれた印象が強くて」
傍らにてヴィレッタの身を案じるシャーリーもまた、この地が彼女を死へと誘う道の一つとなった事は知らない。
それも、当のヴィレッタによってである。だが、この世界にあっては両者共にルルーシュの下にある。扇は参戦していないが、どうしても気持ちの沸き立つ感じは否定できなかった。
「いずれにしろ、戦場で何があるか分からない。今日はナナリーがいないから、G1ベースではシャーリーに任せることになる。よろしく頼むぞ」
「う、うん。ルルも、気をつけてね」
「ああ。俺は絶対に死なないから大丈夫だ」
そして、ルルーシュは再び仮面を被ると、G1ベースから出て今は乗り慣れたサザーランドへと身を移す。
『ルルーシュ様、すでに準備は整っております』
「よし、派手にいくとしよう」
そして、ジェレミアからの通信に対し、ルルーシュは全軍に進軍開始の命令を下す。
作戦自体は布陣するブリタニア軍への後方からの奇襲だったが、その最前線に立つのはドロテア率いる近衛騎士達である。
機体も鹵獲したグロースターであり、パーソナルカラーもそのままという挑発めいた姿で戦場を駆る。
精鋭として知られるコーネリア軍であっても、数少ない畏怖の対象としてその力を存分に発揮してもらうつもりだった。
その脇を支えるのはジェレミアと藤堂から片瀬との連絡係として派遣されている卜部である。
藤堂は片瀬の救出を期待しているが、参謀格として藤堂を支えてきた卜部は冷静にその現実を否定している。
キョウトから作戦の真相を知らされていたからとも言えるが、彼は彼なりにルルーシュ達との共犯となるべくこの作戦に参加していた。
『ゼロ、「切り捨てるだけでは無い」と言った言葉。それは真実なんだな?』
「当然だ。……片瀬少将には、指導者としての責任を取ってもらわねばならんが、彼に従う軍人達を巻き込む事は出来ないからな」
『藤堂さんをどう抑えるかが心配だが、俺もすでに共犯だ。その辺は上手くやるよ』
「そのためには、目の前の強敵を打ち破るのみだ。よろしく頼むぞ」
『ああっ。四聖剣の名が虚名じゃないことを示してみせるさ』
作戦を前にルルーシュに対しそう告げてきた卜部。
過去においても、数少ない自分を信じてくれた軍人の一人であり、ルルーシュ自身、終焉の地として日本を選んだのは、長き時を過ごしてきた国であると同時に、パレードにかこつけた復興を行う事で彼に対する義理立ての気持ちもあった。
実際の所は、彼の思いを裏切ってしまったという気持ちもあったのだが。
そんなことを考えていたルルーシュの下に、ドロテア隊がコーネリアとの交戦を開始したとの通信が届く。
ドロテアのパーソナルカラーを目にしたコーネリアは、当然だが烈火の如く怒り、彼女と交戦を開始したという。
もちろん、短絡的にそんなことをする馬鹿であれば彼女はブリタニアの魔女として名を馳せられるはずもない。
だが、こちらがナイトオブフォーとしての姿を敵にさらしてその恐怖を誘ったように、コーネリアはコーネリアで自身が先頭に立ってドロテアとぶつかることで自軍を鼓舞しているのだ。
勇将の下に弱卒無し。
それを体現するべく難敵へと挑みかかっているのであり、それを為すだけの力量が彼女には備わってもいる。
「さすがです。姉上」
冷静にそう呟いたルルーシュもまた、機体を駆って前線へと向かっていく。
その傍らには、カレンの駆る紅蓮とリヴァルの駆るサザーランドが駆けている。ドロテアにコーネリアを任せた以上、残る難敵はギルフォードとグラストンナイツの数名である。
それらの相手はこちらが担うべきであったのだ。
◇◆◇◆◇
埠頭の周辺では激しい戦闘が行われていた。
情報通り、ナイトオブフォードロテア・エルンストはコーネリアと激しい戦闘を行い、前総督代行のジェレミア・ゴットバルトもまたコーネリア直属部隊と激しい戦闘に身を投じている。
彼等、ブリタニア人がイレブンと蔑む民族の指揮官である片瀬少将を救うべく、ブリタニア人達が奮闘している姿に、扇をはじめとするルルーシュとは袂を分かったメンバー達は沈黙するしか無かった。
「だから言ったじゃ無い。ルルーシュ皇子は野心のためと同時に日本のために戦っているって」
「ああ……、そうみたいだな」
「他人事だと思ってそういう言い方をするわけ? 今じゃ玉城だって指揮官として戦ってんのよ? あんた達はどうする気なのよ?」
元々、ルルーシュへの協力を申し出ていたグループ幹部の中で、唯一扇達との行動を任せられた井上は、扇達の提案に乗ってフナバシ埠頭へとやって来ていた。
どうしてもルルーシュのことを信用できないと言う彼等も、ルルーシュの戦いを見れば考えが変わると思ったのだ。
だが、現状の彼等の様子ではその事も期待薄のようであった。
「日本を解放するって言っても、アイツの最終目的は皇帝になることだろ? 皇帝になった途端、手のひらを返さない保障は無いだろ」
「そりゃそうだけど。じゃあ、ブリキがブリキの皇女を相手に全力で戦っているのはどう説明するのよ?」
「そりゃあ、地位も名誉も奪われたんだから恨み心頭だからだろ。日本の為ってわけじゃ無いと思うが」
「別にそれだって良いじゃない。杉山、あんたはドロテアの代わりにコーネリアと戦えるの?」
扇や南同様にルルーシュを信じられない杉山の言に井上は反論し、お互いの意見がぶつかり合う。
だが、遠目に見ても分かるように激しくぶつかり合う色違いのグロースターを見れば、誰がどう見ても本気の戦いとしか思えず、それもまた、自分達とは住む世界が違うとしか思えない戦いでもある。
「っ!? あぶないっ!!」
そんな息を呑むような戦闘の最中、一機のグロースターが日本機に斬り伏せられ、爆発四散すると、それに巻き込まれたブリタニア側のサザーランドが井上達のいる廃ビルの下へとはじき飛ばされてきた。
慌てて頭を抱えて伏せった彼等だったが、その機体は建物に激突すると、そのまま力なく地上へと落下し、脱出機構を作動させたコックピットも激しく地上に叩きつけられている。
「マズいな、ブリタニア側の機体だぞこれ?」
「待って、肩の色がオレンジだから……、穏健派の軍人よ。助けないと」
「おい待てよ。穏健派だからって全員がこっちの味方ってわけじゃ……」
「じゃあ、良いわよっ!! 私が助けてルルーシュの所へ連れて行くから」
そんな様子を見てもなお煮え切らない南や杉山と他のメンバー達。
見張り役かつ説得役という立ち位置だった井上も、ここまで来ても煮え切らない彼等の態度にはさすがに付き合いきれなくなっていたのだ。
そして、手際よくKMFの下へと駆け下りた井上は、破損したコックピットから投げ出されて倒れ伏す女性軍人を助け起こす。
「息はまだあるわね……。ゼロっ!! 聞こえるっ!?」
『井上っ!? どうしたんだこんな時にっ!?』
「ちょっと事情があってね。穏健派の軍人を保護したから、治療してあげたいんだけど、どこへ向かえばいいっ!?」
『っ!? G1ベースに運べ。位置情報はシャーリーから送らせる。……後でしっかり説明してもらうぞっ!!』
「分かっているわよ。んじゃね」
戦闘の最中なのか、轟音と共に苛立っている様子が分かるルルーシュの声だったが、ほどなく井上の持つ通信機に位置情報が送られてくる。
『井上さん、空いている機体を数機向かわせました。その場は危険ですから、GPSを作動させたまま、こちらへ向かってください』
「わかったわ。負傷して気を失っているから、治療できるようにしておいて」
『分かりましたっ!!』
同時に、シャーリーからも通信が入る。
予備戦力を割いてこちらに向かわせた事はありがたかったが、ルルーシュからの叱責が増えるだろうなと思った井上は思わず表情を曇らせる。
とは言え、シャーリーが危険だと言った以上はこの場を離れる必要があった。
「井上、手伝うよ」
「扇? ……他の連中は良いの?」
「ああ。どうしても、信じられないらしい。みんなさっさと逃げるように伝えておいたから、俺等も離れるとしよう」
そう言うと、扇は井上が肩を貸して居た女性軍人を抱きかかえる。
同じ女性ながら、外見やスタイルの良さに軽く嫉妬心を覚えるが、その気の強そうな顔が痛みに歪んでいる様を見て、すぐにそれを振り払う。
「扇、変なところを触るんじゃ無いわよ?」
「当たり前だろ。こんな時にっ!!」
そんな調子でその場を後にした井上と扇。そして、ヴィレッタ。
過去において、運命の出会いとなった男女だったが、今回ばかりはその様相が異なっている。
実際、扇とヴィレッタはすでに顔を合わせており、扇が井上の手助けに来たのも、南達と意見が違ったわけでも無く、単純に顔見知りを助けようとしたからでもあった。
次回はちょっと時間が空くかも知れません。ご了承ください。
また、アンケートに回答して頂いた皆様、本当にありがとうございます。
もう少し続けてみて、結果を基に内容を吟味したいと思っています。