価値観

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私たちが住んでいる市でも、3年ぶりに市民文化祭が

開催されます。

再スタートをきったばかりの私のオーケストラは、

期間中、大きなホールを一日使わせてもらえることに

なりました。





前にちょこっと書いたけど、ひかりちゃんの白血病と

発達問題で手が回らなくなり、コロナ禍もあって風前

の灯火になっていたオーケストラを、最近思い切って

再開したのです。

楽器がなくても楽譜が読めなくても、何歳でも、

なにかしら(……なになに?!)抱えていても、

誰でも大歓迎の一風変わったオーケストラなんです。






メンバーはすっかり減って、10人余。

なんとかオーケストラの形にするために、友人たちに

泣きついて手伝ってもらっています。

都内で優雅な独り暮らしを満喫しているツキコも、

音大でバリバリ教えているピーちゃんも、みんな

手作りの梅干し一瓶で、快く引き受けてくれました。






さて、昨日のこと。





夜10時過ぎ、ほろ酔い加減のツキコから電話がありま

した。寝入りっぱなだったひかりちゃん、パカーン!

と飛び起き「でんわ!だれ?ひかりちゃん出るう!」





……もう。ツキコ。




「あ、ハルカ?遅くにごめんね!あれ、ひかりちゃん

まだ起きてるの?早く寝なさいよー!ははは!」





ツキコは楽しそうにひかりちゃんと話しています。

母性なんて皆無だったツキコ、最近ちょっと子どもの

扱いが上手くなってきたような。





「ママ、ツキコがかわってだって。」




はいはい、どうしたのツキコ。




「あのさ、あーくんのソロんとこさ。」




あーくんというのは、もう40歳近い私の生徒。

普段は作業所でお仕事をがんばり、週末になると

いそいそとドラムスティックを持って、音楽教室へ

やってきます。

彼はすごくシャイで、本当は拍にピッタリ欲しい

ドラムやパーカッションがいつもビミョーに遅れる。

だから、緻密さが求められるクラシックを避けて、

ちょっとくらいずれたっていいじゃないアミーゴ!

みたいな、お気楽なラテンを選んだのだけど。




「あのソロ、やっぱりずれるよ。私、ムラタに頼んで

あげるからさ、一緒に入ってもらおうよ。大丈夫だよ

梅干しで。」






ムラタは、同じ音高の仲良しグループのひとりで、

演奏家としてやっているプロです。

大体、私以外みんな、ステージに乗り慣れている人

たち。プログラムにある曲くらいなら、ぶっつけ本番

でも完璧に弾けちゃうでしょう。なんなら初見でも。







私はしばらく考え込んでしまいました。






若い頃、私たちは確かに同じ価値観を持って、同じ

気持ちで音楽を作っていた。

どっちかというと私の方が完璧主義で、ツキコが

しょっちゅう間違えたり、楽譜を忘れてきたりするの

が許せなかったっけ。





私、いつからこんなに音楽に対していい加減になった

んだろう。

あーくんの「慎重すぎて聴こえないシンバル」も

「どうしても遅れちゃうソロ」も。

毎回注文つけてはいたけど、ムラタに頼もうとは

思ってもいなかった。

だってあれがあーくんの、私たちの、音だから。






すごく言葉を選んでツキコには伝えたけど、うーん、

こればっかりは私たちの価値観が、大きく変わったと

しか言えませんね。

あ、私たちのではなくて、私の、か。






ツキコは「大きなお世話だったね、ごめんね!」と

言って電話を切りました。







まあ、大丈夫。

30年以上、こうやって言いたいこと言い合って、

それでも仲良しなんだからね。